(136)タイタニック日本とならないことを願って(1)ドイツメディアが伝える沈み行く日本

現在の日本は景気だけに限って見れば、インフレターゲットを掲げる安部政権の誕生による急速な円安で、輸出企業が息を吹き返し、株価の高騰で80年代のバブル期初期の高揚感さえ感じられ、内外の多くのメディアは不沈日本丸復活にエールを送っている。
しかしドイツメディアはこうした日本の動きに批判的であり、日本に警鐘を鳴らし続けているように聞こえる。
しかし日本の不沈を豪語する安部政権は警鐘には全く耳を貸さず、逆に日銀支配と原発の新設を含めた再稼働で乗り越えようとしている。
そこには、不沈タイタニックが予定より1カ月遅れ流氷が増えていた悪環境(負債が肥大する悪環境)で出航し、そして2度に渡る氷山警告にもかかわらず減速もせず航行し、氷山に接触し沈没した恐ろしい姿をオーバーラップせずにはおられない(下の動画)。


そうしたなかで私自身は無力さを感じ得ないが、それでも尚タイタニック日本とならないことを願って、再び一つ一つ検証していきたい。
ドイツのシュピーゲルオンラインは、2012年12月17日のインフレターゲットを掲げる安部政権誕生に、「これまでの財政危機に対処するため新しい借金で」と、戸惑いを隠せない表現で批判していた(注1)。
もっとも日本では、負債返済のための新たな借金という冒険的賭けにでるやり方は1978年以来常道手段でもあり、一度も成功したことがないにもかかわらず、ばら撒かれるお金で麻薬のように一時的に景気が回復することから、メディアを含めて日本社会全体で容認されてきたことである。
しかしこのような“皆で渡れば怖くない”式の容認に対してドイツメディアは総じて厳しく、ドイツで定評のあるフランクフルター・アルゲマイネ・ツァイツトゥング(FAZ)が、2013年1月30日の「日本は負債息が何時尽きるか?」という記事で、運命の年は2018年頃に訪れるだろうと引導を渡していた(注2全文訳掲載)。
その背景には、ドイツが昨年のギリシャやスペイン、イタリアの金融危機で一貫して財政規律を求めてきたことからもわかるように、お金を大量に印刷して一時的にその場を凌ぐ金融緩和政策に批判が強いことに加えて、日本が急速に老人大国に突き進むからでもある。
その結果数年以内には日本の国家負債額が国民の金融資産(現在1400兆円ほど)を上回り、財政困難に陥っていくだろうと、FAZは主張しているのだ。
そうしたドイツから視点でアベノミックスを見れば、その政策は新自由主義の教義に基づくものであり、中曽根新自由主義政権、小泉新自由主義政権を踏襲しているだけで、目新しいことは日銀支配で大量にお金を増刷し、日銀が積極的国債を購入することで、意図的に円安とインフレを導こうとしていることだ。

4月4日の日銀黒田総裁の「現時点で必要な措置はすべて講じた」という金融緩和政策フル稼働宣言は確かに大きなインパクトがあり、このところ停滞していた円安を大きく前進させた。
しかしフル稼働宣言せずにはジリ貧に追い込まれる裏返しでもあり、すべての措置が出尽くしたことから、また100円を超える円安は世界各国の通貨戦争を招くことから、さらに日本国民の大半も電力料金の4月からの約1割値上で家計が苦しく、これ以上のインフレ値上げを容認できないことから、アベノミックスは「美しい日本」を目標に掲げた前回の安部内閣同様に急速に求心力を失っていくと思われる。
しかしそれだけではタイタニック日本の破局を防ぐことは最早難しく、破局を避けるためには、健全な財政規律と未来進路へのビジョンを早急に確立しなくてはならない。
そのためにも、次回から現在の日本の病根を具体的に検証し、ドイツの視点から根本的な処方箋を提言していきたい。

(注1)2012年12月17日シュピーゲルオンライン
http://www.spiegel.de/wirtschaft/japan-setzt-auf-einen-kurswechsel-unter-shinzo-abe-a-873388.html

(注2)2013年1月30日フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイツトゥング(FAZ)
http://www.faz.net/aktuell/finanzen/devisen-rohstoffe/staatsanleihen-wann-geht-japan-die-schulden-puste-aus-12044840.html#Drucken (下に訳文全体を掲載)

「日本国債・・何時日本は負債で息が尽きるのか?」

日本は非常に重い負債荷重で喘いでいる。数年以内には財政困難になるだろう。さもなくば他のもの同様にそれを外国に転嫁することを求める。

日本は来年度予算の民間投資で、全体の新たな借金は下がるけれども、記録的高いタイトルをうるだろう。国内総生産240パーセント国家債務を考慮すれば、それは当面殆ど驚くことでない。日本は国家財政に個人預金を必要としている。
これまでは金融市場において日本の財政破綻の疑惑はほとんどなかった。10年間長期国債利回りが0,75パーセントと記録的に未だに低い水準にある。しかしながらクレジット・デリバティブ保険(CDS)の市場で微かな心配が引き起こり、それ以来国家債務の終局にたいいする認識が増している。

