(249)カントの理想実現(7)戦争法案政府決定への危惧(平和省が希求する戦争)・打開策はあるのか?


5月14日ハンブルグ夕刊新聞より

ジョージオーエルの書いた『1984年』では、ファシズム国家オセアニアの三つのスローガンは、「戦争は平和である」、「自由は屈従である」、「無知は力である」からなっており、平和省は平和実現のために絶えず戦争を拡げ、豊富省は食料や物資を絶えず欠乏状態にして配給と統制を行い、真理省はプロパガンダに携わり、党の言う事を絶対的真理とするために歴史的事実も改ざんし、愛情省は反体制分子を尋問と拷問で、最終的に党を愛させるようにした後処刑を行っていた。 
まさに現在のアベノミクスの首相も、「原発汚染水はコントロールされている」に始まり、「10年後の国民所得は150万円以上増えます(大部分の大企業は円安による記録的好業績にもかかわらず、企業の99%を占める中小企業の経営は益々苦しくなり、実質賃金は下がり続けている。もっとも10年後は神のみぞ知ると言う人もおられるかもしれないが、アベノミクスの信奉する新自由主義では賃金と雇用の低下でボトム競争を追求していくことから、賃金を半分以下にするのが経営側の望みであり妥当な予測である)」や「労働者派遣法で正社員の道を開き、派遣労働者を守ります(派遣を無制限、無期限延長も可能にする)」でもわかるように絶えず逆を述べている。
極めつけは、歴代内閣が否定して来た集団自衛権憲法解釈の変更という不当なやり方で押し通し、積極的平和政策と自らレッテルを貼り吹聴している。
これまでの他国から攻撃された時のみ反撃できる個別自衛権に加えて、密接な関係にある友好国が攻撃された時も反撃可能な集団自衛権などの法案を、安全保障法案と逆のレッテルを貼ってご満悦である。
日本を直接攻撃していないアメリカ攻撃国からすれば、そのような反撃をする日本が憎むべき敵となり、戦争へ道を開くことは小学生でも理解できよう。
それゆえレフトからライトの小林よしのり氏まで多くの意ある人たちが、戦争に道を開く戦争法案と呼ぶのである。
それに対してレッテル張りだと怒っているが、その姿にこそファシズムの本質を感ぜずにはいられない。
そのような戦争に道を開く法案の政府決議は、徴兵制度を廃止し、大幅な軍事費削減に取組み、外相と首相が競うように積極的平和仲裁を実践しているドイツから見れば、日本が平和憲法を葬る以外の何者でもない。
5月15日のフランクフルターアルゲマイン新聞は「Japanische Armee soll künftig auch im Ausland kämpfen dürfen 日本軍隊は今後外国においても戦闘できるようになる」のタイトルで伝え、南ドイツ新聞オンラインでは「 "Gesetze für Frieden und Sicherheit" Tokio schleicht zu den Waffen安全保障法案で日本が戦争に忍び寄る」のタイトルで伝え、後段の見出しでは「Den Friedensparagrafen in der Verfassung möchte Premier Abe abschaffen安倍首相は平和憲法の第九条を廃止を望んだ」と強調している。
また上に写真を載せたハンブルク夕刊新聞は「Japans Regierung will Militär stärken日本政府は軍隊の強化を望む」のタイトルで、「Künftig soll Japan nicht mehr nur sich selbst verteidigen, sondern auch in Konflikten an der Seite von Verbündeten wie den USA kämpfen dürfen - selbst wenn Japan nicht direkt angegriffen wird.今後日本は自らを自衛するだけでなく、戦闘において日本は直接自らを攻撃されない場合も、アメリカのような同盟国側で戦うだろう」と伝えている。

政府は集団自衛権は新3要件「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」で厳しく歯止めがされているというが、政府の裁量で行使できることから(共同行動をとる友好国が攻撃される場合は、どのような場合も国民の明白な危険と言う事さえ可能である)、どのように安全保障法案とレッテルを貼ろうとも、戦争に向けて大きく舵を切る法案と言えよう。

