(224)ドイツメディアから考える今25・・『競争教育に耐えられない生徒たち3−2』・ドイツの新自由主義教育(2)

今回は、朝起きられず腹痛を訴える10歳のミアの窮状から始まる。
ミアの母親は最早限界であることを悟り、娘を救う決断を述べる。
病院に入院していた15歳のイルカが家に退院してきて、母親や姉はイルカを気遣い休息を求めるが、遅れを感じているイルカは翌日からの登校を主張し、家族はそれを見守るしかない。
優等生の14歳のレアも自ら、余りにやることが多すぎ、よく眠れず、気力の限界を訴えている。
レアの母親は自ら燃え尽きて職場を辞めた苦い経験から、娘が燃え尽きる前に専門家に見せようと考えている。
また冒頭のミアの母親は二言語併用の8年制ギムナジウムから、ドイツ市民の批判を浴びてフランクフルト市では9年制に戻ったギムナジウムへの転向を考えてベティーナシューレを訪れる。
今回のフィルムからは、新自由主義教育に耐えられない生徒の親たちが、成績などかなぐり捨てて懸命に愛する子供を気遣うポジティブな姿勢が見えてくる。

ドイツの新自由主義教育(2)
上のフィルムに登場する3人の女子生徒たちは、まさにシュレーダー政権から加速した新自由主義教育で育ち、フィルムが伝えるように大学の研究調査ではドイツ生徒の3割が頭痛、腹痛、不眠などを訴えている。
重要なことは、従来のドイツの連帯を優先する教育から競争を優先する教育に変わったことである。
すなわち、社会に奉仕する教育から産業に奉仕する教育へと大転換したのであった。
そこでは大学までの13年の中等教育が12年に変化し、アビィートゥアが統一試験となり大学入学認定の共通試験の色彩を帯び、大学も有償化が求められただけでなく、バチュラー制度へ変化し短期に卒業して産業に奉仕することが求められた。
しかしドイツの新自由主義教育への傾斜が、2008年の世界金融危機を契機に変わり始めている(すなわちドイツ市民は競争原理を最優先する新自由主義が人間を不幸に導くことを悟り始めている)。
例えば大学授業料の有償化(半期ゼメスター500ユーロほど)が2006年からバイエルン州バーデン・ヴュルテンベルク州ザクセン・アンハルト州、ザーランド州、バイエルン州ザクセン州で始まった際は、全ての州で有償化に向けて動き出していた。
それ故ドイツの多くの市民は、大学が有償化することで基本法に定める教育の機会均等が実質的に損なわれるだけでなく、米国のように自ら生徒を選抜する第一歩を踏み出すと同時に、戦前のフンボルト大学のようなエリート大学を生み出すことを懸念して反対した。
そのため2008年ヘッセン州選挙で大学の有償化が問われ否定されると、有償化していた全て州で順次州選挙で否定されて行った。
すなわち残っていたバイエルン州も2014年の冬期ゼメスター終了で無償化に戻り、最後に残ったニーダーザクセン州も2015年の冬期ゼメスター終了で、ドイツの大学授業料は以前のように完全に無料になる。