(145)タイタニック日本のないことを願って(10)カジノ資本主義に奉仕する教育

安部首相の河野談話への発言や、橋下日本維新の会共同代表の従軍慰安婦を巡る発言、さらには憲法96条改正の要請に、ファシズムの忍び寄る足音を聞かずにはいられない。
既に戦後国家に民主主義への奉仕を求めた教育は、安部第一次政権の教育基本法改正で理念さえ国家に奉仕するものとなり、今や新重商主義に則ってアジア、中東、そしてアフリカへの企業戦士育成の手段とさえなっている。

確かに日本の教育は高等学校の進学率は10割に近づき、大学進学率は短大を含めて6割弱であり、最近のOECDの学習到達度調査(PISA)ランキングは世界第二位であり、教育国フランスやドイツの大学進学率4割に較べて、数字で見る限り文句の付けようがないほど素晴らしく見える。
しかし大学授業料は、今年になり全州で大学授業料無料化を復活させたドイツから見れば(注1)、国公立大学さえ恐るべき高さである。
しかも奨学金は整備されているが、欧米のように給付されるものではなく(注2)、無利子あるいは有利子の学生教育ローンである。
そのため卒業と同時に返済を求められるが、就職難や低所得雇用などで返済が困難となり、2011年度の返済滞納者は33万人にも達している。
滞納すると年10パーセントの情け容赦のない延滞金が課せられ、滞納3ヶ月で個人信用情報機関ブラックリストに掲載され、さらに民間委託の回収が始まり、滞納9ヶ月で一括払いの「支払い督促」が送付され、その後は差し押さえや提訴となる。
提訴された人の手記では、高校卒業では正規雇用が困難なことから奨学金とバイトで必死に大学を卒業したが、結局正規雇用は見つからず・・・、と言ったまさに教育残酷物語が綴られていた。

こうした教育残酷物語を生み出す日本の大学は、2004年に小泉新自由主義政権によって独立行政法人に移行され、民間企業の経営手法を採る民営化を実践している。
そこでは教授会の権限が実質的に無力化され、社長にあたる学長と取締役会にあたる理事会の権限が強化され、競争原理の追及が最優先されている。
しかし大学予算が政府官僚の裁量によって決められることから、理事会は天下り理事によって権力が握られ、天下り官僚の学長さえ実現され、官僚支配の黴臭ささえ漂ってきている。
こうした大学は、かつての教育基本法の理念にある社会の理想や国民の利益を求めず、産業に奉仕する企業戦士たちを公然と育成している。
しかしそのような企業戦士たちは、従順故に企業方針を批判することがないことから、従来のやり方で涙ぐましい努力をしても、結局時代を切り開く斬新な創造性に欠け、沈み行く大国日本の救世者とはなり得ない。

田原総一郎は国際会議などで日本人があまり発言しないことに対して、中学高校時からのディベート教育の必要性を述べていたが、本質的要因を避けているように思える。
本質的な要因は、ヤパノロギー(日本学)を学んだドイツ人なら、「日本人があまり発言しなかったり、同一意見なのは、異なる意見を言えば何らかの制裁(ザンンクツィオーン)受けるからだ」と、誰もが認識している。
ドイツでは批判的考えは、制裁を受ける日本とは異なってむしろ重要視されており、幼児教育から規律を与えないように配慮されている。
例えば学芸会や運動会は、練習がないことから全く規律に欠けているが、自由で伸び伸びと自立的である。(それは、バラバラなオリンピック選手の入場行進にも現れている)。
それ故ドイツの教育では、絶えず物事に批判的でポジティブな若者が育成され、新自由主義を乗り越えようとしている。
それに較べて日本の大学では、社会への理想追求がなおざりにされ、デリバティブ(派生金融商品)やタックスヘイブンで象徴されるカジノ資本主義新自由主義)が追及されている。

タックスヘイブンとは世界の各国の税制の違いから、グローバル企業が税金のかからない国、もしくは安い国に本部を置き税金を合法的に回避することであり、5月27日に放映されたNHKクローズアップ現代「“租税回避マネー”を追え 〜国家 vs. グローバル企業〜」では、世界で数十兆円規模のマネーが合法的に脱税される実態が見事に描かれていた(注3)。
こうした巨額のマネーが国際ファンドに投機され、ギリシャに見られように国債の大量売りと国債デリバティブ保険(CDS)の大量買いで金融危機を引き起こしている。
そのため世界の各国は負債で金融支援をせざるを得ず、ますます世界各国の国民の巨額な血税が盗み取られている。
それは国家破綻だけでなく、世界を終末戦争に自ら招くものである。

