(236)エネルギー転換の革命は始まっているのか・検証『エネルギー転換の時代に生きる』絵巻

エネルギー転換の革命は始まっているのか
映画『エネルギー転換の時代に生きる』で描かれているように、電力需要が高い昼間は太陽光発電風力発電で製造された電力が優先的に市場に大量に流入するため(再生可能エネルギー法EEGでは再生可能エネルギーの優先的電力網の接続を保証していることから)、市場価格が下がるだけでなく、巨大電力企業とって莫大な損益となっている。
何故なら調整が出来ない原発による電力は捨てることになり、最も安いとされて来た褐炭発電も臨機応変に調節ができないことから、さらには調節可能な天然ガス発電も初期投資が高い上にロシア事情などで採算が取れないことから、化石燃料エネルギーの電力を製造すればするほど損がでる時代になって来たからだ。
それこそが、革命の原動力である。

前回述べたように、2014年末ドイツだけでなくヨーロッパ最大の年間売上1300億ユーロ(約18兆円)にも及ぶE.on(エーオン)が経営的に行き詰まり、2016年の分社化で事実上化石燃料エネルギー事業から撤退し、再生可能エネルギー事業へ180度転換を選択したのである。他の4大電力企業のRWE(アール・ヴェ―・エー)、EnBW(エネルギー・バーデン・ビュルテンブルク)、Vttenfall(ヴァテンフォール)にしても経営悪化はE.onを上回り、分社化さえ決断していないが、既に企業戦略では再生可能エネルギー事業への集中を打ち出していたのである。
E.onの収益だけを見れば、2011年に22億ユーロ赤字を出した後は2012年22億ユーロ、2013年21億ユーロの黒字を出していることから危機的に見えないかもしれないが、2011年7万9000人であった従業員も、2012年7万2000人、2013年6万2000人と急激に減少していると同時に、損益を膨らましている海外の化石燃料発電所の売却も加速しているからだ。
事実2014年末のE.on報道では、スペインの石炭火力発電及び天然ガス火力発電をオーストラリアの銀行Macqarienに25億ユーロで売却し、イタリアの化石燃料事業もチェコのエネルギー企業EPHへ売却し、さらには北海の天然ガス採掘も見直しを伝えている。
最早どのように巨大資本が足掻こうと、時代の流れは変えれない。

以下に映画『エネルギー転換の時代に生きる』を絵巻をつくり載せますので、私だけが「エネルギー転換の革命が始まっている」と思うのか検証して欲しい。


映画『エネルギー転換の時代に生きる』絵巻

第1部 なぜエネルギー転換にブレーキがかけられるのか?

 映画のファーストシーンはオランダのアムステルダム港を映し出し、映画制作者のファランスキーが、地球を半周してオーストラリアからの安い石炭が運ばれて来て、ヨーロッパ中の発電所で燃やされている現状に疑問を呈することから始まります。

そしてファランスキーはベルリンを象徴するブランデンブルク門に立ち、化石燃料エネルギーから再生可能エネルギーへ移行させるドイツのエネルギー転換が政治やメディアから集中攻撃されていることを訴えます。

 
彼はエネルギー転換で電気料金が上がると言う脅しは実際は逆であり、嘘がつかれる理由は化石燃料エネルギー時代が終焉に向かっているからだと説明します。

彼はエネルギー転換が逆に電気料金を下げているということを実証するために、アメリカの投資コンサルタント企業の著名な経済アナリストのモルディツに聞きます。モルディツは資料で2012年に製造された再生可能エネルギーが50億ユーロも電気料金を下げている事実を示し、逆が吹聴される理由を既存の集中型化石燃料エネルギー産業と分散型エネルギー産業の戦いだと指摘します。

それ故本来電気料金は下げらべきであるにもかかわらず、大企業の国際競争力強化のためと称して再生可能エネルギー法の負担金が実際はその多くが必要もないのに免除され、その負担が市民にだけ転売されることから、電気料金が上がると説明します。そして本質的な原因は、ドイツのエネルギー消費量はこの8年で僅かに減っているにもかかわらず、エネルギー費用は3倍にも跳ね上がっている事実にあり、まさに化石燃料エネルギー時代の終焉を提示しています。

