(191)地域分散型自給社会が創る理想世界への道8・・蘇るマルクスの理想(後編)


金融取引税推進を確認した2014年2月19日メルケル・オランド会談(シュピーゲルオンラインからの写真)

2008年の世界金融危機で、莫大な公的救済なくしては金融デフォルトを引き起こしていたドイツは、前回述べたように戦後の官僚制度刷新で国民奉仕を最優先する官僚たちが、「再建清算法」や「銀行分離法」で二度と公的救済を必要としないよう取り組んできた。
しかし2008年の金融危機で世界の莫大なマネーを巻上げた金融ファンドのモンスターたちは、ギリシャアイルランドポルトガル、スペイン、イタリアなどと、攻撃の標的を次々と拡大した。
何故なら2000年以後EUの競争原理最優先の「リスボン戦略」で、EU内に強国と弱国の格差が益々拡大し、弱国の債務を急増させたからである。
モンスターたちにとって、そうした弱国の国債を攻めることは、赤子の手をひねるようのものであったからだ。
すなわち国債の大量売りと国債保険CDSの大量買いを開始すると、弱国の債務悪化事実をシナリオに沿って流し、EUやIMFの対応がなされる頃には暴落した国債を買い戻し、高騰した国債保険を売り抜けていた。
ここではモンスターたちの誰もが巨額の利益を得るの対して、巨額の損するのは国家であり、それを税金で支払う国民であった。
それ故国民の怒りが頂点に達したドイツは、金融投機の本質的抑制に繋がる金融取引税(トービン税)導入を強く求め、2010年トロントG20ではフランスと共同でその導入を提唱した。
しかし本質的な原因に対して国民が蚊帳の外に置かれている国々、すなわちアメリカ、カナダ、日本などの強い反対で受入られなかった。
その後もモンスターたちの脅威が継続するなかで、ドイツ及びフランスの粘り強い努力で、2013年1月22日EU11か国は2014年1月1日からの金融取引税導入実施を取り決めた(注1)。
しかしEU本部ベルギーの3万人とも言われるロビイストたちの強い反対活動や、英国などの抗議から、今年1月1日からの導入実施が遅らされている。
もっともEU11か国の決意は固く、先日2月19日のメルケル・オランド会談でも実施を確認しており(注2)、現在行われている欧州委員会の作業部会で5月のEU選挙前に実施スケジュールを発表するとしている。
ロビイストたちの反対理由は、一部の国だけで実施すれば実施国を避けて投機がなされ、公正が維持できないとしているが、本当の理由は反対側が金融投機で莫大な利益を上げているからに他ならない。
ギリシャ金融危機を例にあげれば、ドイツの金融機関でさえ安く手に入れたギリシャ国債がドイツ市民及びEU市民の税金(基金)で救済されることで、莫大な利益を得ているからである。
しかしそのようなことをいつまでも続けていれば、国家財政が破綻し、マルクス資本論が予告しているように“最後を告げる鐘が鳴る”という事態の到来も必至である。

私自身はこの金融取引税導入がEU11か国で実施されれば、それを契機として世界の金融公正の枠組が構築されるだけでなく、ドイツのオックスファームや「貧困に反対する同盟」が唱えているように、世界の貧困や地球温暖化への公正な枠組構築の大きな一歩になり得ると思っている(注3)。
しかもそうした公正な枠組み構築こそは、現在ドイツで推進されているエネルギー転換による地域分散社会の基盤である。

まさにそれは、マルクスの希求した理想経済社会を到来させるだけでなく、世界から戦争や争いを解消するものであり、分かち合いによって格差の小さい世界に導くものである。

(注1)日本の金融機関の「金融取引税」に対する詳しい解説(欧州における金融取引税の導入 - みずほ総合研究所

(注2)2014年2月19日シュピーゲルオンラインの「メルケルとオランドは金融取引税を推し進める」の記事では、メルケルはEU議会選挙前に第一歩を踏み出すなら、市民への重要なシグナルとなるだろうと強調し、「それで市民は、金融取引が社会的市場経済のモデルのなかで責任を持つことに、気づくことになる」と述べている。

