(28)検証シリーズ4 ドイツリサイクルのシンボルDSD社の買収が日本に投げかけるもの・・・日本危機の克服(前編)

ドイツでは1991年企業に廃棄物の生産者責任を求める「包装廃棄物回避法」が制定され、回収と再利用を求めるデュアルシステム社(DSD)がつくられた。
DSD社はほぼ独占的な企業のリサイクル委託企業であったが、ドイツ市民のリサイクルへの関心が高いことからNPO的公共性が求められ、世界のリサイクルの手本となって行った。
そこでは、「リサイクルし難いものには高い費用負担」と「、「地域での収集分別とリサイクルが、地域の雇用と環境を守る」という企業哲学が掲げられていた。
こうした企業哲学はドイツ社会に熱狂的に受け入れられ、たんに企業収益を伸ばすだけでなく、都市近郊のゴミ焼却場が停止されるほどドイツのリサイクルを推し進めた。
しかしEUが2000年に競争原理を追求するリスボン戦略を施行すると、DSD社も企業から厳しく競争原理が求められ、財政的にも厳しい環境が続いた。
さらにドイツでも金融の自由化が始まると、株式収得による企業の乗っ取りが活発化した。
2004年には、アメリカの年金などを運用する金融投資会社KKR(Kohlberg,Kravis&Co)が、利益追求のためDSD社を標的とし、ドイツ市民の激しい抗議デモにもかかわらず、DSD社を2005年初めに買収した。
(DER SPIEGEL50/2004、51/2004)
 そのような状況の変化は廃プラスチックの海外輸出にも見られ、2000年までほとんどなかった中国への輸出が(100万ドル以下)、2001年には1320万ドルとなり、2004年には6780万ドルへと増大し、KKR支配のDSD社では企業利益が最優先され、公表はされなくなったが、益々増大していることは確かである。
さらにガラスなども国内でのリサイクルが減り、フランスや賃金の安い東欧でのリサイクルが増え、ドイツの地域産業さえ脅かされている。
 DSD社は企業哲学に基づき、90年代には過疎の地域の要の役割を果たし、地域の雇用と環境を守った。
しかしそのような哲学など、まったく意識しないアメリカの金融投資会社は企業利益を最優先して、地域でのリサイクルを外国へ移転させるだけでなく、リュウベックなどの毎週のゴミ回収を2週間に1回にし、分別などでも大幅に人員削減をしている。

ドイツではこの10年間で、市民の暮らしに欠かせない電力公社やガス水道公社から百貨店に至るまで、多くの企業が外国資本に買収されてきた。
買収の理由は、巨額な利益が見込めるからであり、スエーデンの国営巨大電力企業ファテンフォルが2002年にクルメール原子力発電所を所有するハンブルク電力会社を買収したことは、典型的な例である。
(このクルメール原発は利益を最優先することから、2007年には炉心溶融にも繋がる変圧器火災を起こし、2年間の休止修理点検後も再三に渡って事故を起こし、絶えず隠蔽が図られてきたことからドイツ国民の怒りが頂点に達し、2009年7月から停止していた。幸いこのクルメール原発、2011年の脱原発宣言でそのまま廃炉になった)。
このような市民の公共性の高い企業も買収によって金融投機の対象となるのは、新自由主義が世界を支配しつつあるからだ。 

新自由主義は、戦後世界一豊かなアメリカが、豊かさゆえに製造業などで競争力を失い、ベトナム戦争の巨額な出費も原因して財政赤字貿易赤字が拡大するなかで台頭してきた。
そこではあらゆる規制を取り除き、その衰退を軍事と金融の世界支配を通して克服することが求められた。

