(235)ドイツメディアから考える今35・『エネルギー転換の時代に生きる6−6(99%の希望ある未来)』・私たちは岐路に立っている

この映画の最終回では巨大電力網建設の是非を明らかにするため、ファランスキーは再生可能エネルギー分野の世界的パイオニアと言われている技術企業ユ―ビー社の社長ミレンバッハをインタビューします。
「ユ―ビー社はこの分野で世界の最先端企業であり、ヴィレンバッハ社長は再生可能エネルギの急速な進展での様々な問題を解決されて来られました」と紹介し、ヴィレンバッハ社長はユ―ビー社の建設したウインドパークを背景に電力網が不要なことを以下のように強調する。
「電線網の拡充建設をドイツ全土に拡げて行く必要は全くありません。それはエネルギー転換を妨げる以外の何者でもありません。電線網建設に10年、15年もかかるでしょう。しかし風力発電太陽光発電建設の許可にそのように長く待てないことは明らかです。私たちは脱原発とエネルギー転換を望んでおり、まさに今やらなくてはなりません」と、気持ちのよいほどはっきりと明言している。
さらにファランスキーの「私の考えでは、エネルギー転換はお金の問題と言うより、資源と文化の問題だと思います。それは人類が重要な資源をみんなで自ら手に入れることができる文化であり、エネルギー転換にはそうした引き付ける魅力があるのではないでしょうか?」という質問に、ヴィレンバッハ社長から以下のような驚くべき返答がなされる。
「まさに総じて、エネルギー転換はそうです。これまで私たちは、コンセントに差し込むことで、ガソリンスタンドに行くことで従属させられて来ました。そしてこれらの巨大エネルギー企業は独占や寡占で暴利を貪って来ました。それだけでなくこれらの巨大エネルギー企業は、独占と寡占で世界のトップテンテン企業なのです。それを打ち破るためには、私たちが再生可能エネルギーを小規模なやり方で利用することで可能です。・・・それは市民が自ら自給自足なエネルギーを創り出すことであり、それこそが最も重要な鍵です」
すなわち彼の主張は、エネルギー転換とは巨大資本の化石燃料エネルギーの支配社会から地域分散型市民資本の自然エネルギー市民社会であり、現代に生きる困窮する99パーセント人たちとって希望ある未来である。
ヴィレンバッハ社長は、世界に支社を持つ従業員1800人の再生可能エネルギー建設技術企業の社長であり、このような過激な発言は日本の企業家には信じられないかもしれない。
しかしベランダ発電基のホルガ―社長が4大巨大電力企業を倒すと宣戦布告するように、政府が考えているような穏やかな転換は有り得ず、巨大資本が生き残るか、市民資本による希望ある社会が到来するか、旧い時代と新しい時代の激突なのである。

ヴィレンバッハはこの映画放映の翌年2013年6月、『メルケル首相への私の失礼な申出・・エネルギー転換を失敗させてはならない!』(『Mein unmoralisches Angebot an die Kanzlerin: denn die Energiewende darf nicht scheitern!』)を執筆し、メルケル首相が福島原発事故脱原発を選択したにもかかわらず、2012年6月に固定買取価格を大幅に下げるだけでなく10メガ―以上のソラーパークを再生可能エネルギー法EEGの対象から外し急激なブレーキを踏んだことを批判し、これまでの支援政策に戻るなら2020年までに100%再生可能エネルギーに転換できると明言している。
そしてメルケル首相が支援政策に戻るなら、自分の築いたユ―ビー社の持分資産を、失礼ながら全部差し上げると書き、エネルギー転換にブレーキを踏む政府に一石を投じた。

もちろんこのようなヴィレンバッハの正面からの宣戦布告に対して巨大資本が黙って見ている筈はなく、ユ―ビー社の株式はマンハイムエネルギーMVV社に50、1%を買い占められ、2015年1月突然代表の交代がホームページで公表された。
http://www.juwi.de/startseite.html
 MVV社はの後ろ盾はドイツの4大電力企業EnBW(エネルギー・バーデン・ビュルテンブルク)であり、EnBWはフランスの原発独占電力会社EDFの資本が入っており、巨大資本の生き残りを賭けた逆襲と言っても過言ではない。
既にEnBWは2014年3月「戦略計画2020」で、本体を再生可能エネルギー事業、その電力網と顧客サービスへ集中し、明確な優先権確立とポートフォリオ評価の転換で実現すると公表しており、ユ―ビー社の買占支配もその攻撃の一環といえよう(日本では昨年末、「ドイツ最大の巨大電力企業エーオンE.onが原発化石燃料エネルギーから全面撤退し、再生可能エネルギー事業へ大転換する」報道が関係者を驚愕させたが、このブログに載せたZDFフィルムで見るように既に織り込み済みであった)。
すなはちドイツの巨大資本は、シーメンス同様に脱原発宣言以後本質的には旧い化石燃料エネルギーを見限っており、生き残りの戦略とは新しい自然エネルギー支配なのである。
もちろんヴィレンバッハにとってこのような巨大資本の攻撃は予想していたことであり、彼の個人的リベンジだけでなく、ドイツで巨大資本と市民資本がどのような戦いを繰り広げるのか目が離せない。

私たちも岐路に立っている
後藤さんが殺害された翌日2月1日のドイツZDFは、「人質の斬首映像が日本人を驚愕させる」というタイトルで伝え、後藤さんの死を悼む人々が「敵をつくらない外交が日本を守る」というプラカードを掲げていた。


http://www.heute.de/is-verbreitet-video-von-enthauptung-japanischer-geisel-goto-japan-im-schockzustand-36987408.html

そして相も変わらず安倍首相の強硬姿勢が映し出されると同時に、安倍首相のカイロ及びパレスチナでの発言責任を求めて、政府庁舎へデモする市民を映し出していた。
ドイツでは60年代からの700万人にも上るガストアルバイター(主にトルコ人)がドイツに住着き、ドイツ人との結婚などを経て、ドイツ人の1500万人を超える人たちがトルコ人などと血のつながりを持っており、絶えず慎重な配慮がなされ、ナチズムの反省からも敵をつくらない平和外交、そして敵をつくらない経済活動が求められて来た。
したがってドイツでは世界の原発ロビーがプロパガンダする原発ルネッサンスにも以前から覚めており、それ故世界最大の原子炉メーカーであったシーメンスも国からの支援が期待できなくなると、成立していた契約さえも莫大な違約金を支払って完全撤退したのであった。

確かに現在のイスラム国は卑劣なやり方から見てもテロ独裁国家であり、崩壊は時間の問題であろう(しかしその前に、アルカイダでさえ変更した原発テロを公算しなくてはならないだろう。本来であれば、世界の破滅を招きかねないこのようなテロ独裁国家を誕生させる下地を与えてはならないのだ)。
但しイスラム国が崩壊し、たとえシリアの問題が解決したとしても、貧困の問題に加えて、アメリカの後ろ盾のイスラエル容認側とパレスチナと連帯する側との溝は深く、絶えずロケット砲による原発テロの想定が不可欠であり、これほど危険な地域はない。
そのような危険な地域に、アメリカのお墨付きを信じて原発や武器輸出で日本の命運をかけるとすれば、日本も破滅へ突き進む原子力国家さらには独裁国家ともなりかねない。

そのような視点で、私たちも化石燃料エネルギーの巨大資本が求める集団自衛権で戦争への道を再びたどるか、エネルギー転換によって自然エネルギーの市民資本が創る新しい時代の恒久平和を掴むか、岐路に立っている。