(428)ドイツ最新ニュースから学ぶ(21)コロナ変異株デルタとアフガニスタン総括が語るもの

英国のコロナ変異株に見る自由というまやかし

ZDFheute8月29日

 

50万人もの英国の若者がマスクも付けずに、ロックフェスティバルを自由に楽しむ映像を見ると、まるで若者たちはウイルスとともに生きる術を享受したかに見える。

それゆえZDF記者は、「自由というまやかしの夏を楽しんでいるのか、それともウイルスと共に生きる術を見つけて楽しんでいるのか?」という問いを発するのである。

もちろん英国コロナ感染者数推移を見れば、「自由というまやかしの夏を楽しんでいる」のは一目瞭然である。

https://graphics.reuters.com/world-coronavirus-tracker-and-maps/ja/countries-and-territories/united-kingdom/

すなわち今年1月初めには1日の感染者数が6万人を超えていたが、ワクチン接種が他国に比べ速く進んだことから、5月には千人台に減少し、重症化も激減したことから、7月からすべての制限が撤廃された。

しかし実際の1日の感染者数は6月には1万人台へ、7月には2万台、8月には3万人台へと増え続けており、そのなかでの自由を満喫するロックフェスティバルの開催であった。

それは絶えず成長を求める経済の仕組のなかでは、主催者側は生き残るために開催するしかなく、アーティストたちでさえ開催なくして生き残れないのである。

また集う若者も楽しんでいるというより、自由を制限された長く呪われた時代に怒りをぶつけているように見える。

しかしまやかしの自由享楽にも限りがあり、変異株デルタが猛威を振うなかで、既に変異株ミューへと、ウイルスが生き延びるために突然変異を繰り返しており、まったく終息する未來が見えてこない。

これまでのワクチン接種率とコロナ感染の推移を見ると、最早数年で終息するとは思えない、恐ろしい時代に突入したように思える。

このような恐ろしい時代をつくり出しているのは、“ペスト”の時代のような完全封鎖なしに、ワクチン開発で克服しようとする現代世界の奢りに他ならない。

すなわちウイルスは、ワクチン接種で生き延びるために様々に突然変異を繰り返しており、ワクチン接種の一時しのぎが見えてきている。

しかし現在の社会のなかで生きるためには、ワクチン接種が突然変異の原因であるとしても、コロナ感染での重症化激減の事実からも、ワクチン接種しないわけには行かない。

もっとも気候正義が叶う時代がくるとすれば、「ワクチン開発によるウイルスの克服、あるいは科学による自然の克服が過ちだった」と見直されるだろう。

 

アフガニスタン20年の総括ZDFheute8月31日

 

アフガニスタン20年の総括をすれば、どのような巨額なお金(アメリカだけで約250兆円)と兵力を投入しても、力による平和は創り出せないということである。

それはまさに、「アメリカ、イギリス、フランス、NATOの旗で棺桶を象徴的に包んでいます」の映像が描き出している。

しかしこれらの国の力による平和工作が単に失敗しただけでなく、ロケット砲テロ攻撃を拡大強化させ、公開処刑のテロ集団組織「イスラム国」を誕生させ、アフガニスタンを含め世界に拡散させ、さらにテロ支援国家と指摘した北朝鮮原発大国にまでさせたことは、最早戻すことができない紛れもない事実である。

こうした事実からも、力による解決を考え直す機会であり、今年国連で発行された核兵器禁止条約が科学者、法律家、医師の3つの非政府組織NGOが創り出しことを考えれば、紛争地では非武装の専門家市民組織(NGO)の介入による方法に転換して行くべきである。

実際1981年設立された国際平和旅団(Peace Brigade International: PBI)や2002年に設立された非暴力平和隊(Nonviolent Peaceforce:NP)は、トレーニングを受けた多国籍の非武装の市民チームで組織され、紛争地に入り監視や護衛活動で、紛争の暴力化抑止に一定の成果をあげている。

またヨーロッパ諸国では、ドイツを中心として90年代末より「市民平和活動」ZFD(Zivile Friedensdienst)が活発であり、ドイツでは連邦政府が財源を出し、ZFDと政府が共同で非軍事的非暴力の平和構築に貢献している。

アフガニスタン陥落後の世界は、力による積極的平和構築での取り戻すことができない失敗の甚大さから、このような非軍事的非暴力解決を目指す非政府組織を強化結集させ、紛争両者の理解と生活支援(赤十字社国境なき医師団)を通して、長期的に解決していく必要があるだろう。

もっともそこでは、資源国の国有企業を民営化させ、民営企業買収で貧困をつくりだしている大国の大資本が当然問われ、世界の市民がガラス張りにして長期的に関与するなかでは、徐々に経済も変わらざるを得ず、本当の平和を期待することも可能であろう。

 

(426)ドイツ最新ニュースから学ぶ(19)(8月6日投稿)

ドイツを襲った世紀の洪水被害 ZDFspezial7月19日

私自身ブログ(376)で以下のように書いているように、ドイツでは河川氾濫や洪水があっても、大災害はあり得ないと思っていた。

「ドイツでは河川氾濫は毎年日常茶飯時であり、洪水による街の浸水も決して少なくない。

しかし洪水での浸水も想定し、たとえ床上浸水しても地下室に水が入らないように配慮し、洪水で死者がでることは殆どなく、被害も最小限にするのがドイツである。しかも浸水した地域は「浸水地域」指定で新たな住宅建設が規制され、6年ごとの浸水地域指定の更新で継続されて行けば、街自体が自然に消えて行き、氾濫原をなくす仕組みが作られている。」

