(61)「ドイツから学ぶ99パーセントの幸せ」 第7回 何故一人勝ちのドイツが悪くなるのか。前編

もしシュレーダーの推し進めた新自由主義が少しでもドイツ国民に幸せを与えていれば、シュレーダーがどのような豪華な暮らしをしようとも、国民はドイツの国際競争力を引き上げた功績を褒め称え、感謝したであろう。
しかし現実はドイツが世界で一人勝ちするほど競争力を高めたにもかかわらず、ドイツ社会を悪化させるだけでなく、市民の暮らしを著しく悪化させている。
事実ドイツの国際収支は、90年代は僅かばかりマイナスを続けたにもかかわらず、2001年にはプラスに転じ、2004年には1278,5億ドルと飛躍的に鰻昇りに増加を続け、2006年には1820、7億ドルで日本を抜き(日本1704,4億ドル)、世界のトップに踊り出て(中国を除く)、2011年の現在も世界から一人勝ちをしていると言われるほどに独走している。
その反面既に前回も述べたように、これまで勝ち取ってきた豊かな社会保障制度が根こそぎ奪われて行った。
それは指標に現われるものだけでなく、長期休暇や有給休暇の根幹にまで及んでいる。
2003年4月に企業要請で改正されたパート労働では、それまで週15時間未満かつ月の賃金が325ユーロ以内とされていた規定が(雇用主だけが年金保険12パーセントと疾病保険10パーセントを負担)、15時間未満という時間枠が廃止され、月の賃金が400ユーロ以内とされ、「ミニジョブ」と呼んだ。
雇用主の負担は25パーセントの年間一括支払いとなり、新たに2パーセントの税負担が加算されたことから、一見すれば企業側を特に益するものはないように思える。
しかし、実質的に企業が必要な時に自由に解雇ができる「解雇制限法の緩和」法案の復活がセットされたことから、現在700万人ほどが従事するミニジョブは、月400ユーロの枠組みで単位時間の賃金を恐ろしく低下させただけでなく、法律で認められている長期休暇を解雇の脅しで取れなくした。
このようなことは少なくとも2000年までのドイツでは見られなかっことであり、長期休暇を取ることや有給休暇を毎年使い切ることが市民の権利であり、万一管理する側が行使を忘れていた場合、罰せられると言われるほど厳しい規則であった。
しかし2003年のミニジョブを契機に、一般の正規従業員の長期休暇が短縮されるだけでなく、日本社会ほどではなくとも有給休暇を使い切ることも難しくなってきている。
それは権利を権利として行使することに対して、自由に解雇できるようになったことで無言の脅しがあるからだ。

また環境保全政策の成功で美しい田園景観で、豊かな暮らしを享受していた農家も例外ではなかった。
東欧などからの著しく安い農作物が大量に出回ってくると、粗放化農業のインセンティブで支払われる農家個人補償では最早対応できなくなり、小規模農家の倒産は激増し、毎日50軒ほどの農家が倒産している。
その多くは酪農のミルク農家であり、EUが2015年に現在のEU加盟各国のミルク割り当てを廃止することを決めたことで、東欧などの農業国がそれを見込んで生産規模を拡大し、ミルク単価が著しく下落したからだ。
その生産拡大に融資されているお金は、ドイツの銀行から来ており、ドイツが世界から一人勝ちと言われるほどに稼いだお金に他ならない。
まさにそれは、自ら稼いだ金で自らの首を締めていると言っても過言ではない。
もちろんドイツの労働者の賃金が上がらないだけでなく、解雇に脅えなくてはならない理由も、一人勝ちと言われるほどに稼いだお金である。
すなわち莫大な利益で生産施設が東欧に造られて行き、底辺競争を激化させていくからだ。