(380)“救済なき世界”をそれでも生きる(2)・グレタ・トゥンベリの検証が投げかける希望

 

上の動画は、英新聞社「ガーディアン」がユーチューブに載せたグレタ・トゥンベリさんの2019年ダボス会議スピーチを、訳して日本語字幕を付けたものである。
ここで訴えているのは、私たちの家が、そしてあなた方(政治家・官僚及びCEO)の家も燃えている。

それは地球が今燃えているからであり、直ぐさま危機救出に取組んで欲しいという要請である。
しかもその要請が先送りされないように、イエス(白)、かノー(黒)の二者択一を求めている。
その理由として、世の中のことは必ずしも白黒がつけれないとしても、不可逆の連鎖反応ティーピングポイントの危機、文明継続の危機が迫るなかでは、直ぐさまの二者択一しかないからである。
そのためには、あなた方が未来に期待を投げかける存在であってはならず、私が日々地球温暖化に脅えるように、あなた方も恐怖し、パニックに陥るならば、直ぐに取組むでしょうと訴えているのである。
グレタ・トゥンベリさんの行動が「未来のための金曜日デモ」として世界に拡がるなかで、グレタさんの外観やアスペルガー、ビーガンであることに対して中傷やハラスも激しくなされ、さらにはエコ独裁、原発ロビー活動推進者という声も、ドイツの主要メディアさえ取り上げるほど世界に拡がっている。
それ故仕事開始の私ブログは、グレタ・トゥンベリさんの検証から始めたいと思う。

グレタ・トゥンベリさんの事実検証
私が“ドイツから学ぼう”と思うのは、ドイツの公共放送がZDF(第二公共放送)及びARD(第一公共放送)がネットで無料で世界にガラス張りに開き、公正な事実報道を求めており、市民も公共放送であれ民間メディア報道であれ、様々な市民ネット報道で検証しているからである。
それ故、今回のグレタ・トゥンベリさんの事実検証でも、ドイツからの報道に信頼を置いている。
もっともドイツからの報道であっても、市民社会の望む事実と産業社会の望む事実が相反することから、ドイツ各紙の論調は異なり、私なりのフィルターを通して事実検証に迫って見た。
まず日本でも馴染みのシュピーゲル誌は、2019年2月2日オンライン「私がハラスされるのは良い兆候"Es ist ein gutes Zeichen, dass sie mich hassen"」タイトルのインタビュー記事で、グレタ・トゥンベリの素顔に迫って鋭く追及している(下のアドレス参照)。
https://www.spiegel.de/wissenschaft/natur/greta-thunberg-die-16-jaehrige-klima-aktivistin-im-interview-a-1251288.html
シュピーゲル誌の質問)あなたは自閉症の軽度の形態であるアスペルガー症候群と診断されています。この症候群の人は、強い白黒思考をしているとよく言われます。それは障壁ではありませんか?...bei Ihnen wurde das Asperger-Syndrom diagnostiziert, eine milde Form des Autismus. Menschen mit diesem Syndrom wird oft ein ausgeprägtes Schwarz-Weiß-Denken nachgesagt. Ist das nicht ein Hindernis?
(グレタ)いいえ、私の診断は手助けになっています。そうでなければ、多くの他の人ように楽観的に単純に生きてきたでしょう。それ故アスペルガーであることは、あらゆる手段で実際にこの危機の解決を求めるか、求めないかの論理でもあります。Nein, meine Diagnose ist eine Hilfe. Sonst hätte ich wohl einfach so weiter gelebt, wie viele andere Menschen. Dabei ist es doch logisch: Entweder versuchen wir diese Krise wirklich mit allen Mitteln zu lösen - oder nicht.
シュピーゲル)あなたは気候変動によって人類の存続が脅かされていると考え、今日の政治家の無関心を非難されています。あなたの視点から見て民主主義は、それでも危機を防ぐ正しいシステムですか?それともエコ独裁のようなものを望みますか?Sie sehen durch den Klimawandel das Überleben der Menschheit bedroht - und werfen den heutigen Politikern Desinteresse vor. Ist die Demokratie Ihrer Ansicht noch das richtige System, um die Krise abzuwenden? Oder wollen Sie eine Art Ökodiktatur?
(グレタ).民主主義こそが私たちの持つすべてです。それを犠牲にしてはなりません。まさにそれ故に、私たちは民主主義制度の下で今行動しなければなりません。しかしこれまでのような世界システムを単に続けるなら、おそるべき事が起きるでしょう。Unsere Demokratie ist alles, was wir haben. Wir dürfen sie nicht opfern. Und gerade darum müssen wir jetzt handeln: innerhalb unseres demokratischen Systems. Aber wenn wir einfach so weiter machen wie bisher, könnten schreckliche Dinge geschehen.

