(481)核なき世界の実現(9)最終回・互恵的利他主義

 戦争阻止に機能しない国連

 

 上の私の見た動画78『大国の戦争に機能しない国連』(2023年2月19日の放送のNHKスペシャル「混迷の世紀 第9回 ドキュメント国連安保理〜密着・もうひとつの“戦場”〜」を私の印象で5分の1ほどに短縮)では、「戦争を止められない国連は、もはや不要だという声もあります。それでも国連は必要ですか?」という厳しい問いから始まっている(残念ながらこの動画も何処がするのか特許権で守られおり、見てもらうことが出来ませんが、公共放送を私の印象で5分1にしたものが見れないのは表現の自由に反するものであり、それこそが絶えず退歩してきた日本の民主主義のリトマス試験紙であるように思います。尚デイリーモションでは不思議にも見られましたので載せて置きます)。

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しかも国連事務総長グテーレスは、その批判には「致し方ない」としか答えられないのが現状である。

国連誕生以来の国連研究の第一人者のイェール大学のポール・ケネディ教授は、「国連はいま、1945年に創設者たちが悪い意味で予想していた通りになっています。というのも、安保理が戦争を終わらせることができるのは、大国の考えが一致していて、拒否権を行使せず、他の国を妨害しないときに限られているからです」と明言している。

さらに付け加えて、「拒否権を持つ大国が、国連憲章の中にある『各国の主権を尊重する』という規定を無視することは、あってはなりません。しかし残念ながら、大国に有利な国連のシステムをどうすることもできません。一方で、だからこそロシアは、国連にとどまっているともいえるのです。創設者たちは、国連を“サーカスのテント”に例えました。一頭の猛獣がテントを飛び出すよりも、すべての動物をテントの中にとどめておいた方が、まだいいと考えたのです」と述べている。

そしてロシアの引き起した戦争に機能できない国連に対して、「ロシアを国際社会に引き戻す方法を、なんとしても見つけなくてはなりません。プーチンのロシアは、他の国を傷つけながら、他でもないロシア自身を最も傷つけています。もしロシアがいまの状況から抜け出したいと判断したとき、国連事務総長に仲介を要請する可能性は十分あります。まずは、ロシア自身が行動を変える必要がありますが、事務総長の仲介には、戦争を出口に向かわせる可能性が残されています」と語っている。

すなわち国連はロシアが戦争を止めたいと望まなければ機能せず、ロシアを国際社会に引き戻すには、止めたいと望むように仕向けるしかないと言っているのである。

それは嘗てのロシア大帝国を妄想する独裁プーチン政権では不可能であり、欧米支援でウクライナが境界線までロシアを退け、一時的に停戦が結ばれても、本質的な平和構築は難しいことを物語っている。

もっとも欧米にしても、ゴルバチョフの「欧州共通の家」という平和構想を真摯に受止めず、東欧拡大で利益追求を最優先したことは明らかであり、言わばウクライナは大国ロシアとアメリカの代理戦争の犠牲という見方さえできる。

そのような視点から見れば、何時世界戦争に発展してもおかしくなく、まさに人類は絶滅の核戦争危機にあると言えるだろう。

 

互恵的利他主義

 

 同時に人類は地球温暖化による全氷河融解で海面が十数メートル上昇し、世界の大都市が水没崩壊するという危機にも直面している。

それは化石燃料を燃焼させることで絶えず成長してきた結果であり、必然的に招いてきた気候変動危機である。

そのような将来的危機が年々確実視されるなかで、ヨーロッパ連合EUは真剣に受止め、化石燃料エネルギーを再生可能エネルギーにエネルギー転換によって2050年までに二酸化炭素排出量ゼロの脱炭素社会の実現に、2015年のパリ協定以来真剣に取組んできた。

しかしウクライナ戦争によって石油や天然ガスのロシア依存ができなくなったことから、再生可能エネルギーへのエネルギー転換がより速く求められている。

再生可能エネルギー太陽光発電風力発電バイオマス発電にしても地球に降り注ぐ太陽エネルギーを源とする分散型技術であり、地域で小規模な発電が経済的にも圧倒的に有利である。

それゆえ従来の巨大企業が支援を受け、洋上風力発電や砂漠でのメガソーラーで再生可能エネルギー事業に取組んでも、遠くからの電線網建設でコストが跳ね上がり、将来的展望が開かれないことから停滞を余儀なくされていた。

そのような再生可能エネルギーへのエネルギー転換の停滞から、EUは2018年のエネルギー指令では、これまで巨大企業配慮でエネルギー転換に市民の参加を阻むものであったが、積極的に市民参加できるものへと転換した。

さらにウクライナ戦争のエネルギー危機で全面的に市民参加を求め、地域でのエネルギー自立を後押しするまでに変化したと言えるだろう。

事実2023年1月の科学的データでは(注1)、EU29カ国で1万を超える市民イニシアチブ(ドイツで言えば市民エネルギー協同組合)が湧き上がるように設立され、市民エネルギー転換に取組んでいることが報告されている。

