(476)核なき世界の実現(4)・禍を力とした気候正義実現(前編)

禍を力として未来を創る「ショック・ドクトリン

 

 6月にNHKが放送した「100分de・ショック・ドクトリン」は、ナオミ・クラインの分析した禍につけこんで未来を喰いつくす『ショック・ドクトリン』を取り上げていた。

今回上に載せた動画『私の見た動画76ショック・ドクトリン3-1』では、新自由主義の扉を開いた70年代の意図的なチリのクーデタを通して、国民恐怖のショックのなかで国営企業の民営化、規制の撤廃、貿易の完全自由化断行され、チリ経済が外資に喰いつくされて行き、大部分の国民が困窮して行った有様が描かれている。

さらにそのような「ショック・ドクトリン」は、チリのような独裁国家だけでなく80年代の民主主義国家イギリスでも断行され、電話、ガス、水道などの公共事業を民営化し、政府と大企業が密着するコーポラティズム国家を誕生させて行った。

そのような「ショック・ドクトリン」は、国民の現在と将来の冨を喰いつくすバブルを生み出すだけで、貧困格差、戦争、気候変動激化といった危機を解決しないばかりか、益々危機を深刻化させているとナオミ・クラインは分析している。

 しかし私が今回述べるのは、ナオミ・クラインの禍を利用して未来を喰いつくす「ショック・ドクトリン」ではなく、禍を力として未来を創る「ショック・ドクトリン」である。

このような未来を創る「ショック・ドクトリン」は、既に昨年のエネルギー危機を力としたドイツで始まっている。

ドイツは昨年のウクライナへのロシア侵攻で、これまでロシアに依存していた天然ガスや石油を断たれ、ガスや石油の高騰によってエネルギー危機に見舞われた。

しかし現在の緑の党がしきるドイツ連邦産業省は、その禍を力として、パリ協定の気候正義実現に踏み出している。具体的には2030年までにドイツの消費電力を少なくとも80%以上にすることを明言し、それを実現するために再生可能エネルギーEEG)を抜本的に改革し、従来の巨大電力企業配慮から全面的に地域市民、自治体配慮へ180度転換する政策を実現した。

なぜなら再生可能エネルギーは小規模分散型技術であり、地域でのエネルギー自立によってこそ効力発揮するものであり、巨大電力企業が従来の大規模集中技術で取組んでも、洋上風力発電に見るように中々巧くいかないからである。

事実ドイツの再生可能エネルギーへの挑戦は、地球温暖化阻止が1990年リオで誓われるなかで、環境に目覚めたアーヘン市民が太陽光発電を普及するために、太陽光発電によってつくられた電力を電力会社を通して20年間電力売値の約10倍で買い取る方式(アーヘン方式)から始まっている。そこでの市民の哲学は、「市民の分かち合いで、費用を補う価格で買い取る」であった。すなわち当初買い取り費用は、電力利用者市民の電力価格の1%値上で賄われていた。

このようなアーヘン方式は瞬く間にドイツ全土で拡がり、2000年には連邦議会再生可能エネルギー法(EEG)を誕生させ、市民のつくった電力を「費用を補う価格で買い取る」をモットーに、ドイツの再生可能エネルギーを飛躍的に発展させた。

2014年このEEG法が全面的に巨大電力企業配慮で改悪された時には、ドイツの再生可能エネルギーによる電力は消費電力の25%を占めるまでになり、その担い手は市民エネルギー協同組合や自治体であり、市民によって為されてきた。

巨大電力企業は2011年の脱原発宣言まで原発に依存し、絶えず一定電力を製造できる原発を通して電力価格を支配し、莫大な利益を上げていた。そのため天候に左右される買い取った再生可能エネルギーは寧ろお荷物で、創設された電力自由市場に投げ売ってきたことから、1キロワット時の電力価格は4セントを割るまでに下がる事態を招いた。

それは巨大電力企業にとって価格支配ができないばかりか、化石燃料での電力製造を危うくし、化石燃料エネルギーの継続では電力を製造すればするほど損失の増大を意味するからである。

それ故2011年以降の巨大電力企業収益は実質的に赤字に転じ、ドイツの産業を支える巨大電力企業も危ないとさえ伝えられていた。

ヨーロッパ最大の1300憶ユーロの売上を誇るドイツ電力企業筆頭のエーオン社は、2014年末に化石燃料エネルギー電力事業から再生可能エネルギー電力事業への大転換を世界に伝えた。具体的には2016年までに会社を2分割し、原子力、石炭、天然ガス事業を従業員2万の新しい会社に切り離し、本体は従業員4万人の再生可能エネルギー電力事業とするとした。