懐疑はまだ少ない

2007年4月に底の3,75スプレッドの5年ものドル建て国債CDS価格が、2011年9月には147スプレッドに跳ね上がり、その後半分ほどに下がり、現在は76スプレッドである。それはドイツのスプレッドより明らかに大きいが、インドネシアに較べて半分ほどであり、スペイン国債CDSに支払われる額の3分の1にすぎない。
まだ懐疑は小さいが、疑惑はますます大きく拡がっている。日本投資家の高い需要によって利子額が低く保たれている日本モデルは長くは続かないだろう、と述べるドイツ2位のコメルツバンクのアナリストのラルフ・ゾルベンは、遅くとも10年以内に日本の投資家は、国家負債だけに融資するための十分な資産を利用出来なくなると最近書いている。

個人金融資産は急速に枯渇していく

新しい安倍首相が極めて大きい景気刺激政策で経済を推進しようとすることは、破綻の見方に従えば、それ自体よって経過が悪化していくだろう。彼は今年度の予算で国内生産の耐え難い10パーセントの赤字に固執することを(イタリアの赤字の3倍、ポルトガルの2倍)、見積っている。2014と2015年に計画されている消費税増税でも実質的にそれを変えれない。ついでながら10パーセントの消費税はヨーロッパの視点から見れば、恐ろしく低い。
まだ個人及び非金融企業の正味の金融資産は国内総生産の約276パーセントもあり、負債額より多い。しかしながら、世界で最も老齢者の多い国の問題は増大している。何故ならベビーブームの世代が年金生活者となり、預金を使い果たしていくからである。預金は2017年までには3パーセント、少なくとも2パーセント低下するだろう。日本の将来の国民経済が年間実質2パーセント成長し、平均1パーセントの国債利子が支払われるという仮定でさえ、少なくとも10年以内には負債額が正味金融資産を超えていく。

運命の年2018年?

しかしこのような仮説は決して特別なものでない。他の国の体験に基づけば、利子は上昇し、そうこうする内に成長の老朽化で戻っていく。次の10年で働く能力のある国民が8パーセント減少する。その限りでは日本の金融融資は5年以内に明らかな制限に遭遇するだろう。借金タイトルの日本国債の90パーセントは国内で保持されているが、外国ではこのようなものを売ることは非常に難しい。
日本の国債は巨大査定エージェントによってAAに評価され、4番目に良い成績である。ベルギー、中国、韓国、チリが同じような評価である。それらの10年国債の利子は、現在2,49パーセントから5,54パーセントの利子が付く。それ故日本国債の利子は、最悪の場合4年以内に3倍、もしくは4倍になるだろう。既に日本は税収の4分の1が利子として支出されており、利回りの上昇で利子支払いが困難になるだろう。おまけにこのような経過は相互に加速していく。何故ならエージェントは信用成績を下げる際、いささかの好意も持っていないからだ。それによってCDSの価格はさらに高くなり、利回りが上昇し、融資条件がさらに悪化するだろう。

他国への負担に

確かに支払い不履行は非現実的であるが、日銀が支援し、国債の個人需要の不足を大規模な購入によって補償することで財政破綻は起きる。日銀の購入で通貨量は拡大し、インフレとなり、日本円は急激に弱くなっていくからである。
しかしおそらくそれは、まさに安倍政権の目論むところである。安倍政権は近隣窮乏化政策によって構造的成長問題を解決することを期待している。これは火遊びであり、一つにはそのような平価切下げで通貨戦争を引き起こすことは脅威である。参加者の一方が大きな利益を得るということなしに、世界貿易に負担をかけることになるだろう。むしろ通貨戦争は、これまで骨を折って妨げてきた世界経済危機を呼び起こすものになるだろう。それ故誰も本質的には、いきなり喧嘩を始めることを望んではいない。

基本問題は解決されない

他方これらの政策は基本問題を解決しない。国民の老齢化を引っくり返すことはできない。税割合はOEDCから見れば、27パーセントと最も低く、国民は金持ちであり、国家負担の限界には見えない。国家は経済事業に大きく関与している。これは民営化出来るし、聡明な税政策で消費税からもっと収入を得ることができよう。同様に労働市場改革が緊急に必要である。それに対してはサラジン銀行の国民経済専門家アレスサンドロ・ベーが提唱するように、構造的スタグフレーション経済のデフレ期待は財政上の措置だけでは打ち破れないだろう。そのためには移民の軽減措置のような構造改革が必要である。しかしながらベーは、政府や国民がそのような徹底した措置をとることに、疑念を抱いている。現在は、あたかも日本は適応を避け、世界共同体に負担を押し付けようとしているかのように見える。それに関しては日本だけではない。アメリカの金融政策も同様にこの方向を向いている。

まだ日本円は余地がある

実際に日本円はドルに対して、かつてないほど未だに強い。最近の平価切下げは長期的には重要ではない。とりわけそれはドルの弱さにある。ドイツ銀行の取引ランキング指標によれば、日本円の価値は2010年の水準に戻るだけでなく、2000年の対外価格に戻ろうとしている。最近も日本円はまだ確かな平価切下げ位置にある。根底には、現在世界のほとんどの発展途上国が過去のよき暮らしの犠牲に転嫁しようとしているからだ。
発展途上国は平価を切り下げると、工業製品の購入が難しくなることから、平価切下げが出来ず輸出が容易でないことから国民の暮らしを犠牲にしなくてはならない、それ故日本が平価を切り下げることを近隣窮乏化政策と批判しているのである)