そうした流れからは、ドイツが電力消費の少なくとも80%以上を再生可能エネルギーに転換すると明言した2030年には、地域での市民エネルギー転換が急速に進み、多くの地域でエネルギー自立が実現しよう。

そのような地域での市民によるエネルギー自立は、従来の競争原理ではなく、連帯による分かち合い原理であり、利己主義とは対局の利他主義(愛他主義)を育む筈である。

何故なら益々過激化する地球温暖化を本質的に阻止するためには、エネルギー自立が達成された地域がその技術ややり方を他の地域に無償で提供すればするはど、速く本質的解決に向かうからである。

それは正確に言えば、互恵的利他主義である。

地域のエネルギー自立が実現すれば、危機の時代には食料の自給自足だけでなく、余剰エネルギーを利用して生活必需品の地域での生産に向かうことは必至である。

それゆえ前回述べた禍を力としてヨーロッパを吹き抜ける風は、グローバルに外に向かって貪り取る競争の風ではなく、ローカルに内に向かって創り出す連帯の風と述べたのである。

そのような風は、本質的な平和をもたらす風であり、世界のすべての地域が太陽を利用してエネルギー自立で自律社会を築いて行けば、他から奪う必要がなくなり、自ずと恒久平和の核のない世界が実現しよう。

それゆえ欧州連合EUは、そのような壮大な和平構想をすぐさま提案し、ウクライナ戦争を停戦に導くべきである。

国境を越えてすべての地域がエネルギー自立によって自律社会を築くという和平構想は、ゴルバチョフが夢見た「欧州共通の家」をさらに越えて「世界共通の家」を創るものであり、例えプーチンが大帝国を夢見る独裁者であったとしても、拒めない筈である。

何故ならそのような利他主義に基ずく壮大な和平構想には、プーチンの正義とするNATO拡大阻止を解消するだけでなく、NATOを将来的になくすものであるからだ。

しかもそれは、ポール・ケネディ教授が説くロシアが戦争を望まなくさせる唯一の方法でもある。

西側がこのような利他主義に立ち、壮大な和平構想でロシアから北朝鮮、さらにはアフリカなどの発展途上国再生可能エネルギーの分散型技術とやり方、さらには実地指導を無償で提供することは、絵に描いた餅であり、決して容易なことではない。

しかしこのままウクライナ戦争を続け、さらに中国や北朝鮮などを巻き込んだ世界核戦争に発展する可能性を考えれば、絵に描いた餅の実現も、西側の意思と決断次第である。

壮大な和平構想で、世界のすべての地域で太陽エネルギーに基ずく自律社会が誕生していけば、恒久平和の核のない世界が実現するだけでなく、現在の気候変動の危機、格差肥大社会の危機、感染症危機などすべての問題が解消へと向かい、想定できない程大きな利益であり、まさに互恵的利他主義によって生み出されるものである。

 

岐路に立つ我々の時代

 

 我々の時代は化石燃料エネルギーから自然(太陽原資)エネルギーへの過度期に立っており、人類が滅びるか、人類の理想が実現できるかである。

すなわち化石燃料支配のグローバル資本主義は生き延びるために新自由主義カジノ資本主義)を生み出し、競争原理最優先で奪い取って行くため、アフガニスタン、シリア、ウクライナで絶えず戦争を続け、ウクライナ戦争では人類絶滅の核戦争危機を招いている。

さらに長年の化石燃料支配は、地球温暖化危機や格差肥大の分断危機など、生命を脅かす危機を招いている。

しかし多くの人々は化石燃料のメディア支配によって洗脳され、目先の自らの利益に囚われ、本質的な解決に目を向けようとさえしない(注2)。

そのような化石燃料のメディアによる洗脳の検証にもかかわらず、ドイツでさえ化石燃料支配は強く、中々気候正義は進まなかった。

しかしウクライナ戦争が引き起したエネルギー危機という禍を力にして、ドイツだけでなくヨーロッパ全体で市民の自然エネルギーへの転換が一気に進み始めている。

それは、ロシアの石油やガスからのエネルギー自立を強いられたからであり、それに対して化石燃料支配の担い手である巨大企業の惨事便乗型利益追求が最早通用の限界に達しているからである。

また民主主義を掲げるヨーロッパの過半数を超える市民が、真剣に気候正義実現を求めており、政治はその要請に答えなくてはならないからである。

そのような気候正義実現は世論が促す政治決断で、互恵的利他主義に立って世界に拡げて行くことができる段階に達している。すなわち地域での分散型技術の発展で、世界世論がそれを望めば世界の政治を動かすことも可能である。

もっとも現在の世界政治は大国ロシアの戦争停止には無力であり、ウクライナへの武器提供で戦争を煽りたて、益々人類絶滅の核戦争危機に向かっている。

それゆえ絶えず成長発展を求める世界経済の仕組を変えることが必要であるが、それを直接求めれば、旧勢力と新勢力の対立は避けられず、革命という力よる転換が必要になり、革命が成功しても、力による統制で人類の理想は決して実現しない。

