(82)脱原発を求めて。(12)原発巨大企業独シーメンスの完全撤退が物語るもの・・・世界から原発が消える日

昨年9月世界の原発巨大企業シーメンス原発からの完全撤退宣言は、福島原発事故の悲劇の後脱原発を願うものにとって希望の福音であった。
ドイツの市民日刊紙「タット」は脱原発を求める市民の視点で、「シーメンスの決定は本物の歴史的転換であり、心からの歓迎」という見出しで報道した(注1)。
またドイツの保守的大衆紙「ディ・ヴェルト」は窮地に追い込まれた企業の視点で、「シーメンス脱原発は不測の事態である」という見出しで報道し、これまでの共同者フランス原発巨大企業アレバに多額の損害賠償をしなくてはならない撤退を、無作法と指摘した(注2)。
すなわちシーメンスは、つい最近までフランスの原発巨大企業アレバと共同契約を結び、ロシア国営企業ロスアトムと提携して、世界中に原発を建設することを計画していたからだ。
原発からの完全撤退の理由は、福島原発事故後ドイツの脱原発への選択で政治的に、そして社会的にも脱原発への転換が開始され、最早原発にばら色の未来がないからだとしている。
そして将来の方向性としては再生可能エネルギーの実現であり、「ディ・ヴェルト」では具体的に企業代表の言葉として、“緑インフラ先覚者”として電気自動車、超効率ガスタービン、そして風力発電基での躍進を掲げていることを伝えている。
しかしこれらの報道では、世界のグローバル企業として世界の原子炉を製造し、原発ルネッサンスの狼煙を上げてきたシーメンスが、ドイツの脱原発への選択とはいえ、2000年にも脱原発宣言があったことから、余りにも早急な完全撤退の背景にある原因が見えてこない。
こうした疑問に対して、ドイツの行動的環境団体として名を馳せている“ロビン・ウッド”は(注3)、既に2009年の月刊誌2月号でシーメンス原発ルネッサンスに対して興味ある報告をしている(注4)。
シーメンスが描く原発ルネッサンスは、2030年までに世界で新たに400の原発が計画され、それをフランスの原発巨大企業アレバの後ろ盾でロシアの国営原発巨大企業ロスアトムと共同で建設し、燃料棒製造から古い原発の解体に至るまで原発産業のあらゆる分野を提供することであると述べている。
しかし現実的にはそのようなバラ色の狼煙とは裏腹に、原発産業が経済的に窮地に追い込まれている実情を解説している。
すなわち軍縮や2008年の金融危機でウラン鉱の開発は進んでおらず、原発ルネッサンスを実現するウラン供給は難しい。
また原発は安全性から建設費用が嵩み、廃棄物処分費用や事故の配備をすれば、国家の支援なくして経済的に成り立たない産業になっている。
事実フィンランドのオルキルオト原発3号機では、建設費用が爆発的に増加し、50パーセント以上の超過費用の負担を巡って、アレバ側(シーメンスも原子炉製造で資本参加)と発注側のTVO社(テオリスーデンボイム社・・民間電力会社)が裁判で争っている。
そして原発推進側も国の支援がなければ成り立たないことを認識し、その支援が年々難しくなっていくことを十分認識していると述べている。

世界の原発産業は既に福島原発事故以前にそのような状況に追い込まれており、福島原発事故シーメンスは最早国家支援が得られない中で継続すれば、私企業の命取りにもなりかねないことを綿密に計算して、完全撤退を選択したのであった。
それは裏返せば、莫大な利益が得られという原発ルネサンスを打ち上げることなくしては困難なほど追い詰められており、国の支援なくしては現在でさえもコスト面で風力発電天然ガスの熱併合発電に抜かれており、途上国での原発事故、原発テロ、原発核廃棄物処分費用を計算していけば、原発ルネサンスがいかに山師的な計画であるか自明である。

もちろん楽観的に脱原発を求めるのではなく、既に再三述べているように、以下の4つの事実を世界に拡げていくことが重要である。

1、途上国で建設される原発事故のリスク。
(民間保険会社で原発に保険を設定するところはない)
2、原発テロに無力。
(アラブゲリラが使用している持ち運びできるロケット砲は、2キロ離れた地点から5メートルのコンクリートを貫通することから、ドイツの連邦環境大臣レェトゲンも認めるように原発テロに無力である)
3、フィンランドとスエーデンの最終処分場計画はプロパガンダ
(研究者たちは地下水が湧き出していることから銅製キャスターが1万倍ほど早く溶出することを検証し、早期の地下水汚染がさけられないと報告している)
4、低放射線被ばくによる実際の膨大な被害と遺伝子変異の事実。

