(157)ハネケ映画を通して現代を考える(5)白いリボン中編・・現代が対峙するファシズム再来

ハネケは2010年のシュピーゲルのインタビューで、『白いリボン』の制作アイデアが生じたのは20年ほど前であり、ユーモアに富んだ女性友達でもあったウルリケ・マインホフ(ドイツ赤軍の設立者)が左翼テロリズムに傾倒することで、全く人が変わってしまった体験に由来していると述べている。
しかもハネケは「私はテロリズムを黙認できない」と断言していることから、この映画の制作意図はナチズム批判から来たのではなく、第一次世界大戦直前の北ドイツの村で起きた実話を題材として、テロリズム、もしくはファナティズムの起源を凝視することに発している。

上の写真は映画の冒頭で子供たち制裁グループの9人が、落馬で重症を負った医師の娘アンナを見舞うシーンであるが、実際はシラカバの木に張った細い針金を始末するために訪れていることが、すぐ後の警察の検証シーンからわかってくる(もっとも映画のこの冒頭では、子供たちが犯人であることなど全く考えも及ばないのであるが)。
そして首謀者クララの文鳥磔が映し出された際には子供たちの制裁理由が推測でき、常に服従が強いられる家父長制封建村社会の中で悪意、嫉妬、無関心、そして父親や支配層の暴力が建前としては悪と見なされいるが、容認されていることにある。
すなわち白いリボンを腕に巻いて純潔が求められる子供たちの目には、そのような悪が容認できないほど腐りきっているからである。
そうした子供たちの制裁は、テロリズム、もしくはファナティズムの源泉でもあるが、その後のナチズムを醸成したことも事実であり、カンヌ映画際審査ではそれが評価されたと聞く。
何故なら2000年以降の世界では、競争原理を掲げる新自由主義が激化するなかで新重商主義が追求され、再びファシズムへの胎動が開始されているからだ。
ナチズムはヒットラーと一部の狂った人たちの犯罪と見られがちであるが、1938年のオーストリア併合されたドイツの国民投票では、ナチス政権が99パーセントを超えて国民に支持されていた。
それは第一次世界大戦敗戦後ハイパーインフレなどを通しドイツ国民の大部分が困窮するなかで、ナチズムが福音となり国民の不満を全て解決したからである。
当時のドイツ社会は門閥主義が横行し、職人の子は職人、インテリの子はインテリ、企業家の子は企業家であることが暗黙的に決められた階級社会であり、ユダヤ企業家のような一握りの人たちだけが益々裕福になっていく時代でもあった。
しかも失業率40パーセントが示すように、ひと握りの裕福者以外にとっては絶望的社会であった。
そのような絶望的社会がナチズム(国家社会主義)の帝国森林やアウトバーン建設で変化し始め、門閥主義も根底から問われ職人の子さえ努力次第で政府への登用も可能となり、さらに企業社長などの幹部社員も就業後は若い工員の指導で平等に奉仕活動に駆り出されることで、社会不満と社会腐敗が一掃された。
そしてナチズム政権が99パーセントの支持率を得た1938年には、失業率も1パーセント以下となり、ナチズムが福音となり国民の不満も全て解決したという記述も嘘ではない。
しかしそのような福音は、本質的にはドイツが他国へ侵略することで軍需産業をフル稼働し、多くの若者を戦場に駆り出し、巨額のユダヤ人の財を略奪するだけでなく、人類最悪のホロコーストを犯すことで成立している。
そのような二度と繰り返されてはならない恐るべきファシズムが、新自由主義ボトム競争の激化するなかで、世界の至るところで再び胎動し始めている。
特に日本でのファシズム胎動の音は大きく、既得権益のぶち壊しを掲げるハシズムだけでなく、アベノミクスによる憲法9条改正や憲法枠内での集団自衛権突破の動きを加速している。


アールタークドイツ5・・・スノーデン内部告白が世界に投げかけるもの(5最終回)・・鍵となるドイツが今為すべき事

最終回ではウィキリークスのスポークスマンでもあるアッペルバウムが、国家主権を断固として守るドイツを称えると共に、スノーデン問題を解決できる唯一の国として期待を語る。
そして議論の最後は、前のシュピーゲル誌編集長のマスコロが、今為すべき事として、国民の通信情報を基本法で断固として守るべきであり、そのためにアメリカとの真剣な議論がなされるべきだと結ぶ。

スノーデンの投げかけた問題は、アメリカ情報機関NSAが世界各国の機密情報だけでなく、世界市民の個人情報をアメリカ巨大情報企業を通して違法に収集している実態が暴露されたにもかかわらず、21日の英当局のガーディアン紙圧力に見られるようにバッシング強化だけがなされ、積極的な解決策に全く見通しが立っていない。

しかしドイツでは未だに連日のように話題となっており、アメリカの情報収集はドイツ基本法の侵犯であり、メルケルオバマの話し合いで断固としたルール作りを求める声が高まっており、今後の展開に期待したい。