(122)日本デフォルトへの懸念

2012年の最後のブログは「ドイツが警鐘する安部政権」という題で書くつもりにしていた。
ドイツのマスメディアは、安部晋三の集団自衛権容認や敵基地攻撃論だけでなく、戦時中の強制慰安婦狩りを認める河野談話の取り消し強行論者であることを客観的に分析しており、単に著しく右傾化するだけでなく、いかに世界の平和にとって危険であるかを冷静に見ている。
たとえば12月17日の「南ドイツ新聞」では、来るべき安部首相を戦前の軍国日本を夢見る首相として懸念を表明していた(注3)。
また福島原発事故後、政官財だけでなく、学者やマスコミによる原子力ムラという利権構造が明るみにされたにもかかわらず、基本的には現在の原発政策維持を掲げた自民党勝利に対して、恐ろしい懸念を投げかけていた。
(ドイツのメディア報道は日本の原発政策に対して批判的であり、1995年の高速増殖炉もんじゅ」ナトリウム爆発事故では、「ナトリウム使用は安全面で制御できないというのが国際的な見解だ」と厳しく指摘してきた。事故翌日のZDFは、日本国民が平静であることを受けて、「あらゆる災害を避けられない運命として受け止めることに慣れている国民には、最も地震の多い地域にある50ヶ所の原発も怖くないのでしょうか」と、冷ややかに報道していた。)

また「金融緩和による2パーセントインフレターゲット」にも、ドイツのメディアは懸念を通り越して、総じて厳しく警告している。
(何故ならドイツは、第一次世界戦争後の戦争賠償で紙幣増刷という金融緩和政策を採り、歯止めがきかなくなり1兆倍というハイパーインフレの地獄を体験しているからだ。金融緩和政策とは、その場しのぎ麻薬もしくはマヤカシであることを経験を通して熟知しているからでもある。したがってドイツでは、天文学的に増え続ける負債から日本デフォルトをいずれ起きる既成事実として予測する専門家も決して少なくない。)

そのようなドイツから警鐘をタイトルとして書く予定を変えたのは、23日に放映されたNHKスペシャル「日本国債」を見てからだ(注1動画)。
この番組は、2010年11月のNHKスペシャル「862兆円 借金はこうして膨らんだ」(注2動画)が元大蔵官僚100人の証言録を検証およびインタビューで必死に再生への道を模索しいるのに比較して、日本国債の絶望的な綱渡り状況を描くことに終始していた。
2年前の番組を今見れば、現在の日本の状態がいかに絶望的であり、NHK制作スタッフが今回の「日本国債」では、警鐘を鳴らし続ける以外に描きようのない理由が理解できるだろう。
「862兆円 借金はこうして膨らんだ」では、まず1965年まで無借金健全財政で努力してきた日本の財政が、東京オリンピック後の不況で2000億円足りなくなり、苦渋の選択で国債を出さざろう得ず、「一遍麻薬を飲んだが、癖にならないようにしよう」と、当時の事務次官谷村裕の苦い戒め証言から始まっている。
それは戦後紙切れの山と化した軍事国債の反省から、二度と同じ過ちを繰り返さないためにも国債発行が禁止されていたからだ。
しかしその後の日本は谷村の戒めに反して、堰が切られたように国債による負債が増大していくのである。
官僚の1年限りの時限立法による国債発行の手口を学んだ田中角栄は、「日本列島改造論」を掲げ、官僚の大量国債発行反対を国民の要望である大幅な社会保障制度拡充を利用して突破したのであった。
すなわちこうして解かれた封印で借金王国の扉が開かれ、1975年に2兆円であった累積赤字国債は、76年には5兆円、77年には10兆円と倍々に増大していったのである。
この頃の大蔵省官僚は、「こんなことを繰り返していけば、ますます慢性患者になっちゃうから、この際起死回生の策として思い切った景気対策をやろうという思いつめた時期だった」と証言している。
そして番組は、打ち出されたのが借金による大規模な景気対策で、「高い経済成長を取り戻せば、税収が増え借金は返せる」という賭けに出たと述べている。
こうして翌年78年の福田内閣の予算では借金11兆円の大型予算が組まれ、以後同じことを繰り返し、日本の借金は現在の1000兆円を超えるまでに雪達磨式に肥大していったのである。
78年の予算編成をした長岡実事務次官(当時)のインタビュでは、「非常につらい感じであったけれど、だからと言って辞表を用意して、そんな予算は組めないという感じよりは、日本の国としてこういう時は無理をしなくてはならないという感じが強かったと思います」と語り、最早麻薬常習というネガティブな考えは消え、むしろ国債発行で日本の借金を克服するというポジティブな考えへの変化が垣間見られる。
そのようにして国債の大量発行は正当化され、悪循環を繰り返し、最早官僚の目には借金克服が絶望的に見えるようになった時、田沼耕治事務次官(平成10年から11年)は証言録で次のように述べていた。
「(日本経済は)本当にそれほどの危機だったのか。ここまでやらないと立ち直れなかったのか、正直いってよくわかりません」
そして証言録の最後は尾原栄夫主税局長(平成10年から平成13年)の「どうすればよかったのか、悪夢のように蘇るときがあります」という言葉で結んでいた。
しかし番組は民主党の「事業仕分け」が始まったこともあり、過去の検証を通してこの国の形を考えることを訴え、再生へのポジティブな希望が感じられた。