2014年6月の連邦議会での再生可能エネルギー法改正では、そのような巨大電力企業の経営悪化を配慮して、これまで市民によって発展してきた再生可能エネルギーにブレーキを踏むだけでなく、市民から取上げ、巨大電力企業が発展、運営、管理できるよう全面的に変えられた。

それは2014年に連邦経済産業省(BMWi)が出したEEG改革の主旨説明書「EEG改革はエネルギー転換のさらなる重要なステップであるDie Reform des EEG: Wichtiger Schritt für den Neustart der Energiewende」を見れば、一目瞭然である(注1)。

2014年の再生可能エネルギー法の主旨説明では、「再生可能エネルギーへのエネルギー転換は喫緊の目標であり、2000年から開始された再生可能エネルギー法(EEG)の固定買取制度によってドイツ消費電力の25%を占めるまでに進展してきた。しかし急速な進展でEEG負担金の増大によって電力料金が値上っており、電力網の安定性と供給の安全性も大きな課題となって来ている。そのためには再生可能エネルギー拡大を計画的に管理し、再生可能エネルギー市場経済にゆだねることが必要である。特に配慮しなくてはならないのは、電力価格がエネルギー集約型企業にとって重要な競争要因であり、既に国際競争と比較して高い電力価格を支払っている電力集約型産業の競争力を危険にさらしてはならず、ドイツの価値創造と雇用は守らなくてはならない。なぜならそれらの中心産業がドイツの繁栄と雇用の鍵を握っているからである」と述べ、10項目に渡って再生可能エネルギー法がどの様に変わるか説明している。

主旨説明で一見して感じるのは、市民が積極的にエネルギー転換を推し進めてきた経緯を意図的に伏せ、その飛躍的進展で固定買取費用が膨らみ、電力料金が上がり、再生可能エネルギーの安定性と安全性も問題になって来ているから、再生可能エネルギーの拡大を計画的に管理しなくてはならないと主張しており、飛躍的進展経緯を知る者には、極めて官僚主義的かび臭さを感ぜずにはいられない。

しかもドイツの集約型企業に特別の配慮を求めており(EEG負担金無し等の優遇措置)、それなくしてはドイツの繁栄はないと国民を脅している感じさえする。そして10項目の改正では、市民の推進してきた固定価格買取価格が翌年から1キロワット時17セントから12セントに大幅に下げられるだけでなく、再生可能エネルギーによる新たな発電に枠組を設け、太陽光発電2.5ギガワット、陸上風力発電2.5ギガワット、バイオ発電0.1ギガワットの量的制限をし、実質的に市民や自治体の新設を難しくした。

また2017年から事業規模の風力発電太陽光発電、バイオ発電建設に対して公募入札が義務付けられ、結果的にこれまで再生可能エネルギーの飛躍的進展を担ってきた市民エネルギー協同組合や自治体が、巨大電力企業に比べて資金力のないことから締め出される仕組が作られた。

こうした2014年の再生可能エネルギー法改正(改悪)は、明らかにこれまでの再生可能エネルギーの飛躍的進展にブレーキを踏むものであり、2014年5月20日にドイツ第二公共放送ZDFが放送した『ブレーキが踏まれるエネルギー転換』では、改正の画策者であると言われている当時のEU委員会エネルギー担当責任者ギュンター・ヘルマン・エッティンガー(2005年から2010年まで原発王国であったバーデンヴュルテンベルク州の首相)を執拗に追求取材していた。

しかしエッティンガーは下の動画フィルムで見るように、「豚が疾走するようにコントロールできない風(力発電)と太陽(光発電)は取除かねばならい」と、市民が飛躍的進展させて経緯を豚の遁走に譬えてしたたかに述べている。

それはまさに、大連立政権当時のドイツ連邦産業省が冒頭で述べている「再生可能エネルギーの拡大は計画的に管理しなくてはならない」である。

 

(注1)

https://www.erneuerbare-energien.de/EE/Navigation/DE/Recht-Politik/EEG_Reform/eeg_reform.html

 

日本語訳

Die EEG-Reform 2014 war daher ein wichtiger Schritt für den weiteren Erfolg der Energiewende. EEG改革は、エネルギー転換をさらに成功させるための重要なステップである。

