(182)世界を変えるドイツのエネルギー転換(最終回)・・・日本のエネルギー転換は可能か


市民の屋根だけでなく緑地には太陽光パネルが敷き詰められる電力自給の未来も近い。

2011年在ってはならない福島原発事故を引き起こした日本は、二度とこのような悲惨な事故を起こしてはならないという国民の思いが脱原発原発ゼロ)社会へと結集されていた。
それゆえ国際環境団体のグリンピースは、2011年9月に日本の脱原発を実現する『自然エネルギー再生可能エネルギーと同義)革命シナリオ』を発表した(注1)。
そのシナリオによれば2012年に全ての原発を停止し、不足分は天然ガス発電と省エネの徹底で補い、太陽光発電風力発電などの自然エネルギーを全量買取制度で飛躍的に増大させ、2020年までに43%を実現する(2050年には自然エネルギー85%を達成し、二酸化炭素を1990年比で87%削減する。省エネは2007年比で49%削減する)。
また国際自然保護団体WWFも2011年11月には『脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案〈最終報告100%自然エネルギー〉』を発表した(注2)。
WWFのシナリオは原発即時停止のグリンピースのシナリオとは異なり、原発停止を40年使用期間終了に合わせ段階的実施し、2030年代末に実現するものであり、自然エネルギーの割合も2020年までに20%と緩やかな実現である。
しかし徐々に加速し、2050年には自然エネルギー100%を実現し、二酸化炭素排出量もゼロを実現する(省エネは2008年比で52%削減する)。

この際の民主党政権は消費税などで国民との公約を裏切り続けたが、全国11箇所の意見聴取会や討論世論調査で圧倒的に脱原発が求められ、約9万件のパブリックコメントでも87%が脱原発を望んだことから、「2030年代原発ゼロ」方針を採った。

しかし安倍政権では国民の代表という名目の有識者による経済産業省の審議会で、この12月6日に原発ゼロ方針を180度転換し、原発維持を鮮明にするエネルギー基本計画案を採択した。
そこでは、敢えて原子力発電を「基礎となる重要なベース電源」と明言し、欧米先進国の良識に立てば廃止すべき核燃料サイクル政策にもゴーサインを出した。
このような原発継続宣言の最大の理由は、「原発の電力コストが最も安い」という主張であるが、トリック以外の何者でもない。
これは安倍首相が9月7日にIOC総会での、「皆さんに約束します。原発の状況(福島原発の汚染水)はコントロールされています」発言(注3)と同じ類のトリックである。
12月1日に放送された、NHKスペシャル「汚染水 〜福島第一原発 危機の真相〜」で見るように(注4動画)、汚染水クライシスは最早国民の誰もが知るところであり、東京電力さえお手上げ状態の危機である。
同様に「原発の電力コストが最も安い」という主張も、現在でさえも実際のコストを検証すれば(注5)天然ガスなどに比べて遥かに高く、2020年までには日本においても現在のドイツのように風力発電太陽光発電原発電力より遥かに安くなることは目に見えている。
それはドイツでは1キロワットの太陽光パネル設置費用が今年に入り1700ユーロ台に下がって来ており、液晶パネルの値下がり加速スピードから類推すれば、2020年には10分の1になることも十分予想されることであり、現在の1キロワット時8,5セント(20年間費用回収計算)も0,85セントになることも決して夢ではない。
そうなれば日本においても1キロワット時僅か1円で電力自給ができるようになることから、数十円もする電力を購入する家庭、そして企業はなくなるだろう。
そうしたエネルギー転換こそが、日本、そして世界を変える唯一の希望である。
何故なら、現在の日本は新自由主義進行の流れに歯止めがかからず、情報の全権委任法とも言われる特定秘密保護法案が世論を無視して決議され、大本営時代に突入しようとしているからだ。
もっとも私自身は、日本が緯度の高いドイツより太陽光発電条件で遥かに優っており、また海に囲まれた日本は風力発電条件でも優っており、さらに日本国土の3分の2が森林で覆われ年間2000万立方メートルの未使用間伐材の余ることから木質バイオマス発電でも優っており、日本のエネルギー転換を確信している。
とは言え、それをあくまでも妨害するのが、原子力発電を“基礎となる重要なベース電源”とする原発重視政策に他ならない。

しかし私には、日本の大部分の地域が太陽光発電でエネルギー自給する、積雪の多い地域は風力発電や木質バイオマスでエネルギー自給する地産地消の力強い地域分散型社会の風景と同時に、世界のそのような平和で豊かな地域社会の風景が見えて来ている。



(注1)グリンピース『自然エネルギー再生可能エネルギーと同義)革命シナリオ』
http://www.greenpeace.org/japan/ja/campaign/energy/enelevo/


(注2)WWF『脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案〈最終報告100%自然エネルギー〉』
http://www.wwf.or.jp/activities/2011/11/1027418.html

(注3)さらにIOC委員からの懸念する質問に対して以下のように答えている。
「(汚染水問題は)結論から言って全く問題ない。事実を見てほしい。汚染水による影響は福島第1原発の港湾内の0.3平方キロメートルの範囲内で完全にブロックされている。
 近海でモニタリングしているが、数値は最大でも世界保健機関(WHO)の飲料水の水質ガイドラインの500分の1だ。日本の食品や水の安全基準は世界で最も厳しい。健康問題については、今までも現在も将来も全く問題ないと約束する」(9月8日毎日新聞

(注4)動画 http://www.dailymotion.com/video/x17v52l_nhkspecial-osensui-fukushimadai1genpatsukikinoshinsou_news#from=embediframe

(注5)塩谷喜雄「本当の原発発電原価を公表しない経産省・電力業界の詐術:新潮社ニュースマガジン」より以下に抜粋。
http://www.jiji.com/jc/foresight?p=foresight_7601
「この数字がいかに現実と乖離しているかは、電力会社自身が原発の設置許可申請の時に、経産省の電源 開発調整審議会(現・電源開発分科会)に提出した資料を見ればよくわかる。それによると、日本の主要な原発の1kWh当たりの発電原価見積もりは、「泊1 号機17.9円、女川1号機16.98円、柏崎刈羽5号機19.71円、浜岡3号機18.7円、大飯3号機14.22円、玄海3号機14.7円」となって いる。5.3円なんて原発はどこにも存在しない。
比較的原価見積もりが高い原発を列挙したが、1kWh当たりのコストが10円を切っている原発が2つだけある。大飯4号機の8.91円と、玄海2号機の6.86円である。それを考慮しても、どこをどうやったら、日本の原発の発電原価が5.3円などと言えるのか。
きっと原子力利権ムラの提灯持ちたちは、こう言うに違いない。「電調審への申請数字は、初年度の原価見込みか、16年の法定耐用年数運転を前提にしたもので、40年耐用のモデル試算は別物で、比較しても意味はない」と。
それでは、現実の原発コストとは何の関係もないモデル試算を、何のためにはじき出したのか。その理 由を経産省電事連には聞きたい。原発は安いという架空のイメージを植え付けるだけでなく、本当は原発が他の電力に比べて圧倒的に高い「孤高」の電源であ ることを、ひた隠すためのプロパガンダではなかったのかと。
2003年のモデル試算には、核燃料サイクルのコストは全く反映されていない。その後、さすがにま ずいと思ったのか、経産省核燃料サイクルやバックエンド(放射性廃棄物の処理・処分)の費用を、少しは組み入れた。しかし、高速増殖炉の開発・運転費用 や、再処理を委託した英仏からの返還廃棄物の関連費用などは除外し、廃炉費用も極端に安く見積もっている」