番組では1000兆円がどこに消えたか追求されなかったが、私のブログ34から41の「財政問題増税で解決できるか」でも書いてきたことであり、読み直してもらえば理解できるだろう。
すなわち日本列島改造で関連会社の土地買占めで巨万の富を築いた田中角栄を筆頭として、政治家、官僚、企業だけでなく、無数の公益法人、ファミリー企業など国債発行によるばら撒きに関与する巨大利権構造が、将来世代の1000兆円を喰い尽くしたと言っても過言ではない。
官僚や政治家は、あたかも国債発行が国民の社会保障を賄うには必要不可欠であったかのように主張するが、ドイツの充実した社会保障制度と比較すれば、高度成長による税収増だけで十分賄えた筈だ。

今再び、「高い経済成長を取り戻せば、税収が増え借金は返せる」という1978年以来の最早イカサマとも呼ぶべき賭けが、高らかに豪語されている。
そして安部政権のインフレターゲット開始で、円安が急激に進んでいる。
円安は輸出産業にとって願ってもないことであり、1400兆円もの預金がある国民にとっても、一時的には喜びを与えてくれるだろう。

しかし80年代末の日本バブル、そしてアメリカのサブプライムバブルを思い出して欲しい。
サブプライムバブルでは、“リスクのある住宅証券もリスクのない証券と組み合わせれば安全である”という多くのノーベル賞受賞学者を生み出した金融工学のお墨付きで、世界で6000兆円もの関連商品が売られ、結局破綻した。
したがって私には、現在の日銀増刷による際限なき国債購入、そしてインフレターゲットが追い込まれた国家のねずみ講に見え、「日本国債」番組の中でドミノ倒しが起きていたように、インフレターゲット開始で日本デフォルトの引き金が引かれたように思える。

少なくとも2013年は、インフレが加速し、海外投機家からの攻撃で日本デフォルトが起きないことを祈りたい。
日本がデフォルトすればIMF支配化におかれ、年金や社会保障費が大幅に削減され、新自由主義が究極的に望む夜警国家へと転落することは必至である。


(注1)「日本国債NHKスペシャル2012年12月23日
http://www.dailymotion.com/video/xw9zkr_yyyy_news?start=42
http://v.youku.com/v_show/id_XNDkyNDc2MTg4.html

(注2)「862兆円 借金はこうして膨らんだ」
http://video.fc2.com/ja/content/20120919YwvdSC7r/
http://veohdownload.blog37.fc2.com/blog-entry-8049.html

