(248)カントの理想を早急に実現しなくてはならない世界(6)・家庭での電力完全自給が永遠平和を実現する(2)・巨大企業支配は続くのか?


[https://www.youtube.com/watch?v=apOIxJlrDYE&feature=youtu.be:title=動画『4大電力のプロシューマ戦略』]
(2)ドイツ4大電力企業の生残りを賭けたプロシューマ戦略

上のSENEC宣伝動画に見るように、4大電力企業は子会社TENNET(E.on)、Ampriоn(RWE)、50hertz(ヴァンテンホール)、TransnetBW(EnBW)を通してドイツの電力網支配を利用して、再生可能エネルギーへのエネルギー転換においても生き延びようとしている。
すなわち太陽光パネル設置で自ら電力を製造(プロデュース)する消費者(コンシューマー)であるプロシューマへのサービス事業で生残りをかけている。
具体的には経済グリッド(スマートグリットと蓄電池を備えた装置)を家庭に配備し、電力効率と安定を追求することでプロシューマに貢献し、冬期の過剰電力の際無料提供を呼びかけている。
昨年末のヨーロッパ最大のドイツ電力企業E.оnの企業戦略でも、従来の化石燃料エネルギー維持の戦略を180度転換してプロシューマへの奉仕を掲げているが、実際はしたたかである。
EU委員会のロビー支配によって、2030年までのEUエネルギー政策で石炭火力発電維持及び東欧での原発新設を含む化石燃料エネルギー支配継続を決議させ、その間エネルギー転換の進むドイツで、ポスト化石燃料時代に備えるしたたかさが感じられる。
実際EU委員会を通して昨年2014年6月ドイツで無理やり改悪された再生可能エネルギー法では、2015年からの太陽光発電の固定買取価格は 17 セントから 12 セントへと大幅に下げられただけなく、再生可能エネルギーによる発電所の新たな建設に際しては、太陽光発電2・5ギガワット、陸上風力発電2・5ギガワット、バイオ発電0・1ギガワット以下という量的枠組設定がなされ、それを超える場合は補償金が引き下げられることになり、実質的に新設しにくくした。
また、2017年から事業規模の風力発電太陽光発電、バイオ発電建設については公募入札が義務付けられた。
公募入札というと一見公正に思えるが、実際は巨大資本が安値でほとんど落札し、権利を奪う戦略が見えている。
そのため、これまでドイツのエネルギー転換を担い、900近くに急増している市民エネルギー協同組合を締め出し、多額を支援される洋上風力発電だけでなく、陸上風力発電や太陽発電パーク建設の全てを支配しようとしている。
そして家庭へ経済グリッドを提供し、過剰に製造される自らの再生可能エネルギーの制御電源として利用しようというしたたかな4大電力の戦略が見えてくる。
すなわち巨大資本は、量的枠組みを設定することで再生可能エネルギーの急速な進展にブレーキをかけ、公募入札を利用して再生可能エネルギーの将来的な支配を目論んでいると言えよう。
しかし前回紹介した電力会社に依存しない家庭で電力完全自給が普及する時代には、勝敗は明白に見えている。
何故なら洋上風力発電で莫大電力を製造し、巨大電力網を新設すれば莫大費用がかかり、電気料金は将来的にも下がらないからである(SENECの料金も、装置導入や10年ごとの蓄電池リサイクル費用などで、全体として電力料金はほとんど下がっていない)。
それに対して家庭での電力完全自給は、太陽光パネル、蓄電池システム、電解装置などの設備費が年々急速に安くなっていく事実から見ても、勝敗は明白である。
しかも4大電力企業が政府に圧力をかけ2012年再生可能エネルギー法を突然改悪し、大規模太陽光発電を買取支援から外した際は、再生可能エネルギー事業者は生き延びるために買取制度に依存しない、電力企業から購入する電力よりも破格に安い農場施設や工場施設の自家発電を発展させてきた。
今回も4大企業が政治を通してエネルギー転換にブレキーを踏み再生可能エネルギー事業建設を乗っ取ったとしても、それは火に油を注ぐように、逆にバネとしてドイツ全土で湧き上がる無数の分散型再生可能エネルギー事業者、そして市民を勢いづかせよう。
さらに次回に述べるように、ドイツの地域に目を馳せれば、多くの地域で既に分散型の地域電力完全自給が実現されていることからより明白である。
そのような地域分散型再生可能エネルギーの産業社会へ転換されて行けば、経済ベクトルが内心的働き充足されることから、人間の理性も呼び覚まされ永遠平和も自ずと実現しよう。
 
