(453)民主主義は世界を救えるか(13)世界は民主主義しか救われない・何故今、世界の未来シナリオを書くか(1)

世界は民主主義しか救われない 

 

 最近見たNHKスペシャルの『“染紅” 変貌する香港 “自由と民主”が消えるとき』では(注1)、2年前あれほど香港の人びとが民主化を求めて戦い、世界の市民もそれを求めて支援したにもかかわらず、独裁国家の力による攻勢には一溜まりもなく、最早香港には民主化という言葉さえ全く消え、恐ろしい変貌に今更ながら驚愕した。

今回の議論では、ヴェックは「確かに世界の民主主義は壊滅的である」と認めながらも、「人道的優位性、そして将来的優位性から非常にゆっくりであるとしても、世界は民主主義を考え直していくだろう」と述べている。

プレヒトが世界の現実を直視して悲観的であるのに対して、ヴェックは絶えず楽観的に見えるが、民主主義が機能しないのは、「経済が愚かだ」と鋭くついている。

すなわち大多数の中流層まで没落させていく新自由主義経済に、問題があると看破している。

しかしヴェックはどこまで経済の民主化に踏込んで行けるのだろうか? そして時代をメディアを通して告発する哲学者ブレヒトは、民主主義が世界を救うためにどの様にすれば機能すると述べるのだろうか、議論は次回へと続いて行く。

しかし今回の議論で一致したのは、人道的優位性や将来的優位性の観点から独裁や覇権主義では世界を救うことはできず、世界を救うのは民主主義しかないということであった。

 (注1)

https://www.dailymotion.com/video/x8doe5n

このフィルムの冒頭では、「今年中国は台湾統一の白書を22年ぶりに出し、武力放棄は約束せず、力による現状を変えようとしている」と述べているのが印象的で、バイデン大統領は「アメリカ軍は台湾を中国から守る」と明言している。もし万一戦争が始まれば、現在の集団自衛権を容認したままでは日本が戦争に巻き込まれることは必至であり、集団自衛権の容認は戦争放棄を掲げた憲法に明らかに違反しており、喫緊に取り下げなくてはならない。しかしそうした声が高まらないだけでなく、中距離ミサイルの大量生産、防衛費の倍増などが国民の議論なしにして進んで行く。まさに、恐ろしい時代に突き進んでいるように思える。

 

 

何故今、世界の未来シナリオを書くか(1)

 

 現在の世界は科学技術の進歩が加速して行くにもかかわらず、それとは対照的に未来への不安が加速している。

具体的には気候変動危機、感染症危機、食料危機、力の侵攻による平和危機及び核戦争危機、さらには社会の中流層さえ没落させて行く格差危機など、現在の動向からは絶望的な未来しか見えて来ない。

その理由は現在がグローバル資本主義によって成り立っているからであり、その基盤の上で更なる発展進歩による素晴らしい未来像を描いても、現在が益々危機に陥って行くなかでは、恐ろしい未来しか見えてこないからである。

しかし私がドイツから学んだ分散型地域自立社会からは、希望ある未来が見えて来ている。

それは、2000年頃探索した北ドイツの貧しい農村が2010年頃には分散型技術の風力発電機が建ち並び、エネルギー自立を達成するだけでなく数倍の余剰エネルギーを近郊都市に売ることで、豊かになっている事実から来るものである。

現在は余剰エネルギーは他の地域に売られているが、現在ですら余剰エネルギーで水を電解してエネルギーを水素として蓄積する技術はドイツでは完成されており(注2)、将来的にはドイツの全ての地域が太陽からの自然エネルギーでエネルギー自立し、有り余る蓄積された水素利用で生活必需品だけでなく、電化製品から分散型農業機械まで全ての品を製造し、他の地域に依存しない自助経済を創り出すことは可能と思えるからである。

しかもドイツでのそのような希望ある社会の実現は、EU、さらには世界へと拡がり希望ある未来世界を創り出すと思うからである。

そのような希望ある未来社会は、資本主義(資本の私有)の対抗軸として共産主義(資本の共有)がイメージされるかも知れないが、私が半世紀近く学んだドイツからは、そのような希望ある未来社会を浮かび上がらせているのは、絶えず進化し続けているドイツの民主主義である。

ドイツは、戦前の民主主義がナチズム(国家社会主義)に奪われたの反省から、基本法の制定では「国民の国家奉仕」から「国家の国民奉仕」への転換を目標とし、第一条の「人間の尊厳」から第二十条の「抵抗権」に至る人間の権利を守る基本原則を不可侵とし、国民の幸せを最優先させ、新自由主義という退歩のなかでも、民主主義を絶えず進化させて来たと言えよう。

そのような民主主義こそが今ドイツで、現在のロシア侵攻によるエネルギー危機に対しても、希望あるエネルギー自立の未来社会を創り出そうとしており、私自身も世界を救うのは民主主義しかないと確信する。

 

尚「為替相場がなくなる日(未来シナリオ8)」は、都合により次回に回します。

 

(注2)

https://msehi.hatenadiary.org/entry/20150528/1432761478