(205)ドイツメディアから考える今6・・原発ロビーの逆襲(2)・新自由主義の産み出すネズミ講モドキ

上のZDFフィルムで見るようにEUのエネルギー政策では、2020年の原発はキロワットあたり4400ユーロであり、素晴らしく安い理由で原発路線なのである。
一方太陽光発電のキロワットあたりの2020年のEU見積は1500ユーロであるが、原発が24時間稼働に対して太陽光が平均3時間照射であることから、原発コストと競争にならないように思える。
しかしこのフィルムが前回描くように既にベルリンでは現在1300ユーロに下がって来ており、2020年には現在の量産競争による値下がりスピードからして、現在の半分650ユーロ以下になることが当然予想される。
一方原発は専門家の最少の見積でも6000ユーロ+安全保証費用と最終処分費用であるが、6000ユーロと最低に見積もったとしても、太陽光発電の3時間稼働で比較すれば8分の1の750ユーロとなり、既に2020年の時点で太陽光発電の650ユーロより高い公算となる。
実際は太陽光パネルの耐用年数は20年以上であり、太陽光発電は設置費用以外ほとんど費用がかからないことから、家庭自家発電の太陽光発電はさらに安くなる(それ故ドイツの巨大電力企業は異常なまでに恐れ、次回述べるようにアンチ太陽光発電プロパガンダに専心する)。

それに比べ原発は、原発ロビーに関与しない専門家の全てが、安全性の強化、原発テロへの防備、さらには最終処分場費用で年々コストが高くなると指摘している。
すなわち原発産業はフィルムにもあるように、最早国家の莫大な助成金なくしては成立しない産業である。
それ故世界最大原子炉メーカーであったシーメンスは、ドイツが2011年脱原発宣言するや否や、フランスの巨大原発企業アレバやロシアの国有原発企業と提携して世界の原発を受注していたにもかかわらず、即座に全面撤退したのであった。
その後のシーメンス原発での莫大な違約金を支払ったにもかかわらず、2011年以降も好業績を続け、2014年も記録的受注を公表し、半分近くを占める環境関連製品製造、さらにはガス水道、交通などのインフラ整備で世界の未来に貢献する企業へと飛躍変身している。

しかしそれにもかかわらず原発が推進されるのは、原発が最強の武器に容易に転用が可能であり、一握りの人たちに富を産み出す中核産業であるからだ。
すなわち途上国や新興国では、全く財源がなくともベトナムやトルコで見るように原発建設ができるように、国家保証を通して財源が融資され、国民の支払う原発電力料金で賄われるからである。
私見を述べれば、まさにそれは原子力産業が新自由主義の産み出すネズミ講モドキであり、サブプライムに見る金融産業と合わせて、新自由主義の両輪である。
そこでは大部分の人たちに貧困での服従が求められ、事故での契約保証や原発テロ防御で秘密性が不可欠であることから、自ずと帝国へと変身していく。
最終的には大部分の人たちの命さえ無視されることから、恐るべき放射能汚染さえも問題視されない。
そうした恐ろしい新自由主義の悪夢に対して、ドイツのエネルギー転換は暗黒の未来を薔薇色の未来に変える希望だ。
それ故に、一握りの人たちの利益を代弁する原発ロビーの逆襲も激化し、巧妙に転換の失敗を目論むと言えよう。

このZDFフィルムでドイツ経済研究所のエネルギー学者クリスチャン・フォン・ヒルシュハウゼンは、EUの安く見積もられた原発コストを、間違ったファンタジーと指摘し、石炭火力発電所から出るCO2を地下に閉じ込めるCCTS(CCS)技術もフィクションと断言し、EUエネルギー政策を全否定している。
そしてラストでは、大連立政権誕生によって新しい環境大臣となったバルバラ・ヘンドリク(社会民主党SPD)が、エッティンガーによって巧妙に画策されたEUエネルギー政策に憤慨し、反対姿勢を貫いている。

それにもかかわらずこの後ドイツ政府は、次回掲載予定の『続原発ロビーの逆襲(5月20日ZDFフロンタール21放映の・・ブレーキが踏まれるエネルギー転換)』で見るように、ドイツ産業界、そしてブリュセルからの圧力によって急転回していく。
しかしそこでは公共放送ZDFだけでなく、シュピーゲル誌などのドイツメディアは急転回を激しく非難し、戦う民主主義を貫いている。