(195)地域分散型自給社会が創る理想世界への道12・・『第三次産業革命』(4、市場が空気のようになる日)


ZDFフィルムで専門家は巨大電力企業の壊滅的未来を予測している

生態系のように機能する市場

リフキンは現在の競争原理に基づきデリバティブに肥大する市場を、以下のように協働原理に基づいた生態系のように機能する市場へと究極的に変化すると考えている。
「・・、第三次産業革命では再生可能エネルギーがふんだんに利用できるので、多数の分散型企業が手を結び、市場というより生態系のように機能するネットワークに組み込まれた、協働的なビジネス関係を形成する。新しい時代には、競争的な市場は協働的なネットワークに切り替わっていき、・・・(160ページ)」
このネットワークについては、「私たちの視野が広がり、同じ生物圏を共有する地球市民として物事を考えるようになる。グローバルな人権ネットワーク、グローバルな医療ネットワーク、グローバルな災害救援ネットワーク、グローバルな遺伝子資源保管、グローバルな食糧バンク、グローバルな情報ネットワーク、グローバルな環境ネットワーク、グローバルな種の保護ネットワークは、従来型の地政学的政治から、生まれたばかりの生物圏政治への歴史的転換が起きていることを強く示している(277ページ)。」と述べている。
もっとも「第6章 グローバル化からコンチネンタル化へ」では、統合化された大陸経済での商業と貿易が自由に行われる市場を考えていることから、市場の急激な変化ではなく、あくまでもソフトランディングである。

しかしZDFフィルム『電力料金のトリック・エネルギー転換』が描くように、巨大電力企業がフィルム放映の2013年時点で巨額の利益を得ているにも関わらず、RWEの株価は2011年脱原発宣言以来6割近く下がり続けており、市場自身が巨大電力企業の将来的危機を先取りしている。
実際今年2014年3月に公表された2013年度のRWE企業収益は、この60年間で初めて赤字に転落し、しかも27億5700億ユーロの大幅な赤字であった(注1)。
このように市場は絶えず先取りしていくことから、ドラスティックな変化が予想される。

市場が空気のようになる日

巨大電力企業RWEは昨年再生可能エネルギー促進者への経営戦略転換を掲げ、ヨーロッパ全体で2500万世帯に電力を供給している実績を踏まえ、あらゆるサービスで電力消費者への奉仕を誓った。
しかしそのような経営戦略の転換も、ZDFフィルムに登場した専門家が語るように、巨大電力企業の未来は壊滅的である。
何故なら太陽光パネルによる全量固定買取価格は1キロワット時あたり既に15セントへと下がり、しかも巨大電力企業の供給電力小売価格28,5セントを大きく下回って来ているからだ。
そのうえ太陽光パネル設置費用は、2011年の1キロワットあたり2422ユーロから2013年には1700ユーロにまで下がり、最早再生可能エネルギー法の全量買取制度なしに十二分に採算がとれるようになってきた。
すなわち1キロワットの設置容量は1000時間の日照時間として1000キロワット・年、10年間費用回収で計算すれば、1キロワット・時0,17ユーロ(17セント)となり、20年間費用回収であれば8,5セントとなり、電力企業から購入するより遥かに有利になって来たからである。
しかもZDFフィルムで紹介されたドイツゼー(海産物加工企業)のように、工場の屋上に太陽光パネルを設置し、電力自給を計る企業が加速しており、最早分散型エネルギー転換の流れは変えられない。
そうしたエネルギー転換の流れが、最低労働賃金制導入による一時的な失業者の増加や巨大電力企業の経営悪化にも関わらず、ドイツの景気を押し上げている(注2)。
それは地域で、再生可能エネルギーのインフラ整備が湧き上がっているからでもある。
市場は、各家庭での太陽光パネルの普及によって電力自給が加速するにつれて巨大電力企業を不要にし、市場から退場させるだろう。
そのような退出とは対照的に、再生可能エネルギーのインフラが完備されるまでは、エネルギー転換関連の夥しい数の小企業を地域に創出していくだろう。
しかしそのような小企業の小資本提供は、ZDFフィルムのバイエルン州事例が示すように、地域の金融機関が競って融資することから株式市場を必要としない。
しかもエネルギー転換で地域にエネルギーが溢れだすと、必然的に地域生産に転換されていくことから、巨大製造企業の退場は必至である。
すなわちエネルギー転換が完了する頃になれば、地域にエネルギーが溢れだすことから、あらゆるセーフティーネットが機能し、人々の暮らしも保障される。
そのような状況下では、ほとんどの人が必要以上のお金を渇望しなくなることから、株式市場だけでなく、利益追求を目的とする金融企業は自然消滅を余儀なくされる。
もちろん地域における銀行は必要であるが、前回述べたように地域の企業のように市民社会部門(非営利組織)へと移行されて行こう。
このような大転換は、地域にエネルギーが溢れ出すことが、地域の暮らしで必要なお金を充足させるからである。
現在のような社会でお金は、「お金の切れ目が縁の切れ目」と言われるように、命の切れ目となりかねない程大切なものである。
しかし必要以上のお金は、むしろ不幸を招くことも確かである。
それ故に、暮らしに必要なお金が充足される地域分散型自給社会では、「もうひとつ別な暮らし」が求められている。
すなわち職場で共通の利益を協働して追及すると同時に、家庭では自らの食べ物を創る農的暮らしを通して、“生きる幸せ”が求められている。
そのような社会では、市場も必然的に空気のように機能している。

(注1)2013年収益報告(PDF) Geschäftsbericht 2013.
前年2012年度は13億600万ユーロの黒字収益
この歴史的赤字収益公表を受けて、2014年3月3日のシュピーゲルオンラインは、「構想を失ったRWE代表の戦略としての慟哭」として取り上げ、以下のように悲観的に述べていた。
「RWE代表テリウムは歴史的損失を公表した。彼の戦略は、政治が救済するという期待の物乞いに依っている。彼は危機の巨大電力企業に対して解決策を持っていない。忍耐は株主にも、雇用者にも、ゆっくり失われていく」

http://www.spiegel.de/wirtschaft/unternehmen/rwe-verliert-rueckhalt-bei-aktionaeren-angestellten-buergern-a-956548.html

(注2)2014年3月12日のシュピーゲルオンラインは、「ドイツ経済は2015年まで力強さを示している」の記事で、最低賃金制(時給8,5ユーロ)の導入で10万の職場が失われ、経済ブレーキがかかるにも関わらず、企業投資の増大などの指標からドイツ経済の力強さを強調している。ドイツ経済研究所(DIW)は2014年の経済成長を1,8パーセント、2015年の経済成長を2,1パーセントと予想している。
http://www.spiegel.de/wirtschaft/unternehmen/konjunktur-deutschland-steht-vor-kraeftigem-aufschwung-2015-a-958295.html