第二部 エネルギー転換へのブレーキのなかで

 エネルギー転換の急速な進展に対する産業界の強い圧力で、2012年6月突然再生可能エネルギー法の固定買取価格が大幅に下げられ、さらに10メガワットを超える太陽光発電が買取の対象からはずされることで、取り組んでいた企業は死活問題の危機に陥ります。例えば太陽光発電建設会社を経営しているヤン・ベッケは以下のように述べています。

またベルリンの太陽光発電導入会社のカールハインツ・レマートは、この間ビオガス発電や洋上風力発電より安くなり、間もなく9ヶ月もすれば陸上風力発電なみに安くなる段階での法律の改悪を憤慨して述べています。

買取価格が下がり、買取量も制限されたことで、ドイツ製の太陽光パネルの代わりに安いアジア製が売れるようになっていき、その結果最先端技術の多くのドイツ太陽光パネル製造企業が破綻や買収に追い込まれました。
しかしそのような逆境のなかでも、数年前まで技術で世界を圧巻していたにもかかわらず買収されたソロン社の経営責任者ステファン・ゾイバリッヒは、インタビューに答えて、「私たちはこれでよかったと思っています。(買収企業)マイクロソル社を非難するつもりは全くありません」むしろパートナーとの出会いを喜んでいます。私たちはこの関係が双方にとって利益になると思っています」と語り、さらに以下のように述べています

このように再生可能エネルギー企業家は倒産や買収にも負けず頑張り、市民も高い電気料金にもかかわらずエネルギー転換を支持しているなかで、益々マスメディアの広告記事などを通してエネルギー転換への圧力を強め、メルケル政権も同調していると、ファランスキーは環境大臣アルトマイヤーは問い正します。しかしアルトマイヤー環境大臣はそれを否定して、以下のように述べ要を得ません(注)。

したがってファランスキーは、なぜメルケル政権がエネルギー転換を望むにもかかわらず、再生可能エネルギー法を改悪する現在の状況を、エネルギー問題の専門家でもある緑の党連邦議員ヘルマン・モットーに聞きます。

そしてヘルマン・モットー議員は、化石燃料エネルギーはコストが益々高くなるのに対して、太陽光エネルギーは一旦設置されればコストは無料となることから、どのようなエネルギー転換への妨害も失敗すると明言しています。

第3部 金の卵を産む鶏を市民が育てるドイツ

 冒頭ではヘルマン・モットー議員の指摘を受けて、ファランスキーは再びアルトマイヤー環境大臣に「連邦政府はエネルギー転換を唱えつつ、具体的にはブレーキ―をかけ、脱原発の道のりを妨害している」と迫ります。しかし大臣は様々な問題あることを指摘し、予期された返答を繰り返しています。

しかしファランスキーはそのようなアルトマイヤー環境大臣の返答を予期していたかのように、この映画を観ている人に「最早これ以上政治に期待しても無理である」という流れをつくり、市民自らエネルギー転換を推し進めようとする気にさせて行きます。

そして彼は最初にシユトゥッガルト近郊に本社があるクラ―ニッヒソーラーを訪ね、若き社長クラ―ニッヒから、既に市民が自ら発電することがいかに有益であるかを引き出します。

すなわち4キロワットの太陽光パネル設置総費用が当時の円換算で80万円弱となり(総設置費用は日本の半分以下)、20年間使用で考えても年間の電気料金が4万円で済むことを意味しており、いかに自ら発電することが得なのか驚かされます(ドイツでは1キロワット・時が25セントが7,5セントになることを意味しています)。
 次にファランスキーが訪れたのは電力供給の民主化と呼ばれるクラウドエナジーであり、代表のマルティンミュラーを取材しています。

すなわちクラウドエナジーは、市民がネットにガラス張りに公表された様々な再生可能エネルギー事業に協同投資することでエネルギー転換に参加するしくみであり、将来は各々の参加者が事業で製造された電気で自給できるようにしたいと抱負を語っています。
 
 そして第3部の最後にファランスキーが訪れたのは、ブレーメンのバルコニー太陽光の開発で脚光を浴びるラウデライ社であり、技術者でもある市民企業家の社長ホルガ―・ラウデライが自ら太陽光パネルにインバータやリチーウム蓄電池などを一式組み込んだプラグイン太陽光パネルを開発し、2012年1月からエネルギ転換の市民運動として自らも販売にも取り組んでいます。
このプラグイン太陽光パネルの特筆すべきは、多くの集合住宅の市民もバルコニーに一人で設置でき(置いて固定するだけ)、コンセントに差し込むだけでエネルギー転換に参加出来ることですと豪快に語っています。