こうした事実認識が世界に拡がっていけば、原発ルネサンスがなくなるだけでなく、世界から原発が消える日も決して遠くない。
しかもそれは、益々現実性を帯びてきている。
何故なら、ドイツ、ベルギー、イタリヤ、オーストリー、スイスといつた脱原発国にとって選択した再生可能エネルギーの伸展こそが将来の命運を握っており、伸展を妨げる原発に対して必然的にこれらの事実を明かにしていくからだ。
既に日本の原子力ムラは、ドイツの公共放送ZDFフィルム「福島の嘘」を通して、その大本営とも言うべき嘘と隠蔽の事実が暴露され始めている。

(注1)日刊紙「タット」2011年9月18日
「Die Entscheidung von Siemens ist eine echte Zäsur
Willkommen in der Wirklichkeit!」
ジーメンスの決定は本物の歴史的転換であり、心からの歓迎
http://www.taz.de/!78318/
下に翻訳して掲載

(注2)大衆紙「ベルト」2011年9月18日
「Der Atomausstieg von Siemens hat seine Tücken」
ジーメンス脱原発は不測の事態である
http://www.welt.de/debatte/kommentare/article13611794/Der-Atomausstieg-von-Siemens-hat-seine-Tuecken.html
下に翻訳して掲載

(注3)行動的環境団体
http://www.robinwood.de/Energie.energie.0.html

(注4)2009年月刊誌2月号
http://www.robinwood.de/fileadmin/Redaktion/Dokumente/Magazin/2009-2/101-32-33-spez12-13-int.pdf


注1翻訳

Die Entscheidung von Siemens ist eine echte Zäsur
ジーメンスの決定は本物の歴史的転換である
Willkommen in der Wirklichkeit!
心からの歓迎
Es klingt wie eine Kapitulation vor den Atomkraftgegnern: Der größte deutsche Industriekonzern Siemens steigt komplett aus der Nukleartechnik aus - und der Vorstandsvorsitzende Peter Löscher begründet den Schritt explizit mit der "klaren Positionierung von Politik und Gesellschaft in Deutschland".
原発反対者には無条件降伏に聞こえる。ドイツ企業最大のジーメンス原発技術から完全に撤退する。企業代表のぺーター・レェシャーはドイツの政治と社会の明らかな位置づけで段階を踏まえて説明した
Eine Kapitulation ist die Entscheidung tatsächlich - aber weniger vor der gesellschaftlichen Stimmung in Deutschland, wo schließlich auch vor Fukushima keine neuen AKWs geplant waren. Sondern vor der globalen Wirklichkeit, die den von der Branche lange behaupteten Nuklearboom zunehmend unwahrscheinlicher erscheinen lässt.
降伏は現実的な決定である。ドイツの社会的雰囲気から殆どないのではなく、そこでは福島原発事故の前から新たな原発が建設されない、長い間主流であった原発ブームが益々非現実的に見えるグローバルな事実からである。
Die Atomkraftgegner haben vor diesem Hintergrund umso mehr Grund zur Freude. Die Entscheidung von Siemens ist eine echte Zäsur. Der Konzern hat sämtliche deutsche Atomkraftwerke gebaut, war wichtiger Partner des französischen Atomriesen Areva bei der Entwicklung neuer Reaktoren und wollte zuletzt mit dem russischen Staatskonzern Rosatom ein neues Joint Venture starten, um beim weltweiten Geschäft mit Atomkraftwerken dabei zu sein.
原発反対者はこうした背景から益々喜びの理由を持っている。ジーメンスの決定はまさしく転換である。ジーメンスは全てのドイツの原発を建設し、新しい原子炉の開発でフランスの巨大原発企業アレバの重要なパートナーであり、最近ロシアの国有企業ロスアトムと原発の世界事業に参入するために、新しいビジネスモデルを開始しようとしていた。
In der Vergangenheit haben die Proteste das Unternehmen nicht groß gekümmert. Solange mit schmutzigen Geschäften gutes Geld verdient werden kann, das zeigt sich in vielen Branchen, lassen sich Industriekonzerne von Kritik kaum beeindrucken.
以前は抗議は企業に大きく関与しなかった。汚れた仕事で沢山稼げれる限り、巨大企業は批判に左右されなかった。
Wenn Siemens als wichtiger Akteur der Atombranche nun eine Wende vollzieht, muss es dafür harte betriebswirtschaftliche Gründe geben. Der Rückzug zeigt, dass selbst Siemens nicht mehr an eine rosige Zukunft für die Atomkraft glaubt.
Diese Erkenntnis kommt spät. Schon vor Fukushima hätten die schlechten Erfahrungen mit den Neubauten in Finnland und Frankreich die Euphorie bremsen müssen. Dennoch hielt Siemens fest an der Erzählung vom weltweiten Neubauboom und den großen wirtschaftlichen Chancen, die dieser böte. Nach dem Fukushima-Schock denkt Siemens endlich um: Die angekündigten Reaktorneubauten waren oft Wunschdenken.
もしジーメンス原発分野のより重要な関係者として今転換を実現するなら、そのためには厳格に企業の経済的理由を与えなければならない。撤退は、ジーメンス自体最早原発にばら色の未来はないと思っていることを示している。この認識がようやくなされた。既に福島原発事故の前にフィンランドやフランスでの悪しき経験が、陶酔にブレーキをかけていた。しかしながらジーメンスは、世界的な新しい原発建設ブームの物語とこれらが提供する大きな経済的チャンスをしっかり保持していた。福島原発事故のショックの後で、ジーメンスは最終的に考えを一変した。すなわち予告した新しい原子炉建設は希望的観測となった。
Bei den erneuerbaren Energien hingegen ist der Konzern längst ein wichtiger Akteur, vor allem in der Offshore-Windkraft und bei solarthermischen Kraftwerken. Hier will das Unternehmen weiter wachsen. Eine gute Entscheidung: Anders als bei der Atomkraft sind die Branchenprognosen bei den Erneuerbaren bisher stets übertroffen worden.
これに反して再生可能エネルギーでは、ジーメンスは長期的に重要な担い手である。とりわけ洋上風力発電や太陽熱発電では。この分野ではジーメンスはさらに成長するだろう。素晴らしい決定。すなわち原発以外のものは、これまで常にひけをとってきた再生可能エネルギーの夢の分野である。

