(176)世界を変えるドイツのエネルギー転換(5)・・100%再生可能エネルギー地域の挑戦


分散型エネルギー技術研究所(交通システム研究室)の精鋭達

前回紹介したバイオエネルギー村プロジェクトは連邦農業省の後ろ盾で、ニダーザクセン州ゲッチンゲン大学の循環型社会研究センターが中核となって農村自治体の住民参加で推進しているのに対して、100%再生可能エネルギー地域プロジェクトは連邦環境省の後ろ盾で推進している。
具体的には、ヘッセン州のカッセル大学に分散型エネルギー技術研究所IDE(有限会社)を併設し、IDEが中核となってドイツ全土に100%再生可能エネルギー地域を拡げようとしている。
下のPDFマップを見れば一目瞭然であるが(注1)、2013年6月の時点でドイツ全土の138の地域がこのプロジェクトに参加し(既に100%再生可能エネルギーを達成している地域も少なくないが、多くの地域は達成に向けてプロジェクトの進行中である)、実にドイツ8000万の人口の内2160万人の人たちが参加している。
今回は100%再生可能エネルギー地域に焦点を当てるのではなく、中核として探求及び指導している分散型エネルギー技術研究所IDEに焦点を当てることにした。
何故なら日本では未だに中央志向が強く、大学予算にしても圧倒的に東大志向が強く、忍び寄る未来分散型技術社会を地方大学中心に地域産業とのコラボレーションで切り開こうするドイツのような政策が全く見られないからである。
分散型エネルギー技術研究所の紹介は私が書くより、研究所代表及び各研究室室長が自ら語っているので(英語字幕付)、以下に転載することにした。

(分散型エネルギー技術研究所IDE代表ホッパー・キルパー博士)動画紹介
動画字幕訳
30年前からカッセル地域はエネルギーシステム技術分野におけるパイオニア的地域の一つに発達して来ました。傑出しているところは太陽光発電風力発電のような分散型技術が生み出すシステム統合分野とエネルギー効率分野です。公共機関と私企業のパートナーシップで、IDEは研究、開発、技術普及を絶えず続けています。この幅広いアプローチをするために、研究所はカッセル大学科学施設に付随しており、大学が研究所の主要な株主です。IDEは、電気エネルギーと熱エネルギーから電気乗用車のドライブトレイン(エンジンから駆動輪へ動力を伝える装置)までの研究項目を全体的なアプローチで追求しています。最も重要な役割は、エネルギー効率技術に挑戦して多様な成果を出すことです。

(電気エネルギーシステム室長ペーター・ザファリアス教授)
IDEは地域と大学の協同で脱原発社会を築くことに挑戦しており、ここでは電気エネルギーシステムに取り組んでいます。私たちは地域とのコラボレーションを通して、分散型エネルギー供給地域に生じる一連の問題に焦点を当てています。例えば電気機器のエネルギー効率であり、同様に電気エネルギー発生と熱発生の連結です。結果として私たちは、地域の産業と共にパイオニア的位置に達しています。すなわち私たちは集結できる沢山の科学技術の専門知識を持っており、最終的にこの分野で雇用創出の先進地域を実現します。

(熱エネルギーシステム室長クラウス・バーイェン教授)
ドイツでは最終エネルギー消費の40%が熱エネルギーです。IDEの熱エネルギーシステム室の目標は、出来うる限りエネルギー消耗を減らすことであり、出来うる限り効率的に残余エネルギーの利用を提供することです。IDEで周辺分野の仲間たちと学際的な協同ができることは、非常に魅惑的なことです。

(分散型エネルギーコンセプト室長ジョン・ズィフェリアス教授)
分散型エネルギーコンセプト室の概略は、地域を100%再生可能エネルギー地域になるように支援しています。この進展は、分散型発電機の湧き起こる出資を引き起こします。ここに築かれるエネルギーコンセプトは、電力、熱、ガス供給ネットワークの探求する領域を含んでいます。蓄電の拡大する利用、分散型消費者と発電機の管理、そしてバイオエネルギー利用はどのような役割を持っているのか?各々の単一技術の潜在能力はどのようであるか?これら質問は、私たちが100%再生可能エネルギーを導くために、どのようにこれら全てを一緒に実現するかを考えるものです。

