(481)核なき世界の実現(9)最終回・互恵的利他主義

 戦争阻止に機能しない国連

 

 上の私の見た動画78『大国の戦争に機能しない国連』(2023年2月19日の放送のNHKスペシャル「混迷の世紀 第9回 ドキュメント国連安保理〜密着・もうひとつの“戦場”〜」を私の印象で5分の1ほどに短縮)では、「戦争を止められない国連は、もはや不要だという声もあります。それでも国連は必要ですか?」という厳しい問いから始まっている(残念ながらこの動画も何処がするのか特許権で守られおり、見てもらうことが出来ませんが、公共放送を私の印象で5分1にしたものが見れないのは表現の自由に反するものであり、それこそが絶えず退歩してきた日本の民主主義のリトマス試験紙であるように思います。尚デイリーモションでは不思議にも見られましたので載せて置きます)。

www.dailymotion.com

しかも国連事務総長グテーレスは、その批判には「致し方ない」としか答えられないのが現状である。

国連誕生以来の国連研究の第一人者のイェール大学のポール・ケネディ教授は、「国連はいま、1945年に創設者たちが悪い意味で予想していた通りになっています。というのも、安保理が戦争を終わらせることができるのは、大国の考えが一致していて、拒否権を行使せず、他の国を妨害しないときに限られているからです」と明言している。

さらに付け加えて、「拒否権を持つ大国が、国連憲章の中にある『各国の主権を尊重する』という規定を無視することは、あってはなりません。しかし残念ながら、大国に有利な国連のシステムをどうすることもできません。一方で、だからこそロシアは、国連にとどまっているともいえるのです。創設者たちは、国連を“サーカスのテント”に例えました。一頭の猛獣がテントを飛び出すよりも、すべての動物をテントの中にとどめておいた方が、まだいいと考えたのです」と述べている。

そしてロシアの引き起した戦争に機能できない国連に対して、「ロシアを国際社会に引き戻す方法を、なんとしても見つけなくてはなりません。プーチンのロシアは、他の国を傷つけながら、他でもないロシア自身を最も傷つけています。もしロシアがいまの状況から抜け出したいと判断したとき、国連事務総長に仲介を要請する可能性は十分あります。まずは、ロシア自身が行動を変える必要がありますが、事務総長の仲介には、戦争を出口に向かわせる可能性が残されています」と語っている。

すなわち国連はロシアが戦争を止めたいと望まなければ機能せず、ロシアを国際社会に引き戻すには、止めたいと望むように仕向けるしかないと言っているのである。

それは嘗てのロシア大帝国を妄想する独裁プーチン政権では不可能であり、欧米支援でウクライナが境界線までロシアを退け、一時的に停戦が結ばれても、本質的な平和構築は難しいことを物語っている。

もっとも欧米にしても、ゴルバチョフの「欧州共通の家」という平和構想を真摯に受止めず、東欧拡大で利益追求を最優先したことは明らかであり、言わばウクライナは大国ロシアとアメリカの代理戦争の犠牲という見方さえできる。

そのような視点から見れば、何時世界戦争に発展してもおかしくなく、まさに人類は絶滅の核戦争危機にあると言えるだろう。

 

互恵的利他主義

 

 同時に人類は地球温暖化による全氷河融解で海面が十数メートル上昇し、世界の大都市が水没崩壊するという危機にも直面している。

それは化石燃料を燃焼させることで絶えず成長してきた結果であり、必然的に招いてきた気候変動危機である。

そのような将来的危機が年々確実視されるなかで、ヨーロッパ連合EUは真剣に受止め、化石燃料エネルギーを再生可能エネルギーにエネルギー転換によって2050年までに二酸化炭素排出量ゼロの脱炭素社会の実現に、2015年のパリ協定以来真剣に取組んできた。

しかしウクライナ戦争によって石油や天然ガスのロシア依存ができなくなったことから、再生可能エネルギーへのエネルギー転換がより速く求められている。

再生可能エネルギー太陽光発電風力発電バイオマス発電にしても地球に降り注ぐ太陽エネルギーを源とする分散型技術であり、地域で小規模な発電が経済的にも圧倒的に有利である。

それゆえ従来の巨大企業が支援を受け、洋上風力発電や砂漠でのメガソーラーで再生可能エネルギー事業に取組んでも、遠くからの電線網建設でコストが跳ね上がり、将来的展望が開かれないことから停滞を余儀なくされていた。

そのような再生可能エネルギーへのエネルギー転換の停滞から、EUは2018年のエネルギー指令では、これまで巨大企業配慮でエネルギー転換に市民の参加を阻むものであったが、積極的に市民参加できるものへと転換した。

さらにウクライナ戦争のエネルギー危機で全面的に市民参加を求め、地域でのエネルギー自立を後押しするまでに変化したと言えるだろう。

事実2023年1月の科学的データでは(注1)、EU29カ国で1万を超える市民イニシアチブ(ドイツで言えば市民エネルギー協同組合)が湧き上がるように設立され、市民エネルギー転換に取組んでいることが報告されている。

そうした流れからは、ドイツが電力消費の少なくとも80%以上を再生可能エネルギーに転換すると明言した2030年には、地域での市民エネルギー転換が急速に進み、多くの地域でエネルギー自立が実現しよう。

そのような地域での市民によるエネルギー自立は、従来の競争原理ではなく、連帯による分かち合い原理であり、利己主義とは対局の利他主義(愛他主義)を育む筈である。

何故なら益々過激化する地球温暖化を本質的に阻止するためには、エネルギー自立が達成された地域がその技術ややり方を他の地域に無償で提供すればするはど、速く本質的解決に向かうからである。

それは正確に言えば、互恵的利他主義である。

地域のエネルギー自立が実現すれば、危機の時代には食料の自給自足だけでなく、余剰エネルギーを利用して生活必需品の地域での生産に向かうことは必至である。

それゆえ前回述べた禍を力としてヨーロッパを吹き抜ける風は、グローバルに外に向かって貪り取る競争の風ではなく、ローカルに内に向かって創り出す連帯の風と述べたのである。

そのような風は、本質的な平和をもたらす風であり、世界のすべての地域が太陽を利用してエネルギー自立で自律社会を築いて行けば、他から奪う必要がなくなり、自ずと恒久平和の核のない世界が実現しよう。

それゆえ欧州連合EUは、そのような壮大な和平構想をすぐさま提案し、ウクライナ戦争を停戦に導くべきである。

国境を越えてすべての地域がエネルギー自立によって自律社会を築くという和平構想は、ゴルバチョフが夢見た「欧州共通の家」をさらに越えて「世界共通の家」を創るものであり、例えプーチンが大帝国を夢見る独裁者であったとしても、拒めない筈である。

何故ならそのような利他主義に基ずく壮大な和平構想には、プーチンの正義とするNATO拡大阻止を解消するだけでなく、NATOを将来的になくすものであるからだ。

しかもそれは、ポール・ケネディ教授が説くロシアが戦争を望まなくさせる唯一の方法でもある。

西側がこのような利他主義に立ち、壮大な和平構想でロシアから北朝鮮、さらにはアフリカなどの発展途上国再生可能エネルギーの分散型技術とやり方、さらには実地指導を無償で提供することは、絵に描いた餅であり、決して容易なことではない。

しかしこのままウクライナ戦争を続け、さらに中国や北朝鮮などを巻き込んだ世界核戦争に発展する可能性を考えれば、絵に描いた餅の実現も、西側の意思と決断次第である。

壮大な和平構想で、世界のすべての地域で太陽エネルギーに基ずく自律社会が誕生していけば、恒久平和の核のない世界が実現するだけでなく、現在の気候変動の危機、格差肥大社会の危機、感染症危機などすべての問題が解消へと向かい、想定できない程大きな利益であり、まさに互恵的利他主義によって生み出されるものである。

 

岐路に立つ我々の時代

 

 我々の時代は化石燃料エネルギーから自然(太陽原資)エネルギーへの過度期に立っており、人類が滅びるか、人類の理想が実現できるかである。

すなわち化石燃料支配のグローバル資本主義は生き延びるために新自由主義カジノ資本主義)を生み出し、競争原理最優先で奪い取って行くため、アフガニスタン、シリア、ウクライナで絶えず戦争を続け、ウクライナ戦争では人類絶滅の核戦争危機を招いている。

さらに長年の化石燃料支配は、地球温暖化危機や格差肥大の分断危機など、生命を脅かす危機を招いている。

しかし多くの人々は化石燃料のメディア支配によって洗脳され、目先の自らの利益に囚われ、本質的な解決に目を向けようとさえしない(注2)。

そのような化石燃料のメディアによる洗脳の検証にもかかわらず、ドイツでさえ化石燃料支配は強く、中々気候正義は進まなかった。

しかしウクライナ戦争が引き起したエネルギー危機という禍を力にして、ドイツだけでなくヨーロッパ全体で市民の自然エネルギーへの転換が一気に進み始めている。

それは、ロシアの石油やガスからのエネルギー自立を強いられたからであり、それに対して化石燃料支配の担い手である巨大企業の惨事便乗型利益追求が最早通用の限界に達しているからである。

また民主主義を掲げるヨーロッパの過半数を超える市民が、真剣に気候正義実現を求めており、政治はその要請に答えなくてはならないからである。

そのような気候正義実現は世論が促す政治決断で、互恵的利他主義に立って世界に拡げて行くことができる段階に達している。すなわち地域での分散型技術の発展で、世界世論がそれを望めば世界の政治を動かすことも可能である。

もっとも現在の世界政治は大国ロシアの戦争停止には無力であり、ウクライナへの武器提供で戦争を煽りたて、益々人類絶滅の核戦争危機に向かっている。

それゆえ絶えず成長発展を求める世界経済の仕組を変えることが必要であるが、それを直接求めれば、旧勢力と新勢力の対立は避けられず、革命という力よる転換が必要になり、革命が成功しても、力による統制で人類の理想は決して実現しない。

