(242)ドイツの利権構造とプロパガンダ(最終回)人類滅亡の気候変動克服への道


フィルムはドイツのネットニュース局N24に載せられたビデオ映画の冒頭

世界の化石燃料エネルギーを支配してきた大資本は、2013年の世界におけるCO2排出量が最悪の351億トンに達し、1990年のCO2排出量227億トンに比して54、6%増大しており、さらには上のような2025年の世界のカタストロフィの映像が警告するにもかかわらず、無視するだけでなくCCS(CO2地下貯留技術)を打ち上げることで石炭消費を拡大しようとしている。

しかも相変わらず地球温暖化は嘘といった真しなやシナリオを、様々なやり方で世界中にプロパガンダしている。
例えば北極の氷は拡大しているとか、世界各地での厳冬を取り上げることで地球温暖化は嘘というメッセージが巷に溢れている。
確かにある時期で見れば北極の氷は拡大しているのも事実であり、温暖な四国の集落が大雪で長期に閉じ込められ、ナイアガラ滝の滝が凍ったことも事実であるが、既に検証されているように地球温暖化は気候変動の異常現象化であり、異常な暑さ同様に、異常な寒さも引き起こされる。
しかし北極、四国、北米にしても長期的観測データからは何れも温暖化が進行していることが検証されており、そのような事実の積み重ねで2014年10月のコペンハーゲンでの120ヵ国の代表が出席した政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書統合報告書では、「現在の気候変動の要因は温室効果ガス排出の増大である」と明言されている。
10年ごとに区切った詳細なデータの研究からは、最近30年の気温気温上昇、平均19センチの海面上昇、海洋の酸性化による珊瑚礁の死滅など深刻状況が報告されると同時に、台風の巨大化(最大瞬間風速90メートルのフィリピン直撃の巨大台風や今年3月南太平洋バマアツの94メートル巨大台風からも明らか)、集中豪雨と旱魃の増大、マラリアなどの感染症北上を含めた生態系リスクの現実化を検証し、一旦進行を許せばもとに戻せない不可逆性を強調し、「今後数十年間にわたり大幅に排出を削減し、21世紀末までに排出をほぼゼロにすることを要する」と明言している(2014年3月のベルリンでのIPCC第3作業部会の報告書では、今世紀中頃までに現在の40%から70%削減及び今世紀末までに100%削減が明記されていた)。
こうした世界の学者の地道で膨大なデータの前では、産業界からの圧力に支配されている120ヵ国の代表も、具体的削減の明記を避け、今世紀末ほぼゼロという表現に変えることが精一杯の抵抗であった。
しかし世界の産業界を牽引する化石燃料エネルギーの巨大資本は、冒頭にも述べたようにそのような地球危機を直視することなく、目先利益だけを最優先し、少なくとも2030年までは二酸化炭素地下貯留技術を打ち上げることで石炭中心のエネルギー政策を維持しようとしている。
既に今回のシリーズの第3回で述べたように、CO2問題の第一人者であるドイツ経済研究所DIWのエネルギー学者クリスチャン・フォン・ヒルシュハウゼン教授は2014年1月21 日放映のZDFフィルム『原発ロビーの逆襲─間違って算定されたEUエネルギー政策』で、インタビューに答えて石炭火力発電所から出るCO2を地下に閉じ込めるCCTS(二酸化炭素地下貯留〔CCS〕)技術をフィクションであると明言している。

確かにドイツも産業の利権構造は新自由主義推進国に劣るものではなく、与党キリスト教民主同盟(CDU)だけでなく社会民主同盟(SPD)のロビイスト支配は強く、緑の党にさえその触手を伸ばしている。
しかしそのような支配にもかかわらず、戦後のドイツでは絶えず“万人の幸せ”が求められ、公正さが追求されてきたことも事実である。
今年3月31日に公式に報道されたドイツの2014年のCO2排出量は、2013年に較べ4100万トン減少し9億1200万トンであり、4,3%の減少となった(シュピーゲル・オンライン「気候変動保護・ドイツのCO2排出量減少」の記事より)。
2011年の脱原発の際4大電力企業の強い圧力で、旧い石炭火力発電所の継続使用容認で一時的に足踏みしていたドイツのCO2排出量削減は1990年比で27%削減を復帰させた。
昨年の再生可能エネルギー法EEG改正では、ドイツ産業連盟の圧力に屈したと非難されていた経済大臣ガブリエル(SPD)も、ドイツが世界に公約する1990年比でCO2排出量を40%削減するために、全ての石炭火力発電所に新たな課税導入を打ち出している(2015年3月20日シュピーゲル・オンライン「ガブリエル大臣は石炭発電所に新たな課税導入を望む」の記事より)。
何故なら現在のCO2増大を容認していけば、2030年には1990年比で倍増もあり得、不可逆な気候変動で人類を滅亡させてはならないという理性が働いているからに他ならない。
しかもドイツの描くエネルギー転換ではブレーキの踏まれたシナリオからも、2050年までに再生可能エネルギーだけで全エネルギーの少なくとも80%以上を賄い、CO2排出量を80%削減する地域分散型の希望ある未来が見えてくる。
まさに世界が、そのようなドイツの希望ある未来のシナリを手本とすることこそが、人類滅亡の気候変動克服の道である。