しかしそのドイツで、世紀の洪水被害といわれる大災害が起きたのである。

今回のドイツの洪水死者災害は、2002年のエルベ川氾濫の大洪水での21人死亡、2013年の再度エルベ川氾濫大洪水で近隣諸国合わせて25人死亡、2016年のニーダーバイエルン市の洪水で7人死亡以来であり、まさかドイツで、少なくとも189人の死者を出す大災害が起きるとは思わなかったのである。

このフィルムでは早期の警報がなかったことが問題となっているが、自治体や連邦保護局に油断があったことは確かである。

もっとも今回の7月中旬の豪雨による大洪水は、ドイツだけでなく、ベルギー、オランダ、オーストリア、スイスと多岐に渡っており、その原因は熱帯低気圧の頻繁な発生と急速な発達である。

すなわち地球温暖化の激化で、地中海の海水温が上がり、多量の水蒸気を含んだ熱帯低気圧の頻繁な発生であり、河川対策だけでは最早避けられない時代に突入したと見るべきであろう。

 

地中海沿岸に拡がる森林火災 ZDFheute 8月2日

(4) 地中海沿岸に拡がる森林火災8月2日 - YouTube

地中海の熱帯低気圧による豪雨が一段落したと思ったら、ギリシャで45度と言う異常な暑さと地中海から吹き上げる熱風による森林火災である。

すなわち一過性のものではなく、一旦鎮火できても何度も森林火災が繰り返されて来る。

8月1日のFAZ・NET(フランクフルト・アールゲマイン紙)では、「南ヨーロッパの熱波:

大きな暑さと強風が新たな火災を引き起こす」のタイトルで、その異常さを伝えていた(注1)。

その記事では、アンカラのHacette大学Perktas教授の「森林火災は放火が主な原因であるが、今回のトルコの森林火災は気候変動が最大の原因である」という

主張を載せていた。

明らかにこうした報道からもわかるように、年々気候変動は激化しており、最早従来の対処方法では限界なのである。

 

気候変動激化から見えてくる未來

 現在2億人を超えて拡がり続けているコロナ感染も、ワクチン接種が進めば克服できるというやり方も、イスラエルなどで2回の接種をした人たちが変異種デルタ株に感染し、重症化する例から見ても、限界を感ぜずにはいられない。

確かにコロナウイルスの突起部分の遺伝子情報RNAを大量培養し、その接種で細胞内で抗体を造らせるやり方は画期的であるが、突然変異のし易さから、抗生物質が耐性菌を拡げて行ったように、過信すると命取りにもなりかねない。

確かに中国武漢からコロナ感染が拡がった際は、ワクチン接種も中和抗体もなく、戦う手段が全くなかった。

それゆえ地域封鎖しかなく、武漢などに見られるように徹底した封鎖ができたところは一旦はコロナ感染制圧に成功している。

日本のように経済が優先される国においては、非常事態宣言でコロナ感染が減少すると、十分な検証もなくすぐさま経済活動を再開させている。

そうしたやり方が、現在の危機を招いていることも明白である。

それは、インドで確認された変異種デルタ株が世界に現在蔓延している原因であり、グローバル経済が止まらないからである。

すなわちコロナ感染でも、さらには気候変動でも、グローバル資本主義の対処するやり方は限界なのである。

しかし進歩に向けて進む地球号という巨大船体のなかでの反乱は、犠牲が大きすぎるだけでなく、巨大船体自体を滅ぼしかねない。

それならば気候変動激化で食料危機、感染症蔓延で、グローバル資本主義が機能不全に陥り、自ずから地域主権の地域自給社会へ、転換して行くのを待つしかないだろう。

もっともそうした未来への視点に転じて行くと、少なくとも心のなかでは、“禍を転じて福と為す”という希望が湧き上がって来る。

(427)ドイツ最新ニュースから学ぶ(20)恐るべき気候変動報告とアフガニスタン落城(*8月22日投稿)

恐るべき気候変動報告 ZDF8月9日

 

2021年8月9日に公表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書では、2018年のIPCC『1.5 °C特別報告書』による、「温暖化を臨海温度1.5℃以内に抑えるには、世界の温室効果ガス排出量を2030年までに半減させ、遅くとも2050年までに実質ゼロにする必要がある」という行動指標が訂正され、2018年時点の想定より10年も早まり、2030年までに排出量を半減させても、2030年には臨界点1.5℃を超えてしまうという衝撃的なものであった。

そして9日深夜に報道されたZEIT・ONLINEでは、「環境団体や政治家は緊急の行動を要請するUmweltorganisationen und Politiker fordern sofortiges Handeln」というタイトルでIPCC報告に対する反応を伝えていた。

 その報道では、国連のアントニオ・グテレス事務総長は、化石燃料エネルギー振興の中止を求め、「石炭、石油、ガスは地球を破壊するだろうKohle, Öl und Gas würden den Planeten zerstören」と、地球は致命的危機に晒されていることを警鐘していた。

