(262)カントの理想実現(20最終回)・明日なき世界を救う道(4)・エネルギー転換による希望ある未来

『ヨーロッパは維持できるか?』第四回一つの経済政府
最終回のフィルムでは、冒頭で英国の右翼から左翼に至るまでEU離脱を望む実態が描かれる。
このようなEU崩壊の危機に前回登場したヘルフリード・ミュンクラー教授は、「ヨーロッパ統合のプロセスには幾つかの事項が含まれてなければなりません。より多くの法と、より多くの責任を持ってより厳格に統合されることが重要です」と明確に述べている。
そしてラストでは、オランド仏大統領がEU統合の第一歩として一つの経済政府創設を提言している。

今回のZDFズーム『ヨーロッパは維持できるか?』は、現在のEUが如何に危機にあるかがよく描かれていたが、『福島のウソ』でのような徹底した追求姿勢が感じられなかった。
例えばヘルフリード・ミュンクラー教授の「より多くの法と、より多くの責任を持ってより厳格に統合されることが重要です」という主張を掘り下げて行けば、本質的問題がもっと鮮明に浮かび上がると同時に、自ずと今何が必要なのかも明らかに出来ただろう。


カントの理想実現(最終回)・世界の希望ある未来のために

限りある資源(化石燃料やウラン燃料など)を弱肉強食の競争で奪い合いを続ける限り、グリンランドや南極の氷河が全て溶け、7メートルを超える海面上昇で世界の大都市水没も避けられないだろう。
しかも気候変動の加速で世界の貧困が肥大し、現在のシリアのように絶望的戦争が世界の至るところで生じ、最終的には核兵器テロの自滅も止められないだろう。

しかし人類は、グローバルな市場においてさえ既に限りない資源(ソーラー燃料)を世界全体に普及できる水準に達しており(すなわち現在でも、最先端の太陽光発電風力発電の電力コスト価格は従来の安いとされてきた石炭火力発電や原子力発電より既に安い)、エネルギー転換さえ出来れば現在の絶望的未来を希望ある未来にすることも可能である。
とはいえ、現在の化石燃料巨大資本支配の産業社会からソーラー燃料の自然エネルギーの産業社会に転換することは決して容易ではない。
何故なら従来の巨大資本の産業社会は、大量農薬投下のイナゴがリサージェンスで生き残ろうとするように、なりふり構わず金融支配と軍事支配で目先の現在だけを克服し、生き残ろうとするからである。
もっとも人類がさまざまな危機を乗り越えて数百万年も生きてきた事実からすれば、現在の危機を希望ある未来への好機に変える人類を信じたい。

そのような観点から見れば、現在のEU崩壊の危機こそ好機の糸口と言えよう。
今回のZDFフィルムでも、そのような糸口は既に述べたようにフランクフルト学派の研究でも著名なヘルフリード・ミュンクラー教授の主張に見られた(注1)。
すなわちそれは、戦後ドイツが行政組織の全面的刷新で道具化された理性を正したように、ロビー支配されているEU組織がEU市民にガラス張りに開かれることで始まる。

それが出来れば、戦後ドイツが辿ったように紆余曲折はあるとしてもEU崩壊を免れるだけでなく、EUがエネルギー転換を通して世界の希望ある未来を築くことも可能だろう。

具体的には以下のようなプロセスが考えられるだろう。

・EUの経済統合による一つの政府を創るに際して、ドイツの戦後に見習いEU委員会、EU理事会など関与する組織をEU市民にガラス張りに開き、EU官僚一人一人の責任が厳しく問える仕組みに刷新する(市民の投書で容易に調査がなされ、事実であれば費用なしに強制的に資料を提出させる行政裁判所などの仕組み)。
・EU関与者一人一人の責任が問われる中では、EUは産業利益よりも市民利益が優先され、現在とは反対に市民の要請で政治統合による一つの政府が誕生しよう。
・緊急に必要な政策としては、格差の肥大がギリシャ財政危機、さらにはスペインなどへ波及して行こうとしていることから、弱国化した国々の勢いを取り戻すためにも地域自治体のエネルギー自立を目標として、地域の雇用確保を通してEU共同債でエネルギー転換を推し進める(既にドイツでは風力発電太陽光発電は固定全量買取制度の助成なくして電力会社の電力コストより遙かに安くなっていることから、そのような投資はドイツ国民が心配するお金を捨てる投機ではなく、地域住民の電気料金で確実に回収される投資であることから、ドイツ国民も共同債での投資を了承する筈である)。
・ドイツではエネルギー転換が2050年にはほゞ達成できるとしているが、EU全体では少なくとも2070年代までの期間が必要であり、世界においては2100年頃までの達成期間が必要である。
そのように長期の期間が必要であることは、現在の世界を支配する企業を達成に向けて貢献させることも可能である。
何故ならこれらの企業は目先の利益追求しか眼中になく、100年先の地球温暖化の損失、さらには1000年先の放射線廃棄物が与える損失など全く眼中にないからである。
・すなわち地球の100%自然エネルギー自給は、太陽光発電パネルや風力発電機などの大量な生産が必要であり、インダストリー4.0の聡明な科学技術利用を通して世界の企業が協同することで、遅くとも2100年まで実現を達成できよう。

このようなプロセスは先ずガラス張りに開かれるEU統合、さらにはそれを見習う国連統合が必要であり、それが為されれば戦後ドイツが辿ったように紆余曲折はあるとしても、世界は日々希望ある未来に向かって輝きを増して行くだろう。
それこそがこの20回の連載を通して、「カントの理想を早急に実現しなくてはならない世界」の私の訴えである。

(注1)ヘルフリード・ミュンクラー教授は『20世紀の政治哲学』でも「フランクフルト学派の批判理論」を執筆しているが、マキャヴェり学者でもあり、前回紹介した『権力中心Macht in der Mitte』ではドイツのリーダーシップで厳格な規則と責任を持った統合を主張している。
私もフンボルト大学の数百人階段教室で講演を聞いたことがあることから、キンドル版で瞬時取り寄せて見たところ(全てを読んだわけではないが)、現実政治の理論者らしく、ヨーロッパはドイツが権力中心としその地政学と経済利益を守るEU統合を望んでいるとし、民主的プロセスなしにまず力によってでも統合されないといけないと主張している。
しかし同時に批判理論に基づく、EU組織の厳格な規則と責任を求めている。

*もうここ妙高はすっかり秋が訪れていますが、私のブログも一区切りついたことから、9月中旬まで夏休にしたいと思います。
その間戦後70年だからというわけではないですが、遙か40年昔数週間寝起きしたバングラディシュ孤児院を訪ねる予定です。


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