(239)ドイツの利権構造とプロパガンダ(3)CCS技術(CO2地下貯留)の嘘(日本の場合破綻に向けて驀進するしかないのか)

2006年3月巨大電力企業ヴァンテンフォールはブランデンブルク州の、連邦メルケル首相(CDU)及びブランデンブルグ州知事マティアス・プラチェック(SPD)の支援のもとに、30ギガワットの実験施設建設でCCS技術調査を開始した。
またE.onに次ぐ巨大電力企業RWEは2008年にケルン近郊のヒュルト市に450ギガワットの褐炭火力発電所建設を開始し、CO2をパイプラインでドイツ北端のヘルプ村の地下に貯留する荒唐無稽な計画を公表した。
この頃のドイツの巨大電力企業は原発利権構造を築き、電力市場価格を独占によって意のまますることで数百億ユーロの巨額な利益を手にするだけでなく、2000年の脱原発協定を無効にする原発運転期間延長28年計画を着々と進める黄金期であった。
しかし巨大資本の飽くなき利益追求は、上の市民運動制作フィルムで見るように、非常に安くて溢れる褐炭や石炭に目をつけ、CO2を地下に貯留することで、地球温暖化の問題を解消するフィクションを築こうとした。
フィクションと断定するのは私の考えではなく、前回のZDFフィルムでドイツ経済研究所のヒルシュハウゼン教授(ベルリン工科大学)の断定である。
ドイツ経済研究所は、財源を連邦とベルリン州で折半されるガラス張りに開かれた公的研究機関であり、社会問題からエネルギー環境問題に至るまで調査研究し、研究発表者のインタビュー音声報道を通して国民の誰もが調査結果を理解できるように配慮している。
したがってヒルシュハウゼン教授がCCS技術をフィクションと断定するには、膨大な調査研究があり、その一端として2012年ドイツ経済研究所の発表論文「フィクションのCCS技術・・・避けては通れないエネルギー転換で考えを根本的に改めよ」を読めば明らかであろう。(以下に論文最初の要約を訳しておく。詳しく下のアドレスPDF)
http://www.diw.de/sixcms/detail.php?id=diw_01.c.456284.de

これからの20年間でCO2の分離はドイツの電力分野に全く役に立たないであろう。このことは、遅くとも2011年10月29日の巨大電力企業ヴァンテンフォールのジェンシュバルデ地区のCCS実験プロジェクト中止の環境大臣ノルベルト・レットゲンの公式報道以来明らかになっている。同様にヨーロッパ基準でも目を覚ますべき調査結果があり、ヨーロッパの最初の6つのパイロットプロジェクトは見極め期間で、CCS技術で排出ガスを永続的に回避する目標を全てで成功していない。多くのEU加盟国は2009年のヨーロッパCCS技術指針を法案化しておらず、ドイツも同様である。今後20年でCCS技術の意のままの使用を今日まだ期待する電力発電所プロジェクトは、このような背景から時代遅れと見なされるべきであり、経済的にも、気候政策的にも、エネルギー政策的にも意義のあるものではない。
In den kommenden zwei Jahrzehnten wird die CO2-Abscheidung auf dem deutschen Stromsektor keine Rolle spielen. Dies zeichnet sich spätestens seit der öffentlichen Bekanntgabe von Bundesumweltminister Norbert Röttgen vom 29. Oktober 2011 und der Absage des CCTS-Demonstrationsprojekts am Standort Jänschwalde durch den Energiekonzern Vattenfall ab.
Auch auf europäischer Ebene liegen ernüchternde Befunde vor: Keines der ersten sechs europäischen Pilotprojekten wird auf absehbare Zeit seine Ziele, eine geschlossene CCTS-Kette und somit die dauerhafte Vermeidung von CO2-Emissionen, erreichen; viele EU-Mitgliedstaaten haben bis heute die europäische CCTS-Richtlinie 2009/31/EC nicht in nationales Recht umgesetzt, darunter auch Deutschland. Kraftwerksprojekte, die heute noch auf die Verfügbarkeit von CCTS in den kommenden zehn bis 20 Jahren vertrauen, müssen vor diesem Hintergrund als überholt betrachtet werden und sind weder ökonomisch noch klima- oder energiepolitisch sinnvoll.