ドイツの環境環境大臣スヴェンジャ・シュルツェ(SPD)は、「地球は致命的危機に晒されているDer Planet schwebt in Lebensgefahr」と述べ、国際社会の11月グラスゴー気候サミットでの画期的合意を求めた。

またグレタ・トゥンベリはツイッター上で、「新しいIPCC報告書は、決して驚くべきものではなく、何千もの研究や報告から、私たちは既に緊急事態にあることを確認するものですDer neue IPCC-Bericht enthält keine wirklichen Überraschungen. Er bestätigt, was wir schon aus Tausenden vorherigen Studien und Berichten wissen – dass wir uns in einem Notfall befinden」と述べ、それでも私たちは気候変動の最悪の事態は阻止できると記している。

またドイツの“未来のための金曜日デモ”で先頭に立つルイザ・ノインバウァーは、「我々は今勇敢でなければならない、世界は瀬戸際にあるWir müssen jetzt mutig sein, die Welt steht auf der Kippe」と述べ、今行動して政府を動かせば、臨界点1.5以内は可能だと述べている。

尚今回のIPCC報告で、もう一つ注目すべき点は、人間の活動が地球を温暖化させていることは、「疑いの余地がない」と敢えて断定していることである。

そのような断定は、石炭や石油産業等から寄付を受けるハートランド研究所のような機関が、人為的気候変動否定論を世界にまき散らすことで、世界の二人に一人は人為的気候変動に疑いを持ち、真剣に捉えていないという報告もあるからである。

すなわち現在の世界経済を支配する巨大資本が、リオの国際会議から既に30年を経ているにもかかわらず逆に排出量を1990年に比して60%も増やし続けているのは、お金で動く科学者や学者の意見を利用して、絶えず人為的気候変動に疑問を差しはさみ、脱炭素化にブレーキをかけ続けているからである。

このような有様から見えてくるのは、私たちは今最悪のシナリオの道を進んでいるという事実である。

それを克服することは、絶えず成長を目指すグローバル資本主義は不可能であるという結論である。

それゆえ、寧ろ最悪の道を進むと想定して、気候変動激化による食料危機や感染症の蔓延にどのように対処して行くかである。

その視点に立てば、自ずと地域主権による自然エネルギー分散技術での地域自給自足という選択も現実化して行き、よりよい世界に変えて行くことも可能であろう。

 

カブール落城 ZDFheute8月15日

 

ニューヨークの爆破テロから20年経ってのカーブル落城は、50年前のサイゴン落城を思い出す。

サイゴン落城には、平和の到来する希望があった。

しかし今回のカーブル落城には、平和への希望がないだけでなく、民主主義を望む人たちのジェノサイドの心配さえある。

そう感じるのは、2015年2月1日アルカイダの流れを組むテロ国家「イスラム国」が日本人ジャーナリスト後藤健二さんを、インターネットを通して世界中に公開処刑したからである。

しかも後藤さんは弱者救済と平和を求めて戦ってきた人であり、 人の命を目的のためにモノとして利用するテロ組織は、どのような理念を持っていようが許すことはできない。

もっともアルカイダの2001年のアメリカ同時多発テロ事件自体が無差別ジェノサイドであり、決して許されるものではない。

タリバンアルカイダの関係は様々に言われているが、同じ貉であることは否定できない。

そのタリバンアフガニスタンを取り戻し、8月17日の最初の記者会見で、女性の人権尊重と独裁なき多様な人々が参加できる融和的政権樹立を強調したが、このZDFheuteのニュースのように、ドイツのメディアは状況から判断して殆ど信用していない。

8月19日のドイツ第一公共放送ARDに所属するドイチェ・ヴェレ(DW)が、「タリバンは、DWジャーナリスト家族の一人を殺害したTaliban töten Angehörigen eines DW-Journalisten」というタイトルで、「タリバンは標的を絞った殺害を躊躇していない」と激しく非難している。

https://www.dw.com/de/taliban-t%C3%B6ten-angeh%C3%B6rigen-eines-dw-journalisten/a-58910077

記事では、DWのピーター・リンブール事務局長のタリバンへの非難とドイツ政府への緊急要請が以下のように、「タリバンによる編集者の家族殺害は信じられないほど悲劇的であり、すべての従業員とその家族がアフガニスタンで緊急の危険を裏付けている。タリバンはすでにカブールと行政区域でジャーナリストの組織的な捜索を行っており、時間がなくなりつつある!Die Tötung eines nahen Verwandten eines unserer Redakteure durch die Taliban ist unfassbar tragisch und belegt die akute Gefahr, in der sich alle unsere Mitarbeitenden und ihre Familien in Afghanistan befinden. Die Taliban führen in Kabul und auch in den Provinzen offenbar schon eine organisierte Suche nach Journalisten durch. Die Zeit läuft uns davon!」訴えている。

