(72)脱原発を求めて。(2)恐ろしい未来か、素晴らしい未来か。

原発産業のロビィストたちがフィンランドやスエーデン、そしてドイツで原発運転期間延長を求めた際のスローガンは、「安い、クリーン、安全」という神話と、「脱原発による電気料金の高騰」という脅しであった。
日本では福島原発事故安全神話が崩壊しただけでなく、原発の安いという神話も、これまで見積られていなかった交付金や賠償保険、そして原発放射線廃棄物を10万年という長い年月安全に保管管理していく費用を加算していけば、最も高くつくことが明かにされた。
クリーンについては、日本人全体が福島原発事故の後放射能汚染の恐怖に晒されており、神話の崩壊に言及する必要はないだろう。
また「脱原発による電気料金の高騰」という脅しは、ドイツでの脱原発後も原発ロビィストによって継続されていたが高騰などなく、電気料金は寧ろ下がっている。
何故ならドイツのウキペディアで述べられているように(注1)、「化石燃料原発によるエネルギーは年々高騰していくのに対して、再生可能エネルギーは過去15年で価格が半分ほどに下がり、さらに2020年までには大量生産と技術革新で現在(2009年)よりも40パーセント価格が下がる」との予想からも当然のことである。
このように3つの神話が崩壊し、高騰の脅しも嘘と判明し、未だに福島原発事故放射能を出し続け、日本中の国民が低線量被ばくのリスクに脅かされているにもかかわらず、転換を約束していた原発推進の国策が息を吹き返すだけでなく、攻勢に転じようとしている。
転換を約束した理由は、「ドイツのように悪魔の高速増殖炉を天使のワンダーランドにすることは可能か」で述べたように(注2)、福島原発事故によって高速増殖炉もんじゅ」の再開が不可能となり、「核燃料サイクル」事業の見直しが不可欠となったからだ。
しかし2012年に入り、「核燃料リサイクル」事業の中核的2施設、再処理工場とMOX燃料工場の試験運転や建設再開が着々と進行している。
使用済み原発燃料棒から高速増殖炉プルトニウム燃料を製造することが意味をなさず、原発廃棄物の量も少なくとも7倍以上に増え、コストも2倍以上に増加するにもかかわらず、継続することは狂気の沙汰である。
しかし狂気の沙汰を継続強行するには、それなりの理由がある筈だ。
その理由は、日本の原発開発が1953年のアメリカの原子力平和利用宣言から始まっており、核保有の呪縛が組み込まれていたからだ。すなわちアメリカは友好国に核開発を供与し、ソ連に対する防波堤とする意図があった。

事実2010年11月に開示された外交文章「第480回外交政策企画委員会」(68年11月20日)では、次のような驚くべき発言があった。
高速増殖炉等の面で、すぐ核武装できるポジションを持ちながら平和利用を進めていくことになるが、これは意義のないところだろう」(鈴木孝国際資料部長)
「現在、日本が持っている技術で爆弾1個作るには、半年〜1年半ぐらいあればいいと言われている。起爆装置もその気になれば半年〜1年ぐらいでできるのではないだろうか」(矢田部厚彦科学課長)。

外務省は、佐藤元首相宅に残されていた沖縄への「核の持ち込み」極秘文章(2009年12月に発覚)に関して受け取りを拒否していた事実からして、このような外交文章を意図的に残したと言えよう。
すなわち高速増殖炉開発の裏には、アメリカの強い要請によって核保有という将来的目標が組み込まれていたからに他ならない。
その真相は、東海村臨界事故直後の1999年10月19日発売のプレイボーイ誌の対談で、西村防衛次官(当時)が「核を持たないところがいちばん危機なんだ。日本がいちばん危ない。日本も核武装したほうがええかもわからんということも国会で検討せなアカン」と述べたことからも察せられよう。。
しかもこれは、西村防衛次官の防衛省最高責任者の唐突な個人的な発言ではなく、前年の6月の参議院予算委員会では、佐藤謙防衛庁防衛局長(当時)が、「核兵器であろと通常兵器であると問わず、これを保有することは同項(憲法第九条第二項)の禁ずることではない」と述べ、さらに大森政輔内閣法制局長官(当時)も、「核兵器の使用も我が国を防衛するために必要最小限のものにとどまるならば、それも可能」と述べているのである。

