(257)カントの理想実現(15)・インダストリー4.0(5)・何故戦争が求めらるか後編

インダストリー4.0の地平線(5)・シーメンスの描く未来
福島原発事故によってドイツが脱原発を選択したことで、原子炉世界最大メーカーのシーメンスは、政府の莫大な支援なくしては最早経済的に成り立たない産業と認識していたことから、すぐさまフランスのアレバ社やロシアのロストアームの巨額な契約違約金を支払って、原発産業から完全撤退した。
その際「2050年の未来」計画を発表し、動画にあるようにインダストリー4.0に先んじることを通して、希望ある人々の未来に奉仕する企業になることを誓った。
それはこれまでのシーメンスの手口を知る者には、したたかな変身ともいえよう。
すなわちシーメンス東ドイツDDR)の財産を根こそぎに掻っ攫ったコンサルタント企業マッキンゼイや法律事務所ホワイと・アンド・ケース等のアメリカ企業の手口に学び、海外の役人買収も常套手段であった(買収の手口さえマニュアル化されていたが、露見したのは第2組合をつくっての組合潰しによる内部告発であり、世界各地で買収犯罪が訴えられ敗訴していた)。
もっとも企業の生き延びるためのしたたかな変身であったとしても、ドイツ及び世界の人々への奉仕と、エネルギー転換という時代の要請に奉仕を誓った変身は評価されるべきであり、日本の原発巨大企業も手本とすべきである。
特に次回に載せるシーメンス動画「2050年の未来」では、危機にある地球生命を維持する目標を打出している。
本来企業はそのような希望ある世界に向けて人類への奉仕を目指すべきであり、そのような理念を持つ企業は、ボッシュやツァイスに見られるように何百年を経ても繁栄が約束されていると言えよう。

カントの理想実現(15)・何故戦争が求めらるか後編・無謬神話が連れて行く果て
2002年の日本負債額(国債及び借入金残高)582兆円が、小泉構造改革内閣、第一次安倍内閣を経て2007年には832兆円に膨らみ、2015年には1100兆円を超えるまでに危機の速さを増している。
このような負債増大は、「ジャパン・イズ・ナンバーワン」と世界にもてはやされて裏側で、日本の成長が既に限界に達していたことにある。
すなわち日本産業は量産で頂点に上りついた後新しい道が拓けず、ひたすら守るために巨額な負債で支援して来たと言っても過言ではない。
その原因は誰も責任を取らない、戦後も継続した無謬神話の官僚支配に他ならない。
ドイツではそのような無謬神話の官僚支配がナチズムの反省から徹底して見直され、裁量権を現場官僚に移譲し、一人一人の責任を問うことで国民に奉仕する制度へ大転換した。

例えば世界1の技術を持つドイツのカメラ産業が、戦後ドイツから学んだ日本カメラ産業の“安くて質のよい”製品進出で70年前半に壊滅した際、ドイツ政府官僚たちの姿勢である。
それは先進者の宿命であり、盛者必衰は世の常であり、スクラップ・アンド・ビルトで優秀な技術を他分野に拡げていけばよいというのが、責任あるドイツの姿勢であった。
実際カメラ部門から撤退したツァイスは、マイクロエレクトロニクスシステム、三次元測定機器、超LSI製造機器など多分野で世界を切り拓いて行った。
また今回載せたシーメンスも、戦後のドイツでは「労働の非人間化」が問われドイツ産業が人間中心の生産方式(ボルボ方式)が採ったことから、テレビなどの大衆家電製品では壊滅状態に陥った。
しかしシーメンスは、むしろそれをバネとして生産設備機器、MRIなどの医療機器、原子炉などの電力機器、情報通信機器など多分野で世界を切り拓いている(確かに1990年以後の新自由主義の悪夢はあったが、今それを克服し、希望ある未来に奉仕しようとしている)。

何故日本がそのような選択ができないかと言えば、過去の官僚の採った政策は絶対であり(無謬神話)、エイズ薬害や高速増殖炉計画で見られるように過ちと認めて方向転換できないからである。
それこそが、日本が明治にドイツから学んだ富国強兵を目的とした官僚制度であり、無謬神話が連れて行く果ては、海外進出による戦争であり、日本破綻である。

国会での戦争に道を開く安全保障法案強行採決は予想されたことであるが、国民の大部分が慎重な審議を望む中での民意無視の強行には、迫りくるファシズムの戦慄を感ぜずにはいられない。