(54)検証シリーズ10、民主党のハンメルの笛吹きたちは日本を何処へ連れていくのか。

私が妙高を離れている間に、日本のTPP参加が表明された。
これまでの経過からある程度予測されたことであったが、本格的なボトム競争と増税の開始ボタンが押されたことを自覚せざるを得ない。
何故ならTPPは単に貿易関税をゼロに取り払うだけでなく、国そして地域において築かれてきたあらゆるルールが規制撤廃を通して葬り去られるからだ。
まさにそれは、新自由主義の世界支配の開始に他ならない。

そこでは右や左のハンメルの笛吹きたちが、世界の貿易自由化を通して食料品や商品が世界の最も安いところで生産されることで、人々はそれを遥かに安く買うことが出来るようになり、流通が拡大することで人々の富も倍増すると吹聴している。
しかしこれまでの新自由主義の推進で見られたことは、規制撤廃で最初こそ価格が下がり、国民にとっても利益がもたらされるが、業界の寡占化が進むと逆に市場支配によって価格が値上がりする事実であった。

例えばドイツの1998年の電力自由化では、最初の数年こそ電力価格は30パーセントほど下がったが、900社にも及んだ地域の電力公社や企業が4大巨大電力企業に集約支配されるようになると、電力価格は市場操作で値上がりし続け、2007年までに120パーセントも値上げされ、現在では日本の高い電力価格を凌ぐほどである。
また流通の拡大で競争が激化し、賃金や雇用形態をボトム競争で下方へとスパイラルさせていくことは、新自由主義を推進した小泉構造改革を振り返れば明白である。

この間国の負債総額(国債及び借入金残高)は、2001年の538兆円から2006年の832兆円へと巨額に膨らんでいる事実を検証すれば、日本の輸出額の2002年52兆円から2007年84兆円に6割以上という過去にない飛躍的な発展も国からの支援に他ならず、将来世代からの借金に依存していると言っても過言ではない。
しかも国民の平均年収は、2002年の389万円から2007年の367万円に下がっている。
また2001年から2006年までに国民の税金が5兆円増加し、さらに健康保険費や社会保障費も合わせて5兆円増加するなかで、産業利益の莫大な富は一滴の雫も下に滴らないだけでなく、国民の暮らしを著しく悪化させた。
これは小泉新自由主義政権だけでなく、これまでのサッチャー政権やレーガン政権に始まる世界の如何なる新自由主義政権でも同様であり、一部の人たちに収奪された富が下へ滴ることは皆無であった。

そして今、民主党のハンメルの笛吹きたちは、我々を何処へ連れて行こうとしているのだろう。
それは、1998年に新自由主義に反旗を掲げて勝利した労働党政権(シュレーダーの赤と緑の連立政権)を検証すれば明らかである。
労働党政権は、現在の新自由主義の枠組を継続する限り手立てがなく、国民の支持率の低下に伴い企業献金に依存を深めることから、「国民の利益を求めるには、まず産業の利益を求めるべきだ」と反転するのである。
しかも労働党政権は、御用組合化した母体を通して産業と太い密着したパイプを持っていることから、結果的に新自由主義を過激に推し進めることになる。
それは、ドイツ労働者の権利と保障を著しく低下させ、多くのドイツ国民から恐怖の労働法として現在も非難されるハルツ法が、労働組合側のフォルクス・ワーゲン社労働管理部長ハルツによって作成されたことからも明らかである。

すなわち2003年1月から順次施行されて行ったハルツ法では、全国にある雇用局を「ジョブセンター」に改編し、失業の届出を厳しくすると同時に、ジョブセンターで紹介する就労先を、専門職でないという理由などで拒否することが出来なくなった。
そして2005年1月に施行されたハルツ第4法によって、それまで32ヶ月の失業保険期間を過ぎても専門職が見付からない場合、無制限に前の職場での総収入57パーセント(保険期間中は子供世帯で67パーセント)が失業扶助されていたが、そのような手厚い扶助がなくなり、「失業扶助」と生活保護にあたる「社会扶助」を「失業給付2」として一本化された。
しかも「失業給付2」は資産査定によって預金などが当局によって自由に調べられるようになった上に(申請者は屈辱感に耐えなければならず、資産が見つかれば受け取れない)、給付額も激減した(住宅手当などを除き旧西ドイツ州では月345ユーロ、旧東ドイツでは月331ユーロ)。
すなわちドイツの専門職の長期失業者は、豊かな暮らしを剥奪されただけでなく、最低限の生活保護者へと切り捨てられて行った。

そして今、産業利益を優先する民主党のハンメルの笛吹きたちは、国民の総意を無視して、新自由主義支配の世界帝国とも為りかねないTPPに自ら参加を表明し、国民を奈落の底へと連れて行こうとしている。
そこでは、古賀茂明が暴露するように少なくとも消費税25パーセントの増税みんなの党が掲げる医療費30パーセントの値上や法人税の半減、そして年金開始年齢の68歳への引き上げなど、恐怖の切り札が目白押しである。
さらに恐ろしいのは、国民がそのような恐るべき負担に耐えても、救急車の自己負担が求めらアメリカ社会のように、福祉や社会保障予算の縮減でこれまでの国民サービスが期待できなくなることだ。
その上農業や国際競争力の全くない内需産業が壊滅し、当初だけは安い食料品や商品が出回ったとしても、市場支配が進めば逆に値上がりは必至である。
また地球温暖化の進行で飢饉は避けられないことから、食料品が入って来なくなれば、パニックだけでなく餓死も現実化しよう。

このような恐ろしい日本の未来は、TPP参加や現在も粛々と継続される原発ルネッサンス推進のかなたに、既に垣間見られる。
すなわち民主党のハンメルの笛吹きたちが連れて行こうとしている自由貿易による世界支配、すなわち悪魔のカジノキャピタリズムが導く世界帝国には、日本の未来がないだけでなく、人類の未来はない。
確かに現在の日本、そして世界の未来は、「出口なし」と言っても過言ではない。
しかし脱原発を選択したドイツを中心とした国々で、地域分散型のソラーエネルギーが興隆する2020年頃までには、99パーセントの幸せを追求する世界が台頭してこよう。
それなくしては人類に未来はなく、既にそのような動きはドイツなどで湧き上がってきているからだ。
したがって日本の未来を切り開くためには、選挙では政党を再編して、TPP参加、原発ルネッサンスが創る1パーセントの利益を求める新自由主義か、TPP参加放棄、脱原発が創る99パーセントの利益を求めるアンチ新自由主義で争われるべきである。
(文責 関口博之)

今回で検証シリーズは終わりにして、次回からは99パーセントの幸せの台頭を求めて、ドイツから学ぶ「99パーセントの幸せ」を連載していきたい。