(222)ドイツメディアから考える今23・・医療の理想を求めて11(最終回)ドイツのホスピスから見えてくる日本再生 

私が暮らしていたベルリンでは、どの地区にも上のフィルムのような患者負担のないホスピスが住宅地に隣接していた。
これらのホスピスは医師抜きの看護師や介護士中心に運営され、周辺に暮らす会社員から裁判官に至る幅広い層の休日を利用したボランティアから成り立っていた。
ボランティアスタッフの主な役割は、身寄りが近くにいない亡くなる人たちの聞き手となって、看取りに奉仕しすることである。
確かにドイツでも競争原理最優先の「アジェンダ2010」が求められ、病院は患者工場と批判されるまでに新自由主義に脅かされていることも事実である。
しかしそのような人間の幸せを無視する経済利益最優先に、公共放送ZDFやARDの激しい批判もあって、多くの市民は現代医療を過信せず、自宅で亡くなることやホスピスで亡くなることを求めている。
それ故緩和ケアチームが急増しているだけでなく、現在2000近いホスピスでは足りないため、倍増に向けて動き出している。
日本のホスピスは治療を行わないことがホスピスの原則であるにもかかわらず、医師が不可欠であり、病院認可なくして保険が適用されないため、ドイツのホスピスとは全く異なったものとなっている(確かに抗がん剤治療は最早行わないが、それ以外の診療治療と検査で明け暮れ、それ故保険請求の医療費も1日5万円もに達している。もっとも日本にも山谷に在宅型のホスピス「きぼうのいえ」があるが医療保険からの補助がないことから、入居者に支払われる生活保護費で賄っているが、現実は毎年大きな赤字で教会などの寄付で遣り繰りしている)。
しかも病院のホスピスは患者負担が個室差額費用などで著しく大きく、環境もその多くが都会のビルに集中し、心安らいで最期を過ごす環境にない。

ドイツのホスピスから見えてくる日本再生 

現在の安倍政権では「地方創生」を掲げ、地域の創意工夫による財源配分で地域再生を実現しようとしている。
しかしこれは1988年の「ふるさと創生(一億円)事業」の焼き直しであり、TPP自由貿易協定に向けての規制緩和で益々沈下していく地域に対して、最早政府に打開策がないことから、地域に丸投げのバラマキ以外の何者でもない。
1988年を思い起こせば、サッチャーレーガン新自由主義規制撤廃による競争原理最優先)が1980年代の中曽根政権によって推進され、地域がゼネコンや巨大スーパーによって中央支配されるだけでなく、バブル崩壊の始まりで夕張のように地域破綻に向かって沈み始め、政府に地域再生の打開策がないからであった。
何故なら、規制撤廃で競争原理を最優先する新自由主義政策自体が地域破綻の原因であるからだ。
ドイツやフランスのように競争原理を最優先するリスボン戦略採択まで豊かであった地域さえ、地域を守るルールなくしては一溜まりもなく、昨年のEU議会選挙で地域関税の復活を掲げる極右政党がフランスで第一党になった理由は、まさに地域が危機に瀕しているからに他ならない。
日本においても本質的にはTPP自由貿易協定であらゆる規制を撤廃しようとしており、その見返りとして一時的線香花火の如き地方創生が叫ばれているに過ぎない。
その結末は地域破綻であり、医療費破綻であり、さらには財政破綻であり、大部分の国民を困窮させることは必至である。
しかし多国籍化したグローバルな巨大企業は、いずれ来る財政破綻をむしろ経済チャンスとする備えさえできていると言っても過言ではない。
何故なら、1200兆円を超える負債という財政危機にもかかわらず、法人税引き下げだけでなく、あらゆる部門で助成支援を益々無心しているからだ。
それ故本質的に日本を再生するには、そのような巨大企業の利益を最優先する政策から、人間の幸せを最優先する政策へ転換しなくてはならない。
そうすれば、地域再生や財政健全化だけでなく脱原発(注1)、さらには自ずと理想とする医療も見えてくるだろう。
ここでは具体的にホスピスに絞って書けば、日本のホスピスもドイツのように医師抜きで(外からの往診)、看護師と介護士中心に運営できる患者利益最優先の簡易施設にすれば、現在のように保険医療費だけで1日5万円を(実際はこれに加えて平均1万5000円ほどの個室料金負担が必要)10分の1ほどで十分賄うことが可能である。
しかも患者が心安らぐホスピス環境は、過疎化で益々自然景観が復活する地域が望ましい。
故郷から出てきた大部分の人たち、さらには故郷のない都会人の多くが、費用負担のない地域ホスピスで最期を過ごすことが慣習化されれば最大の永続的地域再生へ繋がる筈だ。
尚、医療の理想については既に(217)で書いているが、最後に「孤独死こそ理想の死」と断言する中村仁一医師の講演動画『自然死のすすめ』を載せておくことにする。次週からはドイツの教育フィルムを載せる予定にしている。


(注1)現在日本では、地域創生の一つの原動力とのなりつつある太陽光発電の道にブレーキがかけられようとしている。原子力ムラの専門家たちは太陽光発電は不安定だと断言し、それにメディアも追従している。2010年ドイツの原発運転期間延長された際ドイツのメディアは、原発再生可能エネルギーの架け橋となるウソ、太陽光発電風力発電が不安定であるというウソを政府機関の専門家を登場させて検証した。原発1基の電力は約100万キロであり、稼働されれば24時間絶えず100万キロワットの電力が製造され、そこには再生可能エネルギーの入り込む余地がなく、架け橋どころかブレーキ以外の何者でもない。
ドイツのエネルギー転換では太陽光発電風力発電ができない時間帯は、CO2発生の少ない天然ガス火力発電が補うことから成立ている。そして2050年までには、地域で有余る再生可能エネルギーが地域で充電できる技術開発によって、再生可能エネルギー100パーセントのエネルギー転換が可能であることを、連邦環境省は膨大な資料で公表している。
明らかに日本の太陽光発電ブレーキの裏には、原発再稼働だけでなく原発推進復活の目論見と原発ルネッサンスによる海外への売込の野望がある。中東への売込には軍隊で守ることが欠かせられないことから、集団的自衛権容認で平和憲法を葬り去ることが求められていると言えよう。
現に2012年から始まった買取制度による太陽光発電は既に原発9基分の895万キロワット製造に達し、さらにその6倍が予定されており、これを容認していけば、最早高いコストでトイレなき恐ろしく危険な原発が不要になりかねないからである。