さらにホルガ―社長はバルコニープラグイン太陽光パネルはや安くてクリーンで全く問題なとファランスキーに説明し(注)、自ら実演して見せます。

(注)映画では具体的な値段を述べていないのでラウデライ社のホームページで調べて見ると、1平方メートルプラグイン太陽光パネル2枚製品(360ワット*下の写真)で1300ユーロと書いてあり、年間約350キロワット・時の電気を生み出し、凡そ105ユーロ電気料金が節約できると書いてありました。
太陽光パネルの平均寿命25年であることから、バルコニーに設置した市民は13年で設置費用を回収でき、借家住いの市民でも驚くほど有難いものだと思います(もっともリチーウム畜電池の寿命は10年ほどであることから、徐々に長時間の蓄電はできなくなるでしょうが、昼間に洗濯機や食器洗浄機を利用すれば、映像で見るように電力メータの回転は遅くなるから10年を過ぎても問題はないでしょう)。
日本ではこのようなプラグイン太陽光パネルは電力会社が規制をかけている性か、全く販売されておらず、ネット販売されている中国製の蓄電池組み込みパネルは30ワットでプラグも付いておらずキャンプ用と宣伝されており、全く実用的でないにもかかわらず5万円近くもしているのは驚きです。
しかもラウデライ社のホームページの先頭には、ドイツの市民エネルギー転換のために戦うと、電力会社に向けて戦いの狼煙をあげています。
一方日本は最早コスト、安全性、廃棄処理などあらゆる視点から不利益な原発を温存するため、かつてはドイツを凌いでいた太陽光技術や風力発電技術がコスト面で最早競争にならないことを自覚しなくてはならないでしょう。
すなわち日本は利権構造で甘い汁を吸うことで、イソップ童話が教えるように既に金の卵を産む鶏を殺していることに気が付かなくてはなりません。

第4部 固定買取制度に頼らない市民の戦い

第4部は今やドイツ全土にベランダ発電基を普及させているラウデライ社のホルガ―社長が、エネルギー転換にブレーキをかける巨大電力会社に宣戦布告するシーンから始まります。

もっとも宣戦布告をエスカレートして行くのではなく、ベランダ発電基を設置した市民の声にそれを求めています。
借家のベランダに発電基を設置した市民のオリバーさんは、プランターを移し設置するだけでよいと満足げに語り、電力メータも電気使用にもかかわらず殆ど回っていないことを見せてくれます。

また自らの家に設置して100%電気の自給自足を実現している主婦は、「太陽が輝いているのに利用しない手はありません」と語り、下のシーンのように満足気でした。

そしてファランスキーはラウデライ社の屋根に輝くソラーパネルを背景に、「エネルギー転換とは、自らの意思で社会を変える市民が達成するものに他なりません」と締めくくっています。
再びベルリンに戻ったファランスキーは20年以上も再生可能エネルギー事業を継続しているパラベル社を訪れます。パラベル社はメガソラーなどの建設を手掛けて来たことから苦戦をしいられましたが、社長ユルゲン・ヴィルには苦戦を克服した自信が漲っています。

小規模施設、例えば事業所や農場の屋根でエネルギー転換を進めて行けばよいのですと述べています。
パラベル社の現場責任者ホルガ―・ルレッスキーは、これらの施設が自ら電気を製造すれば電力会社から購入するよりも明らかに安いからであると強調し、以下のように電気の自給自足がエネルギー転換の原動力であると指摘します。

そして第4部の終わりでファランスキーは、ブランデンブルク州再生可能エネルギー200%を達成しているにもかかわらず、問題を抱えるマインブルグ市の市役所を訪れます。

市役所ではエネルギー担当主任のランゲさんから、以下のような問題が提示されます。

第五部 未来の技術は既に完成している

ファランスキーは、200%のエコ電気を地域で製造しているにもかかわらず地域で自給自足できない問題を受けて当事者たちと現場へ出かけます。

そしてここで製造されたエコ電気は、過剰であることから巨大な送電網で大部分がよその地域に送電され、送電網建設に莫大なお金がかかることから高い電気を買わされていると商工会のブルケシュミットさんは訴えます。