(注3)これまで金融取引税(トービン税)を求めてきた世界の市民団体は、金融の公正な枠組みを求めるだけでなく、税収の一部を世界の貧困、気候変動、環境と生物多様性保護にあてることで、世界の公正な枠組構築の第一歩を踏み出すことを主張している。
以下に、オックスファームと「貧困に反対する同盟」が出している金融取引税の「質問と回答」問答を載せておく。


Die wichtigsten Fragen und Antworten 最も重要な質問と回答
Warum soll eine Finanztransaktionssteuer eingeführt werden?
何故金融取引税が導入されるべきか?

Weil es gerecht ist! Auch nach der größten Wirtschafts- und Finanzkrise seit 80 Jahren machen Spekulanten nach wie vor hohe Gewinne und Finanzjongleure streichen dicke Boni ein. Die Verantwortung der Finanzindustrie für die Weltwirtschaftskrise ist unbestritten, doch die Kosten der Krise zahlt sie bislang nicht. Die Steuerzahler in reichen Ländern und die Bevölkerung in armen Ländern tragen bislang die größte Last bei der Bewältigung der Krise. Außerdem: Für den Kauf von Brot oder einer Tasse Tee zahlen wir Steuern, wie auf alle Produkte und Dienstleistungen. Nur der Handel mit Finanzprodukten ist bisher steuerfrei – warum eigentlich?
何故なら公正のためです!1980年以来の経済危機や金融危機の後でも多くの投機が絶えず莫大な利益を収奪し、金融トレーダーたちは巨額の報酬を得て来ています。世界経済に対する金融産業の責任は反論の余地もなく、これまで危機の損失も計算されていません。裕福国の税納税者や貧困国の国民が、これまで危機の克服に際して莫大な損失を引き受けています。私たちはパンや一杯の紅茶の購入のために、全ての生産品やサービス同様税金を支払っています。金融商品の取引だけ税金がかからないのは、一体どうしてなのでしょう。
Zudem wird durch die Einführung der Finanztransaktionssteuer zukünftigen Krisen vorgebeugt. Werden computergesteuerte Spekulationen im Milli-Sekundenbereich mit einer Steuer belegt, dann wären Finanzgeschäfte dieser Art zunehmend unrentabel. Diese Spekulation könnte mit der Finanztransaktionssteuer also verlangsamt und eingedämmt werden. Die Finanzmärkte würden damit stabilisiert.
金融取引税の導入を通して将来的な金融危機は防止されます。1000分の1秒でのコンピューター操作の投機も課税されれば、この種の金融取引は利潤があがらなくなるでしょう。このような投機は金融取引税で減速され、くい止めることができ、金融市場は安定するでしょう。

Was wird besteuert? 何が課税されるのか?

Die Finanztransaktionssteuer ist eine Umsatzsteuer auf den Handel mit Finanzprodukten. Das heißt, dass beim Kauf und Verkauf von Aktien, Währungen, Anleihen, Derivaten etc. an Börsen und im außerbörslichen Handel die Steuer gezahlt werden muss.
金融取引税は金融商品の取引での売上税です。すなわち証券取引所及び証券業者の店頭での株式、為替、金融派生商品の売り買いに際して税金が支払われることです。
Manche Akteure wollen bestimmte Finanzprodukte ausklammern, z.B. Derivate, oder wollen nur den Börsenhandel einbeziehen. Das würde jedoch die Wirkung der Steuer reduzieren und es würden deutlich weniger Einnahmen erzielt.
多くの投資家たちは特定の金融商品、すなわち金融派生商品を除外するか、あるいは株取引だけに導入することを望んでいます。それでは税の効果が減ぜられ、明らかに収入もほとんど得られないでしょう。
Wie hoch ist die Steue?
税はどのくらいになるのか?