しかし近代の負債が招いた気候変動危機、格差社会危機、生態系危機、世界戦争などの危機で、頻繁に生じてくる禍の対処に民主主義を通して政治が動くことは止められない。

そして世界が表向き二酸化炭素排出量ゼロの脱炭素社会実現を約束する2050年までには夥しい数の禍が待ち受けていると思えるが、禍を力として流れに任せて化石燃料から自然エネルギーへの転換を進めて行けば、人類理想の社会を築くことも決して絵に描いた餅ではない。

人類理想の社会とは、地域エネルギー自立を基盤として食料や生活必需品を自給自足を指向し、競争よりも分かち合いによる連帯を尊重し、外に対しても互恵的利他主義を貫ける社会である。

そこではエコロジーな脱成長が原則として求められるとしても、辛い単純労働には積極的にデジタル化、人工知能やロボット技術が利用され、労働が楽しく豊かに解放される社会であり、利他主義で様々な人の多様な幸せが求められる社会であり、恒久平和の核なき世界である。

 

(注1)

ヨーロッパ29か国で湧き上がる1万を超える市民エネルギー協同組合

https://www.nature.com/articles/s41597-022-01902-5

 

(注2)

化石燃料のメディア支配は(385)で述べたように、ZDFが2020年に制作した『気候変動否定での潜入取材』(2月4日のZDFフロンターレ21で放送)では、市民調査機関と共同で人為的気候変動を否定するロビー活動本部に潜入取材までして、その実態と資金の流れを明らかにしている。

その実態では、あらゆる分野の著名人にお金で記事を依頼し、人為的気候変動に絶えず疑問を投げかけている。すなわちそれらの記事は、科学的論拠に全く関心なく、都合のよい科学事実だけを抜き出し、感情に訴える一貫性を備えた嘘を作りだしている。そのようなメディア支配のやり方は、タバコの発がん性公示では世界の著名人を通して疑問を投げかけ続け、半世紀近くも厳しい既成を引き伸ばしてきたことが、カルホルニア大学科学史教授のナオミ・オレスケスの書いた『世界を騙しつづける科学者たち』では見事に検証されている。

またお金の流れは、アメリカの石油産業などからのお金が様々なシンクタンク、あるいは匿名寄付を可能するドナーストラストを通してハートランド研究所Heartlandに集められ、ドイツの研究所EIKE(ドイツの大学都市イェーンに2007年に設立された気候とエネルギーのためのヨーロッパ研究所)に莫大なお金が送られ、そこから極右政党AfD(ドイツのための選択肢)に流れている。

 

ブログ休刊のお知らせ

  「永久革命としての民主主義」第三部『核なき世界実現』を書くため、10月中旬くらいまでブログを休みます。この本ではブログに書いた内容を深め、単に書くだけでなく、利他主義(愛他主義)による気候正義達成で、戦争のない「核なき世界」実現を世界に訴える活動の第一歩としたいと思っています。尚「永久革命としての民主主義」第一部第二部を読んでいない方には、是非読んでもらいたいと思います。また人類の理想達成については、昨年4月に出した『2044年大転換』を読んでくだされば、理解してもらえると思います(但しウクライナ戦争に対してはアメリカのアフガニスタン撤退直後であったこともあり読み切れておらず、本質的理解に欠けていたと思います。下に目次を載せて置きます)。

目次

はじめに  1

序章  たたき台としての救済テーゼ 11

コロナ感染症が問う社会正義 13

「悪魔のひき臼」が文明を滅ぼして行く 17

人新生の希望ある未來はドイツから開かれる 20 

第一章 二〇四四年大転換未来シナリオ 25

     二〇三一年国連の地域主権、地域自治宣言 27

     地域主権、地域自治が創る驚くべき変化 41

     地域の自助経済が創る新しい社会 49

     ベーシックインカム導入が時代の勝利となる日 60

     二〇四四年七月X日の首都崩壊 64

     市場が終わりを告げるとき 68

     戦争のない永遠の平和 74 

     倫理を求める絶えず進化する民主主義 82

第二章 大転換への途は始まっている 89

     緑の党の基本原理が世界を変えるとき 91

第三章 何故ワイマール共和国は過ちを犯したのか?107

    ワイマール共和国誕生の背景 109

    官僚支配こそホロコーストの首謀者 114

第四章 戦後ドイツの絶えず進化する民主主義 121

    世界最上と自負するドイツ基本法 123

    戦い育む憲法裁判官たち 128

    ドイツを官僚支配から官僚奉仕に変えたもの 139

第五章 ドイツ民主主義を進化させてきたもの 145

    メディア批判の引金を引いた『ホロコースト』放映 147

    裁判官たちの核ミサイル基地反対運動 153

    脱原発を実現させたメディア 168

    気候正義を掲げて戦うドイツ公共放送 179

第六章 人々に奉仕する経済の民主化 187 

    危機を乗り越える社会的連帯経済 189

    ドイツの連帯経済 194

    人に奉仕する経済の民主化 199

第七章 ドイツの気候正義が世界を変える 207

    気候正義運動が創る違憲判決 209

    文明の転換 213

あとがき 221

 

 

(480)核なき世界の実現(8)欧州の見果てぬ夢(後編)

「欧州共通の家」という見果てぬ夢

 

 上の私の見た動画77(2022年10月1日放送したETV特集ゴルバチョフの警告~冷戦終結ウクライナ危機~」私の印象に残るシーンで3分の1ほどに短縮)は、2014年のロシアクリミア半島併合の直前ゴルバチョフが米ロ首脳に宛てた要望書(警告)から始まっている。(ETV特集「ゴルバチョフの警告~冷戦終結とウクライナ危機~」はデイリーモションで見られます

しかしその警告は功を奏せず、世界はその後の東ウクライナでの抗争を平和解決しようとする努力を怠り、2022年ロシアの侵攻によって今も続く悲惨なウクライナ戦争へと発展させている。

ゴルバチョフの切なる警告が無視された背景には、80年代末の世界が西も東も冷戦の終結と平和を願った時代と異なり、平和よりも成長発展が優先され、最早首脳外交で危機が回避されない時代になって来ていることにある。

すなわち冷戦下では経済も平和なくして繁栄はないとされてきたが、新自由主義が推し進めるグローバル資本主義では、戦争と言う惨事さえ利益追求に利用されている。

ナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン・惨事便乗型資本主義の正体を暴く』では、「ところが今やそうではなくなった。2003年以降、戦闘機と高級自家用ジェット機の売上は、足並みをそろえて急速な伸びを示している。つまり、世界はますます平和から遠ざかると同時に、経済収益もどんどん拡大しているのだ。……今日、不安定な国際情勢で潤っているのは何も一握りの武器商人だけではない。ハイテク化したセキュリティー産業や建設業者、負傷した兵士を治療する民間医療企業、石油やガス会社、そして言うまでもなく軍事請合企業も巨額の利を得ている」(619ページ)と、事実を列挙して検証している。

しかしそのような惨事便乗型資本主義では、現在のウクライナ戦争が示すように核の限定使用さえ公言され、人類の滅亡も見えてきている。

それゆえに今こそ、ゴルバチョフの夢見た「欧州共通の家」平和構想を実現するときであり、それなくして世界の未来はないだろう。

ゴルバチョフの「欧州共通の家」平和構想は、1985年書記長に就任以来持っていた平和構想であり、1987年4月のプラハ演説では以下のように述べている(注1)。

「私たちは、大陸を互いに対峙する軍事ブロックに分割すること、ヨーロッパに軍事兵器を蓄えること、戦争の脅威の源であるすべてのものに断固として反対します。新しい考え方の精神で、私たちは「欧州共通の家」」の構想を導入します...これはとりわけ、全体承認が不可欠ですが、問題の国家は異なる社会システムに属し、互いに対立する軍事政治ブロックのメンバーです。この「欧州共通の家」の言い回しには、現在の問題とその解決策の現実的両方の可能性が含まれています」

そしてフイルムで見るように、1990年11月パリでの全欧安保首脳会議がゴルバチョフの強い要請で開かれ、パリ憲章を採択した。

このパリ憲章の採択こそ、ゴルバチョフの夢見た「欧州共通の家」の第一歩であったが、ゴルバチョフが失脚し、ソ連が崩壊することで見果てぬ夢となった。

「欧州共通の家」構想では、現在のNATO加盟国とワルシャワ条約機構加盟国の対立を、東ドイツ及び東欧諸国を中立国とすることで緩和し、将来的には大西洋からウラルに至る全ヨーロッパの国々を一つのヨーロッパ連合に統合し、平和で平等な発展を目指し、戦争のない、核なき世界を実現するものであった。

そのような構想にヨーロッパ諸国はフランスを先頭に支持し、東欧諸国も多くが平和主義者の反体制派支配に変わり、西側への編入よりも中立で非武装地帯を望んでいたことから、この構想の実現には賛成であった。

しかしアメリカのブッシュ政権新自由主義を通して、アメリカを既にコーポラティズム国家へと進化させていた。

確かにベーカー国務長官の書簡では、東独に対しては一定の妥協を示唆し、NATOの東方拡大は1インチもないと明言しているが、スコウクロフト補佐官のブッシュ発進書簡では、統一ドイツのNATO帰属とソ連に対して無用な妥協をすべきでないことが書かれている(注2)。

そこではNATOの東方拡大については全く触れず、ベーカーの東欧「拡大は1インチもない」を約束として文章化しなかったことは、その裏では東欧拡大を目論んでいたことを示唆している。

そのような目論見は、ナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』の11章に詳しく書かれてており、一つ一つ事実を挙げて検証している。

すなわち1991年7月の先進国首脳会議(G7)では、各国首脳の態度が一変し、ゴルバチョフが急進的な経済ショック療法をすぐに受入れなければ、ロープを切断して奈落に突き落とすというメッセージに変化していた。

しかもこのG7後ゴルバチョフは、融資を口約束していたIMF世界銀行からも、融資条件として新自由主義の急進的改革が要請され、融資が進まないなかでソ連は崩壊し、ゴルバチョフも失脚した。

