(103)オルターナティブな小沢一郎論。(6)「国民の生活が第一」の反増税が支持されない理由

あくまでも小沢一郎が国民から支持されてきたのは、既存の組織をぶち壊そうと行動してきたからであり、その行動も田中康夫がマキャべリストと絶賛するほど迫力があったからだ。
2009年の小沢一郎の掲げた「国の総予算207兆円を全面組み換え」は、利権構造の肥大化の元凶となっている特別会計を一般会計と一本化して、税金の無駄遣いをなくす戦略であった。
具体的に掲げられた16,8兆円の削減は、国民の耳にも斬新に響いた。
しかし今退路を断って「国民の生活が第一」を立ち上げたにもかかわらず、新党のホームページには全く戦略がない。
事業仕分け」で副大臣が省庁弁護に徹し、殆ど機能しなかった現実を反省することなしに、ムダづかいの多い特別会計、政府関係法人の廃止と、官僚の天下りの全面禁止を再度政策に掲げるだけでは、折角ホームページを訪れた人も失望するだろう。
やるべき事が何故民主党はできなかったか、その反省を国民に明らかにし、反省に立ってどのように実現していくか、戦略が語られなければならない。
それは、子供の社会でさえ当然なこととしてなされていることだ。
民主党がやるべき事ができなかったのは、労働組織が政権獲得によって官僚組織、産業組織側にシフトしたからであり、民主党を離党した「国民の生活が第一」が戦略を打ち出せないのは、イーハトーボォの朴訥な小沢一郎が未だに官僚懐柔策で、徹底抗戦に踏み込めないからである。
それが世論調査による国民支持の低さであり(注1)、現在の統計学に基づく偏りのない母集団から引き出される調査結果は精度も高く、むしろ謙虚に受け止めるべきだ。
確かに世論調査では、小党7党の支持率を合わせても10パーセントに満たない。
しかし小党7党が「オリーブの木」のように力を結集し、小沢一郎の長年の念願であった大本営官僚支配政府解体を掲げれば、50パーセントにも上る無党派は雪崩を起こし、必ず奇跡は起きる。
奇跡が起きるのは、国民がそれを望んでいるからであり、そのためには実績のある田中康夫の力が必要だ。
田中康夫の長野県の奇跡は、県民が腐りきった長野県役人政府の解体を望んでいたからであり、最初から徹底抗戦で腐りきった役人政府を解体することで実現した。
そして田中康夫はあれだけ毎年増え続けていた赤字を、最初の年から黒字化し、6年間の知事任期期間で923億円も負債を減少させた。
それは、田中康夫の手腕と実績が限りなく大きいことを物語っている。
もっともそれが出来たのは、長野県でさえも財源が有余っていたからだ。
もちろん国の財源も、各省庁が財政の健全化を最優先すれば、有余っている。
例えば国土交通省であれば、5兆円にも及ぶガソリン税という莫大な財源があり、高速道路建設さえストップすれば有余るのである。
2003年の道路公団の民営化の際、国民は借金をつくらないガラス張りに開かれた公共事業を期待したが、結果はこれまでの道路公団のやり方を巧妙に焼け太りさせ、ガソリン税を担保に、最早維持管理でお荷物となる高速道路を永続的に建設できるようにした。
すなわち民営化される道路公団も形式に過ぎず、新会社は3つの高速道路企業と道路資産と借金を運営する「独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構」に分離され、この機構が資金の借り入れや返済の主導権を握ることになった。
そしてこの機構を支配するのは国土交通省であり、たとえ負債を増大させたとしても責任はどこにもなく、最終的に尻拭いさせられるのは国民に他ならない。
わかり易く言えば、赤字を生み出す道路公団では、高速道路建設で高収益を上げる117の直轄子会社やその下の多くのファミリー企業に対して国民の批判が強いことから、民営化と称して経営管理する新会社と借金を返済する機構への分割であり、複雑にすることで国民の視線を逸らし、国民の血税を喰い尽す利権構造を合法化したと言えよう。
このようなやり方はどこの省庁でも同じであり、地方の空港建設を加速させてきた空港燃料税、リニアや新幹線建設を永続させる新幹線使用料担保、農業土木を含めた公共事業の自由自在に引き出せる特別会計財源、原発建設を推進させてきた電源開発促進税、箱物介護施設などで湯水のように使われる社会保障費など、有余る財源がこの国を病ませていると言っても過言でない。
私自身母を介護するためデイセンターで実習して見ると、流れ作業のように画一的に対処されるために、対処できない一部のお年寄りは放置されていた。
入浴でも最初に陰部を棉で消毒し、寝たきりの人でも機械でテンプラのように入浴させていたが、本当にそれがお年寄りの手厚い介護になっているかを考えさせられた。
日本の年間社会保障費は2025年までに145兆円に達することが消費税増税の理由の一つになっているが、財源が足りなければ、民家のグループホームやヘルパーの各々のお年寄りに配慮した在宅介護、そして在宅医療で看取る無理のない方法を考えるべきである。
実際その方が、言葉では表現できないほどお年寄りの尊厳を尊重することになるのだ。

国を病ませている有余る財源を持つ予算は、国民の目にわかりにくいように国会で審議を必要とする一般会計(24年度90、3兆円)と複雑に重複する特別会計(24年度394,1兆円)で示され、重複部分を差し引いた国の全体予算228,8兆円と公表されている。
明らかなことは約50兆円が借金であり、たとえ消費税増税によって10兆円程の収入があるとしても焼け石に水である。
本当に国の財政を健全化するためには、子供でもわかることであるが、無駄遣いを止め節約することである。
既に国民の暮らしは2000年に較べて2割以上節約しているのであるから、国にできない筈はない。
そうしないのは官僚組織の肥大、利権構造の肥大が最優先されるからであり、記者クラブなどで既得権益を享受しているメディアも、本当の理由を追及しないからだ。
例えば今年7月の終わりに公表された各省庁の所管する公益法人では、毎年厳しく勧告されているにも関わらず57パーセントで競争入札がない。
それが天下り継続の理由だけでなく、負債肥大の糸口であるにも関わらず、メディアは踏み込んで全く追求しようとしない。
こうした現実を変えることができるのは小沢一郎しかおらず、「オリーブの木」で田中康夫の登用によってのみ切り開かれるのだ。
小沢一郎は、300小選挙区制という小党では勝てない桎梏をつくった。
その桎梏を解く鍵は、各小党が力を合わせることであり、小沢一郎はそれを一番よく知っている筈だ。

(注1)ヤフーやダイアモンド社の支持率が高いのは、無作為抽出の新聞などの世論調査とは全く異なるもので、いわば変わらない夢を見たがる者たちの投票であるからだ。残念ながら前者の支持率の高さは、選挙ではほとんど反映されない。
絶望的な選択肢しかないのであれば、そのような処し方もあろうが、六割を超える国民は奇跡を待ち望んでいるのだから、事実を真摯に受け止めるべきだ。