そして日本ではこのままアベノミクスのカジノバブルが進行していけば、必ず徒党を組む国際ファンドが日本国債大量売りとCDS大量買いで攻撃してくることから、タイタニック日本となることは目に見えている。

それを避けるには利権構造で穴の開いている財布を大転換で取替え、プライマリーバランスの早急な黒字化で、負債を1000兆円で凍結しなくてはならない。

またカジノ資本主義に奉仕している日本の教育は、ドイツのように職業教育から大学教育に至る全ての教育を無料化することから始め(注4)、制度を大転換していくなかで、絶えず物事に批判的でポジティブな若者たちを育成しいかなくてはならない。

(注1)新自由主義の激化でドイツの教育も例外ではなく、2005年よりバーデン・ヴェルテンブルグ州やヘッセン州など7州で大学授業料が導入され、16全州に波及する勢いであった。しかし2008年のヘッセン州選挙で大学授業料廃止が問われ、廃止を求める側が勝利したことから、風向きは逆転した。すなわちその後の州選挙で、ドイツの市民は大学授業料廃止を選択し、最後に残っていたバイエルン州も、選挙で争うことなく、今年4月の州議会で大学授業料廃止を決定した。 

ZEIT ONLINE,:24.04.2013 : http://www.zeit.de/studium/hochschule/2013-04/studiengebuehren-bayern-abschaffung/komplettansicht
Landtag beschließt Ende der Studiengebühren in Bayern
州議会はバイエルン州の大学授業料の終わりを決定する
Ab dem Wintersemester 2013/14 müssen Studierende in Bayern keine Studiengebühren mehr zahlen. Zum Ausgleich stellt das Land den Hochschulen 219 Millionen Euro zur Verfügung.
バイエルン州の学生は2013年の冬期ゼメスターから最早大学授業料を払わなくてもよくなるだろう。埋め合わせに州は大学に2億1900万ユーロを自由に使わせる。
Die Abgeordneten stimmen im Bayerischen Landtag in München für die Abschaffung der Studiengebühren.
ミュンヘンバイエルン州議会の議員たちは大学授業料の廃止に賛成票を投じる。
Der bayerische Landtag hat die Studiengebühren im Freistaat endgültig abgeschafft. 124 Abgeordnete stimmten für die Abschaffung, 11 FDP-Mitglieder und der Kultusminister der Regierungspartei (CSU) Ludwig Spaenle sprachen sich gegen die Abschaffung aus. Zugleich beschlossen die Abgeordneten die vollständige Gegenfinanzierung der künftig entfallenden Gelder.
バイエルン州の州議会は共和国の大学授業料を最終的に廃止した。124人の議員が廃止に賛成し、11人自由民主党議員と政権与党(キリスト教社会民主同盟CSU)のルードビィヒ文化大臣が廃止に反対した。同時に将来的に抜け落ちるお金の完全な金融措置を決定した。

(注2)
最近ではドイツでさえ有利子の学生教育ローンが見られるようになったが、欧米の奨学金は教育の機会平等からも給付が一般的である。それ故現在3期目を務めるボーべライトベルリン市長やシュレーダー元首相は、貧しい母子家庭であったにもかかわらず、大学で不自由なく学び、自らの道を切り開くことができた。

(注3)動画http://www.at-douga.com/?p=7886

(注4)
国公立大学の授業料は年間52万円であり、大学院を含めた日本の学生は280万人ほどであることから、2兆円規模の予算で可能(但し私立大学の最初からの全額免除は考慮せず)。また職業教育の無料化も1兆円ほど可能であることから、合計3兆円で実現できる。
財源に関しては1988年の法人税が19兆円であり、2011年の法人税は9兆5000億円と半減しているにもかかわらず、さらなる減税を決定していることから、それらを見直せば3兆円の財源を捻出することは難しくない。何故なら、日本企業は様々な優遇税制で世界一恵まれており、それが創意工夫の企業努力とスクラップ・アンド・ビルドを怠らせ、産業の構造改革を妨げているからだ。