(250)カントの理想実現(8)地域自治体の自然エネルギー完全自給が世界を変える(1)・なぜ「核なき世界」NPTは実現しないのか!


動画『地方自治体のエネルギー完全自給』

上の動画に見るように、ドイツではエネルギー転換によって自然エネルギー100%以上の自治体が増え続けている。
描かれているニーベル町はドイツ北端のノールドフリースランド郡(人口16万1923人)にある人口9715人の町である。
ニーベル町の風力発電建設では、建設費用の大半の資本が850人にも上る自治体住民の1口500ユーロのファンド(住民だけが購入できる持分証書)で捻出し、自治体に住民によるニーベル市民風力発電パーク有限会社を設立させ、残りの投資資金まで地元銀行が融資するという徹底したコンセプトで、地域価値の創出に貢献している。
写真で見るような1基3メガワットの巨大な風力発電基5基が2011年夏に完成し、年間4700万キロワット時の電力を生み出し、近隣の1万3000世帯の電力を賄っている。

私がこの地域を訪れた2000年頃は風が強く、どこまでも小麦や甜菜などの畑が広がる貧しい農業地帯であった。
しかし現在では、自然エネルギー303%のエネルギー転換の活気ある前線となっている(ノールドフリーランドの年間製造電力は374万8815キロワット時で割合は風力発電76,8%、太陽光発電8,4%、ビオマス発電14,7%、汚水処理場ガス発電0,1%である。資料Deutsche Gesellschaft fuer Sonnenenergie e.V. 2014年7月14現在のデーター)。
これらの電力は再生可能エネルギー法によって優先的に電力企業に買い取られていることから、地域自治体の電力完全自給がなされているわけではない。
しかし既に風力発電による完全自給プロジェクトはブランデンブルク州の農村プレンツラウで2009年より開始され、2011年には運転を開始している。
陸上3メガキロワットの風力発電基は、一基で風のある際は最大3000キロワットの電力を製造できるが、風がない時はゼロとなり不安定であることから、自治体の電力完全自給のためには、これまではバイオマス発電及び天然ガスタービン火力発電との組み合わせが欠かせなかった。
しかしプレンツラウのハイブリッド完全電力完全自給では、風力発電が過剰になる際下の図のように水素を製造し(その一部は既にベルリンの水素ステーションに運ばれ売られている)、電力不足時はバイオガスと製造した水素を混ぜコージェネ発電(熱電併給)によって、電力を賄うと同時に暖房用温水を家庭に提供している。

まさにプレンツラウのハイブリッド電力完全自給は、将来の自治体による電力完全自給だけでなく自然エネルギー産業社会の要であり、世界を変える。
何故ならそれは、外心的に地域の外へ向いていた産業ベクトルを内心的に地域内に向けさせ、有余る自然エネルギーで食料から工業製品まで殆どすべてのものを地域で地産地消させるからだ。
このプレンツラウのハイブリッド電力完全自給は動画にあることから、次回に字幕を付けて載せると同時に、詳しく解説したい。
また今回の動画でニーベル町長が「参加は建設承認を創り出す!」と述べているが、最初は様々な理由から何処においても住民の激しい賛成と反対の議論から始まっている。
日本は嘗て世界で最も優れた風力発電の技術を持ちながら、独占電力企業が原発依存していたことから僅かしか買取らないため、多くの最先端企業が倒産しただけでなく(まさに原発優先のため金の卵を産む鶏を絞め殺しているのである)、野鳥被害や低周波シンドローム健康被害の悪者扱いである。
ドイツ最大の自然保護団体ブンドの野鳥部会NABUは風力発電を気候変動保護の最重要な手段として位置づけていることから、野鳥被害にどのように対処しているかについても順次述べていきたい。
また私が今回風力発電による自治体のエネルギー完全自給を敢えて書くのは、私の暮らす日本海近郊の自治体では積雪のため太陽光発電ができないからであり、太平洋側の地域であれば既に述べた家庭での水素製造による電力完全自給を土台として、自治体のエネルギー完全自給は既に述べた電解装置の設置で太陽光発電だけでも容易である。
積雪の多い日本海近郊の殆どの自治体は陸上風力発電の絶好ロケーションであり、過疎の自治体が自ら自然エネルギー完全自給を実現することで生き延びるだけでなく、世界を変える日は決して遠くない(ドイツでは既に最新の陸上風力発電のコストは、これまで最もコストが安い褐炭火力発電よりコストが安くなっている)。

