(402)救済なき世界”をそれでも生きる(24)・コロナ感染拡大で見えて来た世界(2)ベーシックインカムで世界は変えられる

ベーシックインカムで世界は変えられる

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10月25日に放送されたNHKスペシャル『パンデミック 激動の世界(4)▽問い直される“あなたの仕事”』では、300人以上の日本企業はテレワークでの在宅勤務が90%に達し、完全な成果主義のジョブ型制度が始まったことを伝えていた。

同時にテレワークできない公共交通機関、生活必需品販売、ゴミ収集、医療などの分野で、感染リスクにもかかわらず日夜必死に働くエッセンシャルワーカーを描いていた。

その中でも私たちの命に奉仕し、月10回の夜勤もいとわず献身的に働く看護師には心の打たれるものがあった。

そのような看護師が、コロナ以前より慢性的人手不足で恐ろしく長時間労働にもかかわらず、病院経営がコロナで悪化したことから、逆に報酬が前年より削られるという実態には、不条理を感ぜずにはいられなかった。

番組のレポーターは、「激務にあたる看護師たちの使命感。(ジョブ型制度で)部下に誠実に向き合う管理職の生真面目さ。そこに共通するのは、誰かのために、何かのために必要不可欠な存在でありたいというひそやかな切なる願いでした」と美しい言葉で語っていたが、私にはとてもそのように取れなかった。

テレワークによる完全な成果主義ジョブ型制度の始まりは、成果の上げられる人には心地よいものだとしても、かつてのコンピュータープログラマーのように、デジタル化をAI(人工知能)が統括できるようになれば掃き捨てられる存在であり、本格的に人間の労働が奪われる時代の到来を感じさせた。

また献身的な看護師たちが感染リスクにさらされながら長時間激務、低賃金で働かなくてはならないのは、本来利潤追求がなされるべきではない公共に奉仕する病院が企業化を強いられ、利潤追求を優先しなければ倒産するからであり、まさにそこには競争原理最優先の市場アナキストグローバル資本主義が聳えている。

もっともそれを深刻に感じたのは、前日の24日放送されたNHKスペシャル 「世界は私たちを忘れた~追いつめられるシリア難民~」であり(注1)、シリアからレバノンに逃れた難民の人たちが、コロナが追い打ちをかけ人間の尊厳さえ失わざるを得ない実態が描かれていた。

最も弱い存在の女性と子供に密着取材したリアルなドキュメンタリーであり、そこでの売春さえ強いる家庭内暴力、臓器売買など余りに生々しく、目を塞ぎたいほど衝撃的なものであった。

このような不条理な世界はコロナパンデミックによってあぶり出されたと言えようが、その原因を辿れば、まさに前回述べたグローバル資本主義に他ならない。

ウルリッヒ・ベックによれば、「グローバル資本主義国民国家の足枷をはずし、あらゆる規制を取り去り、最終的に社会国家、民主主義、公共園を死にいたらしめる」と述べている。

それはシリア難民のような弱者を見捨てる社会であり、既に延べたように究極的には(世界戦争によって)破局を迎えると強調している。

実際シリア紛争もグローバル資本主義前の国民国家であれば、独裁国家の市民革命で終わったろうが、二つの陣営のいグローバルな競争の結果として、終わりのない紛争を継続していると言っても過言でない。

しかしベックは徹底したネガティブな分析にもかかわらず、決して世界の未来にネガティブではなく、グローバル化は人類の発展に避けて通れないものとしてポジティブに捉え、世界市民的共和主義の世界社会が芽生える時であると訴えている。

その世界社会とは、すべての国民社会がその中に溶け込んでいくメガ国民社会ではなく、多様性と統合されていないことを特徴とする世界地平であると、ベックは強調している。

そしてこの世界地平を開くのは、グロバル化によって結ばれる世界市民のコミュニケーションと行動であると、危機の時代をポジティブに鋭く捉えている。

すなわち市場アナキストの占拠したグローバル資本主義の時代は、危機の拡大こそが世界市民主義の世界社会時代への要請を高め、転換を実現するものだと分析している。

しかしその転換にはどれだけの年月を要するかわからず、その間困窮し見捨てられていく弱者に、ベック自ら耐えかねて(豊かなドイツ市民さえ、グローバル資本主義の要請を受けた悪魔の労働法ハルツ第4法で困窮していくなかで)、ベックはこれまでの貧困は克服可能という持論を変え、ハルツ第4法が施行された一年後の2006年に、「完全雇用ユートピアからの別れ(Abschied von der Utopie der Vollbeschäftigung)」という論文を世に出し、ベーシックインカムの要請を開始したのであった。

すなわち失業で貧困が拡大する現代は、ベーシックインカムが実現すれば、人類の生産力の勝利を歓喜する時代であり、社会全体がより良い善を為す時代に変わる転機になると訴えいる。

それは世界市民主義の世界社会の転換をより速く推し進めるものであり、現在の市場アナキストに占拠された世界を貧困と戦争のない世界に変えるだけでなく、すべての人が生きがいと尊厳をもって生きる世界を創り出して行くものである。

それ故今回の動画も、ドイツ公共放送Funk(ARDとZDF共同出資の若者への放送局)が2017年10月に放送した『全てに1000ユーロのベーシックインカム』を載せた。

2017年当時も、ドイツでは世論調査で国民の過半数以上がベーシックインカムに賛成しているが、現在の現在の2020年コロナ禍では益々実現を望む声が高まっている。

2020年8月4日のDer Mitteldeutsche Rundfunk(ARDのラジオ放送)のバロメーター調査では、55%の人が賛成している(注2)。

また市場調査の専門企業Rogeterが2020年5月4日~14日にドイツ、オーストリア、スイス、スウェーデンで行った調査では、全ての国で過半数以上の人がベーシックインカムに賛成しており、ドイツでは反対者が15%しかおらず(注3)、圧倒的多数が持続可能な社会に大きく変わることを望んでいた。

こうした調査からも、2021年ドイツ連邦選挙でベーシックインカムが採用されれば、EU諸国で次々と採用され、世界へ波及して行く可能性は決して少なくない。

まさにそれは、世界市民主義の世界社会実現の第一歩である。

財源については、上に載せた動画では最大の問題となっているが、現在の恐ろしい格差を是正する観点に立てば、決して難しいことではない。

例えば2010年にカナダのトロントG20会議で、ドイツとフランスが共同で提唱した金融取引税(トービン税)を導入すれば、少なくともシリヤやアフリカなどの殆ど見捨てられている人たちのベーシックインカムは可能であろう。

何故ならコロナ禍にあっても、寧ろ危機を踏み台にして世界の何百兆円という投機マネーが益々肥大しており、コロナ感染リスクにもかかわらず必死に働く人たちが低賃金長時間労働を強いられなかで、100分の1秒ほどの投機に参加して莫大な利益を稼ぐ人たちに金融取引税が課せられないのは、余りに不公正であるからだ。

そのような不公正を許し、難民の人たちを見捨てるとすれば、単に倫理的に許されないだけでなく、コロナ感染を拡大し、再び世界同時多発テロの引金ともなりかねず、究極的に世界は破局へと向かうだろう。

(注1)

https://www.dailymotion.com/video/x7x1se9

(注2)

https://www.mdr.de/nachrichten/mitmachen/mdrfragt/umfrage-ergebnis-mehrheit-fuer-bedingungsloses-grundeinkommen-100.html

(注3)

https://www.marktforschung.de/aktuelles/marktforschung/deutsche-und-schwedische-gesellschaft-erwartet-starke-veraenderungen-durch-corona/