そして製造されたプルトニウムは2005年末までに44トンが貯蔵され、以後も六ヶ所村核燃料再処理工場で毎年約8トンのプルトニウムが分離製造されてきたことから、長崎型原発であれば4000個から5000個の原発保有することも可能である。
それ故全く不要な「核燃料サイクル」事業に対して、見直し議論中にも関わらず事業を進行させようとする力が働くのは、核保有という組み込まれた呪縛が今も生きているからだと言えよう。
そして「核燃料サイクル」事業の抜本的見直しができなければ、日本の脱原発の機会が失われるだけでなく、原発ルネッサンスを推進する原発大国、そして核大国への道が敷かれよう。
しかもその過程では財政破綻IMF支配のアメリカの属国化を通して、恐ろしい監視社会が待ち受けている。
何故なら原発テロへの無防備がドイツで明らかにされたように、2006年からアラブゲリラがイスラエル攻撃で使用している持ち運び容易なロケット砲は3キロ先の5メートルの鉄筋コンクリートを貫通することから、おびただしく厳重な監視が必要となるからだ。(注3)
しかもそのような監視社会では、「原発最終処分場オンカロフィルムはプロパガンダなのか」で述べたように(注4)、日本のような浸透性の高い地層では安全な最終処分場建設が不可能であり、絶えず放射能が地下水や海に漏れ出していることから、大半の市民が若くして癌や白血病で亡くなり、平均寿命30歳という恐ろしい未来も決して絵空事ではない。

しかし悲惨な福島原発事故を生かして脱原発を実現できれば、ドイツに見られるような素晴らしい未来が拡がってくる。
ドイツでは昨年の2021年までの脱原発宣言後、フランクフルター・ルントシャウの記事「緑のエコ革命」が述べるように(注5)、連邦政府の2020年までの再生可能エネルギーの消費電力に占める割合予測は35パーセントから40パーセントであったが、全てのドイツの州で風力発電太陽光発電バイオマス発電などの計画が目白押しに進んでいることから、信頼できるエネルギー調査機関レナは52パーセントから58パーセント賄えると計算報告している。
このレナの計算報告からすれば、2011年に連邦環境省の2050年までに消費電力の100パーセントが再生エネルギーで賄われるという報告を上回り、2030年代にも可能である。
こうした再生可能エネルギーの成長率は著しく、既に風力発電産業では年間20パーセントの成長率を達成している。しかも風力発電機は2万点の部品を必要とし、地域の中小企業で一基、一基製造されることから、今やドイツでは地域産業の要である。
また太陽光発電産業も10パーセントを超える成長率で発展しており、将来は家庭の消費電力だけでなく電気自動車の充電も、屋根全面に取り付けられた太陽光パネルで自給するのが当たり前となろう。
こうした100パーセント再生可能エネルギーで賄われる社会は、地産地消の分散社会を築いて行くことから、必然的に地域民主主義を形成し、国の財政さえも健全化しよう。
しかもこのような再生可能エネルギーは無尽蔵なソーラー燃料であることから(風力や水力も太陽が源)、希少ゆえに富の格差を肥大化させた化石燃料の産業社会とは異なり、富の格差を縮減するエコ社会を創出する。
そこでは失業がなくなるだけでなく、エコロジー運動の先駆者アンドレゴルツが描いた「週20時間の労働で、精神的に自由な、より高いレベルの生き方」も可能である。
(詳しくは注5参照)

(注1)http://de.wikipedia.org/wiki/Erneuerbare_Energie
(注2)ブログ(26)もしくはhttp://www.asyura2.com/11/genpatu16/msg/210.html参照
(注3)ブログ(18)もしくはhttp://www.asyura2.com/11/genpatu16/msg/498.html参照
(注4)ブログ(25)もしくはhttp://www.asyura2.com/11/genpatu16/msg/230.html参照
オンカロフィルムはhttp://www.at-douga.com/?p=4637で見ること可能。
(注5)ブログ(69)もしくはhttp://www.asyura2.com/11/senkyo124/msg/544.html参照