(427)ドイツ最新ニュースから学ぶ(20)恐るべき気候変動報告とアフガニスタン落城(*8月22日投稿)

恐るべき気候変動報告 ZDF8月9日

 

2021年8月9日に公表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書では、2018年のIPCC『1.5 °C特別報告書』による、「温暖化を臨海温度1.5℃以内に抑えるには、世界の温室効果ガス排出量を2030年までに半減させ、遅くとも2050年までに実質ゼロにする必要がある」という行動指標が訂正され、2018年時点の想定より10年も早まり、2030年までに排出量を半減させても、2030年には臨界点1.5℃を超えてしまうという衝撃的なものであった。

そして9日深夜に報道されたZEIT・ONLINEでは、「環境団体や政治家は緊急の行動を要請するUmweltorganisationen und Politiker fordern sofortiges Handeln」というタイトルでIPCC報告に対する反応を伝えていた。

 その報道では、国連のアントニオ・グテレス事務総長は、化石燃料エネルギー振興の中止を求め、「石炭、石油、ガスは地球を破壊するだろうKohle, Öl und Gas würden den Planeten zerstören」と、地球は致命的危機に晒されていることを警鐘していた。

ドイツの環境環境大臣スヴェンジャ・シュルツェ(SPD)は、「地球は致命的危機に晒されているDer Planet schwebt in Lebensgefahr」と述べ、国際社会の11月グラスゴー気候サミットでの画期的合意を求めた。

またグレタ・トゥンベリはツイッター上で、「新しいIPCC報告書は、決して驚くべきものではなく、何千もの研究や報告から、私たちは既に緊急事態にあることを確認するものですDer neue IPCC-Bericht enthält keine wirklichen Überraschungen. Er bestätigt, was wir schon aus Tausenden vorherigen Studien und Berichten wissen – dass wir uns in einem Notfall befinden」と述べ、それでも私たちは気候変動の最悪の事態は阻止できると記している。

またドイツの“未来のための金曜日デモ”で先頭に立つルイザ・ノインバウァーは、「我々は今勇敢でなければならない、世界は瀬戸際にあるWir müssen jetzt mutig sein, die Welt steht auf der Kippe」と述べ、今行動して政府を動かせば、臨界点1.5以内は可能だと述べている。

尚今回のIPCC報告で、もう一つ注目すべき点は、人間の活動が地球を温暖化させていることは、「疑いの余地がない」と敢えて断定していることである。

そのような断定は、石炭や石油産業等から寄付を受けるハートランド研究所のような機関が、人為的気候変動否定論を世界にまき散らすことで、世界の二人に一人は人為的気候変動に疑いを持ち、真剣に捉えていないという報告もあるからである。

すなわち現在の世界経済を支配する巨大資本が、リオの国際会議から既に30年を経ているにもかかわらず逆に排出量を1990年に比して60%も増やし続けているのは、お金で動く科学者や学者の意見を利用して、絶えず人為的気候変動に疑問を差しはさみ、脱炭素化にブレーキをかけ続けているからである。

このような有様から見えてくるのは、私たちは今最悪のシナリオの道を進んでいるという事実である。

それを克服することは、絶えず成長を目指すグローバル資本主義は不可能であるという結論である。

それゆえ、寧ろ最悪の道を進むと想定して、気候変動激化による食料危機や感染症の蔓延にどのように対処して行くかである。

その視点に立てば、自ずと地域主権による自然エネルギー分散技術での地域自給自足という選択も現実化して行き、よりよい世界に変えて行くことも可能であろう。

 

カブール落城 ZDFheute8月15日

 

ニューヨークの爆破テロから20年経ってのカーブル落城は、50年前のサイゴン落城を思い出す。

サイゴン落城には、平和の到来する希望があった。

しかし今回のカーブル落城には、平和への希望がないだけでなく、民主主義を望む人たちのジェノサイドの心配さえある。

そう感じるのは、2015年2月1日アルカイダの流れを組むテロ国家「イスラム国」が日本人ジャーナリスト後藤健二さんを、インターネットを通して世界中に公開処刑したからである。

しかも後藤さんは弱者救済と平和を求めて戦ってきた人であり、 人の命を目的のためにモノとして利用するテロ組織は、どのような理念を持っていようが許すことはできない。

もっともアルカイダの2001年のアメリカ同時多発テロ事件自体が無差別ジェノサイドであり、決して許されるものではない。

タリバンアルカイダの関係は様々に言われているが、同じ貉であることは否定できない。

そのタリバンアフガニスタンを取り戻し、8月17日の最初の記者会見で、女性の人権尊重と独裁なき多様な人々が参加できる融和的政権樹立を強調したが、このZDFheuteのニュースのように、ドイツのメディアは状況から判断して殆ど信用していない。

8月19日のドイツ第一公共放送ARDに所属するドイチェ・ヴェレ(DW)が、「タリバンは、DWジャーナリスト家族の一人を殺害したTaliban töten Angehörigen eines DW-Journalisten」というタイトルで、「タリバンは標的を絞った殺害を躊躇していない」と激しく非難している。

https://www.dw.com/de/taliban-t%C3%B6ten-angeh%C3%B6rigen-eines-dw-journalisten/a-58910077

