(323)時代の終わりに(7)パラダイム転換(2)私のもう一つ別な転換・沖縄から創る世界平和(2)・誇りの復権

パラダイム転換(2)私のもう一つ別な転換

日本の内発的発展論の先駆者である鶴見和子は、途上国の貧困を生み出す西欧の近代的発展を批判して、自然環境と調和したエコロジーで自立的な地域主義に基づく、もう一つ別な発展として独自の内的発展論を希求した。
すなわち民衆の貧しさと苦しみをなくすことを目標とした柳田国男の社会変動のパラダイム転換に立ち、南方熊楠曼荼羅思想を通して矛盾対立を共生へと導くことで、平和的普遍化を目指した。
また石牟礼道子の手ほどきで水俣に学び、人類が生き延びるためには(終末戦争や気候変動の環境破壊を危惧して)、人だけでなく鳥や草木に至る大いなる生命体を包摂するアミニズムによる共生を訴えている(注1)。
そのような視点で私自身についても語れば、都会生活から妙高で農的暮らしを選択し、遭遇したゴルフ場開発に反対して地域ボスなどからの叱責や攻撃を体験したことから、鶴見和子の内的発展論にたどり着く以前にもう一つ別な発展選択がなされなくてはならないことを痛感した。
その痛感から私の場合、戦後もう一つ別な(自然環境と調和したエコロジーで自立的な地域主義に基づく)発展を遂げて来たドイツに学ぶことを始めた。
そしてそのドイツ探索で、2001年に知り合ったのが動画のスラーデック御夫妻だった。
当時ご主人のミハエル・スラーデック(放射線医学専門の町医者)は市民電力会社を創設したことから、「電力の反逆者」として既にドイツ中に知れ渡っていた。
そして市民電力会社を運営したのが奥さんのウズラ・スラーデックであり、電力契約の90年の第一回住民投票から97年に自ら市民電力会社設立までの経緯で、電力企業や地域ボスから攻撃を受けたウズラさんのシェーナウ訪問の際の話は、私にとって共感せずにはいられなかった。
さらに驚いたことに、スラーデック御夫妻はチェルノブイリを契機として地域に脱原発運動を起こし、地域を変えて行き、ドイツの脱原発を成し遂げるだけでなく、“核のない世界”という大きな目標を掲げ、世界を変えようと希求していることだった。
そのような希求から、スラーデック御夫妻は巻町の原発住民投票にも関心が強く、翌年2002年の7月に原発推進国日本に脱原発を求め、巻町とシェーナウの姉妹都市設立親書を持って来日した。
しかし当時の日本は原発推進一辺倒で、地元巻町を抱える新潟日報以外は朝日、毎日、東京新聞さえも全く無視し、一部の人を除いて殆ど知られなかった。
また来日の目的の一つであった巻町との姉妹都市構想は、巻町の笹口町長の「町が長年賛成派、反対派で分断されてきたことから、これ以上原発推進派を刺激したくない」という理由で丁重に断られた。
それでもスラーデック御夫妻はめげることなしに、東京から広島まで3週間休みなく“核のない世界”をテーマとする講演を全力でやり遂げ、その殆どを同行した私は唯々頭が下がる思いだった(注3)。
その後私は母の介護から妙高から出られなくなり、2007年母を看取った後ドイツに渡ったが、ミハエル・スラーデックは自動車事故による重症で面会もできず、再会の機会を失いそのままになっていた。
もっとも奥さんのウズラ・スラーデックは、その後も市民電力会社EWSの代表として活躍され、私がベルリンで学んでいた際もZDF円卓討論などに出演して、原発可動期間延長を厳しく批判していた。
そしてミハエルが最近復帰したのを知り、再び世界に向けて「ドイツのエネルギー転換を成功させ、世界を変えよう」と上の動画に見るようにメッセージを発進されていることを見て、私自身も大いに勇気づけられている。 
それは私がいかに老いぼれ、たとえ日本、そして世界が終末戦争に向かっているとしても、沖縄からの平和創造、そしてエネルギー転換に少しでも尽力しなくてはならないと思うに至らせている。

沖縄から創る世界平和(2)・誇りの復権

6月3日ETV特集で放映された上の動画『沖縄を叫ぶ』(注4)は、「私にとって芸術とは何かと言えば、人間がここそれぞれの持っている怒りだ」という彫刻家金城実の叫びで始まり、彼は「虐げられた人たちの役にたちたい」と訴える。
金城実は1970のゴザ事件を契機に自らの沖縄の誇りを取り戻し、「瀕死の子を抱く女」「拷問」などの作品を制作し続け、歴史を問い続けている。
そしてラストでは、
「悲しみをのり越える方法のひとつに肝苦りさ(他者の苦しみに自分の内蔵がかき回されるような痛みを覚えること)をくぐってきた者のみが感じ得た“笑い”というものがある。
わが念仏。わが沖縄。
人類普遍の文化である“笑い”をたぐっていくと、屈辱の日々をなめつくし肝苦りさをかいくぐってきた者たちが、限りなくにんげんの人間の優しさというやつに近づこうとしてはじかれていく。
くるりと向きを変えた“笑い”が毒気をおびて逆転を狙う。
まさにそのときである。にんげんに誇りが見えてくる」と、彼の心の叫びを吐露する。

そのようなにんげんとしての誇りを私たちも復権させるとき、多数決の暴挙で成立させた集団自衛権から共謀罪に至る戦争法案を葬るだけでなく、沖縄から世界平和を創り出していくことは可能だ。

(注1)動画『鶴見和子 <内発的発展>と<回生>とは何か 』で自ら語られている。
https://www.youtube.com/watch?v=LxL3yGebePI&t=5794s

(注2)私のゴルフ場開発運動やドイツに学ぶアルタナティーフな(もう一つ別な)選択を記した『アルタナティーフな選択』(越書房2000年)参照。

(注3)私が同行したスラーデック御夫妻の日本での講演やエピソードについては、『市民利益追求』(越書房2003年)参照。

(注4)ETV特集『沖縄を叫ぶ〜彫刻家金城実〜』の完全版は下のアドレスで見られる。
http://www.dailymotion.com/video/x5p32vy