(115)ドイツの今を考える。(10)自由民主党FDPの栄光と凋落が物語るもの

ドイツの自由民主党FDPが2009年の連邦選挙で14,6パーセントの得票率を獲得し、黒(キリスト教民主同盟)と黄色(自由民主党)の連立勝利宣言がなされた時、党首キド・ウェスターヴェレの顔は栄光に輝いていた。
しかしその直後の連邦議会ウェスターヴェレが「ドイツの脱原発は電力料金を上げ、原子力技術の研究を放棄させる。それは環境にも悪く、経済にも悪い。そして家庭に高い電力料金を持ち込むことは反社会的である」と述べ、原発運転期間の28年延長を求めた時からFDPの凋落が始まった。
確かにドイツの国民がシュレーダー政権で過激に新自由主義を推し進めた社会民主党に対する裏切りへの思いが強いなかで、戦後のキリスト民主同盟と社会民主党の二大政党における交互の政権で重要な楔の役割を果たしてきたFDPを選択したことは頷けるものであった。
しかしこれまで両政権に参加して、燻し銀のように国民利益を求めてきたFDPは、まさに奢れる者のように新自由主義のリベラルだけを追求した。
すなわち国民の暮らしよりも国益(産業利益)を優先させ、原発運転期間延長の実施だけでなく、実質的に社会福祉を切り捨てる小さな政府への転換を求めて、国民の失望だけでなく激しい反発をかった。
他方カメレオンの異名をとるメルケル首相は周囲の環境変化に巧みに合わせ、2011年5月の脱原発宣言、そして2012年6月の金融の自由競争を抑制する金融取引税法案決議に積極的に動き、世論調査キリスト教民主同盟の支持率を上げている。
そのような巧みな調整ができず、金融取引税にも頑なに反対したFDPの凋落は著しく、現在どの世論調査の支持率も3パーセントから4パーセントであり、連邦選挙では得票率5パーセント未満の政党には議席が与えられない規則から、現在の93議席を全て失うことになる。
現に2011年のブレーメン、メクレンブルク・フォアポンメルン、ベルリン、そして2012年のザールラントの各州選挙では相次いで5パーセントの得票率を割り込み、州議会の議席を失っている。
2012年1月5日の「ディ・ツァイト誌」2号の「FDPの危機・・・私たちはFDPを必要とするか?」で、ドイツの著名なジャーナリストであるベルンド・ウルリッヒの論旨を要約すれば、最早FDPはアナクロリズムで、経済政策だけでなく社会政策でも必要ないと断定している。
何故なら新自由主義の進展によって世界は脅かされ、キリスト教民主同盟でさえ社民主義で対処しているのに対して、FDPはリベラルに固執して世界が脅かされていることさえ認めようとしないからだと述べている。
このようにまさにドイツでは、戦後1949年の連邦議会創設以来ほぼ議会の第3党を維持してきたFDPがドイツの議会から消えようとしている。
これに対して日本では、シュレーダー政権の裏切りと同様な民主党政権の裏切りから、刻々と迫る衆議院選挙を前にFDPが栄光を掴んだように維新系(日本維新の会みんなの党等)への人気が高まっている。
このまま維新系の人気が高まっていけば、政権獲得も夢ではないだろう。
しかし維新系がリベラルのアナクロリズムの認識もなく、新自由主義推進による小さな政府を求めていけば、栄光の後にはFDPのような凋落が待ち構えていよう。
それは国民にとって不幸であるばかりか、カタストロフともなりかねない。