その後狡猾なエリツィンが台頭し、西側の新自由主義経済学者たちの指導で急進的なショック療法を断行し、価格統制廃止、貿易自由化、国有企業約2万5000社を段階的に民営化して行った。

エリツィンは1991年10月28日のロシア人民代議員大会でそれを演説し、「半年ほどは事態が悪化するが、その後は回復に向かい、近い将来ロシアは世界で四本の指に入る経済大国になる」と約束している。しかしわずか一年後、ショック療法の打撃は壊滅的なものになっていた。それは民衆の著しい困窮によって国民の支持を失うだけでなく、議会からも支持が得られなくなったことから、1993年9月21日に憲法を停止し、議会解散を命じた。

この暴挙に議会はエリツィン弾劾を決議したが、エリツィンは10月4日世界が見守るなかで議会砲撃という攻撃に出たのであった。

それは既に載せた私の見た動画76『ショック・ドクトリン3-2』では、「議会砲撃という巨大ショックで国中が騒然となった隙に、エリツィンとロシア版シカゴボーイズたちは、過激な民営化計画を強行して行きます。ロシアの石油企業などが10分の1の値段で海外企業に売られ、国有資産の大セールが行われました。その中でシカゴボーイズたちと手を組んだ新興財閥オルガルヒが莫大な利益を手に入れた」と語っている。

しかしそのような事態への移行は、エリツィンゴルバチョフを裏切り、硬骨な欲望の深い人間であったからではなく、ソ連崩壊後のロシアがフリードマン新自由主義に絡め取られて行ったからに他ならない。

それは再統一されたドイツでも同じであり、ベルリンの壁崩壊直後に過激に新自由主義を推し進めるアメリカ企業が雪崩込み、莫大な東ドイツの財を根こそぎに奪って行ったことから見ても計画的だったと言えるだろう(注3)。

具体的にはコンサルタント企業マッキンジー、経営診断企業プリンスウォーター・ハウス・クーパー、法律事務所ホワイトアンドケースなどの多くの弁護士を抱えた専門企業が襲来し、常套手段のやり方で信託公社の役人や政治家を買収し、タダ同然で強奪して行った。例えば東ドイツの4万企業の全体の売値はタダどころか、非解雇を条件に2560億マルクの助成金が付けられた。

そして1994年には厳格に政治汚職を禁じた刑法104e条項が改正され、議決に対する便宜のみ有罪に書き換えられ、大半の政治汚職が合法化された。

しかもコール政権では国益を最優先するという名目で、300人にも上る大企業社長が相談役として政府内への出入りを許されるだけでなく、3000人を超えるロビーイストがフリーパスで連邦議会に出入りできるようになり、政治と企業の癒着が深まって行ったのである。

しかしドイツでは、国家より国民のためを優先する基本法が国民の権利を多数決では変えられない第1条から第20条で守っていることから、新自由主義を克服しつつあり(注4)、禍を力として気候正義実現に向かっていると言えるだろう。

 

ゴルバチョフの夢を実現するとき

 

 確かにゴルバチョフが「欧州共通の家」を夢見た時代はヨーロッパに新自由主義が襲来した時代であり、ブッシュ大統領やスコウクロフト補佐官(注5)の新自由主義推進の目論見がなかったとしても、ヨーロッパ自体が2000年に新自由主義推進のリスボン戦略を採択したことからも、西と東の衝突による戦争は避けられなかったろう。

現在のグローバル資本主義は、化石燃料資本が築いた絶えず肥大するモンスターが限界に達し、公共資本の民営化で国民国家さえ喰い尽くしており、アフガニスタン、シリア、ウクライナと絶えず戦争を継続させ、核兵器の限定使用さえ公然と唱えられる時代になって来ている。

世界がそのような肥大渇望で突き進むなら、必ずや核戦争が生じ、「核の冬」によって世界は滅び、人類は絶滅するだろう。

しかし人類が危機という禍を通して手に入れつつある再生可能エネルギーは、太陽光発電風力発電にしても地球に降り注ぐ太陽を源としており、地球上のどこであれ、地域で必要とするエネルギーの数千倍が降り注いでいると言われている。

そして今ヨーロッパではエネルギー危機、気候変動危機を通して、必然的に地域市民の自然エネルギーへのエネルギー転換で各々の地域がエネルギー自立に踏み出さなくてはならない時代を迎えている。

それはグローバルに外に向かって貪り取る競争の風ではなく、ローカルに内に向かって創り出す連帯の風であることから、ゴルバチョフの「欧州共通の家」を上からではなく下から実現する時であり、それを踏み台として「核なき世界」を実現する時でもある。

 

(注1)Common European Homeより翻訳

https://en.wikipedia.org/wiki/Common_European_Home

「We are resolutely against the division of the continent into military blocs facing each other, against the accumulation of military arsenals in Europe, against everything that is the source of the threat of war. In the spirit of the new thinking we introduced the idea of the "all-European house"... [which] signifies, above all, the acknowledgment of a certain integral whole, although the states in question belong to different social systems and are members of opposing military-political blocs standing against each other. This term includes both current problems and real possibilities for their solution」

(注2)吉留公太研究論文「ドイツ統一交渉とアメリカ外交(上)」参照。

(注3)自著『ドイツから学ぶ希望ある未来』(地湧社)58ページ参照

(注4)自著『永久革命としての民主主義(ドイツから学ぶ戦う民主主義)』

Amazon)参照

(注5)ジョージ・H・W・ブッシュ大統領は1953年にザバタ石油会社を設立し、共産圏石油情報の収取でCIAと関係を持ち、1976年にはCIA長官を歴任し、1981年にはレイガン政権の副大統領に就任している。ブレント・スコウクロフト補佐官は陸軍士官学校の軍人であるが(最終階級は空軍中将)、コロンビア大学政治学の博士号を受けている。キッシンジャーが設立した国際コンサルティング会社の副代表を1982年から1988年まで務め、自らもコンサルタント企業を設立している。

(479)核なき世界の実現(7)欧州の見果てぬ夢(前編)

 平和で平等な発展の挫折

 

 

 欧州連合EUは、動画で見るように二度とヨーロッパで戦争を起こしたくないという強い思いから、1952年戦争に不可欠な鉄鋼と石炭を共同管理すれば戦争が起きないという考えから、連帯と分かち合いの理念で欧州石炭鉄鋼共同体を発足したことに始まっている。

さらに1957年には欧州経済共同体(EEC)、及び欧州原子力共同体(Euratom)を発足し、1967年に3つの共同体を合わせた欧州共同体(EC)を誕生させて、平等な豊かな発展を目指した。

それは、1997年の京都議定書でEUが二酸化炭素排出量を各国の経済発展指標と位置付け、その指標を同一にすることを明記し、ドイツなどの産業国は25%の削減、フランスなどの農業国は削減ゼロ、逆に経済発展が遅れているギリシャポルトガルでは30%から40%排出量増大を盛り込み、全体で2012年までに1990年比で8%の減少を確約したことからも明らかである。

しかし1990年のドイツ統合で、規制緩和、民営化、社会保障費削減をかかげる新自由主義がなだれ込み、競争原理を優先する環境に変わりつつあったことも事実である。

1998年に誕生したシュレーダー政権は、最初コール政権が推し進める新自由主義に反対して選挙で勝利し、解雇制限緩和法や病欠手当・年金減額法を撤回したが、1年後には新自由主義にからめとられ、逆に新自由主義を過激に推し進めて行った。

そのような転換はドイツを牽引する巨大企業の海外移転という脅しにあるとしても、ドイツを初めとしてヨーロッパ諸国が国際競争力低下で窮地に立たされていたからでもある。

それゆえ1992年の欧州連合条約(マーストリヒト条約)でECからEUに名称を変更して、欧州の単一市場が目指され、ヒト、モノ、カネ、サービスの移動の自由が明記された。そして2000年にリスボンで開催された欧州首脳会議では、「欧州連合(EU)は、2010年までに世界で最も競争力がありダイナミックな経済になり、より多くのより良い雇用とより大きな社会的結束を伴う持続可能な経済成長を達成する」というリスボン戦略が採択されたのであった。

このリスボン戦略は、まさに競争原理を優先する新自由主義であり、平和や平等な発展による市民の幸せより、自由競争優先による絶えず成長発展を求める欧州連合に変身させて行ったと言えるだろう。

しかし新自由主義が台頭した理由には、戦後四半世紀繁栄した欧米先進国の経済成長が急速に減速した背景がある。それは1972年にローマクラブが発表した「成長の限界」が示すように、将来の世界経済の成長には限界があり、既に行き詰まって来たからである。

もっともそのような欧州連合の人々の連帯から経済の競争への転換は、EU市民には支持されず、欧州連合の新しい包括的な制度的および法的枠組みとなる欧州憲法の批准では2005年のフランスやオランダの国民投票で否決された。それゆえ欧州連合は欧州、市民の承認を必要としない憲法に代わるリスボン条約(欧州憲法条約)を2009年に発行している。

それは、欧州内の公共性を求める憲法条約ではなく、市場や通貨圏の経済を目的とするものになっており、EU市民の願いとは相離れ、「ブリュッセルの官僚たちによる専制支配」であるという批判も根強い。

 

官僚専制支配による「民主主義の赤字」

 

 民主主義国家の仕組は立法、行政、司法の3権分立からなるが、欧州連合EUは、最高政治的決定機関の欧州理事会(加盟国の首脳会議)、立法機関の閣僚理事会(加盟国の閣僚会議)、行政機関の欧州委員会、立法の承認と民主的統制機関である欧州議会、そして司法機関である欧州司法裁判所の5権から成り立っている。

確かに立法行使では、EU市民が直接選ぶ751名の欧州議会議員の承認決議を必要とするが、欧州議会は単独では立法も提出をできず、EU市民の要望が民主的に反映できない。