しかし近代の負債が招いた気候変動危機、格差社会危機、生態系危機、世界戦争などの危機で、頻繁に生じてくる禍の対処に民主主義を通して政治が動くことは止められない。

そして世界が表向き二酸化炭素排出量ゼロの脱炭素社会実現を約束する2050年までには夥しい数の禍が待ち受けていると思えるが、禍を力として流れに任せて化石燃料から自然エネルギーへの転換を進めて行けば、人類理想の社会を築くことも決して絵に描いた餅ではない。

人類理想の社会とは、地域エネルギー自立を基盤として食料や生活必需品を自給自足を指向し、競争よりも分かち合いによる連帯を尊重し、外に対しても互恵的利他主義を貫ける社会である。

そこではエコロジーな脱成長が原則として求められるとしても、辛い単純労働には積極的にデジタル化、人工知能やロボット技術が利用され、労働が楽しく豊かに解放される社会であり、利他主義で様々な人の多様な幸せが求められる社会であり、恒久平和の核なき世界である。

 

(注1)

ヨーロッパ29か国で湧き上がる1万を超える市民エネルギー協同組合

https://www.nature.com/articles/s41597-022-01902-5

 

(注2)

化石燃料のメディア支配は(385)で述べたように、ZDFが2020年に制作した『気候変動否定での潜入取材』(2月4日のZDFフロンターレ21で放送)では、市民調査機関と共同で人為的気候変動を否定するロビー活動本部に潜入取材までして、その実態と資金の流れを明らかにしている。

その実態では、あらゆる分野の著名人にお金で記事を依頼し、人為的気候変動に絶えず疑問を投げかけている。すなわちそれらの記事は、科学的論拠に全く関心なく、都合のよい科学事実だけを抜き出し、感情に訴える一貫性を備えた嘘を作りだしている。そのようなメディア支配のやり方は、タバコの発がん性公示では世界の著名人を通して疑問を投げかけ続け、半世紀近くも厳しい既成を引き伸ばしてきたことが、カルホルニア大学科学史教授のナオミ・オレスケスの書いた『世界を騙しつづける科学者たち』では見事に検証されている。

またお金の流れは、アメリカの石油産業などからのお金が様々なシンクタンク、あるいは匿名寄付を可能するドナーストラストを通してハートランド研究所Heartlandに集められ、ドイツの研究所EIKE(ドイツの大学都市イェーンに2007年に設立された気候とエネルギーのためのヨーロッパ研究所)に莫大なお金が送られ、そこから極右政党AfD(ドイツのための選択肢)に流れている。

 

ブログ休刊のお知らせ

  「永久革命としての民主主義」第三部『核なき世界実現』を書くため、10月中旬くらいまでブログを休みます。この本ではブログに書いた内容を深め、単に書くだけでなく、利他主義(愛他主義)による気候正義達成で、戦争のない「核なき世界」実現を世界に訴える活動の第一歩としたいと思っています。尚「永久革命としての民主主義」第一部第二部を読んでいない方には、是非読んでもらいたいと思います。また人類の理想達成については、昨年4月に出した『2044年大転換』を読んでくだされば、理解してもらえると思います(但しウクライナ戦争に対してはアメリカのアフガニスタン撤退直後であったこともあり読み切れておらず、本質的理解に欠けていたと思います。下に目次を載せて置きます)。

目次

はじめに  1

序章  たたき台としての救済テーゼ 11

コロナ感染症が問う社会正義 13

「悪魔のひき臼」が文明を滅ぼして行く 17

人新生の希望ある未來はドイツから開かれる 20 

第一章 二〇四四年大転換未来シナリオ 25

     二〇三一年国連の地域主権、地域自治宣言 27

     地域主権、地域自治が創る驚くべき変化 41

     地域の自助経済が創る新しい社会 49

     ベーシックインカム導入が時代の勝利となる日 60

     二〇四四年七月X日の首都崩壊 64

     市場が終わりを告げるとき 68

     戦争のない永遠の平和 74 

     倫理を求める絶えず進化する民主主義 82

第二章 大転換への途は始まっている 89

     緑の党の基本原理が世界を変えるとき 91

第三章 何故ワイマール共和国は過ちを犯したのか?107

    ワイマール共和国誕生の背景 109

    官僚支配こそホロコーストの首謀者 114

第四章 戦後ドイツの絶えず進化する民主主義 121

    世界最上と自負するドイツ基本法 123

    戦い育む憲法裁判官たち 128

    ドイツを官僚支配から官僚奉仕に変えたもの 139

第五章 ドイツ民主主義を進化させてきたもの 145

    メディア批判の引金を引いた『ホロコースト』放映 147

    裁判官たちの核ミサイル基地反対運動 153

    脱原発を実現させたメディア 168

    気候正義を掲げて戦うドイツ公共放送 179

第六章 人々に奉仕する経済の民主化 187 

    危機を乗り越える社会的連帯経済 189

    ドイツの連帯経済 194

    人に奉仕する経済の民主化 199

第七章 ドイツの気候正義が世界を変える 207

    気候正義運動が創る違憲判決 209

    文明の転換 213

あとがき 221