(237)ドイツの利権構造とプロパガンダ(1)


このフィルムで見るようにドイツの利権構造は一時的に復活した

フォーカス誌(2015年9号)が、「世界エネルギー評議会は、ドイツのエネルギー転換がヨーロッパの電力安全確保を脅かす、と警告する」という挑発的記事を書き、2月20日フォーカス・オンラインでドイツだけでなく世界に発信した(注1下に翻訳)。
今回の連載では、この挑発的記事に、何故ドイツ社会が原発ロビーのプロパガンダと断定するかを述べたい(注2)。

まずはその前に、ドイツの利権構造から始めることにする。
ドイツの利権構造はナチス政権誕生の背景に大きな利権構造があったと言われるように、現在の日本同様の利権構造が張り巡らされていた。
しかし戦後ナチズムの反省から、明治に日本が学んだ官僚制を革命的に変え、裁量権を下位の担当官僚にまで委譲し、責任を徹底させる制度に転換することで、利権構造はドイツから消えた。
何故なら責任を徹底させるために、訟費用なしに市民の殴り書きが審査され、殴り書きが事実であれば行政裁判が開かれ、行政は全ての義務付けられた記録を証拠書類として提出しなければならないからだ。
それはまさに、産業に奉仕する官僚制度から国民に奉仕する官僚制度への転換であった。
したがってドイツの戦後は、非人間的ベルトコンベヤーのフォード式大量生産を導入せず(そのためにカメラ産業壊滅)、“万人の幸せ”が追求されてきた。
しかし1990年の東西ドイツ統合を契機に、米国のコンサルタント企業マッキンゼイ(McKinsey ) 、経営診断企業プリンスウォーター・ハウス・クーパー(Princewater house Coopers) 、そして法律事務所ホワイト・アンド・ケース(White & Case )など、多くの弁護士を抱えた専門企業が東ドイツDDRの莫大な資産を求めてなだれ込んで来た。
Schwarzbuch Deutschland 2009, 377f---3  これらの企業の弁護士たちは、企業戦略に基づき合法的に信託公社の役人や政治家を買収し、ドイツの法律さえも変え、旧東ドイツのあらゆる資産をただ同然で略奪して行った(東ドイツの4万企業は労働解雇なしの条件で2560億マルクの助成金を付けさせて)。
Bundesanstalt für vereinigungsbedingte Sonderaufgaben: Abschlussstatistik der Treuhandanstalt per 31. 12. 1994, Berlin 1995---5 これまで昼食接待さえ厳禁されていたドイツが、、国民の知らないところで汚職の扉がこじ開けられ、1994年の刑法108e条項の連邦議会改正で、大半の政治汚職が合法化されて行った(議決に対する便宜のみが有罪)。
Schwarzbuch Deutschland 2009, 371f---7 そのようにドイツが新自由主義の洗礼を受けるなかで、1998年ドイツの電力自由化が始まったのである。
これまでの一地域に一つの電力供給会社契約という法的規制が取り払われると、800社ほどの既存電力会社に新たに100社の新規事業者が参入し、値下げ競争の激化によって電気料金が当初30パーセントまで下がった。
しかし、既存の電力会社の電力網の法外な使用料金が容認されたことで、新規事業者が2003年までに壊滅すると、ドイツの電力業界は寡占と独占が進んだ。
電力市場が独占支配されるようになると、上のZDFフィルム(『大いなるこけおどし……原発政策の間違い』の一部)で見るように、4大電力企業は市場価格を意のまま操作し、2倍以上値上げした。(この頃の4大電力企業の利益は膨大であり、例えば2009年のE.on利益は138億ユーロであり、約2兆円である)。
さらに4大電力企業は、フィルムの「影の計画」で見るように州政府を政治献金を通して支配し、期限の切れた原発を延長するだけでなく、2000年の脱原発協定を事実上無効にする原発運転期間28年延長を目論んだのである。

(注1)
http://www.focus.de/magazin/kurzfassungen/focus-09-2015-weltenergierat-warnt-deutsche-energiewende-gefaehrdet-stromversorgungssicherheit-europas-experte-kein-exportschlager_id_4489355.html