(グレタ)私はこれらの人々の議論を知るために、時々そのような記事を読んでいます。ほとんどの場合全く議論することがありません。彼らは私の外観、またはアスペルガー診断のために私を攻撃してきます。しかし、それは彼らが私について書いたり、私を憎むことは良い兆候です。何故ならそれは、彼らが私を脅威として見なしているからです。Manchmal lese ich solche Beiträge, um die Argumente dieser Menschen kennenzulernen. Die meisten haben gar keine Argumente; sie attackieren mich wegen meines Erscheinungsbildes oder der Diagnose. Aber es ist ein gutes Zeichen, dass sie über mich schreiben und mich hassen. Denn das zeigt, dass sie mich als Bedrohung ansehen.

シュピーゲル)そのような攻撃はあなたを悲しくさせませんか?Machen Sie solche Angriffe nicht traurig?

(グレタ)私はこれらの人々が気の毒です。彼らは私たちの状況がどれほど深刻なのか理解していません。もちろん、気候変動のために何万人もの生徒がストライキを始めたことは、彼らにとって狂って見えるようです。私のように公にガラス張りに表明していくなら、批判されることも許さなければなりません。だから私は文句を言いません。たとえ私がまだ子供であり、子供に対して卑劣な言動を拡散することが過ちであったとしても。Mir tun diese Menschen leid. Sie kapieren nicht, wie ernst unsere Lage ist. Natürlich kommt es ihnen dann verrückt vor, dass Zehntausende für das Klima einen Schulstreik starten. Wenn man so wie ich in die Öffentlichkeit geht, muss man auch zulassen, kritisiert zu werden. Deswegen beschwere ich mich nicht darüber. Auch wenn ich noch ein Kind bin und es falsch ist, Gemeinheiten über ein Kind zu verbreiten.

シュピーゲル)あなたが自らを子供呼ぶとき、あなたのスピーチは驚くほど洗練されています。あなたの敵対者は、あなたが大人に使われ、そして何よりも、ストライキが始まった直後に本を出版したあなたの両親のPRキャンペーンの人形だと主張します。グレタさんの背後に誰がいるのですか?Für ein "Kind", wie Sie sich selbst nennen, sind Ihre Reden erstaunlich geschliffen. Ihre Gegner behaupten, Sie würden von Erwachsenen instrumentalisiert - und seien vor allem eine Marionette für eine PR-Kampagne Ihrer Eltern, die kurz nach Beginn Ihres Streiks ein Buch veröffentlicht haben. Wer steckt hinter Greta?

(グレタ)グレタの後ろにいるのは私自身です。学校のストライキは私がひとりで決めました。アイデアは別で...Ich selbst stecke hinter Greta. Der Schulstreik war allein meine Entscheidung. Die Idee hatte ein anderer ...

シュピーゲル)...スエーデンの環境活動家のボー・トレンのアイディアですか、 ...der Umweltaktivist Bo Thorén

(グレタ)...そのアイデアを、私はさらにアイデアを発展させました。何故なら誰も参加しようとせず、私は議会の前に一人で座りました。多くの人たちは、私の両親が私を洗脳したと言います。しかし、それは逆でした:私は両親を洗脳しました。私は彼らがもう飛行せず、もう肉を食べないことを確信しています(ほくそ笑む)。und dann entwickelte ich die Idee weiter. Weil niemand mitmachen wollte, habe ich mich alleine vor das Parlament gesetzt. Manche Menschen behaupten, meine Eltern hätten mich gehirngewaschen. Aber es war umgekehrt: Ich habe meinen Eltern das Gehirn gewaschen. Ich habe sie überzeugt, nicht mehr zu fliegen und kein Fleisch mehr zu essen (schmunzelt).

シュピーゲル)正直に言って、あなたは本当に自分でスピーチを書いていますか?Mal ehrlich, schreiben Sie Ihre Reden wirklich ganz allein?

(グレタ)私は自分でスピーチを書きますが、これやあれをどのように言うべきか、すべてが正しく、的確に提示されているか、科学者の助けを借りています。例えばケビン・アンダーソンとグレン・ピーターズに尋ねています...Ich schreibe meine Reden selbst. Aber ich hole mir dazu die Hilfe von Wissenschaftlern: Wie genau soll ich dies oder das sagen? Ist alles richtig und präzise dargestellt? Dann frage ich zum Beispiel Kevin Anderson und Glenn Peters...

シュピーゲル)...世界で最も尊敬されている気候学者の2人ですね。そしてお父さんは?..zwei der angesehensten Klimatologen weltweit. Und Ihr Vater?