また18日のZEIT・ONLINEでは、「二重の過ちDoppelfehler」のタイトルで、「西側は過ったのか? 確かに、しかし決して西洋だけではない。アフガニスタンも歴史的な機会を失った。Der Westen hat versagt? Ja, aber beileibe nicht nur er. Auch die Afghanen haben eine historische Chance vertan.」と強調していた。

https://www.zeit.de/2021/34/afghanistan-taliban-kampf-westen-afghanen-fehler

具体的な記事内容を要約すれば、「アメリカだけでアフガニスタン軍への900億ドル供与を含め、20年間で2,2610億ドル(約250兆円)をアフガニスタンに費やし、ヨーロッパ諸国も何百憶ドルを費やし、何千人もの西側兵士が命を落とし、多くの民間人支援者も亡くなっている。確かに、お金の多くは、欧米企業への注文で供与国に戻り、西洋人の非常に近視眼的な私利私欲が絶えず大きな役割を果たしてきたことは事実である。

それにもかかわらず、西側諸国はアフガニスタンについて真剣であり、女の子は学校に行くことができ、女性は少なくとも首都カブールでは、ブルカなしで路上をあるくことができ、若い男性は教育を望むことができ、人々は正義のために努力し、貧しい人々は生計を立てることができた。今過去20年間に築き上げてきたものが全て崩壊し始めているが、誰も非難すべきではない:アフガニスタン人だけが責任を負う。しかし、彼らの運命を自分の手に取るのは、アフガニスタン人であり、アメリカのような世界の大国でさえ、自衛したくない国を守ることはできない。西洋全体でさえ、自ら望まない社会に自由を押し付けることはできない」と結んでいる。

またノルトライン=ヴェストファーレン州地域日刊新聞「ライニッシュポスト」の16日のRP・ONLINEでは、「タリバンがかくも早くアフガニスタンを打ち負かすことができた理由Warum die Taliban die afghanische Armee so schnell besiegen konnten」のタイトルで、その背景について言及していた。

2021年5月に外国軍の撤退が始まったとき、アメリカ政府及びアフガニスタン政府軍はタリバンと十分戦えると確信していた。

何故ならアフガニスタン政府軍は、30万人以上の兵士と数十億ドル以上の近代的な装備を持っており、タリバンを圧倒的に上回っていたからである。

しかし実際には、軍は腐敗、リーダーシップのなさ、訓練の欠如、士気の低下によって弱体化し続けており、米国の査察官は「このようなアフガニスタン軍に未来はない」と繰り返し警告していた。

弱体化の引金を引いたのは、2020年2月のアメリカ政府とタリバンとのアメリカ軍完全撤退の合意である(トランプのドーハー合意)、と指摘している。

合意後もタリバンは政府軍を攻撃し続け、ジャーナリストや人道活動家を故意に殺害して恐怖を煽り、政府軍兵士や役人を無数のプロパガンダメッセージで戦意を失わせていった。

それ故最初の州都占領から首都カブール占領まで2週間もかからなかったと結んでいた。

https://rp-online.de/politik/ausland/afghanistan-warum-die-taliban-die-armee-so-schnell-besiegen-konnten_aid-62208639

 

タリバンの支配していた地域は、山岳地域の乱立する部族社会であり、血縁、地縁が支配するなかで、殺し合いを避けるために娘や女性の政略結婚があたり前の社会である(山岳部族社会を描いた秀作実話映画『娘よ』を見れば理解できるだろう)。

それは、まさに日本の戦国時代であり、光秀の天下統一から秀吉の天下統一までの速さが物語っており、多くの支配者たちは脅迫と報償の伝令によって、戦わずして従ったのである。

しかしそのような部族社会は、生き延びるために慣習や伝統文化によって必死に生きて来たのであり、それを壊したのは突然入って来た民主主義とグローバル資本主義に他ならない。

すなわちそれはブログ(329)で述べているように、少なくとも数十年前まで楽園であったラダック(世界で最も高いヒマラヤ山系地域)を貧困化と混迷に陥れた理由である。

具体的には、グローバル化で恐ろしく安いコメや小麦が外から持ち込まれることで、地域の自給自足の豊かな暮らしが壊されて行き、若者や男たちが都市への出稼ぎで、1カ月で1年分のお金を得ることで、、受け継がれてきた伝統が壊され、年寄りが敬われなくなり、豊かな楽園が崩壊した。

それとは必ずしも同じでないとしても、少なくとも山岳地域に生きる人々は、カブールに暮らす一握りの裕福市民のように民主主義を謳歌できず、20年前より貧困化が進んだことも事実である。

そのような人々は、封建的全体主義タリバン支配を悪しきものと思ったとしても、生きるためにタリバン支配を選ばざるを得ないのである。

*私の編集ミスでブログ(426)に今回の記事をのせたため、ブログ(426)は

失われました。もっとも下書きはあるので、次回ほぼ2週間後にブログ(428)を載せる前に、(426)も載せて置くことにします。

 

(425)ドイツ最新ニュースから学ぶ(18)タックスヘイブンの克服・定常化するトルコの独裁

タックスヘイブンの克服 ZDFheute7月10日

 

社会民主党のオラフ・ショルツ(第4次メルケル内閣で2018年3月以来連邦財務大臣)は、100年前にできた国際課税ルールが変わる“歴史的瞬間だ”と歓喜する。

もっともドイツ公共第一放送では、シュルツの見解は楽観的だという専門家も多く、世界経済研究所所長ガブリエル教授も「利益の定義自体が難しい」と述べている。

もっとも乗り越えないとならない障害はまだあるとしても、これまで巨大ĪT企業のように拠点がない企業に法人税が徴収され、タックスヘイブンによる課税逃れができなくなるのは確かである。