それに比べ各国政府によって委員1名が選出される欧州委員会には、その下に全体で2万人を超える各国官僚が配置されており、実質的にこれらの官僚が欧州連合の行政を担っている。しかもドイツ国内のように市民が容易に行政裁判を起こせないことから、ブリュッセルの3万にを超えるロビーイストとの癒着が指摘批判されるなかでも、権限を強力に押し進めており、官僚専制支配とも批判されている。

戦後の平和と平等な豊かな発展を求めるなかでは、官僚主導が強力に機能したことも事実である。しかし欧州連合が競争原理最優先の新自由主義に呑み込まれていくなかで、EU市民の求めるものとかけ離れ、「EUの民主主義の赤字」や「EUの軍事化」が指摘されるように、経済成長を優先する官僚専制支配に陥っていることも確かである。

「民主主義の赤字」に対しては、欧州議会の立法の理事会との共同提出や欧州委員の承認などで議会の権限を強めてきているが、欧州連合の発展と共に全ての分野でEU法案が各国の法案より優先され、5億にも上るEU市民の暮らしが、民主主義で選ばれていない人たちによって規制され、決められていることも確かである。

 

欧州連合の軍事化

 

 欧州連合は戦後の平和と平等な豊かな発展を求めるなかでは、1954年の欧州防衛共同体という軍隊設立の構想も失敗に終わり、西ヨーロッパの防衛はNATO(1949年結ばれた西欧諸国の軍事同盟組織)の枠組でなされていた。

しかし冷戦が終わり、ドイツ統一を転機に新自由主義が拡がって行き、欧州連合の東方拡大の機運が高まってくるとボスニア紛争で見られるように各地で紛争が生じ、軍事化が欠かせない課題となってきた。

具体的には1999年のヘルシンキ欧州理事会で軍事化が決められ、2003年までに加盟国は欧州連合が主導する作戦に、兵力5万から6万人を展開できるようにすることに合意した。

2009年の欧州憲法条約では、第I-41条において連合の軍事的な統制を求め、防衛能力、研究、調達、軍備の分野における発展のための軍事機関の構築を定め、さらに軍事力の向上についての加盟国の義務と連合の軍事的使命の拡張、軍事行動の要件緩和を求めている。

このようにして欧州連合の軍事化急速に進んできており、現在のウクライナ戦争を通して対ロシアという視点で見れば、ロシアと戦うために軍事化を拡大していると言えるだろう。

それは、戦後のヨーロッパ大陸から戦争をなくすという理念とはかけ離れたものである。もっともそれは、ロシアの無法な侵略があり、平和を築くためには戦わなければならないという論理も成り立つだろうが、それでは戦争はなくならない。

 

ゴルバチョフが希求した「欧州共通の家」

 

 昨年8月に亡くなったミハエル・ゴルバチョフは、「欧州共通の家」という平和構想を掲げ、戦争のない欧州、そして核のない世界を求め続けた。

ゴルバチョフのような平和主義者がいなかったら、東西の中距離核基地撤収、東西の壁崩壊、そして冷戦の終結もなかっただろう。

もしゴルバチョフが「欧州共通の家」という遠大な平和構想を持っていなければ、東ベルリンに駐留していた50万人の精鋭ソ連軍を動かして、ベルリンの壁崩壊はなかったろう。たとえ東欧諸国に民主主義を求める声が高まったとしても、強力な軍事介入で冷戦終結はなかっただろう。

確かにソ連市場経済から見れば破綻寸前であったが、もしゴルバチョフのような平和主義者でなく従来の共産帝国主義者であれば、北朝鮮に見られるように経済的に困窮すればするほど軍事化を強化したであろう。

現在の恐ろしく悲惨なウクライナ戦争を引き起した直接的原因は、KGB旧ソ連国家保安委員会)が造り出した独裁者プーチンにあるとしても、ロシアのクリミア併合以来8年間も本質的な平和解決への努力を怠ってきた欧州連合の責任は決して軽くないだろう。

さらに遡れば、冷戦終結ゴルバチョフに迫り、NATOは東方へ一歩さえ踏み越えないと口約束して、ゴルバチョフを見捨てた欧州連合の政治家たちの責任は決して軽くない。

確かにその際は経済のベクトルは東方を目指しており、その際の欧州連合の政治家たちがゴルバチョフの「欧州共通の家」建設を本心から望んでいたとしても、東方への経済進出を目論む3万を超えるロビーイストに現実的に支配されているなかでは最初から見果てぬ夢であったろう。

しかしそれこそが、現在のウクライナ戦争の本質的な原因であり、それに取組まなくては、たとえ停戦条約が実現してもすぐさま戦争が再発し、より核戦争の危機は深まって行くだろう。

現在は冷戦終結時のような発展への希望はなく、前回まで述べてきたように禍を力としてエネルギー自立がヨーロッパに高まっており、現実的にそれを実現するためには、地域での市民による再生可能エネルギーへのエネルギー転換しかなく、政治も危機に際して巨大企業離れも採らざるを得ない状況にある。

それは冷戦後経済が新植民地主義主義と言われるように、グロバルな利益獲得求めた時代とは異なり、危機という禍が押し寄せてくる時代には地域でのエネルギー自立、食料や生活必需品の自給が求められ、ゴルバチョフの「欧州共通の家」という見果てぬ夢が実現する時でもある。

(478)核なき世界の実現(6)・禍を力とした気候正義実現(後編)EUに拡がる市民エネルギー転換

新植民地主義が作り出すモデル経済

 

 最終回のクライン・ナオミの「ショック・ドクトリン」では、規制なき民営化に始まる新自由主義国民国家を喰いつくし、国民のショックを利用して戦争へと駆り立てる新植民地主義が繰り広げられていると分析している。

そこでは戦争だけでなく、悲惨な戦争後の復興さえ計画的に喰いつくして行く。

イラクで試された「戦争と再建の民営化モデル」はビジネスへと変化して行き、まだ破壊されていない国の復興計画を民間企業に作らせ、政府が公的資金で契約するというモデル経済を誕生させたと述べている。

そのようなクラインの分析からすれば、現在のウクライナ戦争も2014年の無法なロシア侵攻によるクリミア併合に、本質的な平和をもたらす地道な和平努力を怠り、一部の人たちはウクライナへのロシア侵攻を待ち望んでいたとさえ思えてくる。現に今回のウクライナ戦争での膨大な武器使用で、莫大な利益を手にしている軍産複合体の存在も見えてくる。

ウクライナ軍の反転攻勢は苦しみながらも前に進み、ロシアの劣勢は明らかである。それゆえにクリミア半島に反転攻勢すれば核攻撃するというロシアの脅しは、クリミア併合を認めるなら停戦に応じてもよいというメッセージでもあるだろう。また黒海の輸送船への無差別攻撃さえも、停戦交渉を有利に進める戦略と思われ、近いうちに停戦が実現する雰囲気が整ってきている。

しかもウクライナ復興ではクラインの分析するように、支援してきた国家を通して多国籍企業の利益追求が既に動き出しているのを聞く。

しかしそのような「ショック・ドクトリン」を演ずるグローバル世界には、ウクライナ戦争後も本質的な平和や核のない世界も実現しないだけでなく、人類滅亡の危機さえ見えて来ている。

 

気候正義実現のEUへの拡がり

 

 世界が出口なし的戦争を繰り広げるなかで、前回述べたように、ドイがそのような禍を力として市民による気候正義実現に踏み出したことは画期的である。

これまでの気候正義実現の切札は、巨大電力企業の化石燃料エネルギーから再生可能エネルギーのエネルギー転換であったが、それでは前に進めないことがわかってきたことから、2023年の再生可能エネルギー法では地域の市民エネルギー協同組合や自治体による市民エネルギー転換を打ち出したのである。

巨大電力企業の推し進めるエネルギー転換が進まないのは、太陽光発電風力発電が地域分散型技術であり、巨大電力企業が取組む洋上風力発電建設ではコストが嵩む上に、大量に電力が製造されてもドイツ中に供給するには高圧電力網建設が欠かされず、さらなる電力価格上昇なしには成り立たないからである。

ドイツの2023年の電力価格は現在1キロワット時約40セントにまで上がっているが、市民が太陽光発電で造る電力買い取り価格は約8セントにまで下がっている。

産業強国ドイツでは市民が造る電力を直接隣人に売ることは禁じられているが、隣国オーストリアでは2021年から市民の造る余情の電力を隣人に売ることができるようになり、市民のエネルギー転換が加速している(注1)。ドイツでも市民が隣人に規定の安い価格で売る声が高まっており(注2)、実現すれば電力価格が下がるだけでなく、さらに市民のエネルギー転換が激的に推進するだろう。

もっともそれをドイツで認めれば、電力巨大企業の経営が成り立たなくなることは明らかであり、大きな障壁があることも確かである。

しかし再生可能エネルギー法(EEG)が、洪水や熱波、さらにはウクライナ戦争によるエネルギー危機という禍を力として、巨大企業配慮のエネルギー転換から市民配慮のエネルギー転換に180度転換したように、もはや障壁の突破は見えてきている。

そのような市民のエネルギー転換は、現在の市民の電力を巨大電力企業支配から地域の自治体や市民エネルギー協同組合に変えるものであり、地域での市民によるエネルギー自立が実現すれば、当然市民の食料品や必需品の地域での自給自足へと向かう筈である。

それはまさに前回述べたラトゥールシュ「脱成長理論」の「生活圏の再ローカリゼーション」であり、絶えず成長と利潤追求のために全てを商品化し、自然生態系に負荷をかけ続ける「悪の陳腐さ」を解消し、楽しい生活を創造し合う倫理や自然環境の尊重といった「贈与精神」を取り戻すものである。

そのように経済、食料システム、文化、生き方がグローバルからローカルへシフトして行けば、気候正義実現を約束するだけでなく、社会正義や本質的な平和を実現することも可能である。

しかもそのような期待が膨らむように、気候正義実現への取組みはドイツだけでなく、EU諸国全体に拡がっており、EUは今年2023年7月16日にこれまでの再生可能エネルギーへの転換を2030年までに32%に引き上げる目標を大幅に加速し(注3)、45%にすることを決議している。