そしてこの際のドイツ経済研究所のインタビュー「CCS技術への6つの質問」の音声報道は以下のようであった。
http://www.diw.de/sixcms/detail.php?id=diw_01.c.392698.de
このインタビューは書類化されているので、ドイツで既にCCS技術が巨大資本のフィクションとなっていることを知ってもらうため、以下に訳しておきたい。

1.Herr Prof. von Hirschhausen, CCTS – Carbon Capture Transport and Storage – nennt man das Verfahren, mit dem man CO2 aus Industrie- oder Kraftwerksabgasen abscheiden, verflüssigen, transportieren und unterirdisch speichern wollte. Im Oktober 2011 hat der Bundesumweltminister dieser Technologie eine Absage erteilt. W arum?
CCS技術でもって産業や発電所から排出されるCO2を分離、液化、輸送、地下に貯蔵しようとしている。2011年10月連邦環境大臣はこの技術の承認を拒みました。何故でしょうか?
Es hat sich herausgestellt, dass dieser Technologiekomplex technologisch zu anspruchsvoll ist. Er ist wesentlich teurer als andere Vermeidungstechnologien, und wir haben im Gegensatz zu anderen Technologien noch keinerlei Erfahrungen in der großindustriellen Anwendung. Deshalb hat man jetzt wahrscheinlich noch rechtzeitig die Reißleine gezogen, um die Mittel in a nderen Bereichen einzusetzen, die zukunftsträchtiger sind.
これらの複合技術は技術的に余りにも難しいということが判明した。CCSは他のCO2防止技術よりも本質的によりコスとがかかり、他の技術との対照で巨大産業の適用でいかなる実績もない。それゆえ連邦環境大臣は将来に可能性のある他の分野の手段を投入するために、事実上時を得た決断をした。

2.Welche Erfahrungen hat man in Pilotprojekten, wie zum Beispiel im Versuchskraftwerk „Schwarze Pumpe“ von Vattenfall gemacht?
例えば巨大電力企業ヴァンテンフォールの実験発電所“黒いポンプ”のようなパイロット計画では、どのような実績があるのですか?
Die sogenannte Oxyfuel-Anlage „Schwarze Pumpe“ bei Cottbus ist eines von mehreren Projekten und mit 30 Megawatt relativ klein. Es hat sich zwar gezeigt, dass die Prozesstechniken auf dieser kleinindustriellen Ebene beherrschbar sind, aber die A nlage ist auch relativ inflexibel. Das betrifft insbesondere die An- und Abfahrgeschwindigkeiten, die in einem auf erneuerbare Energien beruhenden Energiesystem extrem wichtig sind. Darüber hinaus hat man die Erfahrung gemacht, dass der Transport und die Speicherung in Deutschland nicht zu realisieren sind.
コトブス市(ブランデンブルグ州)でのいわゆる酸素燃焼装置“黒いポンプ”は多くのプロジェクトの一つであり、30メガワットで相対的に小さい。確かにこの小さな産業レベルではコントロールされているが、装置は相対的に融通性がない。しかもそれは再生可能エネルギーに基づくエネルギーシステムが非常に重要である乗車、発車スピードに関与している。そのような理由で、ドイツにおける輸送と貯蔵は現実的でないということになった。
3.Wie sind die Erfahrungen in anderen europäischen Ländern?
他のヨーロッパの国での実績はどのようでしょうか?
Es liegen seit einigen Jahren praktisch nur Negativerfahrungen vor. Es gibt auch aus dem Industriebereich keine Berichte von Pilot- oder Demonstrationsprojekten, die das Gegenteil zeigen würden. Das beinhaltet ein nunmehr 5-jähriges Ausschreibungs verfahren in Großbritannien sowie stagnierende Prozesse in Polen und Italien. Selbst in den Niederlanden, die relativ nahe an möglichen Speicher
orten in der Nordsee liegen, regen sich erhebliche Widerstände. Deshalb ist die Idee, ein länderübergreifendes, europaweites CCTS-Transportnetz zu entwickeln, ad acta gelegt worden.
この数年では実用的にネガティブな実績がある。産業分野から反論するパイロットプロジェクトや実証モデルプロジェクトの報告はない。それは英国のこれまでに5年間の公示作業並びにポーランドやイタリアの停滞しているプロセスを含んでいる。北海の可能性のある貯蔵場所に相対的に近いオランダ自体が激しく反対している。それ故国を越えてヨーロッパにCCS輸送網を拡げる考えは取外されている。
4.Welche Konsequenzen hat der Verzicht auf CCTS auf den Bau neuer Kohlekraftwerke?
CCS技術の断念は新しい石炭火力発電所にどのような結果を及ぼすのでしょうか?
Ich denke, es wird keine neuen Kohlekraftwerke geben. Die Engländer haben in Form von sogenannten „Emission-PerformanceStandards“ (EPS) den Bau neuer Kraftwerke an eine funktionierende CCTS-Technologie gebunden, die es jetzt nicht geben wird. In Deutschland sieht die Situation sehr ähnlich aus.
私は新しい石炭火力発電所はなくなると考えている。英国はいわゆる排出履行基準で新しい石炭火力発電所建設を機能するCCS技術と結びつけており、まだ建設されていない。ドイツにおいても立場は同じだろう。
5.Im Bundesland Brandenburg gibt es bereits konkrete Pläne für den Bau von neuen Kohlekraftwerken mit der CCTS-Technologie. Was bedeutet die Absage an CCTS für das Land Brandenburg und die dort ge planten Kohlekraftwerke?
ブランデンブルク州には既にCCS技術装備の新しい火力発電所建設の具体的計画があります。CCSの拒否はブランデンブルク州及びそこに計画された石炭火力発電所にどのような意味を持つのでしょうか?
Das Land Brandenburg war ein Vorreiter und hat große Bemühungen unternommen, gemeinsam mit Industrie und Politik die Technologie zu entwickeln. Diese Bemühungen sind abgebrochen worden. Deshalb wird es in Brandenburg keine neuen Kohlekraftwerke geben, weil es die CCTS-Technologie dort nicht geben wird. Damit wird Brandenburg seine Energiestrategie, wie bereits angekündigt, auf den Ausbau erneuerbarer Energien fokussieren.
ブランデンブルク州は先駆者であり、産業と政治が共同で技術を発展することに多大な努力を企てた。これらの努力が打ち切られ、それ故にブランデンブルク州では新しい石炭火力発電所が建設されない。何故ならそこではCCS技術が使用できないからである。そのような結果ブランデンブルク州は既に発表されている再生可能エネルギーに戦略を集中するであろう。