連邦財務省が報道するイタリア新聞「ラ・レプリカ」の財務大臣ショルツのインタビューでは、「私は何年もの間、交渉成果のために取り組んできました。これは、より国際的な税務司法に向けた歴史的かつ前例のない一歩です。そして、多国間主義と国際協力の強い兆候は、我々の税制への信頼を強化します Für dieses Verhandlungsergebnis habe ich mich über Jahre eingesetzt. Das ist ein historischer und beispielloser Schritt zu mehr internationaler Steuergerechtigkeit. Und ein starkes Zeichen für Multilateralismus und internationale Zusammenarbeit, die das Vertrauen in unsere Steuersysteme stärkt.」と自信を覗かせている。

https://www.bundesfinanzministerium.de/Content/DE/Interviews/2021/2021-07-08-la-repubblica.html

 さらに欧州連合EU経済の持続的回復を生み出す手段として、排出量取引税や金融取引税などの導入で財源の確保を強調している。

確かにコロナパンデミック猛威という禍を契機として、タックスヘイブンの克服がOECD加盟諸国131カ国の合意やG20の合意で実現する段階まで漕ぎつけたことは確かである。

それは電気や水から教育や医療に至る公共財まで、すべての民営化で市場競争に委ねる新自由主義経済に、公平で公正な規範を築く第一歩である。

そのように“禍を転じて福と為す”の諺に従えば、未來に待ち構えている気候変動激化による洪水災害や食料危機も、より公平で、より公正な社会を創り出すための試練とも言えるだろう。

 

定常化するトルコの独裁(クーデター鎮圧5周年記念日)ZDFheute7月15日

 

2016年7月15日夜、トルコで起きたクーデター未遂事件に対して、ドイツメディアは総じてドイツジャーナリストが逮捕されたこともあって、エルドアン大統領独裁に批判的であった。

エルドアンの右派公正発展党(AKP)が2007年に政権を取って以来、エルドアン政権はメディアを統制し、法の支配を形骸化させ、非暴力の抗議を容赦なく弾圧してきたからである。

事実ドイツ語版のウキペディアでは、エルドアンの支配は、権威主義、拡大主義、検閲、反対意見の政党禁止であると指摘している。

このクーデター未遂では、8000人に及ぶ軍関係者だけでなく、何万人もの学者、政治家、公務員などが逮捕拘留された。

しかもクーデターを阻止したのは、エルドアン支持の市民がクーデター派の戦車の進行を止めたことにあり、トルコ市民がクーデターを阻止したと言っても過言でない。

市民が民主主義政権より民族主義独裁政権を望む理由は、東欧の独裁化でも同じである。

すなわちグローバル資本主義が進展するなかでは多くの市民が貧困者へと没落し、新自由主義経済を容認する民主主義に期待しても無駄であり、市民の多くは公正さを求めて、国家主義社会主義(ナチズム)ごとき政策を唱える政権に絡め捕られて行くからである。

しかもそのような政権は、メディア支配と法支配で独裁体制を築くことから、益々独裁化が強められ、何時まで経っても変わらないのである。

そのような独裁体制を変えていくためには、現在の弱肉強食の競争を容認するグローバル資本主義経済を変えて行くしかない。

すなわち競争による強者の自由な経済ではなく、弱者に配慮した規範ある経済であり、経済の民主化である。

それはタックスヘイブンの克服、炭素取引税や金融取引税の導入で課税を公平、公正なものとするだけでなく、弱国の地域に暮らす人々の経済が壊されないように、例えばハンディキャップを設けるような仕組が必要である。

(424)ドイツ最新ニュースから学ぶ(17)

ハンガリー同性愛差別法が欧州に問うものZDFheute6月23日

 EU委員会委員長ウルスラ・フォン・デア・ライヱンは、メルケル政権の下で労働保健大臣や国防大臣を努めメルケルを支え、保育所の増設やインターネット規制強化で弱者支援に努め、2019年7月にはEU委員会委員長に指名され、欧州グリンニューディールなどで意欲的に先頭に立っている。

そのライヱン委員長が、ハンガリー議会で成立した同性愛差別法案を欧州連合の基本的価値に違反しており、そのような法案は恥じであり、撤回しない場合委員会は欧州司法に提訴手続きを開始すると激しく非難している。

しかしハンガリーの長期独裁者と称されるヴィクトル・オルバン首相は、提訴で欧州司法から改善を求められても強制権がないことから、全く真摯に向き合おうとしていない。

同じ公共放送のドイツ第一放送ARDのTagesschauでは、EUハンガリーへの支援金を止めれば決着するにもかかわず、その切札を温存したことが欧州司法の決定さえ無視される原因だと、一歩踏み出して核心をついていた。

そのような切札温存こそは、まさにEUの本質的な問題である。

すなわち本質的な問題とは、EUの民主的理念よりも経済成長が優先されることである。

EUの東方拡大で2004年に加入したハンガリーは、社会主義から受け継がれた国有企業が民営化され、それらの企業はドイツなどの西側企業に買収され、合理化で失業者が溢れ、大部分の市民は困窮していったことも事実である。

私自身も2009年の秋、ベルリンからブタペストを訪れたことがあるが、ハンガリー通貨とユーロ通貨の闇市さえでき、物乞いをする人さえ至るところで見られ、人々の窮状が感じられた。