それを実現するために新たに出されるEUの再生可能エネルギー指針は、ドイツの出した2023年再生可能エネルギー法をEUが承認したことからも、市民によるエネルギー転換を推進するドイツ並みの規定となることは確かである。

このようなEUでの気候正義実現は、現在のグローバル資本主義のなかで新自由主義の競争原理を優先し、ともすれば軍事拡張を招くと批判されるEUを本質的に変えるものであり、次回に詳しく述べたい。

 

(注1)「オーストリアのエネルギーコミュニティ」

https://energiegemeinschaften.gv.at/organisation/

 

(注2)「隣人に電気を安く与える」

https://www.tagesschau.de/wirtschaft/verbraucher/solarenergie-energy-sharing-101.html

 

 

(注3)この32%は電力だけでなく全てのエネルギーの割合であり、2021年EUの割合は22%であり、ドイツは電力の再生可能エネルギー割合は46.2%と高いが、全てのエネルギー割合は20.4%(2023年3月統計)とEUの平均より低い。これはドイツがヨーロッパ最大の石炭産出国さであり、自動車大国であることに起因している。それゆえ現在提出されている化石燃料をヒートポンプ使用の電化に変えて行く暖房法が、様々な妨害にあっている。

(477)核なき世界の実現(5)・禍を力とした気候正義実現(中編)

発展成長への渇望

 

 今回の『私の見た動画76ショック・ドクトリン3-2』では、共産主義の中国やソ連でより早く、より容易く、禍を利用して新自由主義が導入されて行ったことを描いている。

ショック・ドクトリン」がより早く、より容易く機能したのは、中国や当時のソ連が力による独裁国家であるからに他ならないとしても、なぜそうなるのか考えなくてはならないだろう。

 マルクスの理想する社会は、所有欲だけでなく競争心や敵対心もなく、暴力や紛争のない平等世界であった。しかしベルリンの壁崩壊で事実が明になると、ソ連や欧州の社会主義国マルクスの理想がユートピアであっただけでなく、人々を恐怖に陥れる全体主義国家に変貌していた。

そこでは、人々の自由が奪われたていただけでなく、無数の尊い命が奪われていた。なぜなら歴史の変遷を通して築かれてきた格差社会を強制的に平等にするには、強大な国家権力を持つ独裁体制が必要であり、シュタージやKGBなどの秘密警察による厳しい監視が不可欠であったからである。しかも平等を強制的に分配する赤の官僚たち(ノーメンクラトゥーラ)は、民主集中制官僚独裁で私腹を肥やし、冨が枯渇すると、経済の成長発展を渇望し、フリードマン新自由主義にすがるしかなかったからである。

 また中国でも権力闘争で一時失脚していた鄧小平が、フリードマン新自由主義に早期に飛び付いたのは、成長発展なくして中国社会主義体制を維持できないと考えたからであろう。

もっとも中国にしても現在のロシアにしても、民営化によって潤った富豪たちが意図的に粛清され、実質的に欧米以上に経済的に行き詰まっており、それがロシアであれば力によるウクライナ侵攻であり、中国であれば米国と衝突を招いている一帯一路の経済圏建設である。

しかしそのような経済の成長発展には限界があり、気候変動による地球環境危機だけでなく、ウクライナ戦争では、ロシアの核限定使用が明示されたように、人類絶滅の核戦争に発展する危機さえ孕んでいる。

地球環境危機に至っては90年リオの地球温暖化阻止の宣言にもかかわらず、その後30年で温室効果ガス排出量を160%に肥大させている。その結果気候変動が引き起す災害は顕著となり、すべての氷河融解で十数メートル海面を上昇させる臨界点の崖っぷちにあるにもかかわらず、発展成長への渇望は益々高まっている。

こうした危機が高まるなかで成長発展なしに誰もが潤い、気候変動の地球環境危機を解消するラトゥールシュの「脱成長理論」が、2008年の金融危機後に救世主のように世界に拡がって行った(注1)。

 

ラトゥールシュの「脱成長理論」

  ラトゥールシュの「脱成長理論」は環境主義に立ち、自然破壊、災害、紛争、経済危機などを本質的に解消する理論である。すなわち現在の経済優先の社会を、「生活圏の再ローカリゼーション」を通して成長発展を縮小して行くことで、経済に囚われない豊かな社会を再構築する理論である。

しかも現在の資本主義が持つ「贈与の否定」(楽しい生活を創造し合う倫理や自然環境の尊重といった贈与精神の除去)と「<悪の陳腐さ>の蔓延」(絶えず成長と利潤追求のために全てを商品化し、自然生態系に負荷をかけ続ける拡大)を克服する文明転換を目標に掲げている。

具体的な実現のために、「成長なきグリーン・ニューディール政策」、「所得とサービスの保障」、「コモンズの復権」、「労働時間の削減」、「環境と平等のための公的支出」の5つの改革を提言している。

 確かに「脱成長理論」は現在の危機を解消するものであり、そのような社会の実現は理想的に思える。

しかし現在の絶えず成長発展を求めるグローバル資本主義が強固に構築されている世界で、そのようなラジカルな改革を政治に求めても無理であり、市民運動で世界に拡がって行ったとしても究極的に力による変革しかないだろう。

それは、マルクスが理想の社会への到達のために選んだ革命である。しかし力による革命が成功しても、最初に述べたように権力闘争と民主集中制という力による支配で全体主義独裁国家に変貌することは、歴史が示すように目に見えている。

そのような視座に立てば、現在ドイツで起っている気候正義の実現は画期的である。ドイツでは、戦後ナチズムを許した反省から「国民ため」を最優先する基本法を制定し、第一条から第20条までの多数決では変えられない不可侵の条項で基本法を守り、力による右からの変革も、左からの変革も禁止し、絶えず民主主義を進化させてきた(注2)。

そのような「永久革命としての民主主義」とも呼べるドイツの民主主義は、2021年の連邦選挙で「緑の党」がパリ協定の実現を公約して政権に参加し、気候正義の実現に取組むまでに至っている。

そしてウクライナ戦争によるエネルギー危機を力として、2030年までに少なくともドイツの消費電力の80%以上を再生可能エネルギーで賄うことを明言し、2023年1月1日発行の再生可能エネルギー法改革や暖房法などを通して、政府が初めて最重要課題として必死に取組んでいる。

それはまさに禍を力としたドイツの気候正義実現であり、世界の気候正義実現、さらには核なき世界実現に繋がるものである。

 

ドイツの気候正義実現

  2023年の再生可能エネルギー法改革は2014年の改革が連邦産業省(BMWi)が解説書をだすのではなく、連邦政府が出していることにも、気候正義の実現が喫緊の最重要課題であることが感じられる。

その解説書では(注3)、「再⽣可能エネルギー拡⼤の⼤幅加速」を最初に掲げ、「ドイツの気候中立実現の根拠」では具体的計画を示している。

さらに「再生可能エネルギーのエネルギー転換優先」、「2030年までの80%以上の太陽光発電風力発電」、「グリーン水素による蓄電と発電」、「太陽光発電システムによる高い報酬」、「市民社会のより簡単な実現」、「風力発電での自治体へのより良い財政的支援」、「電力自給税の撤廃」、「2022年7月からEEG負担金の完全撤廃」の項目では、このEEG改革が従来の大企業よりのEEG法から市民よりのEEG法の180度転換であることを示している。

前回述べたように2014年のEEG改革では、再生可能エネルギーの拡大成長を目指すなかで、管理操縦が強調され、市民から再生可能エネルギーのエネルギー転換を取り上げるものであった。

 しかし今回の改革は、市民に負担を求めるEEG負担金や電力自給税を完全に撤廃し、市民エネルギー協同組合や自治体を競争入札から外し、管理操縦というやり方が全く語られないだけでなく、実質的に市民の推し進めるエネルギー転換を全面的に支援している。

 「市民社会のより簡単な実現」の項目では、敢えてより少ない官僚主義を強調している(und können dadurch unbürokratischer realisiert werden).

もっともこうした強力に気候正義を推し進める「緑の党」主導の政府への攻撃も激しく、特に「緑の党」への攻撃は連邦選挙ではこれまでになかった攻撃キャンペーンが右派政党AfD主導で激しくなされ、2023年に入ってからはハーベック経済相がターゲットとなり、気候正義を戦略的に推し進めるために実績のある「緑の党」の専門スタッフで固めたことから、縁故主義として激しい洗礼を受けている。また暖房法での再生可能エネルギーへの転換は市民の出費を伴うことから、化石燃料支配側からの重箱の隅を楊枝でほじくるような批判が絶えない。

 確かにそのような攻撃によって「緑の党」は支持率を18%から16%に落としているが、国民世論が示すようにドイツ国民の大多数が、総論として気候正義実現に賛成であり、益々気候変動激化、さらには世界の覇権主義が強まるなかで禍の到来は避けられず、紆余曲折はあるとしても禍を力とするドイツの気候正義実現は確実に実現すると思われる。

 

(注1)

セルジュ・ラトゥーシュ、『経済成長なき社会発展は可能か?<脱成長>と<ポスト開発>の経済学』、2010年作品社

セルジュ・ラトゥーシュ、『〈脱成 長〉は、世界を変えられるのか?―贈与・幸福・ 自律の新たな社会へ』、2013年作品社

(注2)

自著、『永久革命としての民主主義(ドイツから学ぶ戦う民主主義)』、2023年アマゾン

(注3)ドイツの2023年再生可能エネルギー法改正

(日本語訳)

EEG 2023

 Ausbau erneuerbarer Energien massiv beschleunigen

再⽣可能エネルギー拡⼤の⼤幅加速

 Bundesregierung Erneuerbare Energien sind eine zentrale Säule der Energiewende. Unsere Energieversorgung soll durch den Ausbau der Erneuerbaren klimaverträglicher und unabhängiger von fossilen Energieimporten werden. Vor dem Hintergrund des russischen Angriffskriegs in der Ukraine ist das ein wesentlicher Punkt. Die Blockaden, die die Energie- und Klimawende jahrelang ausgebremst haben, werden gelöst, die erneuerbaren Energien und die nötigen Übertragungsnetze viel schneller ausgebaut als bisher. Die Zukunft unserer Energieversorgung gehöre Windkraft, Solarenergie und grünem Wasserstoff, Barrierefreie Beschreibung anzeigen sagte der Bundeskanzler im September 2022 anlässlich der Haushaltsdebatte im Deutschen Bundestag.

