(469)フェイクニュースが溢れる世界・経済の民主化を求めて(3)禍を力にするドイツから学ぶもの

フェイクニュースとは何か

 

 今回も上のドイツ第一公共放送ARDの制作放映された動画で見るように、「フェイクニュースは大抵非常に意図的につくられ、文面や写真が拡がって行き、意見を操作したり、真相をそらしたり、或は人気を煽る」と述べている。

しかもフェイクニュースは、「衝撃を与え、憤慨させることで、情報が拡散されて行く」と述べており、ソーシャルメディアを通して真実の検証なしに拡散されて行く。

しかもそのような拡散は、人が関与するだけでなく、コンピュータープログラムであるソーシャルボットが「決まったテーマに対して、自動的に、独自の投稿や回答をつくり出している」と指摘している。

実際そのようなソーシャルボットが作り出すフェイクニュースは、2016年の米国大統領選挙以来急増肥大している。

2016年の米国大統領選挙では、「ローマ法王がトランプ氏を支持、世界に衝撃」から「不法移民が何百万もの票を投じた」までフェイクニュースツイッターを飛び交っていたことが報じられている。

そのようなフェイクニュースは既に詳しく調査され、ソーシャルボットが最初作り出し、次にツイッターを受けた大勢の人々が知人に次々とリツイートする構図が見えて来ている。

 

フェイクニュースの影響

 

 上のARD制作の動画ではフェイクニュースの影響を、青少年の民主主義教育という観点からコロナ感染に絞り寧ろ抑えて伝えているが、最も大きい影響は政治であり、2021年1月6日のトランプ支持者の国会議事堂襲撃事件は衝撃的であった。

ZDFの報道するニュースでは、トランプは演説で、「私たちの選挙勝利が過激派左翼によって奪われる。私たちはそれが行使されることを望まない。我々は決してあきらめない。ペンシルベニア通りを行進して行こう」と明言しており、フェイクニュースで国会議事堂襲撃を扇動したと言っても過言でない。

しかもトランプが米国大統領として登場して以来、民主主義の理想を掲げるメディアが伝える事実に基づく批判ニュースを、トランプだけでなく東欧の専制的権威者たちが「フェイクニュース」と指摘して、無視することが日常的になっている。

それにもかかわらず、半数近くのアメリカ人がトランプを支持していたこと、そして東欧諸国では専制的権威者たちが圧倒的多数で支持されいることに、現在の民主主義の危機があり、世界の危機がある。

そのように民主主義が危機にあるからこそ、ドイツでは公共放送が青少年の民主主義教育の一環として、民主主義を守り尊重するため、ホロコーストや人種差別からブログで載せたポピュリズム、ロビー活動、フェイクニュースまで何十本の番組を制作放映し、多くの学校で議論教材としても使用されている。

 

 禍を力とするドイツから学ぶもの

  上で述べたようにドイツは絶えず民主主義を進化させ、最もドイツが被害を被った2008年の世界金融危機では、その禍を未来への力として新自由主義克服へと乗り出し、私が見る限り、産業、経済分野を除き、少なくとも国家の4つの権力と言われる立法、行政、司法、メディアの民主化が進み、第5の権力と言われるロビー活動も切り拓かれようとしている。

そうした折に昨年ウクライナ戦争がロシアの無法な侵攻で始まり、ドイツはすぐさまロシアへの天然ガス依存、クリミア半島不法占拠後も天然ガス開発を推し進めたことを反省し、2024年までにロシア依存を無くすことを表明した(これに対してロシアは憤慨し、様々なルートを通して変えようとしたが、政府方針が変わらないとわかるやいなや、ロシア側から天然ガス輸送を昨年夏には停止している)。

ドイツ政府のロシア天然ガス及び石油依存廃止に対しては、天然ガス開発を実質的に行ったドイツの世界最大の化学企業BASFの代表が、「私たちは、みすみす経済全体を破壊したいのでしょうか? 私たちが何十年にもわたって築き上げてきたものは、何でしょうか?」と国民に訴え、ドイツの産業経済界が、安いエネルギーの国益が失われるだけでなく、大混乱に陥ると激しく反対した。

それにもかかわらず政府は方針を変えず、メディア、そして世論が支持して反対を押し切り、ロシアへの天然ガス、石油依存なしに、混乱もなく2023年の春を迎えている。

確かに昨年からの冬は記録的暖冬であったことから切り抜けられたという意見もあるが、既にドイツには驚く速さで液化天然ガス備蓄基地が築かれ、ロシア以外から備蓄されていたことから、たとえ例年並みの冬であったとしても用意周到であったと言えよう。

そして学ぶべきは、禍をエネルギー転換、気候正義への力として希望ある

社会を創り出そうとする活力にある。

それは、2023年1月1日から施行された下の新しい再生可能エネルギー法(EEG)を見れば一目瞭然であり、改革というより革命的と言えるだろう。

https://dserver.bundestag.de/btd/20/016/2001630.pdf

その革命的要旨は、2030年までに少なくともドイツの総電力消費量80%以上を再生可能エネルギーに転換するために、市民及び自治体が積極的に取組めるよう大企業優先から市民優先への大転換への仕組が作られたことにある。

そこでは、市民の造る電力買取価格を引き上げるだけでなく、2017年から始まった大企業有利の入札制度を廃止し、再び市民企業(市民エネルギー協同組合)の活発化を促している。さらに自治体がエネルギー自給に取組めるよう財政的にも便宜を図っている。

それは、ドイツの再生可能エネルギーが市民企業によって造り出されたことから、2014年再生可能エネルギー法改正は市民企業を締め出し、4大電力企業にバトンタッチする仕組にしたことからすれば、まさに革命的である。

これまで市民に押し付けられていたEEG負担金が一切なくなり(企業は競争力低下を理由に殆ど負担金が免除されていた)、買取価格の不足分は政府が特別基金を設け支払いを決めたことにも、大きな目標達成の決意が感じられる。

しかも開始されたEEG法案では、公共の利益(öffentlichen Interesse ) と公共の安全性(öffentlichen Sicherheit)を掲げており、市民企業促進の項目には、官僚的仕組を取り払ったことを強調するため、敢えて非官僚的(unbürokratischer)に実現すると明記している。

このような革命的EEG法案が導く2030年の未来は、単にドイツの総電力消費量の80%以上が再生可能エネルギーで賄われるだけでなく、地域の市民や自治体による地域でのエネルギー自給を約束するものであり、将来の激化する気候変動、食料危機にも対処できる希望ある社会である。

具体的には地域分散型技術による経済の民主化を伴う、地域に生きる人々の暮らしを最優先する、希望ある絶えず進化する民主主義社会が見えてくる。

まさにそれこそが、禍を力とする「永久革命としての民主主義」ドイツであり、日本、そして世界が学ばなくてはならないものである。

 

 ブログ休刊のお知らせ

  永久革命としての民主主義」二部作成のため、4月中旬もしくは5月連休明けまでブログを休みます。

二部では、ドイツとは対照的に「絶えず退化する日本の民主主義」から書き始めており、少なくとも初夏までには期待にそえるものを出したいと思っています。

 

新刊のお知らせ

 『永久革命としての民主主義』