(446)民主主義は世界を救えるか(6)土地投機と戦う人たち・ 為替相場がなくなる日(1)

『万人の大地』土地投機と戦う人たち

 

 ウクライナ戦争は、ZDFフイルム『露わにされた独露関係』が描くように、競争原理最優先の新自由主義経済の激しい波に晒されて破綻したロシア(ソ連)と国際競争力の弱体化したドイツがシベリア油田開発を通してウインウインの関係で結ばれ、富の追求が為されれば為されるほど富へのギアー(渇望)が強まって行き、その結果として現在の終わりの見えないウクライナ戦争を招いていると言っても過言でない。

すなわちロシアは独裁者プーチンをして旧ソ連大国復活の野望を強め、ドイツも強国復活によってEUを通して東への経済拡大を実現し、見えない利益追求ギアーの衝突が限界に達し、ウクライナで終わりの見えない戦争を引き起しているとも言えよう。

ドイツの世界最大の化学企業BASFは2016年クリミア併合の後も、ドイツ及びEUのエネルギーのロシア依存をパイプライン開発で推進してきた。

また世界最大の製薬企業バイエルンは、除草剤と遺伝子技術による種子開発で世界の農業支配を目論むモンサントを買収し、世界支配の野望を受け継いでいる。

しかもシーメンスアメリカでの裁判で明らかにされたように、そのやり方は進出国の官僚買収工作で規制を取除くだけでなく、利益追求の為なら何でもありで、今回の終わりなきウクライナ戦争が示すように、その先に何があろうと止まらないのである。

しかしドイツの絶えず進化してきた民主主義は、そのような利益追求最優先の経済を許さず、変えようとしていることも確かである。

 今回載せたフィルムは大地の投機に対して戦う人びとを描くことで、経済における民主化の必要性を切に感じさせてくれる。

すなわちドイツの公共第二放送ZDFは、現在のウクライナ戦争によって地球上の何億の人たちの飢餓が激化するだけでなく、世界の多くの人たちがガソリンから食料品に至る高騰で困窮するなかで、6月23日に『万人の大地・土地投機と戦う人びと』を放映した。
 フイルムでは、農場共同体の女性農民マルタ・シュタインホルストが「大地は本質的に共有財であり、まさに水や空気のように、共通の財産でなければなりません」と訴えている。

しかし実際は水や大地が投機の対象となり、2005年から2019年までに土地の価格は2倍以上に高騰し、益々農民の生活基盤が脅かされている。

今回のフィルムでは二つの事例が紹介されており、一つは有機農業を生業として暮らす農場共同体Lakenhofであり、もう一つは生態学有機農業の実践がドイツでは不可能なため、フランスのピレネー山脈の麓で挑む若者夫婦のLa Ferme Le Couyである。

LakenhofとLa Ferme Le Couyのホームページを覗いて見ると、実際は生易し暮らしではないとしても、そこで暮らす人たちの生き生きとした表情からは、苦労も希望ある未来に変える満ち足りた農的暮らしが見えて来る。

https://www.lafermelecouy.com/galerie/

http://wordpress.laakenhof.de/?page_id=1225

 またそのような農的暮らしを可能にしているのは、ドイツではビオボーデン協同組合(注1)であり、フランスでは農地利用と農地価格の適正化を図る農業省管轄の非営利有限公開企業レス・セイファーSAFER(注2)である。

ドイツのビオボーデンは「市民の手に耕作地」を掲げ、協同組合として6000人以上の組合員と4000ヘクタール以上の農地を所有し、有機農業志向の市民及び農家に出来うる限り農地を安く貸すことを実践している。

またフランスのレス・セイファーSAFERは、地域農業銀行、農業団体、官庁、農業団体と組合の代表によって1960年に創設され、地域農業の衰退するなかで若者の農場への定住支援を目標に掲げ、60年以降環境、景観、水などの資源保護につとめるなかで、農地の適正利用を推し進めている。

このような団体及び農的暮らしの営みは連帯経済と呼ばれ、社会連帯を基盤とする経済活動であり、社会変革を目標としない社会的経済とは一線を画するものである。

しかし連帯経済は、社会変革をあくまで民主主義のなかで非暴力で変えて行くことを目指しており、現在のグローバル資本主義のなかでは補完的な、もう一つ別な経済の域を出ていないことも確かである。

もっとも現在の絶えず成長を求めるグローバル資本主義がさらに行き詰まり、世界が気候変動激化による感染症肥大や食料危機に陥れば、現在の連帯経済は必然的に地域で自給自足する自助経済へと伸展して行くだろう。

そして世界がそのような自助経済の何万もの地域政府連合からなるとき、最早市場経済を必要とせず、(今回から述べて行く)為替相場がなくなる日である。

 

(1)Bio Boden Genossenschaft

https://bioboden.de/startseite/

(2)Landentwicklungsgesellschaft SAFER

https://www.safer.fr/

 