連邦政府 再生可能エネルギーはエネルギー転換の中心的な柱です。再生可能エ ネルギーの拡大は、私たちのエネルギー供給をより気候にやさしく、 化石エネルギーの輸入への依存度を下げることを目的としています。 ウクライナでのロシアの侵略戦争を背景に、これは重要なポイントです。 何年にもわたってエネルギーと気候の移行を遅らせてきた障害は解決 され、再生可能エネルギーと必要な送電網は以前よりもはるかに速く拡大されます。私たちのエネルギー供給の未来は、風力、太陽エネル ギー、グリーン水素に属していると、2022年9月にドイツ連邦議会で の予算討論の際に連邦首相は述べました。

 Grundlage für Klimaneutralität Deutschlands

ドイツの気候中立の根拠

Das neue EEG (Erneuerbare-Energien-Gesetz) 2023 wird erstmals konsequent auf das Erreichen des 1,5-Grad-Pfades nach dem Pariser Klimaschutzabkommen ausgerichtet. Der Anteil der erneuerbaren Energien am Bruttostromverbrauch wird innerhalb von weniger als einem Jahrzehnt fast verdoppelt. Zudem wird die Geschwindigkeit beim Ausbau der erneuerbaren Energien verdreifacht –zu Wasser, zu Land und auf dem Dach.

Die EEG (Erneuerbare-Energien-Gesetz)-Novelle wurde bereits am 28. Juli 2022 im Bundesanzeiger verkündet. Einige Teile des Gesetzes sind bereits in Kraft getreten. Im Übrigen tritt die Novelle am 1. Januar 2023 in Kraft.

初めて、新しいEEG (Erneuerbare-Energien-Gesetz) 2023は、パリ気候協定の臨界点1.5度以内を達成することに一貫して向けられます。総電力 消費量に占める再生可能エネルギーの割合は、10年以内にほぼ2倍に なります。さらに、再生可能エネルギーの拡大速度は、水上、陸上、 屋上で3倍になります。 EEG (Erneuerbare-Energien-Gesetz)の改正は、2022年7月28日に連邦官報ですでに発表されています。法律の一部はすでに施行さ れています。それ以外の場合、改正は2023年1月1日に発効します

Das neue EEG (Erneuerbare-Energien-Gesetz) 2023 ist Teil des „Osterpakets“ der Bundesregierung. Weitere wichtige Bestandteile des Pakets zielen auf den Ausbau des Stromnetzes sowie der Offshore-Windenergie. Zudem sorgt die Bundesregierung mit dem Wind-an-Land-Gesetz dafür, dass die für Windkraftanlagen zur Verfügung stehenden Flächen ausgeweitet und die Genehmigungsverfahren beschleunigt werden.

 2023年の新しいEEG改革は、連邦政府の「イースターパッケージ」の一部です。パッケージの重要な要素は、電力網及び 洋上風力エネルギー拡張のため、政府は風力発電陸上法案で風力発電に利用できる面積を拡大し 、許可手続きの加速できるよう取計います。

Erneuerbare Energien bekommen Vorrrang

 再生可能エネルギーの優先的獲得

Bereits seit dem 29. Juli 2022 ist gesetzlich festgelegt, dass die erneuerbaren Energien im überwiegenden öffentlichen Interesse liegen und der öffentlichen Sicherheit dienen. Das ist entscheidend, um das Ausbautempo zu erhöhen. Damit haben sie bei Abwägungsentscheidunge künftig Vorrang vor anderen Interessen. Somit kann das Tempo von Planungs- und Genehmigungsverfahren deutlich erhöht werden.

再生可能エネルギーは優先的公共の利益であり、公共の安全性に役立つことを2022年7月29日以降法律で規定しています。これは、拡大のペ ースを上げるために重要です。これは、将来的に決定のバランス をとる上で、他の利益よりも優先されることを意味します。したがっ て、計画および承認手順のペースを大幅に向上させることができます。

 80 Prozent mehr Wind- und Solarstrom bis 2030

2030年までの風力発電太陽光発電の80%以上

Um das neue Ausbauziel für Wind- und Solarstrom zu erreichen, werden die Ausschreibungsmengen für die Zeit bis 2028/29 deutlich erhöht. Bis 2030 sollen mindestens 80 Prozent des Stromverbrauchs in Deutschland aus erneuerbaren Energien stammen. Das bedeutet fast eine Verdoppelung des Anteils am Gesamtstromverbrauch. Denn bis zum Ende dieses Jahrzehnts wird die Stromproduktion von 600 Terawattstunden auf 800 Terawattstunden steigen – für mehr elektrifizierte Industrieprozesse, Wärme und Elektromobilität.

 風力と太陽光発電の新たな拡大目標を達成するために、2028/29年ま での期間の入札量が大幅に増加されます。2030年までに、ドイツの電力 消費の少なくとも80%を再生可能エネルギーから供給する必要があります。これは、全消費電力割合の2倍化を意味します。さらにこの10年の終わりまでには、電動化する産業プロセスや熱と電力可動のために、電力生産を600テラワット時から800テラワット上げることを意味 します。

 Stromspeicher und Kraftwerke mit grünem Wasserstoff fördern

蓄電とグリーン水素の発電所支援

Mit dem EEG (Erneuerbare-Energien-Gesetz) 2023 fördert der Bund zudem innovative Konzepte zur Kombination erneuerbarer Energien mit lokaler wasserstoffbasierter Stromspeicherung.

 Sie können dazu beitragen die schwankende Stromerzeugung aus erneuerbaren Energien zu verstetigen. Für den Einsatz von grünem Wasserstoff sollen sogenannte WasserstoffSprinterkraftwerke gefördert werden.

EEG (Erneuerbare-Energien-Gesetz) 2023では、連邦政府は再生可能エネ ルギーと地域の水素ベースの電力貯蔵を組み合わせるための革新的な概念も推進しています。それらは、再生可能エネルギーからの変動す る発電を安定させるのに役立ちます。いわゆる水素スプリンター発電所が、グリーン水素の使用のために促進される予定です。

Höhere Vergütung für Solaranlagen

太陽光発電へのより高い報酬

Für neue Photovoltaikanlagen, die auf Dächern installiert werden, gelten bereits seit dem 30. Juli 2022 höhere Vergütungssätze. Anlagen mit Voll- und Teileinspeisung lassen sich künftig kombinieren. Damit lohnt es sich, auch bei Eigenverbrauch die Dächer vollständig mit Solaranlagen zu belegen. Bei kleinen Anlagen muss der Netzbetreiber beim Anschluss in der Regel nicht mehr anwesend 居合わせるsein, damit die Anlagen schneller in Betrieb genommen werden können.

屋根に設置された新しい太陽光発電システムについては、2022年7月30日から以下のような高い報酬率がすでに適用されています。将来的には、システムを完全および部分的蓄電と組み合わ せることが可能になります。これは、たとえあなたがそれを自家使用でも、屋根をソーラーシステムで完全に覆うことを価値あるものにします。 小規模なシステムの場合、通常、グリッドオペレーターは接続時に立 ち会う必要がなくなり、システムをより迅速に運用できるようになります。

Einfachere Realisierung von Bürgerenergiegesellschaften

市民エネルギー社会のより簡単な実現 

 Das Gesetz setzt zudem neue Impulse, um die lokale Akzeptanz und Verankerung der Energiewende zu stärken. So werden Wind- und Solarprojekte von Bürgerenergiegesellschaften ab 2023 von den Ausschreibungen ausgenommen und können dadurch unbürokratischer realisiert werden. Bürgerenergieprojekte erhalten auch ohne Ausschreibung eine Vergütung. Das Bundeswirtschafts- und Klimaschutzministerium fördert zudem die

Planungs- und Genehmigungskosten von Windenergieanlagen von Bürgerenergiegesellschaften im Jahr 2023 und in den nächsten Jahren mit etwa 7,5 Millionen Euro.

この法律はまた、エネルギー転換の定着と地域承諾を強化する ための新たな推進力を提供します。たとえば、市民エネルギー会社の 風力および太陽光プロジェクトは、2023年から入札が免除されるため、より少ない官僚主義で実施できます。コミュニティエネルギープ ロジェクトは、入札に参加することなしに報酬を受け取ります。 連邦経済省と気候行動省は、計画と承認の費用にも資金を提供しています。 市民エネルギー社会の風力発電基に今後数年間で約750万ユーロ提供します。

Bessere finanzielle Beteiligung der Kommunen bei Windenergie

風力エネルギーへの自治体の財政的参加の改善

Die finanzielle Beteiligung wird ab 2023 auch bei Windenergieanlagen an Land in der sonstigenその他の Direktvermarktung ermöglicht. Zusätzlich können die Betreiber bestehender Windenergieanlagen an Land und bestehender Freiflächenanlagen die Kommunen finanziell beteiligen. Die finanzielle Beteiligung der Kommunen am Ausbau der Erneuerbaren soll die Akzeptanz vor Ort weiter stärken und in Zukunft zum Regelfall werden.

2023年からは、陸上風車の他のダイレクトマーケティングへの資金参加も可能になります。追加として、既存の陸上風力発電基および既存の地上設置型発電基のオペレーターは、自治体に財政的に参加することができます。再生可能エネルギーの拡大への自治体の財政参加は、地域の受け入れをさらに強化し、将来的には当たり前となることを目的としています。

 Umlagen für Strom-Eigenversorgung fallen weg

電力自給税の撤廃

Die Eigenversorgung mit Strom wird deutlich attraktiver. Denn auf Eigenverbräuche und Direktbelieferungen hinter dem Netzverknüpfungspunkt fallen keine Umlagen mehr an. Die Umlage nach dem Kraft-Wärme-Kopplungsgesetz und die Offshore-Netzumlage werden nur für die Entnahme von Strom aus dem öffentlichen Netz erhoben.

