(254)カントの理想実現(12)インダストリー4.0の地平線(2)二つの転換とは・隅谷三喜男先生が希求した東アジア平和共同体

前回のインダストリー4.0の地平線(1)動画では、ドイツのインダストリー4.0は現代のデジタル技術を人間と協調させ、万人の幸せをもたらすものだ紹介していた。
今回のドイツ経済エネルギー省の動画では、そのインダストリー4.0を立ち上げたドイツ政府の目論見について説明(宣伝)している。
第一の目論見はエネルギー転換であり、製造した風力発電太陽光発電の電力をインテリジェントに利用及び蓄電し、消費者自らが再生可能エネルギーの製造者になることだと述べている。
第二の目論見は人口統計学の転換であり、2025年までに人口減少と老人大国化で600万人の職業従事者が不足することから、海外の技術専門家にドイツ移住を呼びかけている。
すなわちドイツ政府はこの動画で、インダストリー4.0の目論見がエネルギー転換と人口統計学の転換にあると、ドイツ国民及び世界の人々にメッセージしているのである。
もちろんその裏側には、コンセンサスなしの脱原発で反発の強い産業界に対して、安価な安定した電力提供とデジタル技術支援で和らげる目論見があった。
また世界からの専門技術者の移住招待にしても、80年代まで無制限に難民移民を受入てきた政策が財政上等の理由から制限せざろう得なくなり、内外からの批判をかわす目論見もある。
しかしながら現実的な理想実現への道として、学ぶべきは多いように思える。

そのようなドイツとは対照的に、最近の日本は産業から教育に至るまで競争原理が最優先され、ドイツに見る“万民の幸せ”という理念が失われている。
未だに福島原発事故メルトダウンは終息しておらず、事故原因も検証されていないにもかかわらず、絶対命令であるかのように原発再稼働に向けて邁進し、憲法違反の戦争法案で戦前のアジア侵略による産業政策の過ちを繰り返そうとしている。
まさにそれは、理念なき競争原理の最優先に他ならない。

カントの理想実現(12)・隅谷三喜男先生が希求した東アジア平和共同体
先週でカントの『永遠平和のために』は読み終えたが、現在の日本、さらには世界は、カントの理想実現から、益々遠のいて行くように思える。

そのように思っていた矢先、向かいの山荘の隅谷三喜男先生の奥様優子さんから『今、なにをなすべきか・隅谷三喜男に学ぶ(姜尚中 和田春樹 加山久夫)』(新教出版社2015年5月30日発行)をいただいた(注1)。
その本の中で姜尚中は、隅谷三喜男先生が80年代末に書かれた「経済大国から軍事大国へ」というエッセイを取り上げ、先生が以下のように現在の平和憲法の危機を指摘されていたことを述べている。
デタントの中で、この軍事力をもって日本は何をしようとするか。アメリカの軍事費削減を補完しようという意図以外に、何を考えるのであろうか。もしそうであればデタントへの妨害行動以外の何であろうか。日本はもう一度その軍事力をもってアジアで、更には世界的に、発言の場を持とうとするのであろうか。それは国際平和のため、武力による威嚇は永遠に放棄することを誓った憲法の趣旨に反することになる」(『時の流れを見すえて』、105頁、岩波書店、1991年)
そして『今、何をなすべきか』では、沖縄問題を含め周辺諸国との和解を通して、東アジアの平和と和解を創る先生の思いが切々と述べられている。
それは思いだけでなく、実際に和解と新しい構想を求めて韓国や中国、東アジア諸国、さらには北朝鮮にまで行かれていたことを思い出した。
それは今思えば、癌進行を抱えての命をかけた先生の『今、何をなすべきか』であった。
もっとも先生は絶えず前向きで、癌が末期に進行し「寒い、寒い」と秋の紅葉も見ることなく帰られた2002年も、「来年またお会いしましょう」と笑顔を絶やさなかった。
そして今、現在の日本政治は国会95日延長でも明らかなように、何が何でも平和憲法を葬る戦争法案を通そうとしており、数の論理からすれば法案成立は必至である。
たとえそのように最悪になったとしても、先生が生きておられれば、「どのような場合も敗北主義者になってはいけません。最悪な場合さえ試練にして、東アジアの平和、さらには世界平和を創りあげて行かなくてなりません」と、必ず言われるだろう。

(注1)隅谷三喜男先生とは、私が妙高に暮らし始めた1986年から2002年まで毎年初夏から秋まで、ただ先生の山荘が向かいであるというだけで声をかけていただいた付き合いである。とくに私が地元のゴルフ場開発反対運動で孤立していくなかで、立ち木トラストなどで支援していただき、私が『よくなるドイツ・悪くなる日本』を出した時推薦文まで書いていただいた。
最初にお会いした時既に癌告知をされており、「笑いは免疫力を高めるんですよ」と絶やさない笑顔が今も思い出される。


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私が4年間ドイツで学んだこと、これまでブログ「ドイツから学ぼう」で書いてきたことを土台にして納得できる本が書けましたので、是非お読みください。

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『ドイツから学ぶ希望ある未来 エネルギー転換の革命は始まっている

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