例えば現在南シナ海では南シナ海諸国と中国との対立が激しくなってきており、中国は激しい抗議を無視して基地になり得る人工島建設を強行している。
先日のケリー会談ではアメリカは激しく非難したが、中国は全く聞く耳を持たなったことからも、将来軍事行動に発展する公算は低くない。
万一アメリカが威信をかけて実力行動にでれば、中国も引かないだろう。
引けば、グローバル化で不安定化してきた体制が崩壊しかねないからである。
最悪の場合アメリカの空母がミサイル攻撃され、日本が行動を伴にしていた場合、日本は集団自衛権でミサイル反撃しないわけには行かなくなるだろう。
その場合核の全面戦争に発展する公算は低いとしても(アメリカも中国も全面核戦争で相手国を消滅できたとしても、放射能は数年間に渡って地球を覆い、人類が絶滅しかねないからだ)、核の全面戦争を厭わないという威嚇を示すために、日本が核攻撃の見せしめにされる可能性は否定できない(既に述べたようにウクライナの戦闘では、プーチン大統領は首都キエフに向けて核配備したことを明言している。万一見せしめの核攻撃がされても、一旦起きてしまえば期待するアメリカも最早手立てはなく、地図から消えた日本が有利な交渉手段に使われることにもなりかねない)。
すなわち日本は世界が称賛してきた平和憲法を葬ることで、戦争に道を開くだけでなく、核攻撃の見せしめとなる可能性や、日本が中近東に原発を輸出するようになれば、無防備な原発施設が過激派によって近海から持ち運び可能なロケット砲でテロ攻撃される可能性も否定できない。
さらに海外で働く人や日本人観光客が標的とされる危険性が、集団自衛権行使後は一段と高まるだろう。
また後藤さんのような世界の平和と貧困を訴え続けたジャーナリストの命さえ奪われることから見ても、NPOやNGOの人道支援さえ標的になりかねない。

打開策はあるのか?
現在のような国会で圧倒多数の議員が戦争法案を支持するなかでは、それを打開することは不可能に近い。
しかし安全保障法案は明らかに戦争に道を開くものであり、国民が平和憲法の葬られることの損失の大きさを知り、近い将来徴兵制の復活も空事でないことを知れば、世論が大きく動き、再び解散で問うこともあり得よう。
しかしながら圧倒的多数の国民が戦争法案に反対であるとしても、前回のように国民の過半数原発再稼働反対、10%への消費税再値上げ反対、TPP反対であっても自民党が大勝利するように、戦争法案に反対する野党が連合しなければ、現在のような小選挙区制の選挙では、同じことを繰り返すだけだろう。
連合し難い理由は、民主党政権で明かになったように、労働政権の多くの議員は現在の新自由主義を推し進める大企業支配の(化石燃料)産業社会に従属しているからである。
それゆえに産業側の求める消費税増税法人税減税などの競争力強化を拒否できず、国民との公約を破棄したと言えよう(ドイツの社会民主党SPDを見ればより明白であり、シュレーダー政権での新自由主義への政策移行を反省した2007年のハンブルク党大会決議は、翌年にはベック党首が引きずり降ろされ、葬られたと言っても過言ではない)。
しかしながら化石燃料エネルギーの産業から再生可能エネルギーの産業社会へエネルーギ転換が進むドイツでは既に書いたように右の政権与党キリスト教民主同盟と左のリンケ(左翼党)の2050の描く未来は一致さえしている。
すなわち分散型の再生可能エネルギーが地域で完全自給される社会では、それ以後の社会では無尽蔵に溢れだすことから(具体的には次回以降のブログで書いていく予定)、自ずと地域の人々の平等と自由が実現される。
そのような社会は、マルクスの理想した社会、所有欲だけでなく、競争心や敵対心もなく、暴力や紛争のない平等社会の実現でもある。
化石燃料エネルギーの産業社会では、富が制限されていることからマルクスの理想した平等を実現しようとすれば、富みを強制的に力で分配することから強力な中央集権国家を必要とし、そこから必然的に官僚たち(ノーメンクラトゥーラ)の独裁体制が生まれ、それを維持するために、シュタージやKGBなどの秘密警察の厳しい監視がなされた。
しかし再生可能エネルギーエネルギーで完全自給される地域自治からなる世界では、富の力による分配の必要もなく、マルクスの理想した平等社会が自ずと実現し、同時にカントの理想した永遠平和も実現されよう。

そのような視点から見れば、日本の将来を化石燃料エネルギーの産業社会維持で新自由主義を推し進めるのか、再生可能エネルギーの産業社会への転換で新自由主義を克服するのかという大局的視点に立って、戦争法案を二分して問わなくてはならないだろう。

そのためには例えば、社会主義を源とする共産党社民主義を源とする社民党が、社会共産党として合併するくらいの斬新な勇断が必要である。
そこでは、現在勢いがある共産党が国民に全面的に開かれ党であることを国民に示すためにも、例えば福島瑞穂を党首とするくらいの度量の大きさが必要とされよう。
そうすれば社会共産党女性党首が日本の首相となることも夢ではなく、沖縄基地問題が決着するだけでなく、近い将来メルケルクリントン、瑞穂といった女性たちの首脳国首相会議で、カントの永遠平和に向かって大きく動き出すことも期待できよう。


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