電気の自給自足ははるかに魅力的になっています。これは、グリッド接続ポイントの背後にある自家消費および直接配達に対する課税がなくなったためです。熱電併給法に基づく賦課金とオフショア(沖合)グリッド賦課金は、公共グリッドからの電力の撤退に対してのみ課税されます。

EEG (Erneuerbare-Energien-Gesetz)-Umlage ist seit Juli 2022 nicht mehr fällig

2022年7月からEEG負担金の完全撤廃

Die EEG (Erneuerbare-Energien-Gesetz)-Umlage wird ab 2023 nicht nur dauerhaft auf null gesenkt, sondern vollständig abgeschafft.

Stromkundinnen und -kunden müssen bereits seit dem 1. Juli 2022 keine EEG (Erneuerbare-Energien-Gesetz)-Umlage mehr zahlen. Das ist Teil der Entlastungspakete der Bundesregierung. Der Finanzierungsbedarf für die erneuerbaren Energien wird künftig aus dem Sondervermögen des Bundes „Energie- und Klimafonds“ ausgeglichen und die EEG (Erneuerbare-Energien-Gesetz)-Förderung über den Strompreis beendet. Damit wird ein Kernanliegen des Koalitionsvertrags umgesetzt.

EEG負担金は、2023年からは永久にゼロになるだけでなく、完全に廃止されます。

将来的には、再生可能エネルギーの資金調達要件は連邦政府の特別基金「エネルギーおよび気候基金」から補償され、電気料金からのEEG負担金は終了します。これは、連立協定の核となる重要部分になります。

 

(476)核なき世界の実現(4)・禍を力とした気候正義実現(前編)

禍を力として未来を創る「ショック・ドクトリン

 

 6月にNHKが放送した「100分de・ショック・ドクトリン」は、ナオミ・クラインの分析した禍につけこんで未来を喰いつくす『ショック・ドクトリン』を取り上げていた。

今回上に載せた動画『私の見た動画76ショック・ドクトリン3-1』では、新自由主義の扉を開いた70年代の意図的なチリのクーデタを通して、国民恐怖のショックのなかで国営企業の民営化、規制の撤廃、貿易の完全自由化断行され、チリ経済が外資に喰いつくされて行き、大部分の国民が困窮して行った有様が描かれている。

さらにそのような「ショック・ドクトリン」は、チリのような独裁国家だけでなく80年代の民主主義国家イギリスでも断行され、電話、ガス、水道などの公共事業を民営化し、政府と大企業が密着するコーポラティズム国家を誕生させて行った。

そのような「ショック・ドクトリン」は、国民の現在と将来の冨を喰いつくすバブルを生み出すだけで、貧困格差、戦争、気候変動激化といった危機を解決しないばかりか、益々危機を深刻化させているとナオミ・クラインは分析している。

 しかし私が今回述べるのは、ナオミ・クラインの禍を利用して未来を喰いつくす「ショック・ドクトリン」ではなく、禍を力として未来を創る「ショック・ドクトリン」である。

このような未来を創る「ショック・ドクトリン」は、既に昨年のエネルギー危機を力としたドイツで始まっている。

ドイツは昨年のウクライナへのロシア侵攻で、これまでロシアに依存していた天然ガスや石油を断たれ、ガスや石油の高騰によってエネルギー危機に見舞われた。

しかし現在の緑の党がしきるドイツ連邦産業省は、その禍を力として、パリ協定の気候正義実現に踏み出している。具体的には2030年までにドイツの消費電力を少なくとも80%以上にすることを明言し、それを実現するために再生可能エネルギーEEG)を抜本的に改革し、従来の巨大電力企業配慮から全面的に地域市民、自治体配慮へ180度転換する政策を実現した。

なぜなら再生可能エネルギーは小規模分散型技術であり、地域でのエネルギー自立によってこそ効力発揮するものであり、巨大電力企業が従来の大規模集中技術で取組んでも、洋上風力発電に見るように中々巧くいかないからである。

事実ドイツの再生可能エネルギーへの挑戦は、地球温暖化阻止が1990年リオで誓われるなかで、環境に目覚めたアーヘン市民が太陽光発電を普及するために、太陽光発電によってつくられた電力を電力会社を通して20年間電力売値の約10倍で買い取る方式(アーヘン方式)から始まっている。そこでの市民の哲学は、「市民の分かち合いで、費用を補う価格で買い取る」であった。すなわち当初買い取り費用は、電力利用者市民の電力価格の1%値上で賄われていた。

このようなアーヘン方式は瞬く間にドイツ全土で拡がり、2000年には連邦議会再生可能エネルギー法(EEG)を誕生させ、市民のつくった電力を「費用を補う価格で買い取る」をモットーに、ドイツの再生可能エネルギーを飛躍的に発展させた。

2014年このEEG法が全面的に巨大電力企業配慮で改悪された時には、ドイツの再生可能エネルギーによる電力は消費電力の25%を占めるまでになり、その担い手は市民エネルギー協同組合や自治体であり、市民によって為されてきた。

巨大電力企業は2011年の脱原発宣言まで原発に依存し、絶えず一定電力を製造できる原発を通して電力価格を支配し、莫大な利益を上げていた。そのため天候に左右される買い取った再生可能エネルギーは寧ろお荷物で、創設された電力自由市場に投げ売ってきたことから、1キロワット時の電力価格は4セントを割るまでに下がる事態を招いた。

それは巨大電力企業にとって価格支配ができないばかりか、化石燃料での電力製造を危うくし、化石燃料エネルギーの継続では電力を製造すればするほど損失の増大を意味するからである。

それ故2011年以降の巨大電力企業収益は実質的に赤字に転じ、ドイツの産業を支える巨大電力企業も危ないとさえ伝えられていた。

ヨーロッパ最大の1300憶ユーロの売上を誇るドイツ電力企業筆頭のエーオン社は、2014年末に化石燃料エネルギー電力事業から再生可能エネルギー電力事業への大転換を世界に伝えた。具体的には2016年までに会社を2分割し、原子力、石炭、天然ガス事業を従業員2万の新しい会社に切り離し、本体は従業員4万人の再生可能エネルギー電力事業とするとした。

2014年6月の連邦議会での再生可能エネルギー法改正では、そのような巨大電力企業の経営悪化を配慮して、これまで市民によって発展してきた再生可能エネルギーにブレーキを踏むだけでなく、市民から取上げ、巨大電力企業が発展、運営、管理できるよう全面的に変えられた。

それは2014年に連邦経済産業省(BMWi)が出したEEG改革の主旨説明書「EEG改革はエネルギー転換のさらなる重要なステップであるDie Reform des EEG: Wichtiger Schritt für den Neustart der Energiewende」を見れば、一目瞭然である(注1)。

2014年の再生可能エネルギー法の主旨説明では、「再生可能エネルギーへのエネルギー転換は喫緊の目標であり、2000年から開始された再生可能エネルギー法(EEG)の固定買取制度によってドイツ消費電力の25%を占めるまでに進展してきた。しかし急速な進展でEEG負担金の増大によって電力料金が値上っており、電力網の安定性と供給の安全性も大きな課題となって来ている。そのためには再生可能エネルギー拡大を計画的に管理し、再生可能エネルギー市場経済にゆだねることが必要である。特に配慮しなくてはならないのは、電力価格がエネルギー集約型企業にとって重要な競争要因であり、既に国際競争と比較して高い電力価格を支払っている電力集約型産業の競争力を危険にさらしてはならず、ドイツの価値創造と雇用は守らなくてはならない。なぜならそれらの中心産業がドイツの繁栄と雇用の鍵を握っているからである」と述べ、10項目に渡って再生可能エネルギー法がどの様に変わるか説明している。

主旨説明で一見して感じるのは、市民が積極的にエネルギー転換を推し進めてきた経緯を意図的に伏せ、その飛躍的進展で固定買取費用が膨らみ、電力料金が上がり、再生可能エネルギーの安定性と安全性も問題になって来ているから、再生可能エネルギーの拡大を計画的に管理しなくてはならないと主張しており、飛躍的進展経緯を知る者には、極めて官僚主義的かび臭さを感ぜずにはいられない。

しかもドイツの集約型企業に特別の配慮を求めており(EEG負担金無し等の優遇措置)、それなくしてはドイツの繁栄はないと国民を脅している感じさえする。そして10項目の改正では、市民の推進してきた固定価格買取価格が翌年から1キロワット時17セントから12セントに大幅に下げられるだけでなく、再生可能エネルギーによる新たな発電に枠組を設け、太陽光発電2.5ギガワット、陸上風力発電2.5ギガワット、バイオ発電0.1ギガワットの量的制限をし、実質的に市民や自治体の新設を難しくした。

また2017年から事業規模の風力発電太陽光発電、バイオ発電建設に対して公募入札が義務付けられ、結果的にこれまで再生可能エネルギーの飛躍的進展を担ってきた市民エネルギー協同組合や自治体が、巨大電力企業に比べて資金力のないことから締め出される仕組が作られた。

こうした2014年の再生可能エネルギー法改正(改悪)は、明らかにこれまでの再生可能エネルギーの飛躍的進展にブレーキを踏むものであり、2014年5月20日にドイツ第二公共放送ZDFが放送した『ブレーキが踏まれるエネルギー転換』では、改正の画策者であると言われている当時のEU委員会エネルギー担当責任者ギュンター・ヘルマン・エッティンガー(2005年から2010年まで原発王国であったバーデンヴュルテンベルク州の首相)を執拗に追求取材していた。

しかしエッティンガーは下の動画フィルムで見るように、「豚が疾走するようにコントロールできない風(力発電)と太陽(光発電)は取除かねばならい」と、市民が飛躍的進展させて経緯を豚の遁走に譬えてしたたかに述べている。

