(225)ドイツメディアから考える今26・・『競争教育に耐えられない生徒たち3−3』・ドイツの新自由主義教育(3)

最終回のフィルムでは、ハンブルクの優等生レアはカウンセリングを受けることで気が楽になり、お洒落な洋服を選んだりダンスを習うことで、慢性的頭痛から解放された表情からは笑みさえ垣間見られる。
また4週間も病院に入院していたボンのイルカは、余りにも自らにナイーブに没頭し、没頭しすぎて燃え尽き症候群に陥ることから、母親が絶えず休憩のブレーキをかけ、本人もそれを何とか認めれるようになったことから、学校生活も落ち着いて来ている。
さらにフランクフルトのミアも、私立の二言語併用の8年制ギムナジウムから9年制に戻った公立へ転学するを決めることで、既に殆どの教科が既習されていることもあって、表情が生き生きとしてきている。
そしてこのZDF37度の制作チームは、こうした病める生徒たちには、学習、意欲、生きる喜びのバランスが重要だと訴えている。

ドイツの新自由主義教育(3)

ZDFがラストで訴えた学びのバランス重視の教育こそ、90年代以前のドイツの教育であった。
そのような理想的ドイツの教育が現在の競争原理優先の教育に転換されたのは、
ドイツ統一を契機にDDR東ドイツ)の莫大な財を求めて襲来した新自由主義に他ならない。
1994年には刑法104条e項を改正させ、それまで昼食の招待さえ厳しく罰したドイツも大半の政治汚職が合法化された(議決に対する便宜のみが有罪)。
国益を最優先するという名目で、300人にも上る大企業代表が相談役として連邦議会の出入りを許され、さらに3000人にも上る企業ロビイストがフリーパスで連邦議会に出入りするようになり、ドイツの政治は新自由主義の産業に支配されて行った。
しかもそれを過激に推し進めたのは皮肉にも社民党政権のシュレーダー首相であり、ハルツ法でこれまで築き上げてきた労働者、そして市民の権利を根こそぎにした。
具体的には手厚い失業保険の給付が労働意欲を削いでいるとして、32ヶ月の給付から12ヶ月の給付へと大幅に短縮された。
また全国にある雇用局は「ジョブセンター」に改編され、失業の届出を厳しくすると同時に、ジョブセンターで紹介された就労先を専門職でないという理由などで拒否することができなくなった。
さらに2005年1月に最後に施行されたハルツ第4法によって、それまで失業保険期間を過ぎても専門職が見付からない場合、無制限に前の職場での総収入の57パーセント(保険期間中は子供世帯で67パーセント)が失業扶助されていたが、そのような手厚い扶助がなくなり、「失業扶助」と生活保護にあたる「社会扶助」を「失業給付2」として一本化した。
しかも「失業給付2」は預金などが当局によって資産査定と称して自由に調べられるようになっただけでなく、給付額も激減された(住宅手当などを除き旧西ドイツ州では月345ユーロ、旧東ドイツでは月331ユーロ)。
このような恐怖のハルツ第4法によって、ドイツの市民の暮らしは一気に質が低下しただけでなく、これまで豊かであったドイツ市民も8人に1人が相対貧困者へと没落した。
まさにそのような背景の下で、ドイツでも産業に奉仕する新自由主義教育が求められて行ったのであった。

しかし現在のドイツは金融危機、さらには脱原発によるエネルギー転換を通して、世界経済を支配している新自由主義に一線を画そうとしている。
そうした姿勢の変化が教育にも見られるようになってきており、今回載せたZDF37度フィルム『競争教育に耐えられない生徒たち』では母親たちの姿勢に節々で感じられた。
また社会的にも、私がドイツで暮らしていた2009年頃は実質的に最低賃金は時間給5ユーロを割っていたが、2015年1月から導入される時間給8,5ユーロ(約1200円)の法定最低賃金制度は新自由主義見直しのバロメーターでもある。