(265)地球温暖化から見えてくる世界危機・・第三回バングラの貧困拡大から大洪水加速、そして集団自衛権強行は同じ構図だ!中編

40年前のバングラディシュでは雨季に一階部分が水に漬かることはあっても、ヒマラヤ山脈を源とするガンジス河支流の氾濫が引き起こす洪水は上のZDFフィルムで述べていたように15年に一度起きる程度であった。
しかしフィルムの2007年のシーラジガンジ県一帯(ダッカの左上に位置する)の洪水頃には、3年に一度とナレーション述べるように、2010年、2012年、2014年と益々頻繁に起きるようになって来ている。
頻繁化している原因は地球温暖化が益々進行しているからであり、前回フィルムでポツダム気象研究所のステファン・ラムストル教授が述べているように、一℃の温暖化で大気に水が含まれる量が約7%上昇し、恐ろしく激しい豪雨と干ばつという極端な異常気象の気候変動を招いているからだ。
フィルムに見るバングラディシュの洪水は最早日本でも他人事ではなく、今年9月10日の常総市河川氾濫がそれを示している。
このフィルムの科学的根拠に基ずく未来シナリオ、2032年ケルン市の洪水常習化シーンは都合により割愛させてもらったが、日本も2032年には洪水が常習化し、現在のバングラディシュのように住めなくなる地域も出てくるだろう。

途上国支援が新たな植民地主義を支え、途上国の人たちを困窮させている

前回述べたように、途上国支援で10年バングラディシュの支援プロジェクトに携わった社会民主党(SPD)連邦議員ブリギッテ・エルラーは、『死を招く援助』を世に出して即時途上国支援を中止することを求めた。
途上国支援批判は当初から新たな植民地主義を支えるものとして、学者などの知識人中心になされて来たが、現場任務を遂行する官僚からの批判は画期的であった。
しかも全ての支援プロジェクトで害悪を生み出し、搾取的関係に責任のある権力者や裕福者を富ませ、益々途上国の人たちを困窮させている実態を具体的に詳細に述べている。
それは農村では際立っており、化学肥料と農薬による機械化農業導入が結果的に貧農を農村から追い出す実態、また独善的畜産プロジェクト(1969年からの搾乳量の多いサヴァール改良品種の飼育)が動物カロリー1単位を生産するのに7倍の飼料作物を必要とすることから、バングラディシュの人たちの生活を破壊していると述べている。
すなわち黄金のベンガルと呼ばれる大地に暮らす人たちは、長い歴史のなかで自然サイクルの巧みな利用を身につけ、巧みに考え出されてきた輪作、雨期に適した稲の品種、野菜とバナナなどの果物の混合栽培、飼料作物不要のやぎ飼育などで持続的に暮らしてきたにもかかわらず、途上国支援がその持続的暮らしを破壊していると強調している。

そしてこのような社民党政治家ブリギッテ・エルラーの告発は、戦後官僚一人一人の責任を問い、政治及び社会にガラス張りに開くことを求めるドイツで、徹底した論争を喚起して行った。
例えば大衆紙『ツァイト誌』では、「第三世界における西洋政治のネガティブな問題についてのウィリー・ブラント(第4代連邦社会民主党首相1969〜74)とブリギッテ・エルラーの論争」を掲載している(注1)。
その論争ではエルラー女史は途上国支援の問題点として、私たちドイツ人のお金が搾取的関係に責任のある権力側に与えられ、搾取的関係維持を継続させていると主張している。
さらに彼女は、「私たちは産業国にも問題を引き起こしているテクノロジーを無批判に途上国に輸出し、広く害悪を拡散しており、最早私たちはこの害悪を拡げるべきでない」と断言している。

そして今このような産業国の利益と途上国の権力側だけを富ませる途上国支援と一体の新重商主義貿易が、貧困化と気候変動を激化させ、それによって引き起こされる紛争に国連さえも機能不全に陥ている(注2)。
それこそが日本の集団自衛権が求められた理由であり(中国の脅威は増しているとしても本質的理由ではない)、新たな植民地主義と批判される経済進出を守る軍隊、そして機能不全に陥った紛争解決の一端が求められているのである。
そのような意図に日本社会は殆どイノセントであるが、本質的な問題に取り組まない限り、力による紛争解決が泥沼化することは必至であり、日本の戦前化が進む中で気候変動も激化し、日本の絶望的未来が見えて來る。

(注1)長い長い論争であり、私自身も今稲刈りや天日干しと忙しいことから概略しか読んでいないが、私自身にとって興味深いだけでなく、本質的な問題が議論されていることからこのシリーズの第七回から翻訳をサブテーマとして連載していく予定。

(注2)私がバングラディシュを訪れる前に、ここでも途上国支援の教会メンバーのイタリア人男性(51歳)がイスラム国に関与する武装集団に射殺され、帰国後の10月3日に農業関係で支援していた日本人(66歳)が武装集団に射殺されるという痛ましい事件が起きた。
第六回で私の紀行も書くつもりであるが、私の短い訪問でも私に話しかけてきた若者たちは殆どがスマートフォンを持ち、グローバルな情報にも精通し、バングラディシュの現状に強い不満を漏らしていた。そうした若者がイスラム国のような武装集団の一方的プロパガンダに巻き込まれることも考えられ、ケニア同様に痛ましい事件がこれからも予感される。
実際ボトム競争の激化で縫製工場などの放火が日本の工場を含めて急増しており、2013年4月24日、バングラデシュダッカ郊外にある縫製工場ビル「ラナ・プラザ」倒壊の放火では、死者1,100人以上、負傷者2,500人以上もの犠牲者を出したが、集団犯行と言われる犯人も未だに検挙されていない。
いずれにしてもこのような悲惨な事件の頻発化は、気候変動激化と連動して途上国支援で多くの人たちが益々貧困化していく背景があり、それを本質的に見直すことなく力による紛争解決に頼るなら、益々炎上させることになる。