それはまさに、大連立政権当時のドイツ連邦産業省が冒頭で述べている「再生可能エネルギーの拡大は計画的に管理しなくてはならない」である。

 

(注1)

https://www.erneuerbare-energien.de/EE/Navigation/DE/Recht-Politik/EEG_Reform/eeg_reform.html

 

日本語訳

Die EEG-Reform 2014 war daher ein wichtiger Schritt für den weiteren Erfolg der Energiewende. EEG改革は、エネルギー転換をさらに成功させるための重要なステップである。

EEG-Reform

Der Ausbau der erneuerbaren Energien ist eine zentrale Säule der Energiewende. Sie soll unsere Stromversorgung klima- und umweltverträglicher und uns unabhängiger von knapper werdenden, fossilen Brennstoffen machen. Gleichzeitig

再生可能エネルギー法改革

再生可能エネルギーの建設はエネルギー転換の中心の柱です。それは私たちの電力供給を気候と環境により沿わせ、ますます希少な化石燃料への依存を減らすことを目的としています。

Gleichzeitig soll sie bezahlbar und verlässlich bleiben. Dazu wurde ein erfolgreiches Instrument zur Förderung des Ökostroms konzipiert: das Erneuerbare-EnergienGesetz (EEG), das im Jahr 2000 in Kraft getreten ist. Ziel des EEG war es, den jungen Technologien wie Wind- und Sonnenenergie durch feste Vergütungen sowie durch die garantierte Abnahme und die vorrangige Einspeisung des Stroms den Markteintritt zu ermöglichen. 同時に、手頃な価格で信頼性の高いままでなければなりません。この目的のために、グリーン電力の促進のための

成功した手段が設計されました:2000年に施行された再生可能エネルギー法(EEG)。EEGの目的は、風力や太陽エネルギーなどの若い技術が、固定報酬だけでなく、保証された購入と優先的な電力の固定供給を通じて。市場に参入できるようにすることでした。

Die Reform des EEG: Wichtiger Schritt für den Neustart der Energiewende

 Das EEG hat die Grundlage für den Ausbau der erneuerbaren Energien geschaffen und sie von einer Nischenexistenz zu einer der tragenden Säulen der deutschen Stromversorgung mit einem Anteil von 25 Prozent werden lassen.

EEG改革はエネルギー転換のさらなる重要なステップである

EEG再生可能エネルギーの拡大の基礎を作り、ニッチな存在から25%のシェアを持つドイツの電力供給を支える柱の1つに変えました。(市民が自宅屋根で太陽光発電をしたり、市民エネルギー協同組合が25%シェアに寄与していたことを、意図的に伏せている)。

Der rasante Ausbau hatte jedoch auch einen Anstieg der EEG-Umlage zur Folge. Zudem stellte er zunehmend eine Herausforderung für die Stabilität der Stromnetze und für die Versorgungssicherheit dar.

しかし、急速な拡大はまた、EEG負担金の増加をもたらし、さらに、電力網の安定性と供給の安全性にますます課題を投げかけました。(EEG負担金の増加は、企業の国際競争力を支えるため多くの企業が免除されていたからであり、市民の急速な拡大が巨大電力企業を脅かすまでになったことから、市民のエネルギー転換を取上げようとした。)

Die EEG-Reform 2014 war daher ein wichtiger Schritt für den weiteren Erfolg der Energiewende. それ故EEG改革は、エネルギー転換をさらに成功させるための重要なステップです。

 Insbesondere geht es darum, den weiteren Kostenanstieg spürbar zu bremsen, den Ausbau der erneuerbaren Energien planvoll zu steuern und die erneuerbaren Energien besser an den Markt heranzuführen.

特に、さらなるコスト上昇を著しく減速させ、再生可能エネルギーの拡大を計画的に管理し、再生可能エネルギーを市場に導入することを目指しています。

Dabei ist klar: Der Strompreis ist ein zentraler Wettbewerbsfaktor für energieintensive Unternehmen.  Die Wettbewerbsfähigkeit der stromintensiven Industrie, die im Vergleich zur internationalen Konkurrenz jetzt schon hohe Strompreise zahlt, darf nicht gefährdet werden, Wertschöpfung und Arbeitsplätze in Deutschland müssen erhalten bleiben. Denn der industrielle Kern unserer Wirtschaft ist der Schlüssel für Wohlstand und Beschäftigung in Deutschland.

電力価格がエネルギー集約型企業にとって重要な競争要因であることは明らかです。国際競争と比較してすでに高い電力価格を支払っている電力集約型産業の競争力を危険にさらしてはならず、ドイツの価値創造と雇用は維持されなければならない。なぜなら、わが国の経済の産業の中核は、ドイツの繁栄と雇用の鍵だからです。(あくまでもドイツ産業の中核は大企業であり、それを支えることなしにはドイツの繫栄はないと脅している)

 

(475)核なき世界の実現(3)・マルクスの理想共産主義は核なき世界を実現できるか?

ドイツ左翼政党リンケの下降と分裂危機

 

 ドイツ右翼政党AfD(ドイツの選択肢)が前回述べたように、現在の危機を利用して上昇気流に乗っているのとは対照的に、ドイツ左翼政党リンケは下降を続けている。

 AfDが上昇気流に乗っているのは、トランプの出現に見るように自国利益最優先の覇権主義が勢いを増すなかで、出来るだけ再生可能エネルギーへの転換を引き延ばしたい化石燃料産業の後押しがあるからである。

それゆえエネルギー転換を政権内で推進する緑の党への攻撃は激しく、燃料費高騰の不満層や増え続ける難民懸念層を吸収して、この6月には世論調査で18%という記録更新の高い支持率に上り詰めている。

これと対照的なのは左翼政党リンケであり、既に2021年の連邦議会選挙で連邦議会に残れるギリギリの5%まで下降し、その後も5%と下降したままであり、上の今年3月19日のZDFベルリンダイレクトに見るように、混乱と政党分裂の危機が絶えず報道されている。

左翼政党リンケは、1956年の憲法裁判所判決で共産主義政党が基本法に違反するとして禁止されていることから、開かれた民主主義を通して自由、平等な公正な社会達成を目標に掲げている。

私がドイツで学んだ2007年から2010年の頃は、上昇気流に乗ってキリスト教民主同盟社会民主党新自由主義政権を崩す勢いがあった。事実2009年の連邦議会選挙では11.9%の支持があり、緑の党を抑えて野党第一党に上りつめていた。

その勢いを創り出したのがサラ・ワーゲンクネヒトであり、シュピーゲル誌などに新自由主義を痛烈に批判し、新自由主義の自由はリベラルな自由ではなく、公共部門さえ民営化によって奪う自由であり、巨大資本によって自らの規制を作り出す自由であると訴え、一世を風靡していた。

それ故に2011年には『資本主義に代わる自由Freiheit statt Kapitalismus』を著作し、住宅、水やエネルギー供給、教育、健康などの一般的な関心のあるサービスだけでなく、銀行や主要産業の公共化、さらには財産税や冨の再配分強化で公正で平等な「創造的社会主義社会」へ導くことを訴えていた。

確かにそれは左翼政党リンケの目標であるとしても、開かれた民主主義を掲げる政党としては拙速すぎるものであり、党の決議を経ない彼女の主張が絶えず物議を引き起してきたことも事実である。

彼女の側からすれば、自らがよりよい社会を築くために党を先導しなくてはならないという思いがあるのだろうが、それは開かれた民主主義のアプローチとは異なるものがあった。しかも党幹部の本音は彼女の主張と異なるものではないことから、ローザ・ルクセンブルク以来のマルクス主義の俊英と称されるワーゲンクネヒトには苛立ちがつのり、不用意な発言を繰り返し、修復のできない溝を深めてきたと言えるだろう。

確かに開かれた民主主義は、新自由主義の産業社会では気候保護さえ堂々巡りしかねず、殆どの国民が必要に迫られ望まない限り、前に進めない社会でもある。

それ故2021年10月の彼女の連邦議会での発言で、緑の党を「最も危険な政党」であると𠮟責し、物議を醸すのである。現在の緑の党は市民利益を最優先するからこそ政権を担うまでに成長しているのであり、彼女からすれば理念を失い、市民に媚びるまやかしの政党となるのである。

しかしドイツ国民の過半数以上が気候正義、社会正義を求めるようになって来たからこそ、それを実現するために緑の党が政権を率いていることも確かである。もっともAfDを通して化石燃料側の攻撃では今年5月に緑の党支持率を16%まで落とし、エネルギー転換のアクセルを緩めたことも事実であり、開かれた民主主義では世論の支持なくして前に進めないことも確かである。

しかしそれがホロコーストを犯した戦後ドイツの選択した永久革命としての民主主義であり、それを推し進める基本法は多数決では決められない不可侵の第1条から第20条で守られおり、右の独裁国家へも、左の共産国家へも決して変えられないしくみが構築されている。

また右往左往する世論もポピュリズムに陥ることのないよう、公共放送を始めとして様々な機関を通して、公正な世論形成を絶えず求めている。

それでも経済的影響は大きく、シュレーダー政権では新自由主義に巻き込まれ、大きく民主主義が退歩した時期もあったが、全体として絶えず進化し続けている。

もっとも現在のグローバル資本体制のなかでは、国民の望むパリ協定実現も難しく、気候変動激化は避けられず、「核なき世界」の実現も難しいことは確かである。

そうしたなかでマルクス主義の理想に立つワーゲンクネヒトの唱える「創造的社会主義」が、気候正義、社会正義、さらには「核のない世界」を実現するものであったとして、近代から現代へと構築されてきた世界を変え、それらを実現することは不可能である。

なぜなら歴史が教えるように、力による支配で変えて行くことが不可欠となり、スターリンプーチンの力の支配が示すように、理想とは逆の独裁国家になるからである。。

そのような必然性を、昨年2022年5月に放送されたNHK制作の『スターリンプーチン』は見事に描いており、私の印象に残ったシーンで18分程に短縮した下の私の見た動画75『スターリンプーチン』を見てもらっても理解できるだろう。