6.Ist jetzt insgesamt ein energiepolitisches Umdenken notwendig?
今全体としてエネルギー政策の根本的考え方を改める必要があるでしょうか?
Die meisten Entscheidungsträger sind bereits mit dem Fakt vertraut, dass CCTS auf deutscher und europäischer Ebene nicht kommen wird. Es wird allerdings noch eine gewisse Zeit dauern, bis das auch in die Gremien und die entsprechenden Strategie papiere Einzug halten wird. Mit Sicherheit ist die Energiestrategie der Bundesregierung zu überarbeiten. Auf europäischer Ebene muss man sich auch mit alternativen Strategien beschäftigen, wie man die Energiewende ohne CCTS gestalten kann.
大部分の決定委任者はCCS技術がドイツやヨーロッパ基準に適合しないという事実を既に信用している。まだ委員会で相応する戦略報告が持たれるまでには検証期間を要するだろう。確実に連邦政府のエネルギー戦略は予想を超えて取り組まれている。ヨーロッパ規模でCCS技術なしのエネルギー転換が成功するように取り組まなくてはならない。

日本の場合破綻に向けて驀進するしかないのか

日本ではCCS技術への国策への取組は、経済産業省の2006年の「二酸化炭素回収貯留技術研究会」より始まり、2008年日本CCS調査(株)を設立し、2012年から苫小牧で実証試験を開始している。
この時点で既に先進国で300近くの実証試験が行われていたが、成功したものはなく、ドイツ断念の理由を詳しく検証すべきであろう。
唯一日本でポジティブに伝えられていたノルウェーの国策大型CCSプロジェクトも、ヒルシュハウゼン教授の調査研究ではネガティブで、炭素税で高額助成しても莫大な経費がかかり、様々な問題点が指摘されていた。
事実2013年10月ノルウェー政府は公式にプロジェクトの廃止を世界に報道している。
それにもかかわらず、日本ではおそらくCCS技術を国家プロジェクトとして確立するために、一昨年2013年6月「CCSのあり方に向けた有識者懇談会(第一回)」を開いている。
そこでの議論要旨には次のようなことが書かれていた。
「ヨーロッパではCCSの件数が少ない、それがどうしてなのかを知りたい。例えば、数年前、欧州エネルギー復興プログラムが動きだし、数件のプログムがはしった。その中でドイツの場合には、4年か5年実施に向けて進めた後に中止になったと伺っている。ドイツは脱原発を謳っており、かつ石炭に対する依存度が高い、そして何より地震が無い。このようなところで、地元住民の理解が得られなかった故に中止になった、その事実関係、どのような経緯で中止に至っているのか知りたいと思っている」
(この有識者会議は意見を活発化するためという驚くべき理由で公開されていないことから仔細はわからないが、有識者会議自体がお墨付きを与える性格のものと思われることから、質問者があるとすればドイツの事例を知りながら批判的に質問したように思われる。それに対して、読んでもらえばわかるように私から見れば的外れな解説がなされている)

結局何が言いたいかと言えば、利権構造がつくる嘘は当事者たちには止めることができず、被害者は国民であるということだ。
例えば日本の高速増殖炉計画や核燃料リサイクル政策は、既に1985年ドイツのカルカー高速増殖炉4回のナトリウム火災事故で終わっており、その現場で学んでいた「もんじゅ」建設の三菱重工東芝の技術者たちは、ナトリウム金属を熱媒体として使用する技術は不可能であるということを熟知したはずである。
それにもかかわらず、既に先進国では終わった愚かなプロジェクトを国策として進め、何十兆円もの損失を与えるだけでなくリスクを増大させるなかで、間違った政策と認識する経産省の大部分の官僚たちも一旦築かれた巨大利権構造を解体できない。
そしてCCS技術も石炭火力発電だけでなく水素社会の切札と日本では今も打上げられており、既にフィクションであることは明白であり、再び国家プロジェクトとして巨大利権構造を築いていけば、現在の国家負債1100兆円も2000兆円に向けて驀進し、その前に日本が破綻することは必至である。