(グレタ)彼はそれを読み通してくれ、、あなたはそれをここで別の言葉で表現すべきだと述べてくれます。Der liest sich das durch. Und dann sagt er: Ich glaube, Du solltest dies hier anders formulieren.

シュピーゲル)それで別の表現にしますか?Ändern Sie es dann?

(グレタ)時々そうしますが、屡々そうしません(笑って)。私は非常に頑固ですからManchmal. Oft auch nicht (lacht auf). Ich kann sehr stur sein.

 

またグレタが原発支持者で原発ロビー活動に加担しているというフェイクが、すなわちグレタが2019年3月17日のTwitter論議でパリ協定の早急な実現を求められ、「石炭より原発が寧ろよい」と述べたことから、「グレタ・トゥンベリが原発ロビー活動に加担している」というニュースがネットの拡散で世界を駆け巡った。

それに対してドイツのほぼ全てのメディアが取り上げ、大衆紙「Bild」は「気候変動活動家グレタは、エネルギー転換について石炭より原発を望むと考えている! So denkt Klima-Greta über die Energie-Wende Lieber Atomkraft als Kohlestrom!」とのタイトルを掲げて記事を掲載し(下のアドレス参照)、彼女が個人的には原発反対で、パリ協定の早急な実現のための部分的容認であるにもかかわらず、ネット拡散でひとり歩きし、原子力ロビー活動でグレタを原発預言者に祭り上げていると述べていた。

https://www.bild.de/politik/ausland/politik-ausland/greta-thunberg-ueber-die-energiewende-lieber-atomkraft-als-kohlestrom-60771444.bild.html

また日本でもよく知られている中道右派フランクフルター・アルゲマイネ紙は、「グレタ・トゥンベリが今原発ロビー活動で非難される理由」とのタイトルで(下のアドレス参照)、以下のように個人的に反対表明しているにもかかわらず、大混乱を招き、原発ロビー活動で非難されていることを伝えていた。

https://www.faz.net/aktuell/politik/ausland/warum-greta-thunberg-sich-fuer-atomenergie-ausspricht-16099744.html

「グレタ・トゥンベリは、その後の出した、原発は非常に危険で、非常にコストが高く、(建設に)時間がかかり過ぎる、という個人的反対評価にもかかわらず、大混乱を招いてしまっている。とりわけトンベルクは原発ロビー活動者として非難されている」 Thunbergs Grundaussage hatte, trotz ihrer anschließenden persönlichen Einschätzung, dass sie Kernenergie für „viel zu gefährlich, zu teuer sowie zu zeitaufwendig halte“, zu großem Aufruhr geführt. Unter anderem wurde Thunberg „Atomlobbyismus“ vorgeworfen.

このように当初ドイツの各新聞は、グレタ・トゥンベリが原発支持者で原発ロビー活動に加担しているというフェイクを否定し、その報道姿勢には多少の違いがあるにしても、客観的に事実を伝えようとしていた。

しかし現在の利益が最優先されるネオリベラリズム新自由主義では、その後の報道で圧力があったかどうかは定かではないが、事実を捻じ曲げたことは事実である。

具体的には3月31日の公共放送ARDの「がり勉の代わりに・グレタ世代は政治を変えるか?」タイトルの人気トークショーで、ヨーロッパ最大の発行部数を誇る大衆紙「Bild」のオンライン「Bild.de」(4月1日1時9分)は、グレタさんの発言を故意に捻じ曲げた。

故意に事実が曲げられたことが発覚したのは、ドイツでネオリベラリズムがクライマックスに達した際の2004年に市民が創設した「BⅠLDblog,de」(4月1日14時15分)が、詳しい検証で捻じ曲げた証拠を提示したからである。

すなわち「Bild.de」の巻頭タイトルは、「気候活動家グレタ発言:原発は解決の一部である Klima-Greta: „Atomkraft kann Teil der Lösung sein“」で大きく飾り、具体的には司会者女史の「あなたは原発に賛成ですか?」の質問で、「聴衆は好奇心を掻き立て、気候活動家グレタは即座に、“原発は未来にはありませんが、化石燃料なしでの解決の一部になり得ます”Die Zuschauer sind gespannt und Klima-Greta lässt sie nicht lange warten: „Atomkraft ist nicht die Zukunft“, meint sie. „Aber die Atomkraft kann ein kleiner Teil einer Lösung ohne fossile Brennstoffe sein.“、と返答したことを挙げている(下のアドレス参照)。

https://www.bild.de/politik/ausland/politik-ausland/greta-thunberg-ueber-die-energiewende-lieber-atomkraft-als-kohlestrom-60771444.bild.html

