(372)メルケル時代の終りから見えてくる世界(1)・違憲審査法廷創設の必要な理由(1)大本営東芝王国の末路が語るもの

メルケル時代の終りから見えてくる世界(1)


今年

2019年7月17日に放映されたZDFフィルム作品『人間メルケルメルケルレジスタンス』は、メルケル時代の終りを見据えて、ドイツ、そして世界が何処へ行こうとしているか、何処へ向かうべきなのかを考えさせる秀作であった。
メルケルはコールの「お嬢ちゃん」と言われるように、コール政権(キリスト教民主同盟CDU)に忠実で、周囲にカメレオンのように見事に調和しているかと思えば、時には鉄の女と言われるように強い女のイメージがあった。
しかし2008年の世界金融危機以降は人間メルケルの頭角を現し、2010年の「経済成長加速法」では名前が新自由主義的にもかかわらず、低所得者や中小企業の大型減税を断行し、大企業や富める人たちには一切支援せず、富の再配分で財政健全化に取り組んだ。
また2011年の福島原発事故を受けて、党派内には原発推進派が多いなかで素早く倫理委員会を立ち上げ、公共放送でガラス張りにすることで、圧倒的多数の脱原発世論を創り上げることで、ドイツの脱原発宣言を世界に轟かせた。
さらに与党キリスト教民主同盟新自由主義に搦め捕られいることから支持率の低下が止まらないなかで、2012年の党大会では戦後の「万人のしあわせ」への回帰宣言で、ドイツの社会的市場経済の再生を打ち出し、ドイツ市民の心を掴み、首相4期つとめるまでに国民に愛されるドイツの「お母ちゃん」になったのである。
しかし冒頭で見るように、競争教育から連帯教育を取戻し、より厳しい気候変動条約の早期実現を求めて当然のようにデモする若者たちは、最早メルケルの理想を実現できない政治に失望しており(メルケルにしてもキリスト教民主同盟内の枠組では限界があることから)、メルケル時代の終りが見えて来ている。
それは今年5月の欧州議会選挙で見るように、首位のキリスト教民主同盟(CDU)が得票率22.6%(2014年の前回選挙:30.0%)で大幅に支持を減らした一方で、若者の支持が増大している緑の党が20.5%(10.7%)と飛躍的に支持を増やしていることが、メルケル時代の終りとドイツの未来を物語っている。

何故今違憲審査法定が必要なのか(大本営東芝王国の末路が語るもの}

現在の日本の最高裁判所には5名の裁判官からなる3つの小法廷と、違憲審査などが必要な際の15名の裁判官(小法廷所属)がある。
これらの15名の最高裁判官は、すべて職業裁判官から構成されているわけではなく、構成枠職業裁判官6名、弁護士4名、検察官2名、行政官2名、法学者1名で時の内閣によって選ばれている。
それは自ずと内閣の突き進む方向に沿う人たちで構成されていると言っても過言ではなく、時の内閣の行う政治や行政に対して、公正な違憲審査など出来ないことを物語っている。
それゆえに大部分の法学者が違憲とする集団的自衛権行使の安全保障関連法や、戦前の治安維持法になりうる秘密保護法、共謀罪法が最高裁で裁かれることなく、そのまま生き続け、予期される米国とイランや北朝鮮との戦争が始まれば、日本がその戦争に巻き込まれる恐怖感を感じないではいられない。
こうした憲法を無視し、国会で十分な議論もせず数の論理による暴挙は、安倍政権誕生以来続出している。
それは見方を変えれば、日本が戦前のように行き詰まっているからであり、アベノミクスも偏に大企業を助けるために、多額の負債を将来世代に背負わせたと言えよう。
しかも大企業も表向きはゼロ金利による日銀支配の円安で活況を呈しているが、活況の自動車業界や建設業界でも不正が続出しており、最早不正は日常茶飯事となっている。
そのなかでも、とくに東芝の不正が際立っている。
東芝は以前のブログ83で書いたように、戦後の希望の星であり、戦後の日本の大躍進を牽引してきた中核大企業でもあった。
その東芝福島原発事故後も、原発導入の道義的責任も取らず、2006年に買収した世界最大の原発製造メーカーのウエスチングハウス社(WH)を軸に、新型加圧水型原子炉を米国で6基、中国で4基受注し、総額170兆円の原発受注ウォーズを先頭に立ち突き進んでいた。
しかもそれを官民共同出資で支える日本政府は、福島原発事故は克服できた世界に宣言し、国民の批判をよそに原発輸出を国策として、ベトナム、中東(アラブ首長国連邦)、トルコ、ポーランドリトアニアなどで受注し、原発受注ウォーズを推進していた。
しかし現実は事故による原発安全性基準の強化で建設費用が高騰し、受注した原発プロジェクトは全てでとん挫している。
東芝に至っては、最大の戦力と称された原発部門が屋台骨を崩すまでに負債を膨らませ、2017年にウエスチングハウス社(WH)を破産申請し、2018年にカナダの投資ファンドに売却しており、既にドル箱であった医療機器事業は2016年、半導体、テレビ、パソコン事業は2018年売却し、最早未来なき巨大戦艦と言っても過言ではない。
そのような不正にによる過ちが、東芝を代表として大企業で止まらないのは、まさに官僚支配の大本営システムから来るものである。
事実2015年に露呈された東芝粉飾決算事件では、目標とする利益を計上するために損失などの報告は、「そのような報告は受け入れない」という規律が支配していた。
それは福島原発で炉心のひび割れに対して、国の責任ある官僚が委託検査会社の技師に対して取った言葉であり、責任なき大本営のシステムである。
既にこのブログで載せた開戦直前の私の見た動画51『ノモンハン事件』終戦に近い私の見た動画33『インパール作戦』を見れば明らかであるように、事態の正確な情報も知ろうとせず、目先の自分たちの面子を確保するために精神主義で無責任に突破し、何度でも何度でも同じ過ちを繰返し、無数の命を犠牲にして行った大本営のシステムに他ならない。
そのような恐ろしく無責任な大本営システムが、坂を上がれば必ず下がることもあるのに、利権構築で絶えず上がることを求めて暴走し始め、戦前の過ちを繰返そうとしている。
それは単に憲法9条改正だけでなく、「国家戦略特区」なる悪知恵で、80年代の中曾根新自由主義内閣さえ踏み込めなかった、医療、農業、教育、雇用の分野への規制緩和が実質的に推し進められている。
まさに暮らしと生命を守る将来世代にも渡る規制が、目先の最大利潤を追求して取り払われる暴挙が公然と為されている。
そのような暴挙は国民の首を絞めることになるのは必至であり、暴挙を止めるためには前回述べたように(注1)、政府官僚支配から完全に独立した違憲審査法定を、最高裁判所内に設立することが不可欠である。
そのような設立は、戦後の司法の独立を誓い、違憲審査を主要な使命として最高裁判所を設立した目的に従えば、憲法改正国民投票を実施する必要もない。
すなわち次の衆議院選挙で憲法9条改正に反対する野党は、連合して最大の共通公約として違憲審査法定の設立を掲げればよい。

(注1)ドイツを手本にすれば、憲法裁判所の16名の裁判官は連邦議会連邦議会で、選挙での政党投票率で各党推薦の各々8名の裁判官が選出されており、その他の連邦及び州の審議会やあらゆる公的機関や委員会の委員も、原則として連邦もしくは州選挙での政党投票率で各党推薦の専門家が選ばれており、何処から見ても独立した、公正を求める絶対的第三者機関にすることも可能である。