(266)地球温暖化から見えて來る世界危機ー第四回バングラ・・集団自衛権強行の構図は同じ構図だ!後編VW不正が物語る全て

フィルムで見るようにバングラディシュの洪水に苦しむ人たちは経験なモスリム信者であり、いずれアラーの神が自然のバランスを取り戻してくれると信じている。

このフィルムで献身的に支援するパトリシア・ハイデッカーは「世界は自然のバランスを失っている」という報告記事で、「1メートルの海面上昇でバングラディシュの3分の1が失われる。気候変動は私たちの暮らしに根本的変化を生じる。それは千年王国発展目標に対する脅威である"Ein Anstieg des Meeresspiegels um einen Meter würde ein Drittel von Bangladesch überfluten. Der Klimawandel stellt einen fundamentalen Wandel für unser Leben dar. Er ist eine ernste Bedrohung für die Erreichung der Millenniumsentwicklungsziele"」と述べ、「私たちは今全力で挑戦しなければならない。私たちが何もしなければ、その代償は計り知れない"Wir müssen uns jetzt den Herausforderungen mit aller Kraft stellen. Der Preis für unsere Untätigkeit wäre immens"」と産業国に向けて訴えている。
しかも報告記事では、2050年にはダッカのシンクタウン研究所の気象研究者アディグ・ラーマンの予測に基づき、バングラディシュの避難民は2500万人にも達すると警告している。

フォルクスワーゲン(VW)不正が物語る全て

エルラー女史の告発で戦後ドイツの第4代首相として名声あるウィリー・ブラントを登場させて激しい論戦を繰り広げるまでに、途上国支援への批判が高まって行った。
しかしドイツにおいても競争原理を最優先する新自由主義の押し寄せる波は例外ではなく、徐々にかき消された。
特にドイツ統一に際しては法律専門家を多数擁するアメリカ企業が雪崩込み、DDRの財産をタダ同然で略奪するだけでなく、その過程でこれまで政治家への一切の便宜有罪が、議決に対する便宜のみ有罪に改正され、政治汚職が合法化されたと言っても過言ではない。
そのような政治腐敗と経済至上主義を批判して誕生したシュレーダー政権も押し寄せる波には一溜りもなく、国民の意思を巧みにすり替え、労働の分かち合い(ワーキングシェアー)の連帯を雇用のための連帯(労働の質低下とリストラ容認による競争力強化)に変質させ、「アジェンダ2100」で競争原理を最優先させて行った。
それはドイツ市民の多くが、今も悪魔の労働法と呼ぶハルツ法によって推進された。
ハルツ法では失業保険を32か月から12か月に大幅に削減するだけでなく、専門職の労働者が職が32か月を過ぎても見つからない場合、無期限で少なくとも前職賃金の57%の失業扶助がなされていたが、そのように戦後長年築き上げて来た労働の権利を根こそぎにした。
すなわちハルツ法では実質的に失業扶助を無くし、生活保護に組み込み、生活困窮を余儀なくされる失業給付として一体化させ、ドイツ市民の8人に1人を相対貧困者に転落させ、当時恐怖の悪魔のハルツ法と多くの市民に呼ばれていた。

そしてこのような変身は、今世界で問われているVW不正と無関係ではなく、本質的な原因である。


VWは、ナチスが「国民車」製造のために設立した国営企業であった。
戦後の民営化では、ナチズムの反省から労働の非人間化がドイツ社会で問われたこともあり、人間中心の生産方式(ボルボ方式・マイスター指示によるグループ生産方式)が採用され、人への貢献が求められた。

それは1993年の経営危機(大量生産される安くて質のよい日本車進出で巨額の経常赤字)でも、経営側の10万人の社員のうち3万人の社員リストラ要求を、半数の労働者役員からなる監査役会が跳ね返し、賃金15パーセントのカットと、週休2日の36時間労働から週休3日の週28,8時間の労働の分かち合いで切り抜けたことにも見られる。

