(223)ドイツメディアから考える今24・・『競争教育に耐えられない生徒たち3−1』・ドイツの新自由主義教育(1)

ドイツの公共放送ZDFは2008年放映の『細い肩への重荷(ターボアビでの高校生の酷しい日常)』から今回取り上げた2014年の『競争教育に耐えられない生徒たち』に至るまで一貫して批判的姿勢を貫いている。
このフィルムに登場する3人の女子生徒たちは、競争教育に耐えられず頭痛、腹痛、不眠、さらには燃え尽き症候群ウツで苦しんでいる。
それに対してフィルムに登場するエリート男子生徒は、「成績は非常に重要だと思います。それは家庭でも早くから吹き込まれてきました。でも成績は、例えばテストで良いとき楽しみでもあります」、またもう一人の男子生徒は「人生はまさに今成績にあります。何故ならこの社会が求めているからです。この社会の中心であろうとするなら、それに適合させるべきです」と、当然のように述べている。
しかし今回のフイルムで登場する母親は競争教育に批判的である(ミアの母親に関しては今回載せたフィルムでは描かれていないが)。
それは、2008年フィルムの競争教育に苦しむ3人の生徒たちの2人の親が子供の将来のためには仕方がないと容認し、自動車送り向かいなどで必死に支援している姿と対照的であり、ドイツ社会の変化を映し出していると言っても過言でない。
すなわちドイツは過度な競争教育に批判的になって来ている。

ドイツの新自由主義教育(1)
ドイツの新自由主義教育はシュレーダー政権(1998〜2005)の教育における競争原理強化から始まっている。
それまでのドイツの大学は4年間の小学校、9年間のギムナジウムを経て、他の先進国と異なり1年遅く19歳で大学に入学していた。
しかもドイツの大学は試験がほとんどない代わりに卒業するためには、論文作成に少なくとも2年間を必要とする国家試験に合格しなくてはならず(人文学部はマギスター試験、理工学部や経済学部はデプローム試験)、卒業には平均7年を要していた。
またドイツの大学は各々大学による入学試験がなく、それに代わる大学入学認定試験(アビトゥ)は各ギムナジウムに任せられており、そこでは知識量より批判考察力が求められていた。
さらにドイツはマイスターの尊重される社会が制度的に築かれて来たことから、4年制小学校の生徒の3分の1近くが、マイスターを育成するハウプトシューレ(職業学校)に進学したものであった。
すなわちシュレーダー政権以前の教育はそのような教育制度の中で、競争よりも連帯が優先されていた(競争も重要であるが、皆で教え合いながら学ぶ連帯がより重要であるとされて来た)。
それ故小学校からギムナジウムに至る生徒たちは授業が午前中に終わり、午後からは地域の運動クラブでたくましく過ごし、現在の生徒のように頭痛や不眠で悩む声はほとんど聞かれなかった。