(コミュニケーション技術ソフトウェア室長クラウス・デービット教授)
私は未来のエネルギー供給に胸をときめかしています。まさにそれは、ソフトウェアであり、コミュニケーション技術であり、モビールサービスであり、再生可能エネルギーの分散型エネルギーシステムです。私たちIDEは、それらの分野を包摂的に発展させることで、価値ある未来システムに重要な境界領域を追求しています。具体的な例をあげれば、もしあなたが今日のスマートフォンを考えるなら、そこにはテクノロジーを装備する沢山のセンサーがあり、例えば加速度センサーであれば、現在座っているのか、立っているのか、再び座っているのかをそれで正確にに知ることができ、そのような情報で利用者が何をしているかを的確に確定し、活動測定の情報からエネルギー消費を予測することができます。さらにスマートフォン、テレビセット、パソコン、タブレットは、エネルギーシステムの相互作用と管理の理想的装置であり、それによってソフトウェア、コミュニケーション技術、エンドユーザーとの相互作用、そしてそのようなシステムの管理と情報の交換は、将来の分散型エネルギー供給における非常に重要な統合担い手となります。

(交通システム室長ルードヴィヒ・ブラべッツ教授)
エネルギーは乗り物において非常に重要です。エネルギー効率は、乗り物のエネルギー消費、熱の発生や放出、そして最後に述べる軽んずべきはない、電力輸送の領域に関与しています。私たちの交通システム室は、乗り物の電気エネルギー分野の仕事をしています。それは、配電、蓄電、変換、そして利用者への仕事です。まさに現在多くのことが成し遂げられており、利用者と共有するものです。すなわち電気の牽引するものとして第一のハイブリドや電気による乗り物があり、電気の圧縮機や電気の操縦機を考えるなら第二の適用があります。私たちは何ができるのでしょうか?私たちは明らかなように、モデルのシミレーション、最適化、交通システム技術の分析と認証領域で多くのことを実現しています。IDEにおける私たちの貢献は、乗り物における電気システム技術分野、すなわち乗り物技術、ネットワークへの仲介、利用シナリオと方法にあると思っています。そして人はいくつかの乗り物手段で移動することができます。かくして私たちは乗り物分野、移動技術、統合領域、そしてエネルギー経営において急速に進歩しつつあります。私の視点からしても、IDEが学際的なやり方を取っているので大変興味深いです。それは産業と大学の間の優れたプラットフォームであり、テーマは非常に興味深いものがあります。エネルギーの安定と乗り物におけるエネルギーの双方が将来益々重要になり、研究と履行の下で大きなインセンティブを与えると信じています。

*11月27日の第3次メルケル大連立政権合意について

私自身は、10月に述べたように大連立の合意は年を越すのではないかと思っていた。何故ならメルケルキリスト教民主同盟CDUは最低賃金導入と高所得者への増税は断じて認められないとしていたし、社会民主党SPDはその2つを大連立合意の前提条件としていたからである。しかし双方の譲歩で大連立が早まったことは、ドイツ国民にとっても喜ばしことであり、時間給8,5ユーロ(1200円ほど)の最低賃金導入はドイツ社会にとって画期的である。
私がベルリンで2007年から4年間学んでいる際は、ボトム競争の激化によって時間給で働く人たちの賃金が下へ下へとスパイラルし、フリザー(理容師)やケルナー(ウエイター)などの時間給はその多くが5ユーロを割っていき、そのために消費が抑制され、彼方此方で多くの店が閉められていた。もっともそのような引き金を引いたのは、社会民主党シュレーダー政権の構造改革アジェンダ2010」であった。現在のSPDの党首シグマー・ガブリエルにしても、首相候補であったシュタインブリュックにしても、嘗てのシュレーダーの側近であり、リンケとの連立を敢えて拒否したが、彼らが自ら合意書に最低賃金、年金年齢の引き下げ、短期雇用(ミニジョブ)の抑制などをCDUに譲歩させ、再び社民主義へ軌道修正した意義は大きい。最もそれは、脱原発によって上に述べたような100%再生可能地域が拡大し、経済ベクトルを内にむける分散型エネルギー社会へ動き出したからでもある。
メルケルの溢れんばかりの喜び様は、SPDをして国民の望む最低賃金を自らの党に承諾させたことにあると、私には思える。それはメルケルの本意でもあり、彼女にドイツだけでなく世界の先導を期待したい(28日ZDFニュース参考 注2)。
尚合意書(注3)でのエネルギー転換については、これ以上電気料金高騰で国民負担かけないために、再生可能エネルギー法を2014年夏までに改正する。そのために、風力発電やビオマス発電などの新しい設置には支援を少なくする。但し、石炭や天然ガスの火力発電は当面助成を継続する(緑の党は批判)。

(注1)100%再生可能エネルギー地域PDF
http://www.100-ee.de/fileadmin/Redaktion/Downloads/Formulare/100ee-Karte+Liste_Juni_2013.pdf

(注2)ZDFheute.de ドイツ大連立合意
http://www.heute.de/Deutschland-vor-neuer-Großer-Koalition-30828878.html

(注3)大連立合意書PDF
http://www.heute.de/ZDF/zdfportal/blob/30829644/1/data.pdf