この地域はイケヤの家具とか海外進出の企業が多いにもかかわらず、他の地域へのエコ電気送電の巨大送電網建設のため、電気料金が南ドイツに比較しても2倍近く高いと彼は嘆きます。そして地域で製造された安いエコ電気が使用できなくては、死活問題になりかねないと訴えます。
ファランスキーは地域で電気の自給自足ができない理由として、電力会社の地域分散型法整備への妨害と、地域でつくられた電気が昼も夜も使えるようにする蓄電池システムが備わっていないことを指摘し、既に蓄電池技術を完成していると言われているユナイコス社を訪ねます。
ユナイコス社では社長のトリーベルさん自身が、出勤した社員はまず蓄電池を旅行カバンのように自分のデスクへ引いていくことを実演してくれます。

社内には電力会社のコンセントは一切なく、ビル全体が電気の自給自足を完結しています。そしてクレメンズ・トリーベル社長は、「蓄電池こそが自由をもたらしてくれる」と明言し、次のように話を切り出します。
26
そしてファランスキーを研究室に案内し、それを実現しているのがユナイコス社だと説明しています。

「蓄電池の研究の中心は電気自動車ですが、その副産物として家庭用蓄電池が研究され、絶えず安くなっています」と述べて、以下のように明言しています。


そして社長のトリーベルさんは、他日ファランスキーをユナイコス社の大規模蓄電池実験施設を案内します。

そしてトリーベルさんは調整電源について説明し、再生可能エネルギーの電力供給には電力の供給と需要のバランスを取るための調整電源が必要であり、現在は恐ろしく無駄の大きいジーゼル発電機の調整電源に依存していると述べます。そしてユナイコフス社が現在取り組んでいる人口5000人ポルトガルのグラチオザ島の例を紹介し、既に太陽光発電風力発電で電気量の自給自足が達成されているにもかかわらず、調整電源として3機のジーゼル発電機を必要とし、7割稼働で莫大なエネルギーのロスを生じていると指摘します。そしてそれを全面的に解決するのが、この巨大蓄電池だと説明します。そして誇らしくファランスキーに次のように言います。

そしてトリーベル社長はさらに誇らしくこの成功が、将来のドイツでの再生可能エネルギー100%での自給自足の技術完成であると胸を張ります。

最期にさらに50年後に再生可能エネルギー70%まで高めるEUの目標にふれ、グラシオザ島の成功が鍵であると自信ありげに述べています(注)

(注)このユナイコス社の2012年から始まった移転プロジェクトは2014年に成功し、現在のグラチオズ島では4,5メガワットの風力発電と1メガワットの太陽光発電で100%自給自足されており、調整電源はこの際の2,6メガワットの巨大蓄電池に他なりません(従来のジーゼル発電機はあくまでも予備用となっています)。

第6部(終)市民エネルギー転換による希望輝く時代へのシフト

 ラストでは巨大電力網建設の是非を明らかにするため、ファランスキーは再生可能エネルギー分野の世界的パイオニアと言われている技術企業ユ―ビー社の社長ミレンバッハをインタビューします。
当日はユ―ビー社からファランスキーは電気自動車で出迎えらますが、社長のヴィレンバッハはバス停で彼を待ち、最初に直接東の巨大電力線がそびえるウインドパークへ直行します。

そしてそこでヴィレンバッハ社長はファレンスキーの質問に対して、きっぱりと次のように述べます。
[

そこでヴィレンバッハ社長がこの分野の大企業社長であることから遠慮していましたが、ファランスキーが思い切って脱原発やエネルギー転換について聞くと、以下のように明言されています。



その後本社を訪問し、意気投合してファランスキーはヴィレンバッハ社長にエネルギー転換の自論を以下のように述べます。

それに対して相槌を打つだけでなく、思いもしない発言が飛び出ます。

そしてそれを打破するのがエネルギー転換であり、それを可能にするためにと、ヴィレンバッハは以下のようにと力説します。

そしてこの市民が自ら自給自足なエネルギーを創り出すという発言を掘り下げるために、市民エネルギー転換を打ち出しているハレアカラ財団のパウル・グルーノ博士を訪ねます。

それをファランスキーが具体的に聞くと、以下の返答が帰って来ました。

そしてファランスキーはエネルギー転換を追求する映画を撮り終えて、以下のように締め括ります。