(46)検証シリーズ7、日本の農業に未来はあるか。第5回TPPに対抗する世界全体を幸せにする戦略的FTA(地産地消税導入)

少なくともEUが競争原理を最優先する新自由主義の「リスボン戦略」を採択するまで、ドイツのミルク農家も地域の美しい景観のなかで理想的な豊かな暮らしを謳歌していた。
しかしEUがこれまで適正なルールとなっていたミルク調整を2015年の廃止を決めたことで、賃金が5分の1ほどで農地の安いルーマニアなどの東欧に強国ドイツなどから投資がなされた。
そして数年前から恐ろしく安いミルクが東欧から入ってくるようになり、ドイツのミルク農家を激震させるだけでなく、毎年1万軒を超えるミルク農家を倒産させている。
それはスーパーで1リットル0,6ユーロのミルクが2009年には0,4ユーロまで下がったからであり(現在は0,5ユーロほどであるが)、規制なき貿易自由化の恐ろしさを象徴している。
もちろん適正な規制のある貿易は必要であり、日本のように暮らしに欠かせない主要な食料品101種類の200パーセントを超える関税に安住してきたことが、補助金政策を通して国際競争力を著しく低下させ、農業自体を衰退させてきたことも真摯に反省しなくてはならない。
だからと言ってすべての輸入品の関税をゼロにするTPPに参加することは、農業だけが殆ど壊滅するだけでなく、国際競争力のない国内産業をショック死させることに等しい。
しかもTPPが開始されれば医療を筆頭にあらゆる公共サービスが自由化され、救急車でさえアメリカのように実費負担が求められ、大部分の国民にとって悪夢のような弱肉強食の非情な社会へ転落することは必至だ。
もっとも現在のように韓国のような国が自由貿易を推し進めるなかで、産業輸出国日本が関税鎖国を維持することは困難であり、現実的ではない。
したがって日本は2国間の自由貿易が主流であるFTAを、相互の国民が豊かになるように戦略的に選択すべきである。
もちろん従来の戦略なきFTAでは、TPP同様に相互の国の巨大資本だけが利益を得るだけで、賃金や雇用形態などがボトム競争によって下方にスパイラルしていくことから、大部分の国民の暮らしの貧困化は避けられない。
相互の国民が豊かになるためには、貿易が相互の国の産業を補完し、育成するものでなくてはならない。
それは地域での地産地消を増やすことであり、地産地消が増えれば自ずと地域経済が活性化され、地域に住む一人一人を豊かにする。

フランスやドイツの地方では、EUのリスボン戦略で関税が撤廃されるまで地産地消によって豊かな地域が築かれていた。
しかし安い農産物などが流入し、地域の産業が東欧などに移転することで、日本同様に衰退を加速している。
それ故フランスなどでは関税の復活を望む声も高いが、一旦開かれた歴史の流れを元に戻すことは困難である。
しかし世界を豊か(幸せ)にする大きな目標で、自由貿易の中により地域に密着した関税である地産地消税を組み込むことは、現在世界の国々で地域衰退が著しいことからFTAの2国間で交渉すれば決して難しいことではない。

地産地消税は、各地域(各都道府県)の生活と環境を守る地域関税であり、地域外から運ばれてくるすべての商品に課税する税である。
したがって消費税のように消費者への負担はない。
何故なら地域内(県内)生産者(新たな参入を含めて)の課税免除がインセンティブを与え、地域外(海外を含めた県外)の生産者との間にポジィティブな競争が生じることから、日本のように暮らしに必要な食品価格が恐ろしく高い国では、むしろ世界の物価に収束して健全に下がるからだ。
しかもそれは地域を再生すると同時に、中央に依存しない自立した豊かな地域を実現することに繋がる。
また途上国などの電化製品などの生産されていない地域では、課税が免状されることから意欲ある日本などの中小企業が参入し、徐々に地域生産していくことも可能である。
さらに法整備で地域内での徹底したリサイクルを義務付ければ、大きなインセンティブとなるであろう。
もっともすべての農作物や製品を地産地消することは、適材適所の生産原則からして不可能であり、自ずと適正なバランスに達するであろう。
これは単に外の地域に大半を依存してきた地域に大きな利益を与えるだけでなく、集約的に商品作物や製品を生産してきた地域にとっても適正なバランスが築かれることから、長期的には大きな利益が得られる筈だ。
すなわち現在の自由貿易に10パーセント前後の地産地消税を組み込めば、地域を豊かにするだけでなく、現在の侵略的な世界の自由貿易を適正化し、世界全体を幸せにするものへと一変しよう。
今、世界全体の幸せが求められなくてはならない理由は、EUに見られるように新自由主義の追求がギリシャアイルランドポルトガルなどの弱国を生み出し、弱国の危機がEUの危機、並びに強国ドイツの財政危機を招いているからだ。
また一握りだけの強者を生み出す新自由主義のかなたには、人類の未来はないからである。
それは現在においてもパレスチナなどの弱者を無視するならば、世界は滅びるからだ。
何故ならゲリラが2006年からイスラエル攻撃に使用する持ち運び容易なロケット砲は、2キロ離れた地点から5メートルの鉄筋コンクリートを貫通することができるからである。
したがって彼らの自爆テロは人類滅亡への警告でもあり、絶望の果てに原発テロを選択するならば、最早現代はそれを阻止することはできないからだ。
現に原発の安全に責任を持つドイツの連邦環境大臣ノルベルトは、ドイツの原発原発テロには無力であることを認めている。
もちろん日本でも、万一北朝鮮が自爆的に日本の海岸沿いにある50基ほどの原発を夜間に小船からロケット砲で狙い打つなら、どのように日本が莫大な血税を使ってミサイル防衛網を備えても無力である。
だからこそ世界は平和を求めなくてはならないし、世界全体が豊かに幸せになる道を選択しなければならない。
日本の企業も目先の利益を追求するのではなく、国民の幸せに奉仕するといった初心に帰り、世界全体の幸せに奉仕するという使命を持つことが究極的に利することであり、唯一の日本の生き延びる道であることを自覚すべきだ。
すなわち日本はTPP参加によって世界絶滅の道を選択するのではなく、地産地消を組み込んだ戦略的FTAを世界に普及していくことで、世界全体の幸せに貢献していくことを選択すべきである。