(注3) 17. Dezember 2012
Parlamentswahl in Japan Ruck nach rechts in die Vergangenheit
Ein Kommentar von Christoph Neidhart, Tokio
2012年12月17日
日本の国会選挙 過去の右への旋回
東京在住記者クリストフ・ナイドハルトからの報告
Konservativ bis stramm nationalistisch - bisher standen alle Regierungen Tokios rechts, doch sie haben sich zurückgehalten. Damit ist es nun vorbei. Der Wahlkampf der Siegerpartei LDP war vom bösen Ton und den Forderungen der Rechtsextremen geprägt. Und mit Shinzo Abe kommt ein Mann an die Macht, der von einem Japan der Vergangenheit träumt.
激しいナショナリズムに至るまでの保守主義―これまで日本の全ての政府は、控えめに振舞っているが、右に立ってきた。今やすでに通りこし、選挙勝者の自民党は悪しき響きで極右の要求を刻印した。過去の日本を夢みる安倍晋三が権力を握った。
Japan rückt nach rechts, noch weiter nach rechts. Schon bisher waren die Regierungen stets konservativ, die meisten sogar stramm nationalistisch - auch die jetzt abtretende von Premier Yoshihiko Noda. Aber all diese Kabinette haben sich zurückgehalten.
日本はますます右傾化する。これまで既に政府は常に保守であったが、野田首相の退任で大部分が激しいナショナリズムへ向かっている。しかし全ての閣僚は控えめに振舞っている。
Mit diesem Klima ist es jetzt vorbei: Shintaro Ishihara, der einstige Bürgermeister von Tokio, der den Inselstreit mit Peking im Alleingang vom Zaun gerissen hat, sagt auch offiziell "Shina", ein Schimpfwort, wenn er von China spricht. Er fordert Atomwaffen für Japan und scheut sich nicht, laut über einen kleinen Krieg mit der roten Volksrepublik nachzudenken. Zusammen mit anderen Rechtspopulisten hat er den bösen Ton und die Forderungen der Rechtsextremen in den Wahlkampf eingebracht - und damit salonfähig gemacht.
このような状況は、東京都知事石原慎太郎が北京政府と島の領有争いで専断で柵を裂き、公で中国を罵ることばである支那を使ったことでもたらされた。彼は日本の核武装を要求し、赤の人民共和国との衝突を公に考えることをはばからない。彼は他の大衆迎合者たちと一緒に選挙で極右の悪しき響きと要求をもたらし、それで作法をかなえた。
Seither kann Shinzo Abe von der Liberaldemokratischen Partei (LDP), Japans designierter nächster Regierungschef, endlich so reden, wie er denkt. In seiner erfolglosen ersten Amtszeit als Premier (September 2006 bis September 2007) hatte sich Abe noch nach China bequemt, um den Ausgleich zu suchen.
それ以来自民党安倍晋三は、彼が考えるように日本の内定した次期首相として語ることができるようになった。彼の最初の成果のない首相時代(2006年9月から2007年9月まで)においては、安倍は均衡を求めるために中国に順応していた。
Das ist kaum mehr vorstellbar.
最早それは考えられない。
Schon damals versuchte Abe, die Verfassung zu ändern. Ihr Paragraf 9 verbietet Japan jede Art Krieg, erlaubt ist nur die Selbstverteidigung auf dem eigenen Territorium. Abe will nicht nur diesen Friedensparagrafen abschaffen, er will auch die Menschenrechte beschränken und die Gleichberechtigung der Frauen streichen. Und in der Außenpolitik möchte er die sogenannte Kono-Erklärung widerrufen, mit der Japan eingestanden hat, dass seine Armee im Zweiten Weltkrieg Hunderttausende junge Frauen als Zwangsprostituierte aus Korea, China und Südostasien in Feldbordelle verschleppte. Kurzum: Der künftige Premier träumt von einem Japan der Vergangenheit.
既に当時も安倍は憲法を変えることを求めていた。憲法9条は日本にどのような戦争も禁じ、自らの領有における自己防衛だけを許している。安倍はこのような平和条項を削除するだけでなく、人間の権利を制限し、女性の平等権を削除しようとしている。そして外交においては、第二次世界大戦の日本軍隊は韓国、中国、東南アジアの何十万もの若い女性を強制的に娼婦として前線売春宿に連れ去ったという、そしてそれに関して日本が責任を持つという河野談話(*)を取り消そうとしている。すなわち来るべき首相は過去の(軍国)日本を夢見ている。