記事では、DWのピーター・リンブール事務局長のタリバンへの非難とドイツ政府への緊急要請が以下のように、「タリバンによる編集者の家族殺害は信じられないほど悲劇的であり、すべての従業員とその家族がアフガニスタンで緊急の危険を裏付けている。タリバンはすでにカブールと行政区域でジャーナリストの組織的な捜索を行っており、時間がなくなりつつある!Die Tötung eines nahen Verwandten eines unserer Redakteure durch die Taliban ist unfassbar tragisch und belegt die akute Gefahr, in der sich alle unsere Mitarbeitenden und ihre Familien in Afghanistan befinden. Die Taliban führen in Kabul und auch in den Provinzen offenbar schon eine organisierte Suche nach Journalisten durch. Die Zeit läuft uns davon!」訴えている。

また18日のZEIT・ONLINEでは、「二重の過ちDoppelfehler」のタイトルで、「西側は過ったのか? 確かに、しかし決して西洋だけではない。アフガニスタンも歴史的な機会を失った。Der Westen hat versagt? Ja, aber beileibe nicht nur er. Auch die Afghanen haben eine historische Chance vertan.」と強調していた。

https://www.zeit.de/2021/34/afghanistan-taliban-kampf-westen-afghanen-fehler

具体的な記事内容を要約すれば、「アメリカだけでアフガニスタン軍への900億ドル供与を含め、20年間で2,2610億ドル(約250兆円)をアフガニスタンに費やし、ヨーロッパ諸国も何百憶ドルを費やし、何千人もの西側兵士が命を落とし、多くの民間人支援者も亡くなっている。確かに、お金の多くは、欧米企業への注文で供与国に戻り、西洋人の非常に近視眼的な私利私欲が絶えず大きな役割を果たしてきたことは事実である。

それにもかかわらず、西側諸国はアフガニスタンについて真剣であり、女の子は学校に行くことができ、女性は少なくとも首都カブールでは、ブルカなしで路上をあるくことができ、若い男性は教育を望むことができ、人々は正義のために努力し、貧しい人々は生計を立てることができた。今過去20年間に築き上げてきたものが全て崩壊し始めているが、誰も非難すべきではない:アフガニスタン人だけが責任を負う。しかし、彼らの運命を自分の手に取るのは、アフガニスタン人であり、アメリカのような世界の大国でさえ、自衛したくない国を守ることはできない。西洋全体でさえ、自ら望まない社会に自由を押し付けることはできない」と結んでいる。

またノルトライン=ヴェストファーレン州地域日刊新聞「ライニッシュポスト」の16日のRP・ONLINEでは、「タリバンがかくも早くアフガニスタンを打ち負かすことができた理由Warum die Taliban die afghanische Armee so schnell besiegen konnten」のタイトルで、その背景について言及していた。

2021年5月に外国軍の撤退が始まったとき、アメリカ政府及びアフガニスタン政府軍はタリバンと十分戦えると確信していた。

何故ならアフガニスタン政府軍は、30万人以上の兵士と数十億ドル以上の近代的な装備を持っており、タリバンを圧倒的に上回っていたからである。

しかし実際には、軍は腐敗、リーダーシップのなさ、訓練の欠如、士気の低下によって弱体化し続けており、米国の査察官は「このようなアフガニスタン軍に未来はない」と繰り返し警告していた。

弱体化の引金を引いたのは、2020年2月のアメリカ政府とタリバンとのアメリカ軍完全撤退の合意である(トランプのドーハー合意)、と指摘している。

合意後もタリバンは政府軍を攻撃し続け、ジャーナリストや人道活動家を故意に殺害して恐怖を煽り、政府軍兵士や役人を無数のプロパガンダメッセージで戦意を失わせていった。

それ故最初の州都占領から首都カブール占領まで2週間もかからなかったと結んでいた。

https://rp-online.de/politik/ausland/afghanistan-warum-die-taliban-die-armee-so-schnell-besiegen-konnten_aid-62208639

 

タリバンの支配していた地域は、山岳地域の乱立する部族社会であり、血縁、地縁が支配するなかで、殺し合いを避けるために娘や女性の政略結婚があたり前の社会である(山岳部族社会を描いた秀作実話映画『娘よ』を見れば理解できるだろう)。

それは、まさに日本の戦国時代であり、光秀の天下統一から秀吉の天下統一までの速さが物語っており、多くの支配者たちは脅迫と報償の伝令によって、戦わずして従ったのである。

しかしそのような部族社会は、生き延びるために慣習や伝統文化によって必死に生きて来たのであり、それを壊したのは突然入って来た民主主義とグローバル資本主義に他ならない。

すなわちそれはブログ(329)で述べているように、少なくとも数十年前まで楽園であったラダック(世界で最も高いヒマラヤ山系地域)を貧困化と混迷に陥れた理由である。

具体的には、グローバル化で恐ろしく安いコメや小麦が外から持ち込まれることで、地域の自給自足の豊かな暮らしが壊されて行き、若者や男たちが都市への出稼ぎで、1カ月で1年分のお金を得ることで、、受け継がれてきた伝統が壊され、年寄りが敬われなくなり、豊かな楽園が崩壊した。

それとは必ずしも同じでないとしても、少なくとも山岳地域に生きる人々は、カブールに暮らす一握りの裕福市民のように民主主義を謳歌できず、20年前より貧困化が進んだことも事実である。

そのような人々は、封建的全体主義タリバン支配を悪しきものと思ったとしても、生きるためにタリバン支配を選ばざるを得ないのである。

*私の編集ミスでブログ(426)に今回の記事をのせたため、ブログ(426)は

失われました。もっとも下書きはあるので、次回ほぼ2週間後にブログ(428)を載せる前に、(426)も載せて置くことにします。