物価は驚くほど安く、ハンガリー大帝国の宮城の入場から様々な由緒ある美術館の入場は殆ど無料であった。

そのような状況は西側からきたものには、居心地のよいものであっても、私と話した市民がそうであったように、一握りのエリートを除き、大部分の市民は失望していた。

そのような市民の失望が、ハンガリー民族主義を掲げるオルバン政権を誕生させたと言っても過言でないだろう。

オルバン政権は2010年に誕生すると、3分2を占める議会与党決議で憲法裁判所を支配し、独裁化に踏み出し、現在も揺るぎのない長期独裁政権を築いているといえるだろう。

それを支えているのは、格差拡大で国家社会主義の如き公正さを求める市民と、企業買収の西側資本との利権構造であり、西側資本の3万人を超えるロビイストたちに支配される欧州連合EUは切札を切れないのである。

 スロベニアEU議長国誕生で浮かび上がるものZDFheute7月1日

 7月1日にEU理事会議長国がポルトガルからスロバニアになった。

問題となっているのは、スロベニアのヤンシャー首相がメディア支配と司法圧力を強め、今回のハンガリー性差別法ではオルバン首相を公然と支持し、2020年3月ヤンシャー政権誕生以来絶えず欧州連合EUに物議を醸していることである。

ヤンシャー首相はトランプ信奉者であることを明言し、公共放送の政権批判報道をフェイクニュースと一喝し、給料も6カ月も延滞させ、他方で政権支持の民間放送を支援していると、ドイツのメディアは伝えている。

そしてもっとも懸念されるのは、EU加盟の東欧諸国がハンガリーのオルバンを手本に、メディアと司法を支配し、国家社会主義の如き反民主主義国に導いて行くことである。

もし強行に現在の西から東への莫大な支援を絶てば、西欧諸国と東欧諸国の亀裂が激化し、二つに分かれる可能性さえ考えられる。

現在の欧州連合EUは、ドイツのように基本法と連邦憲法裁判所によって国家利益より国民利益が優先される仕組みが出来ておらず、国益が最優先されており、EU委員会委員長ライヱンやメルケル首相がどのように粉骨砕身しても、打開は不可能である。

支援金を断つ切札が使えないなら、国連のようにNGOや様々な形態の協同組合を動かして、「対人地雷禁止条約」や「核兵器禁止条約」、さらには「世界を変える持続的開発SDGs」を推進しているように、国益追求の国よりも、各国の利益を求めない様々な形態の協同組合を育成し、本質的に変えていくしかないだろう。

もちろんEU補助金や支援金などの配分は、これらのEU理念実現の担い手となる利益を求めない各国の民間団体や公益団体に振り分け、子供たちの貧困解消から教育機会の平等を通して格差の小さな社会に変えて行かなくてはならない。

すなわち現在のグローバル資本主義のなかで国に期待しても無理であり、お金を各国に振り分けるのではなく、利益を求めない地域のこれらの団体に直接配分して行けば、国家の力を弱め、欧州連合の理念「自由、民主主義、法の優位、人権の尊重」の実現を、ヨーロッパ市民の手に取り戻すことも可能であろう。

(423)ドイツ最新ニュースから学ぶ(16)

欧州量的金融緩和での独憲法裁判所との対立 

ZDFheute6月㏨

 

6月19日欧州委員会は、欧州中央銀行(ECB)の資産買い入れプログラム(量的金融緩和)で昨年5月にドイツ連邦憲法裁判所が異議を唱えたことに対し、法的措置を開始すると発表した。

量的金融緩和は、日本が2013年世界で最初に始め、それ以降継続しているのは国民の知るところである。

その仕組は、日本政府が不況を乗切るため毎年数十兆円規模の国債を発行し、民間銀行がその国債を買い、日銀がその国債を市場金利より高く買取り、市場にお金を溢れさせ、景気を刺激することにある。

欧州においては、欧州中央銀行(ECB)が2015年から加盟国の国債や債券を買取り、金融市場にお金を溢れさせて来た。

しかし2020年5月ドイツの憲法裁判所が、このようなECBの量的金融緩和に違憲判決とも言うべき異議を唱えた。

その理由は、ECB による無制限の低信用国の国債などの買入は,突き詰めれば,財政余裕国 ドイツの財源をドイツ連邦議会の同意なしに、国債買入対象国に移転する措置に当たると見なしたからである。

それは各国の国内法をEU法が優先して支配することでもあり、補完原理に基づき各国国内法を尊重するEUの理念に反するだけでなく、財政健全化に絶えず努めるドイツでは、お金がEU市場に溢れることで、制御不能のインフレへと加速する危惧があるからだ。

ドイツは過去において、第一次世界大戦後賠償費用を工面するため、意図的に資金供給量を増大し続け、食料品などが不足して一旦インフレが加速すると、金融政策では制御ができなくなり、1兆倍という恐ろしいハイパーインフレを経験したからである。

確かに量的金融緩和の仕組は巧妙に作られており、一見安全であるように見えるが、通貨が市場に溢れることでは同じであり、例えば食料危機などの予期せぬ事態が生ずると、インフレ加速が制御不能に陥る可能性は否めない。