FOCUS 09/2015
Weltenergierat warnt: Deutsche Energiewende gefährdet Stromversorgungssicherheit Europas / Experte: „Kein Exportschlager“
世界エネルギー評議会は、ドイツのエネルギー転換がヨーロッパの電力安全確保を脅かす、と警告する。専門家によれば、決してエネルギー転換は世界的な輸出ブランドではない
Freitag, 20.02.2015, 06:52

München. Internationale Experten hegen große Zweifel am Erfolg der deutschen Energiewende. Zu diesem Ergebnis kommt eine Umfrage des Weltenergierats aus der das Nachrichtenmagazin FOCUS exklusiv berichtet. Drei Viertel der Befragten sehen in der Energiewende eine Gefahr für die Versorgungssicherheit mit Strom in Europa. Zwei Drittel gehen davon aus, dass die Energiewende die deutsche Wirtschaftskraft kurz- und mittelfristig schwächt. Nur drei Prozent glauben, dass Deutschland den Umstieg auf erneuerbare Energien im vorgesehenen Zeitraum schafft.
ミュンヘン発(*)国際的専門家はドイツのエネルギー転換成功に大きな懐疑を抱いている。ニュースマガジンFOCUSが独占的に伝える世界エネルギー評議会のアンケート調査は、エネルギー転換の成果に否定的である。回答者の4分の3はヨーロッパの電力安全供給確保に危険であると見ている。3分の2は、エネルギー転換がドイツ経済を短期、中期に弱体化させると結論している。僅か3パーセントが予定期間内に再生可能エネルギーへの乗換を達成すると考えている。
Der Weltenergierat ist ein internationaler Verband der Energiewirtschaft. Er befragt alle zwei Jahre die Mitglieder seiner Länderkomitees. An der aktuellen Umfrage nahmen Fachleute aus 35 Ländern teil, darunter 20 aus Europa.
Nur ein Drittel von ihnen ist der Meinung, dass die deutsche Energiewende weltweit als Blaupause dienen könnte. Vier von fünf Befragten bezweifeln sogar, dass ihr Land die technischen und wirtschaftlichen Voraussetzungen für eine Energiewende nach deutschem Vorbild mitbrächte.
世界エネルギー評議会はエネルギー経済の国際連盟であり、各国委員会の会員に全てこの2年間に質問している。時局にかなったアンケート調査に35か国(そのうち20か国はヨーロッパ)からの専門家が応じた。彼らの3分の1だけが、ドイツのエネルギー転換は世界の青写真として貢献するだろうという意見である。しかしながら5分の4の回答者は、回答者の国がドイツ模範に向けてエネルギー転換の技術的、経済的前提条件を備えることに懐疑的であった。
„Die Energiewende ist noch immer kein Exportschlager“, sagte der Präsident des deutschen Länderkomitees des Weltenergierates, Uwe Franke, dem FOCUS. Vor allem die Furcht vor einer deutlichen Verschlechterung der Versorgungssicherheit sei beunruhigend. „Die Ängste unserer Nachbarn sollten wir sehr ernst nehmen“, fordert Franke. „Unsere wichtigsten Aufgaben sind jetzt, Vertrauen zu bilden und durch engere Abstimmung mit unseren Partnerländern Probleme zu vermeiden, aber auch die richtigen Rahmenbedingungen für Investitionen zu setzen. Denn die Versorgungssicherheit für Strom hängt vor allem auch von der Qualität der technischen Infrastruktur ab.“
「エネルギー転換はまだ決して世界的輸出ブランドではない」と、世界エネルギー評議会のドイツ委員会代表のウベ・フランクはフォーカス誌に述べた。とりわけ電力安全供給確保のドイツの悪化の恐れは不穏なものになるだろう。フランク代表は「私たちドイツは、隣国の心配を真摯に受け止めるべきだ」と要請し、「私たちの最も重要な現在の課題は、パートナーの国々と信頼を築き、親密な合意によって問題を避け、投資の大枠条件を設定することである。何故なら電力の安全供給確保はとりわけ技術的インフラの質に関与しているからである」と述べた。

(注2)ドイツ政府の公的資金で運営される学術機関マックス・プランク研究所と共同編纂する未来エージェント誌Solarfyが、このような問題のある記事に即座に見解を出すからであり、今回の記事をプロパガンダと見なしている(次回掲載)。まさにこのような監視システムを持つドイツは、基本法の“戦う民主主義”が国家機関にも組み込まれていると言えよう。