1981年に誕生したレーガン政権では、労働者の権利や社会保障を求める規制を根こそぎにするだけでなく、「民間でできるものは民間で」を合言葉に、鉄道、電話、ガス、水道などの公共サービスを民営化した。
また雇用から金融にいたるまで、国民を手厚く保護してきたあらゆる規制を撤廃していった。
 特にこれまで投資銀行などは、過去の金融強行の貴重な体験を生かして、金融の補佐役に徹することが求められていた。
しかし規制緩和で、投資銀行が自ら債券などを購入して顧客に販売する自己勘定ビジネスが解禁されると、住宅ローンなどの債券を買取って証券化して売るモーゲージ債が拡がっていった。
それはまさに、悪魔のルーレットと言えよう。
 悪魔のルーレットが回り出すとトレーダー社員たちのギア(渇望)に火をつけ、トレーダーの各自の売買収益に見合った巨額のボーナスが支払われるようになった。
そうしたなかで、投資銀行間の競争は激化し、レバレッジを30倍以上にして、すなわち手持ち資金の30倍以上の借金で住宅ローンの借用書を買い漁っていった。
 これこそが、世界を震撼させたサブプライム破綻による2008年の金融危機の原因である。
 サブプライムとは資金のない人たちを意味し、サブプライム層の人たちでも住宅バブルで住宅価格が上がり続ける限り、ローンで夢の住宅を手に入れることができるだけでなく、資産価値の上昇でGMの自動車でさえローンで買うことができた。
 それだけであれば、たとえ住宅バブルが破綻したとしても、アメリカだけのバブル崩壊で済んだ。
 しかし1995年就任のルービン財務長官による直接介入を通したドル高政策と、その後のグリーンスパンFRB議長の低金利政策によって、世界のマネーがアメリカに集中し、超金余りを招いた。
 当然のことながら、投資銀行はこの機会を逃さず、サブプライムローンモーゲージ債と他の安全な証券を組み合わせたCDO(債務担保証券)やその証券の信用リスクを売買するオプション取引CDS)などの金融商品を世界に売りまくり、その総額は2007末までに62,2兆ドル(約六〇〇〇兆円)に達していた。
 これらの金融商品を世界の金融機関が飛び付くように購入した理由は、当時信頼性を勝ち得ていた金融工学によってサブプライムローンモーゲージ債を様々な他の安全な証券と組み合わせることで、リスクを制御抑制できると考えられていたからだ。
さらに、ムーディーズなどのトリプルAという安全のお墨付きを得ていたからでもある。
 しかしアメリカの住宅バブルが破綻すると、まず直接の貸し手である住宅金融専門会社が倒産し始め、サブプライムローン金融商品に対する信用不安が拡がった。さらに世界の株式が連鎖して急降下し、2008年にはリーマン・ブラザーズを筆頭に多くの金融機関が倒産した。
 これに対してアメリカ政府は2008年10月3日に7000億ドルの公的資金を投入することを決定した。
またEU諸国も2008年末までに1兆ユーロを超える公的資金投入を実施した。
 この際のドイツの公的資金投入額は、5150億ユーロであったが、翌年には5780億ユーロに増え、2度にわたる景気刺激政策に810億ユーロ、さらにドイツ経済のための保証政策に1000億ユーロが使われ、合計7600億ユーロを超える公的資金が投入されたのであった(Hans-WernerSinn,2009,『KASINO KAPITALISUMS』)。
 この額から見ても、アメリカ発の金融危機にも関わらずEUの被害の方が大きかったことを物語っている。
すなわ2000年の競争原理を最優先するリスボン戦略の締結で、これまで慎重であったドイツの銀行も、高利回りで安全性の高いトリプルAの金融商品をほとんどの銀行が大量に購入しており、公的資金の投入なくしては倒産したからだ。
 確かに銀行そして国民の預金を守るために公的資金の投入が必要だったとしても、このような「ねずみ講」的世界バブルが破綻することは予見できたことである。
それにも関わらずあらゆる金融規制を取り払い、ドル高政策と低金利政策でバブルの肥大化を後押ししてきた事実を考慮すれば、金融危機はそれを望む人たちによって意図的に引き起こされたことは明白だ。
 その証拠に1971年のブレトン・ウッド体制の終焉以来、これまでにおよそ200回ほどの金融危機が繰り返されており、1994年のメキシコ金融危機、1997年のアジア金融危機、1998年のロシア金融危機南アフリカ連邦金融危機、2001年のアルゼンチン金融危機、2002年のなどの金融危機を通して、それらの新興国の富が略奪されるだけでなく、莫大な負債が残された。
 またアジア金融危機の後の韓国を見ればわかるように、多くの韓国の主要企業はアメリ多国籍企業の資本に組み込まれた。
 そのような視点で見れば、金融危機アメリカが世界を支配するための戦略と言っても過言ではない。
もちろんここで言うアメリカとは、金融産業、石油産業、そして食料産業などの世界支配をもくろむ巨大資本である。
例えば食料産業では、PCB製造や遺伝子種の世界支配をもくろむモンサント社であり、一社だけで2008年の経常利益は100兆円を超えている。
 そのような新自由主義支配と、日本を危機に陥れている76円の円高や福祉、年金の大幅縮減を求める「税制と社会改革の一体化」、原発などの深刻な問題は密接に結びついている。
円高サブプライム金融商品総額6000兆円を商いし、日々400兆円という巨額のマネーが投機される新自由主義のカジノで、世界支配をもくろむ巨大資本がドル売り円買いという兵糧攻めを開始しており、現在の枠組みの中ではどのように日本政府が円高に介入しても無理である。

<今回は長くなりましたので、その後編でドイツから学ぶ克服への処方箋を述べたいと思います。>