もっとも量的金融緩和よる巨額の景気刺激政策なくしては、EUの弱国と称される国々は経済危機に見舞われ、EU自体も危機に陥りかねないのも事実である。

それ故EU委員会は、1年前のドイツ憲法裁判所異議判断に法的措置を開始した。

しかしドイツ憲法裁判所の判断は、ドイツ市民の世論を反映するものであり、量的金融緩和自体が本質的に健全でないことから、波紋を拡げていくように思われる。

それは突き詰めれば、絶えず成長を求める市場経済自体が問われているのであり、コロナ禍でも国民の命よりも経済が優先され、早期に非常事態宣言解除がなされ、コロナ感染症を爆発的に世界に拡げている原因でもある。

 

緑の党首相が誕生するとき

ZDFheute6月13日

 

党大会では、98.5%という高い得票でアンナレーナ・ベアボックが首相候補として再確認された。

彼女は少々興奮気味で、演説でもミスが目立ったが、緑の党共同党首のローベルト・ハーベックは州副首相兼環境大臣の経験もあることから、沈着冷静に補佐したと称賛して伝えている。

党のマニフェスト(党綱領)でも、従来のラジカルな目標は控え、気候変動阻止のパリ協定を実現していくことで、市民の幸せを追求して行くことを確認した。

具体的には2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比で70%削減し、現在1トンあたり25ユーロの炭素税を2023年から60ユーロに引き上げ、2030年には150ユーロにして、70%削減の実現を公約している。

その炭素税も市民に還元し、再生可能エネルギー法(EEG)の固定買取での課税を下げ、電気料金を下げることを公約している。

ドイツの再生可能エネルギー法は、4大電力企業の経営危機から、2014年に市民側からすれば改悪された。

すなわちそれまでドイツの再生可能エネルギー製造を担い、800以上に破竹の勢いで増え続けていた市民エネルギー協同組合が、建設補助金の減少や、全ての再生可能エネルギー発電所建設で入札制度導入で運営自体を難しくされ、巨大電力企業に引き継がれるように改変された。

そして巨大電力企業は、欧州グリンニューディールの追い風で、巨大メガソーラー発電や洋上風力発電に取組んでいる。

しかし遠隔地で集中的に莫大な電力を製造するやり方は、化石燃料エネルギーから自然エネルギーへのエネルギー転換であっても従来と変わらず、巨大な電力網建設必要として、気候変動阻止目標に貢献せず、市民利益もない。

本来自然エネルギーの転換は、地球上何処においても照らす太陽エネルギーを利用するものである。

しかも太陽光発電風力発電バイオマス発電は分散型技術であり、地域での小規模利用でこそ生かされるものであり、市民エネルギー協同組合が造る方が経済的にも圧倒的に有利である。

そのような市民が創る自然エネルギーへの転換なくしては、リオの「地球サミット」、そして京都議定書温室効果ガス排出量削減を公約しても増やし続けてきたように(2020年には90年比で60%も増やし続けている)、益々気候変動の激化は避けられない。

そのような中で、市民が創る自然エネルギーへのエネルギー転換を実現できるのは緑の党である。

何故なら緑の党の支援組織は市民であり、自他ともに認める市民政党であるからだ。

この報道でも演説しているバーデン・ヴュルテンベルク州緑の党首相クレチュマンは、かつて原発保守王国であった州で3期に渡って首相を努め、益々支持を高めている。

その理由は、クレチュマンが市民利益を最優先して、市民奉仕に徹しているからである。

確かにメルケル首相も国民奉仕に努めたが、現在の緑の党首相誕生の勢いは、国民が市民奉仕を求めているからである。

そのような市民政党の首相が誕生するとき、世界は変わり始めるだろう。

(422)ドイツ最新ニュースから学ぶ(15)

 

ドイツの徹底した「過去の克服」(ZDFheute5月28日)

 ドイツは、20世紀初頭の帝国主義植民政策を採るなかで、当時の植民地ナミビアにおいて先住民族ヘロン属とナマクワ属の数万人を虐殺した。

その過去の過ちに対して、5年前から和解への対話を続け、今年5月28日ドイツ政府はその際の虐殺をジェノサイドと公式に認め、道義的責任としてナミビア発展のために11憶ユーロ支援供出を表明した。

まさにこれは、ドイツの徹底的な「過去の克服」であり、ナミビアの次は第二次世界大戦でのポーランドギリシャだと言われている。

戦争での過ちに対して言及するだけで、自虐史観として激しい批判がある日本では、このような徹底した「過去の克服」は理解不可能であり、何故ドイツはそこまでやるのかと問わずにはいられない。

実際ドイツは、ホロコーストの犠牲者に対しては、被害者補償や司法訴追だけでなく、ネオナチ規制から公的な認識共有に至るまで、徹底した「過去の克服」に努めて来た。

ベルリンの中心には、何千の石碑が天に叫ぶかのような「ユダヤ石碑」が建設されている。

またドイツの行動を歩けば、そこから強制収容所に輸送された人の名前が刻まれている10センチ四方ほどの真鍮プレートを至る所で見かける。

もっともこうしたドイツの徹底的「過去の克服」は、最初は前進と後退を繰り返し、戦後のナチズムの反省がなされた後は、50年代の終わりには過去の過ちを忘れようとし、ナチ犯罪を65年で時効にしようした時代もあった(現在ではナチ犯罪に時効はない)。