 為替相場がなくなる日(1)

 

  現在ドイツでは、エネルギーのロシア依存を断つべく、ロシアからの天然ガス全面禁輸を警鐘して(実際はロシアが全面禁輸することはあり得ないと考えられるが)、再生可能エネルギーによるエネルギー自立を加速させている。

従ってハーベック経済相が明言するように、2030年にはドイツの消費する電力の80%は再生可能エネルギーに転換される公算は高いと思われる。

それは、地域での分散技術による市民エネルギー協同組合の伸展なしには不可能であり、地域での自然エネルギーによるエネルギー自立が余剰エネルギーを水素として蓄えることから、自ずと地域で生活必需品を生産することへと発展しよう。

何故なら気候変動の激化で食料危機や感染症拡大での地域封鎖が日常化するなかでは、地域で自給自足する自助経済が必要不可欠になって来るからである。

しかしそのようにまで自助経済が伸展して行けば、最早グローバル資本主義を補完するものではなく、敵対するものであることから、国民国家は経済の自由を盾にあらゆる方法で干渉し、地域の住民が自から決定する自治を決して認めないだろう。

もっとも2030年は、SDGs目標「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」の最終期限の年であるばかりか、パリ協定で2050年に完全なカーボンニュートラルを実現するための2030年は、世界の温室効果ガス排出量を46%削減を誓った年でもある。

しかしながら現在の経過からすれば、貧困は恐ろしく拡大し、排出量も200%近くに増大する可能性は高い(何故ならリオ宣言、京都議定書で削減を誓ったにもかかわらず、2020年には排出量は90年比で160%を超えて増え続けているからである)。

それは、現在の世界が危機を免罪符として、逆に貧困の拡大、排出量の拡大を加速して来たからである。

それ故リオ宣言以来国際会議で絶えず指摘されて来たのは、目標の実現の担い手に利益を求める民間企業(多国籍企業)に任せても無理であり、その実現は利益を求めない多様な形態の協同組合でなくてはならないことだった。

したがって2015年から始まるSDGs「世界を変える持続開発」では、国連に集う非政府組織は、持続開発が企業の成長戦略のお墨付きとなっている実態を変えるべく、2012年に国連協同組合年を決議し、2013年に実質的にSDGsを担う機関として社会的連帯経済タスクフォースを設立した。

しかしながら2015年の161か国首脳が出席した国連サミットのSDGs決議では、担い手にまたしても利益を求める民間企業も加えられ、利益を求める民間企業の成長戦略として利用されている。

このような中で国連に集う危機の世界に救済を求める非政府組織は、産業支配によって国益最優先の国民国家の決議に期待しても無理であるとして、各国非政府組織が主導する国連総会第一委員会で2016年多国間の核武装撤廃交渉を翌年から開始することを決議した。

翌年の国連の核兵器禁止条約会議で、賛成122票、反対1票、棄権1票で採択された(アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、中国、ロシア、そして日本などは会議に不参加)。

そしてこの条約は、2017年10月より各国で批准が行われ、2021年に発効に必要な50か国の批准を超えて、国連で発効している。

但しこの条約は、非締結国への法的拘束力はないが、2022年6月のウィーンでの第一回締約会議では、批准65カ国に加えてドイツやオーストラリアなどの5か国のオブザーバ参加や10各国以上の世界地域の参加があり、未来に向けて着々と行動計画を推し進めている。

そうした動きは、現在の国連が5か国の拒否権で機能しないだけでなく、グローバル資本主義に支配される国民国家の決議に期待できないからである。

それは国連の裏返しであり、国連に集う非政府組織は世界を救うために、2030年には国連総会の第一委員会(軍縮・国際安全保障)で決起するだろう。

そこでは、気候変動激化と貧困飢餓に苦しむ世界の国々が国連に集う非政府組織の指導のもとに、もう一つの新たな国連である、拒否権のない誰ひとり見捨てない瞬時に機能する国連地域政府連合創設を採択しよう。

もちろん発効に必要な50カ国以上の批准を遥かに超える見通しが立っていることから、翌年には100を超える批准国によって世界の自己決定権を持つ5000ほどの地域政府からなる国連地域政府連合が発足しよう。

何故ならその時までに、ウクライナ戦争が終結していないだけでなく、世界各地で戦争が拡がり、益々気候変動が激化して行き、しかも感染症終結の目途も立たず、貧困国の飢餓だけでなく裕福国にも食料危機が頻発し、世界の殆どの人たちが救済を求めているからである。

最早利益求める国民国家の国連決議が期待できないだけでなく、全く機能しないことから、利益を求めない自助経済を志向する世界の地域政府連合に期待する機運が高まって行くからである。

しかも国連地域政府連合は、緊急事態にはオンライン会議の採択で瞬時行動によるフル機能を世界に約束している。