注2翻訳

Der Atomausstieg von Siemens hat seine Tücken 
ジーメンス脱原発は不測の事態である
Für Siemens ist der Ausstieg aus dem Atomgeschäft in wirtschaftlicher Hinsicht der richtige Schritt. Geschickt vollzogen wurde er aber nicht.
ジーメンスにとって原発事業からの撤退は正当なステップの経済視野からである。しかしながら手際よく実行されない。
So schnell ändern sich die Zeiten. Noch vor zwei Jahren wollte Siemens-Chef Peter Löscher ausgerechnet mit dem russischen Staatsunternehmen Rosatom Atomkraftwerke in aller Welt bauen. Er versprach sich davon Milliardengewinne. Nun verkündete er den atomaren Ausstieg seines Konzerns, der über Jahrzehnte im Nukleargeschäft tätig war. Die Begründung: Da in Deutschland die Energiewende eingeläutet wurde, kann auch Siemens nicht mehr im Atomgeschäft aktiv sein.
時代はかくも速く変化している。2年前はまだジーメンス企業代表ぺター・レシャーはよりにもよってロシアの国家企業ロスアトムと共同で世界中に原発を建設しようとしていた。彼はそれによって莫大な利益を約束していた。
それが今、彼は原発事業に数十年携わってきたジーメンス原発からの撤退を告げた。理由は、ドイツのエネルギー転換が始まりを告げ、最早ジーメンス原発事業をアクティブに推進できないからだ。
Löscher vollzieht damit einen klaren Schnitt, der allerdings nicht nur mit der Haltung der hiesigen Regierung zu tun hat. Seit Fukushima haben sich die Aussichten für Nukleartechnologie weltweit eingetrübt. Dem Image von Siemens kommt der Atomausstieg zupass. Schließlich hat Löscher den Elektrokonzern als „grünen Infrastruktur-Pionier“ positioniert. Er will mit Elektroautos, supereffizienten Gasturbinen und Windkrafträdern punkten. Da passt die Atomenergie nicht mehr ins Firmenprofil.
代表はそれ故、一般的なここの統治姿勢だけでなくしなければならない明確な転換を実行した。福島原発事故以来原発技術に対する見通しは世界的に暗雲に包まれている。脱原発ジーメンスのイメージにちょうど良い時にやって来ている。最終的に代表は巨大電機企業を“緑インフラ先覚者”として位置づけている。彼は電気自動車、超効率ガスタービン、そして風力発電基で点数を稼ぐことを望んでいる。
Teurer Fauxpas der Konzernspitze
企業首脳の非常に高くかかった無作法
Wie Löscher den Ausstieg vollzog, ist allerdings eher ungeschickt bis unglücklich zu nennen. So wurde die langjährige Kooperation mit dem französischen Areva-Konzern im Hauruckverfahren beendet. Damit sollte der Weg frei sein, um postwendend mit den Russen ins Geschäft zu kommen. Das rächte sich. Areva klagte wegen Vertragsverletzung und zwang so Siemens zu einer Strafzahlung von fast 650 Millionen Euro. Diesen teuren Fauxpas muss sich die Siemens-Spitze ankreiden lassen. Viel Geld für nichts, wenn man sich vor Augen führt, dass die mit aller Macht angestrebte Kooperation mit den Russen nun auch passé ist.
代表が撤退を実現したやり方は、むしろ一般的には災いに至るまでそつなく行われない。だからフランスのアレバ原発巨大企業との長い間の共同は大あわてで相手を配慮しないやり方で終えた。それで即刻ロシアと事業を起こすための計画がなくなった。それは報いを受けた。アレバは契約破棄で告訴し、ジーメンスに約6億5000万ユーロの罰金を強制した。このように非常に高くかかった無作法をジーメンスの首脳はつけで支払わなければならない。一生懸命努めたロシアとの共同が過ぎ去ったことに目を開けるなら、多大な金額ではない。