Oxfam Deutschland und das Bündnis „Steuer gegen Armut“ fordern einen äußerst geringen Steuersatz von durchschnittlich 0,05% auf alle Finanztransaktionen. Die EU-Kommission schlägt in ihrem Entwurf für eine Finanztransaktionssteuer einen Steuersatz von 0,1% auf Wertpapiere (Aktien, Anleihen) und 0,01% auf Derivate vor, der sowohl beim Kauf als auch beim Verkauf anfällt. Wenn eine solche Steuer, wie im Januar 2013 beim europäischen Finanzministerrat beschlossen, in elf europäischen Ländern eingeführt wird, würden damit jährlich 35 Milliarden Euro Einnahmen entstehen. Alleine in Deutschland wären das mehr als 10 Milliarden Euro pro Jahr.
オクスファーム・ドイツ及び「貧困に対抗する税」同盟では最低限全てに平均0,05パーセントの金融取引税を要請しています。EU委員会は金融取引税の草案で株式や債券などの証券に0,1パーセント、金融派生商品に購入の際も売却の際も0,01パーセントかかる金融取引税を提唱しています。2013年に欧州金融庁で決議されたそのような税が11か国に導入されれば、年間350億ユーロの収入が生じます。ドイツだけでも年間100億ユーロ以上になるでしょう。
Wer muss die Steuer bezahlen?
誰が税を支払わなければならないか?

Jeder, der mit Finanzprodukten handelt, muss die Steuer zahlen. Betroffen sind aber vor allem hochspekulative Finanzgeschäfte, d.h. wenn zum Beispiel Spekulanten, innerhalb von Millisekunden in großem Umfang Finanzprodukte kaufen und verkaufen. Mit computergesteuerten Spekulationen können sie so enorme Gewinne machen. Sparer, die langfristig anlegen, würden von der Steuer nur minimal betroffen. Die Abgaben sind kaum spürbar und liegen weit unter den Gebühren, die von den Banken zur Verwaltung der Depotkonten erhoben werden.
金融取引をする誰もが税を支払わなければなりません。とりわけ高いリスク投機の金融業務、すなわち例えば1000分の1秒間に大規模に金融商品を売り買いする場合が該当します。コンピューター操作の投機でそれらは莫大な収益を上げています。長期的に投資する預金者はその税にほとんど関与しません。課税は感知できないことから、銀行による預金収支計算書の管理で徴収される料金となります。
Welche Länder machen mit? Wer ist dagegen?
どの国が参加し、誰がそれに反対しているのか?

Am 22. Januar 2013 haben sich elf europäische Länder auf die Einführung einer Finanztransaktionssteuer im Rahmen der verstärkten Zusammenarbeit verständigt. Mit dabei sind: Frankreich, Italien, Spanien, Deutschland, Österreich, Belgien, Estland, Griechenland, Portugal, die Slowakei und Slowenien. Weitere Länder haben angekündigt sich anzuschließen, sobald die Verhandlungen um die Ausgestaltung der Steuer abgeschlossen sind.
2013年1月22日EU11か国は協同強化の枠組みで金融取引税導入を通達しました。すなわちそれに参加するのは、フランス、イタリア、スペイン、ドイツ、オーストリア、ベルギー、エストランド、ギリシャポルトガル、スロバカイ、スロベニアです。更なる国が税の形態での折衝が締結すれば、加わることを予告しています。
Die Einführung der Finanztransaktionssteuer über den Weg der „verstärkten Zusammenarbeit“, bei dem mindestens neun EU-Länder mitmachen müssen, wurde eingeschlagen, weil kein Konsens in der Eurozone (17 Länder) und auf EU-Ebene (27 Länder) erreicht wurde. Unter anderem Großbritannien und Schweden sind dagegen.
金融取引税の導入は、少なくとも9か国のEU参加国が協同しなければならない協同強化の道が採られています。何故ならEU圏17か国及びEU加盟国25か国の合意が得られていないからです。とりわけ英国とスウェーデンは反対しています。