それを変えたのは、60年から始まった「競争よりも連帯」を優先する教育の民主改革だった。

もちろんそれを引き起こしたのは、二度と過ちを繰り返さないことを誓ってつくられた基本法であり、十数年をかけて熟成して来たからこそ開始されたと言えよう。

そして教育の民主改革は、官僚や政治家を市民奉仕に転換させるだけでなく、司法も裁判官たちを高座から市民目線に引き下ろし、市民奉仕に変えたと言えるだろう。

またそうした土壌が70年代終わりには、保守中立を保っていたメディアを奮い立たせ、現在ではタックスヘイブンから気候正義に至るまであらゆる問題で、「戦う民主主義」の姿勢が感じられる。

そこには、よりよい社会、よりよい世界を築きたいと願う市民と連帯するドイツのメディアがある。

同様にドイツの「過去の克服」も進化しており、最初は周辺諸国との賠償や司法訴追を終わらせることで、国益を追求しているという非難の声さえ聞かれた。

しかし今では、これまでの世界では考えられなかった帝国時代の植民地政策の過ちにさえ、謝罪と和解を求め、さらに第二次世界大戦の戦争下おける過ちにも謝罪と和解を求めようとしている。

それは、「過去の克服」にドイツが長年に渡って真剣に向き合い、対話を続けるなかで、ドイツの民主主義を成熟させ、「過去に目を閉ざす者は、現在に対してもやはり盲目となる」を心底悟らせたからと言えるだろう。

また被害者側も、過去の死ほど辛い苦しみは賠償というお金だけで報われるものではなく、和解対話を続けるなかで、封印していた苦しみを語り、加害者と共に過ちのない未来を創ることに救済を見つけたからである。

このようにドイツの徹底した「過去の克服」は、過去の過ちを未来への問いかけに発展させており、究極的には国家間戦争を国際司法解決に変えるものだと信じたい。

それはドイツの未来のためであり、世界の未来のためでもある。

 

喫煙がなくなる日(ZDFheute5月31日)

 

ドイツの戦う民主主義は気候正義、社会正義を掲げ、世界の先頭に立って絶えず戦っている。

しかしドイツほどロビー活動が公然と為され、強固な国はない(本元の米国を除いて)。

それゆえ結論から言えば、喫煙がなくなる日は来ないと言ってもよい。

それは、私がドイツで暮らした2007年から2010年までの4年間に強く感じたことであり、CDUの州首相たちは、「原発は安全、安い、クリーン」というロビーイストたちの標語を使って、原発運転期間の28年延長(2060年まで原発運転)を求め、2010に原発運転期間延長が議決された際は、ドイツでも脱原発は実現しなのかと思った程であった。

2011年10月に災害のお見舞いで日本を訪れたドイツ大統領クリスティアン・ヴルフは、長年ニーダーザクセン州首相として原発推進の急先鋒であったが、その頃はロビー支配が解かれ、日本の講演では「日本でも脱原発は可能だ」と強調していた。

しかし帰国後汚職疑惑が次から次へと明るみに出され、大統領職から引きずり降ろされた事実を、ドイツ人なら理解できるだろう(ブログ79参照)。

その事実からして、ドイツのロビー活動の強さは想像を絶するものがあり、メルケル脱原発宣言後も原発さえ決して諦めていない。

喫煙に対しては、タバコの有毒性葉50年以上も前から科学的事実が報告されて来たにもかかわらず、ロビーイストたちはそのような科学的論拠には全く関心がなく、専門外の世界の著名な御用学者を利用して、都合のよいことだけを指摘し、人々の感情に絶えず訴え続けている。

ZDFの記者はそうしたロビー活動の圧倒的強さを知るからこそ、2040年までに喫煙をなくす癌研究センターの要請に、疑問符を投げかけるのである。

このようなロビー活動の司令塔は、アメリカの財源豊かなハートランド研究所であり、そこからドイツのEIKE研究所(ドイツの大学都市イェーンに2007年に設立された気候変動やエネルギー問題でのヨーロッパ研究所)にお金や指令が出されている。

そのような事実を検証したのは公共放送ZDFであり、昨年2020年に市民調査機関CORRECTIVと共同で潜入取材を強行し、ロビー活動の不正を実証し報道している(ブログ385参照)。

そのような篤いドイツの戦う民主主義にもかかわらず、タバコをなくすこと、そしてロビー活動の不正をなくすことは、ポランニーが“悪魔のひき臼”と呼んだ市場がある限り不可能にさえ見える。

それでも世界が気候変動激化、コロナ以降の感染症激増していくなかで、世界は変わる日は近いと確信する。

国連は現在の危機に、2015年「世界を変える持続可能な開発目標SDGs」を開始し、誰も取り残さない2030年までの実現を宣言している。

SDGsの担い手は、国連が積み重ねて来た議論では、利益を求めない様々な形態の協同組合となっていたが、2015年の国連決議では担い手に多国籍企業も加わり、今やSDGsは経済成長の免罪符に利用されるほど市場に絡め取られている。

それでは京都議定書のように殆ど機能しないことは最初から判り切っており、必ずや世界が動きき出す時が来ると信じたい。