カントの理想(6)・世界市民法を志向した欧州憲法の挫折した理由
Dritter Definitivartikel zum ewigen Frieden.
„Das W e l t b ü r g e r r e ch t soll auf Bedingungen der allgemeinen H o s p i t a l i t ä t eingeschränkt sein."
永遠平和のための第三確定条項
世界市民法は普遍的友好の条件で制限されるべきである」
この条項の解説では、友好とは他国を訪れる権利であると言い切り、人間はお互いの共存が不可欠であることから、訪れる権利が認められることで平和関係が築かれ、やがてこの関係が公的で法的となって世界に拡がり、世界市民的な体制が期待できるとしている。
それゆえに将来的には、世界市民法が空想や誇張ではなく必然的なものであると述べている。

1991年のEUのマーストリヒト条約では、共通の経済体制を創り出すため完全な市場統合と、EU市民の平等と自由を創出するために国家を越えた理念ある政治統合が目標とされた。
理念ある政治統合では、ハーバーマスの主張するようにEUという公共園を形成し、EU市民の平等と自由を保証する欧州憲法が求められていたと言っても過言ではない。
そしてそのようなEU公共園は将来的に世界へと拡がって行き、カントの必然的なものとした世界市民法の実現さえ期待させるものであった。。
そのような理念は京都議定書の前年1996年のEUのCO2排出量削減の取り決めで、ドイツのような産業先進国は25%削減が義務付けられる一方で、逆に産業後進国ギリシャポルトガルは各々排出量30%増大、40%増大が容認されることに見られた。
すなわちCO2削減量の取り決めでも、EU市民が将来的に平等な豊かさを求める理念が垣間見られた。
しかし市場統合がまるで水を得た魚のように93年に実現すると、各国の利益追求で競争が激化されていき、2000年3月には競争原理を優先する「リスボン戦略」が欧州理事会によって採択されることで、カントの世界市民法の夢は潰えた。
すなわち2004年にEU加盟国25か国で署名された「欧州憲法」はリスボン戦略に沿うものであり、EU市民の平等と自由を保証する欧州憲法とはかけ離れたものであった。
それゆえ2005年のフランスとオランダのは発効の是非を問う国民投票では、予想以上の大差で否決され、さらに批判はEU市民に拡がっていったことから、国民投票が必要な「欧州憲法」は断念され、政府及び議会で採択できる現在の憲法となっている(2009年12月1日発効の欧州連合の法的根拠となる欧州連合基本条約とEU市民の基本的権利を定める欧州連合基本権憲章からなる)。

既に述べたようにカントの『永遠平和のために』では、法に従い自由と平等な共和体制の構築によって永遠平和が実現し、訪れる権利によって世界市民法が必然的に創出すると説かれている。
皮肉にもカント以降の近代社会では、ハーバーマス等(フランクフルト学派)が指摘するように、科学技術という人間に奉仕すべき手段が益々目的化し、人間の基盤となる理性を切り崩し、その結果ナチズムや無数の人間を殺戮した世界大戦を招いた。
ハーバーマスはそのような手段が目的化した状況を批判し、お互いの反省と了解を深めていくコミュニケーションを通して合意を形成することで、理性の復権に期待し、EUという公共園での市民の平等と自由を保証する欧州憲法を先頭に立って希求し続けた。
しかし現在の利益追求という手段が目的化された終焉間近の化石燃料産業社会では、利益追求の欲望が外へ外へと拡大して行くことから、たとえ世界市民の合意が形成されても、産業社会が拡大を通して政治を支配しているなかでは欧州憲法の挫折に見るように、カントの理想実現は限りなく不可能に近いと言えよう。
しかし分散型再生可能エネルギーの産業社会では、これまで欲望を外心的に加速させて来た産業ベクトルが地域へ内心的に働くことから、切り崩されていた人間の理性を復権させ、必然的にカントの希求した理想を実現しよう。


新刊のお知らせ
私が4年間ドイツで学んだこと、これまでブログ「ドイツから学ぼう」で書いてきたことを土台にして納得できる本が書けましたので、是非お読みください。

はじめに.doc 直
目次.doc 直

『ドイツから学ぶ希望ある未来』