しかし「BⅠLDblog,de」は、「がり勉のかわりにストライキ・グレタ世代は政治を変えるか?Streiken statt Pauken - ändert die Generation Greta die Politik?」トークショーを検証し、放送及び、実際のグレタさんの返答英語文を載せ、事実が歪曲されていることを指摘していた(下のアドレス参照)。

https://bildblog.de/109170/bild-de-macht-greta-thunberg-zur-atomkraft-aktivistin/

実際の載せられたオリジナル英語インタビューでは(18分50秒から)、

(アン・ウィル)最近、あなたは原発に好意的と言われていますが、本当はどうですか?Anne Will: Recently, it has been said that you are in favor of nuclear power. Are you?」

(グレタ・トゥンベリ)個人的には原発に反対です。原発再生可能エネルギーではありません。しかしĪPPCに従えば、あくまでも私ではありませんが、100%再生可能エネルギーに転換できない国では、原発は脱化石燃料解決の一部となると報告しています。しかし私は原発は非常に危険で、高コスト、建設に時間がかかると思います。Greta Thunberg: Personally, no. I mean nuclear power is not the future. It’s not renewable. But according to the IPCC, not according to me, according to the IPCC nuclear power can be a small part of a very big new fossil free energy solution in countries, in areas that lack the possibility of 100 percent renewables. But I mean nuclear power is very dangerous, expensive and time consuming.」

英語オリジナルインタビューでは、さらにパリ協定実現のため真摯に述べているが、番組ではドイツ語に吹替えされ、短縮されているが、事実を伝えるという意味では許容され、トークショー放送の直ぐ下にオリジナル英語インタビューを載せており、第一公共放送ARD(第二はZDF)の公正な報道姿勢が感じられた(ARDトークショーは下のアドレス参照)。

https://daserste.ndr.de/annewill/Streiken-statt-Pauken-aendert-die-Generation-Greta-die-Politik,annewill5964.html

尚放送のドイツ語吹替えでも、23分36秒から

(アン・ウィル)最近あなたが原発に賛成だと言われていますが、そうですか?

(グレタ・トゥンベリ)個人的には原発に反対です。しかも原発は未来のエネルギーでもなく、再生可能でもありません。しかしIPPCの報告によれば、あくまでも私の考えではありませんが、100%再生可能エネルギーに転換できない国では、原発は脱化石燃料解決の一部となると報告しています。しかし私は原発は非常に危険で、高コスト、建設に時間がかかると思いますAnne Will: Zuletzt hieß es, Sie seien für Atomkraft. Stimmt das?Greta Thunberg: Persönlich: nein. Aber ich meine, Atomkraft ist nicht die Zukunft. Sie ist nicht erneuerbar. Aber nach Meinung des Weltklimarats, nicht meiner Meinung nach, nach Meinung des Weltklimarats kann Atomkraft ein kleiner Teil einer großen Lösung für Energie ohne fossile Brennstoffe sein in Ländern, in Regionen, in denen die Option 100 Prozent erneuerbarer Energie nicht besteht. Aber ich meine, Atomkraft ist sehr gefährlich, teuer und zeitaufwendig.」と述べており、正確に翻訳されている。

このように現在においても、世界の誰もが見られるように配慮しているドイツの公共放送を見れば一目瞭然で、ヨーロッパ最大の新聞「Bild」は事実を捻じ曲げていると言っても過言ではない。

そこには、2022年末までに完全停止するドイツの脱原発に対して、再び原発稼働延長を求める産業側のメディアへの強い原発ロビー活動を感ぜずにはいられない。

もっともそのような強いロビー活動にもかかわらず、下に載せたZDF heuteが報道したように、ドイツは約束通り現存している7基の原発の一つであるフィリップスブルク原発を2019年12月31日に停止し、解体作業に着手している。

そしてこのようなグレタ・トゥンベリさんの検証から私が感ずるのは、救済なき世界の認識にもかかわらず、それを変えようとする真剣さであり、彼女への期待である。

確かにグレタさんのスピーチ原稿は、自ら語るように著名な科学者や父親の助力なしにはありえないとしても、決してそれだけで為し得るものではない。

彼女はアスペルガーゆえに、数倍、数十倍、数百倍に感じるセンシビリティーを個性として生かし、世界を変える若者の旋風を起こしていることは事実であり、世紀末ともいわれる世界の危機に、救世主としてすべてが変わる期待を投げかけている。

しかもあくまでも民主主義を掲げ、パリ協定実現を求める不服従な戦いには、どのように困難でるとしても、希望が垣間見えてくる。