(*)河野談話の要旨(はてなキーワードによる)
慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。
本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。政府は、この機会に、改めて、その出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。(平成5年8月4日)

Keine nennenswerte Gegenbewegung
目立った反対運動はない
Die Regierungen in Tokio haben es bis heute versäumt, sich den Verbrechen gegen die Menschlichkeit ernsthaft zu stellen, die Japans Armee im Zweiten Weltkrieg begangen hat. Zwar haben mehrere Premierminister eher gewundene Entschuldigungen abgegeben, aber andere Politiker haben diese jeweils umgehend abgeschwächt.
日本政府はこれまで、第二次世界大戦での軍隊が犯した人間に対する犯罪を本気で向かい合うことを逸してきた。確かに過去の多くの首相は回りくどいお詫びを表明してきたが、他の政治家はそのつど即座にこれに異議を唱えてきた。
In den letzten Jahren erhöhten China und Südkorea den Druck auf Japan, es müsse seine üble Historie aufarbeiten. Zur Antwort flohen Japans Regierungen, die es seit zwei Jahrzehnten nicht schaffen, das Land aus seiner Dauerkrise zu führen, in den Nationalismus. Viele Wähler sind zwar empört über China, aber sie wollen keineswegs ein nationalistisches Japan.
最近中国と韓国は日本への圧力を強めており、これまでの歴史を徹底的に論究しなければならない。日本政府は20年前から国をナショナリズムの継続危機から抜け出せず、答を回避している。多くの選挙人は中国に対して怒っているが、彼らは決してナショナリズムの日本を望んでいるわけではない。
Eine nennenswerte Linke gibt es in Japan schon lange nicht mehr. Nippons Politiker erklären gerne, die Grundhaltung ihres Volkes sei eben konservativ. Sie haben dabei vergessen, dass es in der Nachkriegszeit starke sozialistische und kommunistische Parteien und eine wuchtige Studentenbewegung gab. Diese Linke hat sich nicht in Luft aufgelöst. Sie wurde einerseits unterdrückt und andererseits in den politischen Mainstream integriert und damit erstickt. Wie man heute weiß, half die CIA mit Geld, in Japan die Rechte an der Macht zu halten. Nur ein konservatives Japan ist eine zuverlässige Militär-Basis im Pazifik vor dem asiatischen Kontinent.
日本においては既に以前から言うに値する左翼は最早存在しない。国民の基本姿勢はまさに保守であると、日本政治家は好んで述べている。その際彼らは戦後激しい社会主義共産主義の政党があり、凄まじい学生運動があったことを忘れている。これらの左翼は雲散霧消してはいない。彼らは一方では弾圧され、他方では政治的本流に統合され、その結果圧殺されている。中央情報局CIAは日本で右派が権力を握るためにお金を支援したことを、今日知られていない。保守主義の日本だけがアジア大陸を取り巻く太平洋の信頼すべき軍事基盤であるからだ。
Nach Fukushima wurde deutlich, wie Atomindustrie, Wissenschaft, Politik und Leitmedien unter eine Decke stecken: das "nukleare Dorf" Japan. Die Kungelei beschränkt sich nicht auf die Nuklearpolitik. Die großen Medien sind abhängig von der Industrie, sie waren stets eng mit der Partei LDP verbandelt - so eng, dass sie nach dem Regierungswechsel 2009 von der "Opposition an der Macht" schrieben. Sie haben den - keineswegs linken - Demokraten von Premier Noda nie eine Chance gegeben. Eine Gegenöffentlichkeit entsteht in Japan erst allmählich.
福島原発事故以後、如何に原子力産業、学問、政治、マスメディアがぐるになってきたか、すなわち原子力ムラが明らかにされた。門閥主義は原子力政策を制限しない。大マスメディアは産業に依存しており、2009年の政権交代後、政権批判を書いてきたように、非常に密接に絶えず自民党と結びついている。彼らは、左翼ではない野田首相民主党にチャンスを与えなかった。公開とは反対のものが日本ではまさに徐々に進んでいく。

URL: http://www.sueddeutsche.de/politik/parlamentswahl-in-japan-ruck-nach-rechts-in-die-vergangenheit-1.1552360