カントの理想実現(8)なぜ「核なき世界」NPTは挫折するのか

Zusatz .Von der Garantie des ewigen Friedens.
今回の第一補説の「永遠平和の保証について」では、「この保証を与えるのは、偉大な技巧家である自然にほかならない Das, was diese Gewähr (Garantie) leistet, ist nichts Geringeres als die große Künstlerin, N a t u r」と明言している。

自然は、人間の不和による戦争も人々を追いやることで地球の隅々に住ませたと永遠平和を保証する過度的な配慮と捉え、不和を融和する合目的性が備わっていると説いている。
すなわち自然は、人間の利己的傾向を相互に拮抗させることで道徳的に振る舞うように導き、共和的な体制のよき国家が組織されると述べている。
そのような国家からは、国民の道徳的形成が期待できることから理性的に振舞わせ、対内的にも対外的にも平和を促進し、永遠平和が保証されるとしている。

確かに私自身もカントの説くように、本来人間は自ら生き延びるために不和を融和させようとして理性的に振舞い、平和を求めて行くと信じたい。
それにもかかわらず現在の世界では、先週「核なき世界」の核拡散防止条約会議NPTが合意文章さえ、皮肉にもオバマアメリカの反対で採択されず、全面後退を余儀なくされ、世界の人々が希求する「核なき世界」が遠ざかって行くのはなぜであろうか?

2008年7月オバマがベルリンを訪れ、勝利の女神像下で最初に大統領候補ではなく世界の市民として話したいと述べ、核なき世界、気候変動の克服、そして富の公平な分配を訴えた時、そこに集まった私を含め20万人もベルリン市民はオバマの一つ一つの誓いに歓声をあげ拍手し、世界が変わることを期待したものであった。

私はブランデンブルク門から1キロほどの勝利の女神像への中間地点にいたことから、オバマ演説を拡声器を通してしか聞くことができなかったが、「今こそ核なき世界の目標を新たにしなければならない This is the moment when we must renew the goal of a world without nuclear weapons. 」と訴える声は今も耳に残っており、「核なき世界」の到来を信じて疑わなかった。
それは私だけでなく、そこに集ったベルリン市民すべての希求であり、世界市民すべての願いであった。
しかしオバマアメリカ国内の公約した弱者救済で躓くと、妥協的に振る舞わざるを得ず、支持者を失うことで益々後退を余儀なくされ、現在では「核なき世界」を自ら葬っている。
世界市民の圧倒的多数が「核なき世界」を願っているにもかかわらず、逆に核の拡散が拡がって行く理由は、現在の世界が益々世界市民の意思を反映できないものになっているからに他ならない。
カントの提示する自然が創り出す共和的体制の国家では、公の利益(万人の幸せ)を求める国民の意思が発揮される社会であり、その延長上に世界があることから、永遠平和の保証を明言した。
しかし現在のグローバル世界は、化石燃料エネルギーの産業社会が終焉を向かえ産業ベクトルを益々外心的に向け生き延びようとしていることから、世界市民の意思が無視され、各国の軍備拡張を通して核なき世界、さらには永遠平和の実現ができないと言えよう。
もっとも私が上に述べているように、世界が分散的にエネルギー完全自給できる地域自治体から成立つようになれば、市民の意思が自ずと発揮され、核なき世界が実現し、カントの明言した永遠平和も実現されよう。
それゆえに化石燃料エネルギーから自然エネルギーへのエネルギー転換は、カントが述べる自然が推移させる合目的摂理でもある。


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