(232)ドイツメディアから考える今32・『エネルギー転換の時代に生きる6−3』・ドイツの市民企業家たち(日本は金の卵を産む鶏を殺している)


ドイツの市民エネルギー転換のために戦うと、電力会社に向けて戦いの狼煙あげるラウデライ社の社長ホルガ―・ラウデライ

『エネルギー転換の時代に生きる6−3』・湧き上がる頼もしい市民企業家たち
第3回の冒頭では監督兼制作者でもあり、この映画の主役でもあるレポーターのファランスキーが、これまでのストリーの流れを受けて政府のエネルギー転換にブレキーをかける再生可能エネルギー法改悪をアルトマイヤー連邦環境大臣に批判的に質問するとこから始まる。
この環境大臣は話す姿勢からも生真面目さが感じられ、必死にメルケル首相を弁護している。
すなわち産業界の圧力が強いことからはっきり言葉に出して言わないが、産業界の激しい抵抗に逆らってエネルギー転換を推し進めれば必ずや潰されることから、成功させるために肉を切らして骨を切る思いで必死に努力していることを訴えているのである。
確かに2011年福島原発事故後にメルケル脱原発宣言をした際、明らかにキリスト教民主同盟の与党議員たちの半数以上は以前として脱原発といった選択肢はなく、脱原発を求める議員は少数派であったからだ。
アルトマイヤー議員はその少数派であり、メルケルのエネルギー転換を成功させるために自分が環境大臣になった思いを、思わず口に出している。
そうした真摯な思いがあるからこそこの映画の出演を受けたのであろうが、ファランスキーは一枚も二枚も役者が上であり、自宅でのエネルギー転換を不用意にも話したことで、不本意にもこの映画では道化役に祭り上げられている。
最も時の環境大臣が道化役を演じることで、この映画は爆発的にヒットし続け、新たなバージョンも続々と製作され、2015年1月には小学生でもわかる子供版が放映されるほどドイツのエネルギー転換の真相を伝えることに成功している。
しかもこの映画のファランスキーの台詞からもわかるように、アルトマイヤー環境大臣の回答をシタタカにも予想しており、この大臣の回答を受けて最早これ以上政治に期待しても無理であるという流れをつくり、市民自らエネルギー転換を推し進めようとする気にさせていくのである。
そのための演出として、今回から続々とドイツのエネルギー転換を推し進める頼もしい企業家たちが登場し、自らの企業躍進を語ると同時に、希望あるドイツの未来が語られる。
最初はシユトゥッガルト近郊に本社があるクラ―ニッヒソーラー(中小企業であるが世界に15の支社があり日本にもある)の社長クラ―ニッヒ自ら説明し、ファラスキーの費用質問に対して、「4人家族を例に説明しましょう。ドイツでは4人家族の1年間の電力総費用は約4000キロワット・時で、年間1000キロワット・時は1キロワットの太陽光パネルで賄え、約1500ユーロです。すなわち4キロワットだと6000ユーロくらいです。これで一家の電気は全て賄えます」と答えており、「太陽光パネルの値段が6000ユーロということですね」という質問に対して、「いいえ違います。屋根に設置する太陽光パネル、パネル配線、送電線接続工事など全てを含んだ値段です」と明言している。
すなわち2012年当時のユーロを円に換算すれば4キロワットの設置総費用が80万円弱であり、当時の日本では1キロワット設置総費用が40万ほどであったことから、日本はドイツに比べて2倍以上高いのである(それこそがクラ―ニッヒソーラーが日本に支社を進出する理由)。
そして今回最後に登場するのは、ブレーメンのバルコニー太陽光の開発で脚光を浴びていたラウデライ社の市民企業家社長ホルガ―・ラウデライであり、技術者である彼自身が太陽光パネルにインバータやリチーウム蓄電池などを一式組み込んだプラグイン太陽光パネルを開発し、2012年1月から販売している。
このプラグイン太陽光パネルの特筆すべきは、多くの集合住宅の市民もバルコニー自ら一人で設置でき(置いて固定するだけ)、コンセントに差し込むだけでエネルギー転換に参加出来ることである。
今回の映画では市民が参加すると得をすると述べているが、具体的な値段を述べていないのでラウデライ社のホームページで調べて見ると、1平方メートルプラグイン太陽光パネル2枚製品(360ワット*下の写真)で1300ユーロと書いてあり、年間約350キロワット・時の電気を生み出し、凡そ105ユーロ電気料金が節約できると書いてある。
太陽光パネルの平均寿命25年であることから、バルコニーに設置した市民は13年で設置費用が出ることから、倍ほど得と言ってもよいだろう(もっともリチーウム畜電池の寿命は10年ほどであることから、徐々に長時間の蓄電はできなくなるであろうが、昼間に洗濯機や食器洗浄機を利用すれば、映像で見るように電力メータの回転は遅くなるから10年を過ぎても問題はないだろう)。
日本ではこのようなプラグイン太陽光パネルは電力会社が規制をかけている性か、全く販売されておらず、ネット販売されている中国製の蓄電池組み込みパネルは30ワットでプラグも付いておらずキャンプ用と宣伝されており、全く実用的でないにもかかわらず5万円近くもしているのは驚きである。
しかもラウデライ社のホームページの先頭には、ドイツの市民エネルギー転換のために戦うと、電力会社に向けて戦いの狼煙をあげているのである。

一方日本は最早コスト、安全性、廃棄処理などあらゆる視点から不利益な原発を温存するため、かつてはドイツを凌いでいた太陽光技術や風力発電技術がコスト面で最早競争にならないことを自覚しなくてはならない。
すなわち日本は利権構造で甘い汁を吸うことで、イソップ童話が教えるように既に金の卵を産む鶏を殺しているのである。