しかしその後競争原理最優先の新自由主義に呑み込まれていき、中国をはじめとしたアジア、ブラジルを拠点とした南米など世界に経済進出し、93年の社員10万人から60万人の企業となり、2014年にはトヨタと並び世界の販売台数は1000万を超え、2015年上半期には世界一の販売台数を実現していた。
そこでは世界への自動車販売肥大が気候変動を推進していることなど全く眼中になく、人に貢献する理念も忘れ去られていた。
まさにシーメンスの商談国役人買収(注1)見られるように、競争原理が最優先され、不正も容認されるモンスターへ変身した。
それは、シュレーダー首相が経営の全てを決定するVWの監査役の役員であったことや、ハルツ法を誕生させたペター・ハルツがVW労務担当役員であったことにも窺える。

何故今不正が暴かれるのか

2015年9月18日アメリ環境保全局は、排ガス検査時にのみ機能する排ガス低減ソフト搭載のVW排ガス不正を世界に公表した。
しかし排ガス不正は、内部調査で既に2011年以来指摘されていたことが明らかにされている(注2)。
既に何度も警告され、かき消されてきた不正が今暴かれる理由は、ドイツでは競争原理最優先の呪縛が克服され始めたからである。
何故ドイツで呪縛が克服され始めたかは、2008年の世界金融危機、2011年の福島原発事故を受けてのエネルギー転換を通して「万人の幸せ」を求める理念が蘇えって来たからである。
それがドイツにできたのは、戦後のナチズムの反省から官僚制度から基本法に至るまで全体主義の権力に抗する仕組みがインプットされていたからに他ならない(基本法ではナチズムや共産主義全体主義として禁止したが、経済至上主義にも抑制的に機能し始めたからである。詳しくは『ドイツから学ぶ希望ある未来』参照)。
その流れはエルラー女史の途上国批判の復活にも見られ(注3)、国連が貧困、紛争、気候変動に機能不全に陥っているなかで、未来への希望である。

しかしTPP大筋合意では、2050年には世界人口が90億を超え、干ばつと洪水で世界の食糧飢餓は明白であるにもかかわらず、目先の利益だけを求めて条件不利国の農業、産業を葬ろうとしている。
日本について見れば、自動車関税撤廃で世界への販売数は増大するが、地球温暖化を益々促進することであり、ぶどうから酪農に至る農家の破綻を意味し(ぶどうの即時関税ゼロはぶどう農家を根こそぎにし、さらには長年苦労して築いた酪農も牛舎不要で広大な放牧で育つ国とは競争にならない)、将来的には高齢化するコメ農家の破綻さえ目に見えている。
それは私から見れば、途上国や先進国の農家だけでなく、将来世代に対する犯罪である。

そしてそのような利益至上主義の経済進出を守るものとして集団自衛権行使があり、カントの『永遠平和のために』によれば、そのような抑止力名目の備え(常備軍)こそが戦争を引き起こすものであると説いている。

(注1)日本語資料シーメンス贈賄 
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/09061101_ishikawa.pdf

(注2)2015年9月27日フランクフルター・アルゲマイネ紙の日曜版(FAS)は、監査役会に提出された内部調査に基づき以下の事実を報道した。
「VWの内部調査によれば既に2011年にある従業員が、排気ガス排出を操作する規定ソフト使用が法に抵触することを上司に指摘していたLaut der internen Revision von Volks­wagen hat ein Mitarbeiter seine Vorgesetzten bereits 2011 darauf hingewiesen, dass der Einsatz einer bestimmten ­Software, die den Abgasausstoss manipuliert, einen «Rechtsverstoss» darstellen könne.」

内部調査では、排ガス不正操作を誰が指示し、それについて誰が知っていたのか明らかにできていない。また2011年の重大な指摘が、当時何故ないがしろにされたかも追求できていない。しかしVWがモンスターへと変身して行くなかで、目先の利益だけが最優先され、いずれ壊滅的打撃をあたえることなど考えられないほど、経済至上主義にマインドコントロールされていたと推測できよう(日本の東芝も同じである)。

(注3)エルラー女史の告発に基づく途上国批判の書物復活。
例えば『開発支援の批判的ー内省的考察 Kritisch-Reflexive Betrachtung Von Entwicklungshilfe, November 14, 2013