EEG-Reform

Der Ausbau der erneuerbaren Energien ist eine zentrale Säule der Energiewende. Sie soll unsere Stromversorgung klima- und umweltverträglicher und uns unabhängiger von knapper werdenden, fossilen Brennstoffen machen. Gleichzeitig

再生可能エネルギー法改革

再生可能エネルギーの建設はエネルギー転換の中心の柱です。それは私たちの電力供給を気候と環境により沿わせ、ますます希少な化石燃料への依存を減らすことを目的としています。

Gleichzeitig soll sie bezahlbar und verlässlich bleiben. Dazu wurde ein erfolgreiches Instrument zur Förderung des Ökostroms konzipiert: das Erneuerbare-EnergienGesetz (EEG), das im Jahr 2000 in Kraft getreten ist. Ziel des EEG war es, den jungen Technologien wie Wind- und Sonnenenergie durch feste Vergütungen sowie durch die garantierte Abnahme und die vorrangige Einspeisung des Stroms den Markteintritt zu ermöglichen. 同時に、手頃な価格で信頼性の高いままでなければなりません。この目的のために、グリーン電力の促進のための

成功した手段が設計されました:2000年に施行された再生可能エネルギー法(EEG)。EEGの目的は、風力や太陽エネルギーなどの若い技術が、固定報酬だけでなく、保証された購入と優先的な電力の固定供給を通じて。市場に参入できるようにすることでした。

Die Reform des EEG: Wichtiger Schritt für den Neustart der Energiewende

 Das EEG hat die Grundlage für den Ausbau der erneuerbaren Energien geschaffen und sie von einer Nischenexistenz zu einer der tragenden Säulen der deutschen Stromversorgung mit einem Anteil von 25 Prozent werden lassen.

EEG改革はエネルギー転換のさらなる重要なステップである

EEG再生可能エネルギーの拡大の基礎を作り、ニッチな存在から25%のシェアを持つドイツの電力供給を支える柱の1つに変えました。(市民が自宅屋根で太陽光発電をしたり、市民エネルギー協同組合が25%シェアに寄与していたことを、意図的に伏せている)。

Der rasante Ausbau hatte jedoch auch einen Anstieg der EEG-Umlage zur Folge. Zudem stellte er zunehmend eine Herausforderung für die Stabilität der Stromnetze und für die Versorgungssicherheit dar.

しかし、急速な拡大はまた、EEG負担金の増加をもたらし、さらに、電力網の安定性と供給の安全性にますます課題を投げかけました。(EEG負担金の増加は、企業の国際競争力を支えるため多くの企業が免除されていたからであり、市民の急速な拡大が巨大電力企業を脅かすまでになったことから、市民のエネルギー転換を取上げようとした。)

Die EEG-Reform 2014 war daher ein wichtiger Schritt für den weiteren Erfolg der Energiewende. それ故EEG改革は、エネルギー転換をさらに成功させるための重要なステップです。

 Insbesondere geht es darum, den weiteren Kostenanstieg spürbar zu bremsen, den Ausbau der erneuerbaren Energien planvoll zu steuern und die erneuerbaren Energien besser an den Markt heranzuführen.

特に、さらなるコスト上昇を著しく減速させ、再生可能エネルギーの拡大を計画的に管理し、再生可能エネルギーを市場に導入することを目指しています。

Dabei ist klar: Der Strompreis ist ein zentraler Wettbewerbsfaktor für energieintensive Unternehmen.  Die Wettbewerbsfähigkeit der stromintensiven Industrie, die im Vergleich zur internationalen Konkurrenz jetzt schon hohe Strompreise zahlt, darf nicht gefährdet werden, Wertschöpfung und Arbeitsplätze in Deutschland müssen erhalten bleiben. Denn der industrielle Kern unserer Wirtschaft ist der Schlüssel für Wohlstand und Beschäftigung in Deutschland.

電力価格がエネルギー集約型企業にとって重要な競争要因であることは明らかです。国際競争と比較してすでに高い電力価格を支払っている電力集約型産業の競争力を危険にさらしてはならず、ドイツの価値創造と雇用は維持されなければならない。なぜなら、わが国の経済の産業の中核は、ドイツの繁栄と雇用の鍵だからです。(あくまでもドイツ産業の中核は大企業であり、それを支えることなしにはドイツの繫栄はないと脅している)